第68話 「ご対面~。」
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とりあえず、目の前の学園長の野郎と紅茶を飲んでお菓子をもぐもぐしている子供という当り前じゃない状況は横において、今はとにかく依頼の話をしたい。
それについてはレイアも俺と同じ様子で、明らかに俺よりもイラついてしまっている。
「どうせそんなところだと思ったわ。いつもはあの時点で本人が直接来て従魔術に関するうんちくやら小技なりをひたすらしゃべりつくしていたのだもの。それが今日は無いって時点でどうにも怪しいと思っていたのよ。」
「そうかい?カカカッ」
そんなに前から疑ってたのか。それよりも“いつも”がずいぶんとめんどくさそうな道のりだったんだな。レイアがこの依頼を嫌がった理由もわかった気がする。
学園長は驚いたような声を出しつつも愉快な様子だ。
「それらから察するに学園長、あなた今学園の中にはいないわね?私を呼び出しておいてどういうつもりかしら、と聞いてもいいの?」
『カァーカッカッカッカカ。いやぁ、実に申し訳ない。実は今、手が離せない案件を抱えていてね。正直ここを離れることができないんだ。これは、並の従魔術師ではできない案件でね。我が出るしかなかったんだよ。ああ、安心してくれたまえ、学園内の管理は問題なく行っているからね。』
「案件って何をやってるんだ?」
俺が尋ねると学園長は得意気に胸をそらし(といえどカラスがだが)、イシューのほうを見て反応がないことを確認した後、口を開いた。
『それはだね。.........秘密だYo!!まあ、これは一応国王陛下のご指示であるからな。この国一番の従魔術の権威である我でもそう簡単に話してしまうわけにはいかんのだよ。』
「どうせそんなことだろうとわかっていたわ!!イシューがうなづかない時点でね!!いいから早く仕事の話をしなさいよ。焼き鳥にするわよ!?」
俺よりも早くにレイアの我慢が切れたようだ。まあ、正直俺もあのカラスのドヤ顔はめちゃくちゃ腹が立った。食ってやろうかと思ったわ。
それ以上にさっき俺を止めたレイアが焼き鳥て。俺と会う以前から相当にストレスだったんだろう。
魔力があふれて疑似的に〔威圧〕になる〔魔力制圧〕が発動してしまっている。
これには学園長も焦ったようでどうにか事態の収拾をつけようとあたふたしだすが、そんなに焦って慌てるくらいならそんなことするなよと思って手を貸すことはしない。
せいぜい慌てふためけ。
俺もこれで少しは溜飲が下がるってものだ。
「学園長もふざけすぎですが、レイア先生も少し抑えてください。アルカナ先生が全く平気なのに驚嘆しますが、わたしには少々きついです。これでは紅茶が安心して飲めないではないですか。」
今まで黙っていたイシュワルトが文句を言ったことでその場は何とか収まった。レイアは魔力を抑えてカラスは一生懸命真面目な雰囲気を作ろうとしている。
レイアの方は完全にコントロールできているが、カラスは無理だな。そもそも従魔だし、実は学園長よりもこういったいたずらというか余計なことをするのが好きなのではないだろうか。
今はレイアからの魔力による威圧、〔魔力制圧〕でおとなしくしているが、またそのうち余計なことをしそうだ。
そもそも、このカラスが従魔である理由は学園長と妙にウマが合うとかそんなところかもしれないな。
『ゴホン、失礼した。少々おふざけが過ぎたようだが、ここからは仕事の話をしようではないか。といっても、グランドマスターに渡した書状以上の内容は無いし、そちらからの要求もすでに了承済みだ。我から話すことはほとんどないと思えるが、一応確認しておこうか。』
「あら、今年はグランドマスターに直接依頼を出したのね。」
『ああ、レイア先生もアルカナ先生も知っているだろうが、国境付近の魔物だかが理由で王都の冒険者が人手不足とは聞いていたのでな。
グランドマスターに依頼したほうが早いと踏んでのことだ。我も使える伝手は使いたいのでな。』
ここでも話題に上がった組合連合国との国境付近だか国境沿いだかの魔物の話。どれだけの期間、それに冒険者を取られているのかわからないな。聞いた話だけで判断すると、ルグラのゴブリンエンペラーの時よりも規模としては大きな討伐となっているはずだ。
「なるほどね。私たちが行けばさっさと終わると思うんだけど、まあ本部所属の冒険者が出るらしいから、すぐに収まるでしょ。じゃあ、さっさと依頼について話しておきましょうか。」
『うむ。それでは我から話させてもらう。まず、今回の依頼の期間は合計で一週間、7日だ。君たちの誕生祭及び授与式までの時間を拘束してしまうことになるため、報酬はできる限り出すことを約束しよう。
元は出来高払いということだから問題ないだろう。次に先生たちにやってもらうことだが、レイア先生は知っているだろう、っと、アルカナ先生は初めてだったのを忘れていたよ。きっちり説明しよう。』
「助かります」
ほとんどこの依頼に参加することになったのには俺の意思は一切含まれていないわけだから事前準備など何もしていない。
レイアに聞くよりも依頼人である学園長から直接聞いた方が伝言ゲームのような認識違いはないはずだ。
「当り前じゃない。何も知らないでここの学生に絡まれたからこの依頼に参加することになったのよ?きっちり説明してもらわなきゃ困るわよ。」
『失礼した。確かに説明は必要だっただろう。しっかりさせてもらうよ。
ふむ、どこからだったかな。ああ、業務内容からだな。君たち二人には冒険者科での特別講義をやってもらう。
例年通りだったら、レイア先生にすべてを頼んでいたわけだが、今年はどうするんだい?まあ、そこは今はこちらへの報告は必要ない。事後に報告してくれるだけでいい。
まあ、座学はレイア君、実技はアルカナくん、合宿は二人ってところかね。好きにやってくれ。
今日の学生との顔合わせを1日、座学実技の特別講義が3日間これは午後の講義時間をあてる。一コマずつだ。最後に合宿が丸々3日間の合計7日。内容は君たちが好きに決めるとして、できれば冒険者としての経験を話してあげてほしい。お願いするよ。
一応その様子は従魔を通してみているから、それで報酬は決めさせてもらう。いつもはレイア君以外に最低あと二人必要な依頼を君たちだけでやってもらうわけだから、そこも考慮するよ。あ、合宿に関しては従魔をつけることができないのでよろしく頼むよ。
さて、これがこちらの主な依頼内容だ。何か質問は?』
事前にレイアに言われたのは学園長も言っていた通りの分担だけど、冒険の経験談なら俺でもできるな。レイア程ではないけど、3か月の間にそれなりの経験はしたからな。
まあ、レイアの方が経験豊富ともなれば、俺の出る幕は無いだろうし、おとなしく実技だけやっておくことになりそうだ。
「質問は無いけど、こちらの条件を伝えさせてもらうわ。もうグランドマスターから聞いているはずだけど、一応ね。
まず、今回の担当はSクラスをやらせてもらう。学年はいつも通り4回生でしょ?それで、担当は私が座学、アルが実技。お互いに助け合う形で講義させてもらうわ。
最後に、私たちがトラブルに巻き込まれたときは、客観的に見て私たちに非が無い時はこちらの後ろ盾に立ってもらいたい。」
『ふむ。最初の2つは了承した。しかし、最後はどういうことだ?学生らに過剰な攻撃を加えるなどは看過できないぞ。』
ほとんどグランドマスターとの話通りだ。
まあ、学園長には後ろ盾などはわからないだろうな。これは冒険者ギルドの中で俺に攻撃魔法を当てやがったクソガキに対する対抗措置みたいなもんだ。
あいつが何かしてこないのであれば、学園長にとってはこんな条件ないに等しいものだ。
しかし、今の話をしている時にイシュワルトの眉がピクリと反応したな。
同じクラスというのなら、何があったかくらいは聞いているかもしれない。同い年の王孫と公爵子息なら交流があることも自然だからな。
「もちろんそんなことはしない。俺が担当するのは実技訓練だ。魔法や武器を使う中で、万が一ということも考えなきゃいけない。何かあった時に身を守る手段を揃えておくのが冒険者というものだろ?」
『そういうことであれば、いいだろう。まあ、レイア先生なら1つ2つの不祥事くらいなかったことにできる権力を持っているのだがな。』
まあ、そうだよな。
俺がそう思ってチラリとレイアをみると、まあ案の定ムスッとしている。
「......しないわよ。」
うん、わかってた。レイアと会って行動を共にするようになってから、なんとなくわかってきたが、レイアは権力を行使することを嫌うようだ。これは、誰か他人も、というわけではなく、自分が行使するのには抵抗があるってこと。
理由はわからないけど、権力ある立場の人間に何かされたとかがそもそもにあるんじゃないだろうか。
『レイア先生はそうであろうよ。まあ、そういったことには学園内のことであれば我が対処するとしよう。さて、これで話すべきは話したと思うが、そろそろ学生の最後の講義の時間だ。そこで顔合わせとなる。それじゃ一足先に言わせてもらうが、4日後彼らのことをよろしく頼むよ。』
「ああ」「ええ」
「それでは、わたしがSクラスまでの案内をさせてもらいます。先生方ついてきてください。学園長失礼します。」
『ではな。』
途中途中は長くなったが、いざ終わるってときは一瞬だった。
俺はともかくレイアはこれを毎度のことと受け流しているようだが、回数を重ねて慣れるようなものなのだろうか。正直な話、俺には一生無理だと思う。
こうやって話している間も、ちょっとずつ焼き鳥に見えてしまったし。
ああ、腹が減ったなぁ。〔骨壺〕に何かあったかねぇ。
*****
学園長室から出てからイシュワルトについて行くと、数分歩きまわってようやく目的の教室に到着した。
レイアと俺が受け持つことになっている4回生Sクラスは現在この部屋で待機しているようだ。中の気配は5つ。俺たちの案内にイシュワルトがいることから考えて、一人はたぶん先生だろう。
教室の中に入るイシュワルトに続く形でレイアと俺も入っていく。入った瞬間に視線を集めることになったが、見慣れない人間が2人入ってきたわけだからそりゃこうもなるだろう。
まあ、特別講師が来ることくらいは聞いているはずなんだけどな。
おお、いるいる。ご対面~。
まずは学園に入って最初に会ったテイマーの少女、ミーチャ。彼女は先ほどまでとは違い汚れた制服ではなくきれいな制服を着ている。彼女は健康的に日焼けした肌に赤茶けた髪色で、瞳は平民に珍しくない茶色い目だ。今は従魔であるイチ、ニー、サン...と10頭の軍隊狼は連れていないようだ。さっき言っていたように厩舎に預けているのだろう。
さっき会ったことを覚えていたのだろう、目が合うと手を振って笑顔になる。
うん、とても13歳には見えない。幼女にしか見えないわ。
次は顔に驚愕の表情を張り付けた少年、アルフレッド=エイライゾ。エイライゾ公爵家の3男で甘やかされたか偉そうな少年。万が一事情があってああいったことをしてしまったとしても容赦はしない。
良くない貴族の見本のようなことをギルドでかまそうとしたクソガキのボスである。取り巻きはSクラスではないのかここにはいない。俺がまだ会ったことがないSクラスの学生が取り巻きなのかと思っていたが違かったようだ。
ちなみにここに来るまでにイシュワルトからSクラスのリストをもらったので、全員の名前がわかっている。
クソガキ、いや、アルフレッド少年は驚き終わったのか、一度表情が抜けて今度は俺を睨んでいる。
うん。逆恨みじゃね?あのとき俺は直接攻撃したわけじゃないし、むしろ人殺しになるのを防いでやったんだけど、わかってるのかね。
じぃーっとただみつめ返してやるもアルフレッド少年はこちらを睨み続け、一切視線を外さない。あの時、普通に威嚇したから、相当な恐怖を感じたはずなんだけど、もしかして一瞬過ぎて理解できなかった?いや、それはないだろう。
アルフレッド少年は実は結構な胆力の持ち主なのかもしれない。ちょっと懲らしめる程度に思っていたが、うまいこと矯正すれば面白いかもしれない。
うん、気が向いたら、っていうか実技訓練でシゴキ倒してやろう。
それで、3人目は、ここまで俺たちを案内してくれた、王孫殿下、イシュワルト=メル=ベルフォード。こいつもまあ、イケメン。雰囲気はユーゴーに似ていなくもないし金髪碧眼というのも血縁を感じさせる。しかし、ユーゴーと違って無駄にしゃべるということがないから、小さな違いが余計に違く見える。
イシュワルトに関しては特に言うことがないんだよな。見た感じ、紅茶とお菓子が好きってことはわかった。
さあ、気を取り直して4人目、どうやらこいつも貴族のようだが、高い地位というわけではないようだ。名前は、メイリーン=ボルナン。子爵家の長女で、このクラスでは唯一のハーフエルフだ。金髪金目、耳が少しとがっている。
そう、ハーフエルフ、エルフなのだよ。もしかしたらエルフ飯も作れるかもしれないわけだ。正直期待している。
手元のリストによると彼女が得意とするのは木魔法とそれを併用した調薬らしい。薬から毒まで作れるらしいが、そういったことは親から学んだのだろうか。見た感じ柔らかそうな雰囲気だが、その得物はごつい感じのメイスってんだから、人ってわからないものだ。
最後はケルク・バラン。バラン商会という王都でも中堅レベルの商会の次男坊で、闇魔法や探知能力に優れていたので王立学園に入学したようだ。黒髪青目の少年で少し小柄だ。
なんでか知らんが、俺と目があった瞬間にがたがたと震え出したんだが、もしかしたらステータスを隠しているはずの俺を見て何かを感じ取った?
まさかな、と思いつつもそこまで探知能力が高いというのなら、索敵などの分野では天才なのかもしれんな。
俺が学生たちを観察していると、小声でレイアに突っ込まれた。
「ちょっとアル?どうかしたのかしら。あの赤髪の子にすごい睨まれているみたいだけど、もしかしてあの子が?」
「ああ、ギルドに来ていた坊ちゃん。」
「なるほどね、アレが。似ているわね。父親似。」
ギロリとレイアの目つきが変わり、アルフレッド少年をにらみつける。父親似って言えるってことは知り合いなんだろうな。
俺がそんなことを考えていたところに、もともといた学園の先生から声がかかる。
「それじゃ、私は行きますので、あとはよろしくお願いします。自己紹介でもして解散してください。」
「ええ、ありがとう。お疲れさま。」
「はい。(チッ、なんで俺が交代なんだよ。)」
小さな声で悪態をつきながら出ていった先生を見送りながら、かわいそうに見えてきた。俺たちくらいになると聞こえてしまうのは想定していないのだろうね。
まあ、関係なくムカつくんで、一発行っとこうか。
俺がその場で振り返り一歩教師の元へと歩きだそうとしたところで、レイアに肩を掴まれた。
「やめておきなさい。あれも元Aランクとして意地があるのよ。それにそんなに魔力を込めて殴りつけたら、死ぬわよ?」
そう言われたことで気が付く。俺の拳は〔拳骨〕が発動し、魔力を込めて〔身体強化〕まで無意識に発動していたようだ。危なく殺すところだったとは、反省しなくてはならない。こんなことでお尋ね者になったらもったいない。
どうも最近は衝動的に行動を制御し難いときがあるな。〔人化〕しても魔物であると忘れるなってことだろうか。俺はもう魔物でもないんだけどな。いや、精神生命体だっけ?それって魔物と大差ない?
「悪い、ありがとな。」
「気をつけなさい。ほら、自己紹介から始めましょう。これで今日のところは終わりなんだから。」
「そうだな。」
よっしゃ、そんじゃ、自己紹介と行きましょうかね。
自己紹介しましょう
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