第67話 「なんでだよ。」
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学園の門をくぐった先には相当に広い草原ともいえるような場所に一本の石畳の道が伸びていた。両脇には見るからに頑丈な柵で囲われているのだが、何か猛獣でも放し飼いにしているのだろうか。
レイアに聞いて見たところ、そもそもが、この王立学園に通うほとんどが学園地区内部に建てられている学園寮にて生活しているため、この道を使うものは学園外部の人間に限られるということだった。そしてこの広い草原には見えにくい様になってはいるが、学生や教職員などの騎獣や従魔などがいる厩舎などがあり、ある程度放し飼いにしているらしい。その中には主人以外に懐かない魔物もいるらしい。
要は、この柵は外部の人間が不用意に厩舎に近づくことを抑制して、少しでも従魔などの被害を減らすためのものでもありそうだ。
学園長がテイマーとして一角の人物であることからも学園生の間でも一定レベルの従魔を従えていることがステータスとなっている場合があるようだ。
ずいぶんとまあ、外部からの客からしたら迷惑なステータスだと思わなくもない。しかし虎の威を借る狐とまではいかないけど、主装備が獅子の威をそのまんまな俺としては気持ちはわからなくもない。
まあ、それも含めて俺の力と考えていいのかも、とは最近は考えられるようになってきたわけだけどな。
「アル、どうせくだらないことを考えているのだろうけど、一応気をつけてね。この学園の人間以外には襲い掛かってくるような番犬が、柵の向こうでは放されているから。負けはしなくても従魔を傷つけるのは重罪だから、攻撃してはダメよ。」
「はーい。......(威嚇くらいなら大丈夫だよな?)」
「なに?最後のは聞こえなかったんだけど?」
やばいやばい。ほとんど声にしなかったはずなのにな。さすがにSSS、さすがに根源種ってところか。まあ、そもそも魔物って五感が優れているらしいし、もともと魔物だった俺らはそういうことだろう。
とりあえずごまかしてしらを切り通そう。
「なんでもないだよ?」
「ないだよって口調が変よ?まあいいわ。気をつけてね。それじゃ急ぎましょう......ん?」
かなり疑われたが、結果として誤魔化せたわけだし結果オーライってことだわな。
そんで、最後にレイアは何かに気が付いたようだが...って何!?
俺がレイアが見ているほうに視線を合わせると、柵の隙間から見える魔物の群れ?がこちらに近づいてきていた。
その群れは10体ほどの狼の群れで、恐らくグラスウルフという草原に生息する魔物だろう。俺も狩ったことがあるし、どれだけ数がいても問題ない相手ではあるが、ここにいるということは誰かしら、もしくはどこぞの一団の従魔なのだろう。
現に先頭を走る大きめの個体の上には人影が見えるわけだからな。
「あれは、すごいわね。よくみるとグラスウルフじゃないわ。グラスウルフは個体でEランク群れでDランクの魔物だけど、あれは軍隊狼、個体はEランクでグラスウルフと同じだけど、ボスがいる群れはその統率力や連携からもCランクとされる魔物よ。ほら、ルグラで受けた依頼の猿軍団と同じタイプよ。」
「ああ、あの。あれは厄介だったな。新しく合流した同種の魔物まで瞬時に従えて襲ってくるんだもんな。そう考えると、ありゃ学園生だろ?学園生がテイムしているというのはすごいな。」
二人して驚いてしまった。まあ、俺とレイアの衝撃はそれだけではなかったわけだが。
さらに驚いたのはボスと思われる個体の上の人影は明らかに子供といえる大きさで、10歳くらいに見えた。学生にしても幼い気がしたのだ。
「ところでこちらに向かって来ているのはなぜだ?」
「さあね。私がわかるわけないじゃない。」
学園長を待たせているわけだが、特に急ごうと言わない辺り、レイアは学園長に苦手意識でもあるのかもしれない。ついには俺たちは足を止め、軍隊狼がこちらまで来るのを待ってしまった。
結構な距離があったはずだが、ほんの2分ほどでこちらまで到着したのは、軍隊狼のボス個体に乗った女の子だった。遠目に見ただけではわからなかったが、これだけ近づけば馬鹿でも分かるというものだ。
その少女は、厩舎での仕事を手伝っていたのか、服装は泥や藁などで汚れていたが、学園の制服を着用しているということはわかる。デザインがギルドで見た3馬鹿に似ている。女子と男子の違いこそあってもそう大きな違いはなさそうだ。
確か学園に入学できるのが10歳だったから、一回生と言ったところだろうか。近づいてきた少女に何やらレイアは驚いているが、どうしたのだろう?
少女は、こちらに近づくと軍隊狼から降りて、元気に歓迎と挨拶をしてきた。
「こんにちは!ベルフォード王国王立学園にようこそ!今日はどういった用事で来たんですか?どこに行けばいいか分かりますか?」
「ああ、こんにちは。今日は依頼で来たんだ。俺がアルカナで、こっちがレイア。学園長室に向かっているんだけど、迷ってはいないから大丈夫だよ。」
やさしく話しかけることを意識したためか変な口調になったが、初対面なら変な印象も持たれないだろう。
「そうなんですか。わたしはミーチェ、学園生です。学園に来る人はよく広すぎて迷っちゃうから、わたしたちが案内をしてあげてるの。それでね、この子たちがわたしの家族なの。ちっちゃい時にこの子と会って、学園で他の子たちとも仲良くなったんだよ!」
おおう。
ボス狼を撫でながらしゃべる少女、ミーチェはなかなかに強烈だが、とても勢いのある子だな。それにしても家族か。従魔を従える冒険者にはあったことはあるが、家族というパターンは初めてだな。みんな、相棒だとか子供だとか、それに近いことは言っていたけど。
「この子がイチで、この子がイチの奥さんのサン、こっちの子がニーで、この子がシー、それでね......で、この子がジュー。ね?わかった?かわいいでしょー?」
「ああ、そうだね。《キーンコーン》あっと、鐘が鳴ったが大丈夫か?たぶんだけど昼休憩が終わりってことじゃないのか。」
「あ!そうだった。急いでこの子たちを預けに行かなきゃ!それじゃ、おにいさんもおねえさんも気をつけてね。くれぐれも柵を超えちゃだめだよ!!」
そういってミーチャは急いで去っていく。十頭の軍隊狼が動きだすとそれなりに土を巻き上げて視界が悪くなるもんだ。
それにしても
...こう、なんて言うか、あの子は人懐こい子なんだろう。距離の詰め方が随分と速いなぁ。彼女のこれからの学園生活も希望に満ちているに違いない。
あと六年間、楽しく過ごしてもらいたいものだ。
突然の出会いと過ぎ去るその小さな背を眺めていると、何やら黙っていたレイアが再起動し、何やら思案している。
「どうした?」
「えっとね。たぶんなんだけど、アルが考えているよりも上よ?」
「上?何がだよ。」
「だから、彼女よ。彼女の制服の襟の徽章を見たかしら?あの色はけして一回生の者じゃないわ。4回生でしかもSクラス。そう、冒険者科の4回生。これから私たちが受け持つクラスの子みたいね。」
「ふぇ?」
え!?あの子どう見ても10歳にしか見えなかったけど。あれで13歳かよ。嘘だろ。
10歳で従魔があれだけいるのはやばいと思ったけど13でも変わらないか?うーん、めちゃくちゃ子ども扱いしてしまったけど、大丈夫かな?大丈夫であってほしい。
俺が困惑しているとレイアも同意はしてくれる。まあ、レイアは俺がミーチャと話している間も黙りこくっていたわけだから相応に驚いていたということだろう。
「冒険者科のSクラスに有望なテイマーがいるとは聞いていたけど、4回生だとは思わなかったわ。これはもしかしたら面白いクラスかもしれないわね。」
「有望なんだな。ま、それもそうか。群れでCランクの魔物を従えた13歳って普通にすごいもんな。ほんとにおもしろいだろうな。公爵家の坊ちゃん魔導士もいるし。」
面白いといっても毛色が違うがな。
まあ、退屈しないだろうことはわかったわけだし、この突然の出会いもいいことだったわけだな。
さて、思いもよらない寄り道となったわけだが、そろそろ真面目に学園長のところに行かなければならないだろう。
「ちょっと急ぐか?」
「いいのよ。毎度驚かされて迷惑被ってるんだから、少しくらい待たせてやったら。それにミーチャをここで私たちと会うように仕向けたのはその学園長でしょうしね。」
そうなのか?ミーチャはいつも案内しているみたいなことを言っていたけどな。とても嘘を言っているようにも思えないし。
「考えても見なさい。彼女はおそらく学園長のお気に入りよ。ただでさえ学園内のことは外には伝わりづらいの。それなのに彼女の情報は少しだけ外に出ているの。つまりは学園長が、外部の人間の案内をさせて顔つなぎしていると考えてまず間違いないわ。」
「なんで顔をつなぐ必要があるんだ?冒険者科だろ?」
冒険者になるのなら、顔つなぎはしていて損はないが得も大きくないだろう。どうせ自分が仕事するしかないんだからさ。
ギルド職員になるのにもいらない要素だ。それならランクを上げる方がよほど有益で彼女ならそれもできるだろう。
「冒険者になるかわからないじゃない。彼女は知らないかもしれないけど、もう学園長が目をつけていることは国に報告されているはずよ。学園長の従魔や従魔術を引き継げる人材は貴重だしミーチャにはそれができる素養があるのだろうからね。」
「それじゃあ、卒業しても冒険者ではなくて、学園で学園長の弟子になるってことか?」
「まあ、冒険者にはなると思うけど、あくまで本業は学園の仕事になるでしょうね。学園長と同じよ。テイマーは冒険者でも貴重なのにグランドマスターのじーさまはよく許したわね。」
なるほど。青田買いみたいなことなのだろう。冒険者の中にもGランクの才能ありそうなやつを自分のパーティで囲って育てるやつはいるが、それと同じってことか。
学園なんて才能が見やすいわけだから、そういうことも多いのかもな。
「勘違いしているようだけど、普通はそんな先物買いみたいなことはできないわよ?学園は良くも悪くも閉鎖的だから、外部から講師を呼ぶことはめったにないし。まあ、SSSともなれば話も違うんだけどね。」
「ふむ、それって、学園長、職権乱用じゃね?」
だって、他の人間は何もできないというのに学園長だけは若き才能より取り見取りってことだろ?他のところ、それこそ、冒険者や騎士、魔導士は間違いなく文句を言うと思うんだけどな。
俺の予想は間違っていなかったのだろうレイアもしきりに頷いている。
「もちろん、抗議したはずよ。まあ、あの学園長相手に正攻法は無意味だろうから、なしのつぶてだったんだろうけど。それだけ王国にとっても学園長の技術は大事ということかもしれないけどね。王都にいなかった私には正確なことはわからないわ。」
俺とレイアが学園長の職権乱用について話している間にどうやら学園の学舎に到着したようだ。こうやって歩いてきて実感したわけだが、本当に長い道を歩かされたな。またこの道を歩かなくてはならないということが余計に面倒だ。
中に入ると、学生が一人いた。見たところミーチャと同じ徽章であることから、彼も冒険者科の4回生でSクラスなのだろう。ここまでそろって同じ学科同じクラス同じ年だと、学園長が手を回していることは明白だ。しかし、今学生は授業中だったのではないのか?
「ようこそお越しくださいました。お久しぶりです、レイア先生、初めましてアルカナ先生。わたしはイシュワルト=メル=ベルフォードと申します。本日は学園長の要請によりお二人の案内を務めます。まずは学園長室まで向かいますので着いてきてください。」
イシュワルトと名乗った少年は、そのまま廊下を進みだす。
...今、さらっと言ったけど、こいつも王族ということの様ですね。レイアは会ったことがあるようだけど、俺は本当に初めましてなわけだから、ちょっと待ってほしいのだけどね。
「アル気にしたらだめよ。イシューは父親の第一王子に似て不要なことは可能な限り省く癖があるのよ。これ以上は話さないわ。」
「第二王子はあんなに柔らかい人柄なのにこうも兄弟で違うんだな。母親が違かったりする?」
「いいえ?私の父と叔父は同じ母親、つまり私の祖母から生まれた兄弟です。」
こそこそと話したつもりだったのだけど、会話に加わってきたよ。
今のは無駄な話じゃないんだな。基準がわからん。
「祖父に余計な会話を楽しめと命じられましたので、練習中なのです。」
「ほ~、面白い命令するな、そのじーさん。」
「ゴルギアスは国王陛下よ。礼儀に気をつけなさいって言ったでしょ?」
「あ、やべ、そうか。第一王子の息子の祖父って、国王陛下だったか。悪いって。申し訳ございませんでした。王孫殿下、手前平民なものでお許しを。」
そうだよな。国王の孫ってことはすぐにわかることだったわ。こういった突然のエンカウントには本当に弱いな。さっきのミーチェのこともそうだけど、遡れば、公爵家の坊ちゃんのこともそうだわ。
いやぁ、反省、反省。次がないことを祈るしかないな。
「気にしなくて結構です。偉いのは父や祖父ですので。わたしはただの学園生として扱いください。さて、こちらが学園長室にございます。」
コンコンッ
「失礼します。レイア先生及びアルカナ先生をお連れいたしました。」
『入りたまえ』
うん。ちょっと嫌な予感がするが、入れと言われたら入らなければならないな。学園内では向こうが上、爵位持ってるはずだし向こうが上、依頼主である以上向こうが上、と上下関係ははっきりしている。はっきりしすぎではないかとも思うわ。
「アル?何しているの?入りましょう。ここまで来て待たすのもよくないわ。まあ、待っているかは疑問だけど。」
「ああ、わるい。やっぱそうだよな。疑問だよな。」
中に入ると、応接用の長テーブルと長ソファが目に入り、その奥には立派な机とさらに奥にある絵画を見ている学園長の姿が見えた。
見えたといっても立派な椅子の背もたれに隠れて十分な姿が見えないが。
「学園長、特別講師の先生方をお連れいたしました。顔合わせの時までわたしはお役御免とのことですので、こちらで紅茶とお菓子をいただいております。」
『ああ、ありがとう。また頼むよイシューくん。もうちょっと無駄な話をしてもいいんだよ?じゃ、そちらのお二人も座ってくれたまえ。』
そんな会話をしてイシュワルトはすでに用意してあった紅茶を飲みお菓子を食べ始めた。全く無駄な話をしないのは誰に対しても同じなわけだな。
さて、俺たちも座るか。依頼主が座れというんだから、素直に従うとしよう。
レイアに目配せして一緒に座る。
『よく来てくれたね、レイア先生。そしてそちらは初めましてアルカナ先生。よいしょっと』
背を向けたまま簡単に挨拶をした学園長は椅子ごとこちらを振り返った。
嫌な予感というものは的中するわけで、こちらを向いた学園長には苛立ちが募る。
グルンッ
カァー
「いやなんでカラスのまんまだよ!?」
なんで待っているのがカラスのままの学園長なんだよ?普通、従魔じゃなくて主人の方がいるんじゃないのかよ?
ついついツッコんでしまったが、まったく同じでレイアもツッコんでいたようで俺と同じ体勢を取っている。
イシュワルトの紅茶を飲むズズズという音が、場違い感を余計に助長するように響いた。
君は、余計なことはしゃべらなくて、さらにマイペースなのね。
依頼について話を聞きましょう。
拙作を読んでいただきありがとうございます.
「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」
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