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第66話 「学園の門はクリアしたわけだが。」

お読みいただきありがとうございました。


王都ベルフォリアの冒険者ギルドは、王城に隣接して作られている。これは商人ギルドやいくつかの政府機関も同様で、王都の中心に集中的に存在している。

また、王都初日に行った仕立て屋『フェアリーズ』も王城の中心にある。


これだけの主要機関ともいえる施設が中心に存在するのは万が一という事態が起きたとき危険ではないかと主張する貴族もいた。しかし王家が〔万夫不当〕を招致することを提示した時点で、そんな貴族はいなくなった。

そういった理由もあって、王都の中心には重要な施設も多く、それから離れた場所にある重要施設には、武力的にも安全であるような場所になっている。その一例として、騎士団の詰め所や王立学園などがある。


さて、そんなわけで、依頼を受けた俺とレイア(正確にはレイアとおまけの俺)は王都の中心にある冒険者ギルドから王立学園へと向かっている。王都には、いろいろな店が点在しているわけだが、王立学園に関係ある施設はもちろん一か所に固められて設けられている。

それをひとまとめにして学園地区とも呼ばれ、そこは、王都の南西地区、およそ王都の1/8、王城の5個分以上の広さを誇る広大な敷地を保有する。




ここで、王立学園についての説明をしておこう。と言っても、俺もさっき道すがらに聞いただけであるわけだから、それほど詳しいわけでもないけどね。


ベルフォード王国の王都ベルフォリアに存在する王立の学園は、その最高責任者を国王とした王国の最高位の学校とされている。王国中から貴族や貴族に推薦された平民、試験に合格した優秀な平民などが通う、先程述べたように広大な敷地を持つ学園である。


その学生たちは入学から一年の間、共通科という、すべての学科の初歩的内容をまとめたような内容を学ぶ学科に所属して、各学科の教師の講義を選択して学ぶ。選択制であるのは、過去の学生において、入学時からどの学科に進級するかを決めている学生が一定数いることから変更となった規則である。学園では10歳で入学し6年で卒業となるため、人によっては無駄な時間になりかねないからだ。

王立学園の中には6つの学科があるというのは周知の事実であるようだが、どの学科も大変に厳しく、脱落者というのは出るものだと割り切られているらしい。


学科は、騎士科、魔導士科、商業科、経営科、従者科、冒険者科の六つの科に分かれている。その中にも専攻によって細分化されるが、ここでは今回の依頼で関わることになる冒険者科について説明しよう。


冒険者科は、もちろん主に冒険者を目指す学生が選ぶ傾向があるが、冒険者科を選んだからといって必ずしも冒険者にならなくてはいけないというわけではない。選ぶのは学生であるからして、途中で志が変化して、騎士や魔導士を目指す場合も無くは無い。また、家訓等の理由で一時的に冒険者にならざるを得ない場合もある。


冒険者科では、6年の間に冒険者としての技能を、元冒険者でもある教師から学び、実際に冒険者としての活動も行う。極稀に在学中から冒険者として頭角を現す学生もいるが、多くはない。


冒険者科のクラス分けには、本当の冒険者のようにSからDまでのクラスに分けられ、AからDは30人ずつ、Sは5人の一学年、約125人で一クラスごとに切磋琢磨していく。しかし、進級時に一年の成績を加味してクラスの移動がされるため、協力して学ぶ中でもライバルとしての蹴落とし合いなども発生する。


あまりにひどい妨害行為や暴力行為などには、学園から注意罰則などが課せられる場合もあるが、基本的に冒険者として自分のことは自分で、とされてしまうため、罰則の実例は少ない。

このように蹴落とし合いにまで発展する競争がある中で、Sクラスは入れ替わりがほとんどない。なので、2年目より最終学年まで同じメンバーということも珍しくなく、それだけ優秀な学生が集まるということなのだろう。


学生たち個人の冒険者ランクは大体、クラスのランクから2つ3つ下に考えればちょうどいいとされている。例えばDクラスであったら、FからGランク程度、CクラスならEからFランク、BならDからEランク、AクラスならCからDランク、SクラスならCランク、と。


ん?Sクラスは、CやBランクじゃないのかって?おいおい。そんなわけねぇだろう?Bランクって言ったら、ギルドでも中堅レベルは間違いない。そこからAランクには上がれなくてもBランクでは圧倒的強者という様な冒険者もいる中で、単純にCランクと近いレベルがいるわけがない。


一般的に一つ上の冒険者に勝つには、同じランクの者が3人必要だといわれている。

例を挙げれば、Eランク1人に対してFランクが3人、Cランク1人に対してDランクが3人というような感じだ。

ただ、Bランク以上の冒険者にはそれがあてはまらない。Cランクまでは単純に能力の差が少なく、一瞬だけ現れる高い能力を持つ者、要は才ある者は、すぐにBランクまで上がるため、Cランク内では突出した者が少ない。

これがBランク以上となるとそう単純ではなく、スキルの工夫などで同ランクにもピンキリがあり。キリでは、1つ下のランク3人で成り立つが、熟練になればなるほどその強さは増していく。AS...もその点は同様である。


ま、素行が悪ければ昇格試験に合格することもできなくなるわけだから、BランクやCランクで留まるような冒険者が増えていくわけだな。


そんなわけで、現時点で学園を卒業していないような冒険者がBランク相当の実力があるなど滅多にないことなのよ。




話を王立学園に戻すか。俺たちが向かっている王立学園は、国王が最高責任者ではあるが通常時は、学園長がその統括を行っている。

これだけ広い学園を一人で管理監視できるのかというと、それができるからこそ任命されているということだろう。もちろん教師たちも見回りなどをしているが、見回り業務としては約7割を学園長が負担しているらしい。


レイアが言うには、学園長はこの国の魔導士で、王国魔導士団を引退後就任したようで、もともとは相当に腕の立つ魔導士だったようだ。いろいろな魔導士がいる中で、学園長が研究していた魔術は従魔術で、所謂、従魔術士テイマーのようだ。テイマーというのは、魔物を使役して戦う魔導士のことで、従魔との感覚の共有など、索敵にも役立つが、その分、成長が遅いといわれる。

学園長は自身の従魔の目と感覚を共有する魔法を使い、とても広大な学園の見回りを行っているらしい。

どのような魔物を使役しているのか、興味は尽きないが、殺して奪うわけにもいかない。


うまそうな骨だったりするのかなぁ。マスクにしたら便利かもしれないなぁ。

ばれなければ、一匹ぐらい...だめかなぁ。


俺個人としても従魔というのは憧れるが、いつか手に入れることもできるのだろうか。スキルがなくてはいけないかね?そこらへんも聞いてみたいところである。



俺が、学園長の従魔の(骨の)味を妄想していると、ついに王立学園のある王都南西地区に到着する。

学園には高い壁と大きな門があるが、これは、果たして、侵入者を拒んでいるのか、脱走者を阻止しているのか。


俺たちが門の前に立った時、俺は1つ不思議なことに気が付いた。

この門には、本来であればいるはずの門番が一人もおらず、対応してくれるものがいなかった。〔気配探知〕〔魔力探知〕まで使って探したから間違いない。

しかし不思議に思ったのは俺だけだったようで、レイアは平然とただ、門の前に立っているだけだった。


「なあ、どうやって中に入るんだ?門番もいないようだし、見たところ、ここ以外に中に入れるような場所は無いぞ?」

「ああ、アルには言ってなかったかしら?この門で大丈夫よ。そのうち鳥が飛んでくるから。」


トリ?どういうことだろうか。

そんな会話をしてから2~3分後、ずっと発動させていた〔気配探知〕と〔魔力探知〕に学園の敷地内のほうから反応があり、何かがこちらに向かって飛んでくるのがわかった。魔力を有する様なので魔物であることは確定だが、レイアが反応しないので問題ないのだろう。


そうして視界に入ってきたのは、大きなカラスだった。鳥というのはそういうことね。さっき話にあった学園長の従魔ってことだろう。野生の魔物でないことはすぐにわかった。そりゃ、あんなにしっかりとした鞄を背負っていたら普通にわかるよね。


「来たわね。ここのシステムは人件費がかからないけど、待つ時間が面倒に感じるのよね。何度来てもやだわ。」

「そういえば、こんな依頼は毎年のことなんだろ?去年はどうしたんだ?」


去年のレイアは、別の依頼で王都にいなくて祭りに参加していないと言っていたため、それならこちらの依頼も受けていないということで間違いないだろう。

俺のふとした疑問にレイアは苦虫をかみつぶした顔をする。


「去年はこの依頼の期間内に他国の王族からの依頼があったから、ラッキーって感じにそちらを優先させたのよ。そしたら、その依頼が、護衛と称した王子のお守り兼家庭教師で、それならこっちのがよかったと後悔したわ。」


SS(S)ランクの依頼はどうにも特殊なのが多いとは思っていたが、後進育成が多い気がするのは俺だけじゃないだろう。

ルグラのように魔物の討伐に駆り出されるようなことは、稀であるということか。

そりゃ、そんな大事件がポンポン起こっていたら、世界がどうにかなってしまいそうだ。そんなことになったら、即、俺の仕事になるかもしれない。


「はぁ~あ、やだやだ。ランクなんぞ上げるもんじゃないかもしれんな。」

「アルはきっとランクを維持するのは難しいと思うけどね。」


俺がため息をつくと同時に学園の壁にカラスが留まる。近くに来ると余計にでかく見えるな。近くと行っても10メートルは離れているわけだが、まあ、細かいことだ。レイアの言葉は気になるがそれよりも目の前のことである。

しかし、鳥か。鳥...トリ...とり...チキン...フライドチキン!食べたいな!


王都にきてからうまいものばかりを食べているせいか、食欲が抑えられていない気がしなくもない。いや、間違いなく抑えていられてないのだろう。

フライドチキンを連想してよだれを垂らしているわけだからな。


あ!ニピッドで教えてもらったカレーライス専門店もいかなくちゃな。

食欲に支配され始めた俺の思考は目の前のカラスが翼を広げたことで正気に戻る。


まて、待つんだ、俺。鳥とはいえど、カラスだぞ?鶏じゃないんだ。自制するんだ俺。今は依頼中だ。


「ちょっとアル!どうしてよだれ垂らしてるのよ?あれはカラスなのよ!?食べたっておいしくないから、きっと。今日の夕飯はマイに鶏料理にしてもらえるように言っておくから、今ここで食糧ゲットはやめて!ほら鎌をしまってちょうだい!」

「じゅるり...じゅる?あっと、ごめん。意識が飛びかけてた。」


う~ん。まずいな。〔人化〕解いている間に欲求が溜まるのは理解していたが、もしかしたら〔人化〕時に欲求が促進されているのか?全然、自制できていない。


今のところ、食欲だけだが、今後性欲だ睡眠欲だと、同じ症状が出るのはまずいかもしれない。それに促進というよりは、魔物的な行動という感じに近いかもしれないな。生身のある魔物の本能みたいな。


とりあえず、武器イシュガルは仕舞って、カラスから視線を外す。

今はとにかく自制して、再発防止に努めるしかない。獅子王面リオウマスクの時はあまりこんなことを起こすことはなかったわけだが、どうしてだろうか。ただ〔人化〕した時にこういうことが多い気がする。

まさか、獅子王面の光属性の浄化作用が魔物の本能を浄化して...なんてありえないか。...ないよな?


調べなきゃいけないことは山積みだが、前例がないからわからないのが現状だ。オーリィンにでも直接聞ければ違うんだろうな。教会とか行ってみるか?


さて、気を取り直して、カラスが来たわけだが、どうやって門の中に入るんだろうか。


「落ち着いたようね。これからあのカラスが門を開けてくれるから。」

「あいよ。でもどうやって?」

『見ていればわかる。我がカーくんに邪な視線を向けおって。こちらから依頼したのではなければ、追い返していたところだ。気をつけたまえ』

「うおっ!!」


突然カラスがしゃべりだしたぞ。いやぁ驚いた。あれもそんなに知能の高い魔物なんだろうか?


俺が驚いたのを横目に平然としているレイアは事情を知っているようだ。カラスをキッとにらんでいる。


「毎回毎回、学園長は暇なんですか?いちいち手を変え品を変え見に来ないで、大事なカーくんに任せたらどうですか?」

『まあ、そういうな。レイア嬢は、いや、レイア先生はいつも驚いてくれるでな。我もつい張り切ってしまう。まあ、今回は連れの方が驚いていたわけだがな。カーッカッカッカッカ』


確かに驚いたのだが、レイアはこれを毎度やられているわけか。平然とするわけだよ。しかし、これが学園長ね。従魔を通して声を通しているというわけか。

便利なんだな、従魔って。


「アル?違うわよ。声を届けることができるのは、相当な技術がないと不可能だし、九官鳥系統の魔物に限定されるの。カラスもそうだから。いつもは魔道具で同じことをしているんだけどね。」

「なるほど。」


俺が納得していると、先ほどまでカラスが留まっていたところにはもう、その姿は見られず、飛び立ったようだった。


『では、我は学園長室にて貴殿らを待つとしよう。急いでくる必要はないぞ。我はいつでも仕事しているわけだが、常に学園長室にいるのだからな。』


そういってカラスは飛び去っていった。それと同時に門が動き人が入れる程度に開く。これも魔道具だったようだ。カラスが流した魔力で開いたということか。


それにしても、どうにもつかみどころがないというか。めんどくさそうというか。だって一人称、我だし。


「じゃあ、入りましょうか。中に入れば特に迷うようなこともないしね。」

「ああ、それにしても面倒くさそうな学園長だな。」

「ええ、それには同意するわ。」


レイアも相当苦労してるんだろう。他国の依頼に飛びつくほどだもんな。

なんにしても学園の門はクリアしたわけだが。

気が重いな、会うの。だって一人称、我だし。







学園長に会いに行きましょう


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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