第60話 王城では
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アルカナが王都ブラッドレイの大きさに驚いていたころ、この国の王城では一人の男が王に面会を求めてやってきていた。
その男は、金髪碧眼で作り物のように整った顔をし、地味でありながらもその質は高いであろうことが窺える服を身につけている。
まあ、言うまでもないが彼は、この国の第二王子、ユーゴー=レイク=ベルフォードである。
彼はアルカナとあったニピッドの町から帰還してすぐにムリニール伯爵家を筆頭に人族至上主義を掲げる貴族家の中でも法に反した行為、要は違法に奴隷を所有していると思われる貴族家への家宅捜索及び逮捕を推進し、わずか数日で多数の貴族家の取り潰しを決定づけさせるほどの証拠を集めて国王に提出するまでに至った。
これで、ベルフォード王国の膿をすべて出し切った、とは言えないにしてもその大部分を取り除けたことは間違いない。しかしその過程で知り合った人物は王国にとっては扱いに困るような人物であった。
『骨の王』
太古の昔よりあったわけではないベルフォード王国であったとしても、それ以前に存在した国の技術や文献を貪欲に収集することで、発展し続けてきた背景のあるこの国では、たびたび見ることができる名称である。
数多ある文献の中でもベルフォード王立図書館に置いてはおけないような文献、俗に言う禁書扱いの文献の中に見られることが多いとされている故に、この名称は王族以外に知るものは多くない。
文献によると『骨の王』はこれまでの多くの国の死について関わっているとされており、太古の国々においては、国家崩壊の象徴とすらされている。
その力は、多岐にわたり、ある国では大きな体で国を踏み荒らして回っただとか、王城に突如現れて王族並びに貴族を軒並み殺して回ったとか、大量のスケルトンを率いて国に攻め入った、果ては、巧みな魔法により天から太陽を落として国に大穴を開けたなどの荒唐無稽ともとれる逸話が残されている。
そんな『骨の王』にニピッドで会ったわけだが、ユーゴーは正直なところそこまでの危険性を感じなかった。もちろん彼の威圧を受けたときには生きた心地がしなかったが、国を崩壊させるほどとは思えなかった。故に彼は思った、文献は誇張されていたのではないか。
そう思ってしまってもしょうがないほどに、『骨の王』という存在はわからないことが多いというか、なにも解明されていない状況だった。
ユーゴーは知る由もないが、アルカナ自身も骨の王に関してはほとんど知らない。〔戦力把握〕で知れること以上に知っているのは、次代の死神であるということだけだ。
実際は『骨の王』といっても二種類ある、ということをオーリィンが説明していなくてはならなかったのを彼が説明し忘れたことで、今、こんな状況になっている。
実は『骨の王』にはアルカナのような種族的な骨の王とは別に、言わば、真の『骨の王』とでもいうべき存在がある。なぜ真のかと言えば、『骨の王』とは種族とは別に称号としての側面もある。
今代の死神イシュガルは、アルカナ同様に、死神化するまでは、種族が『骨の王』であり、死神化した際に種族『骨の王』が称号〔骨の王〕になったのだ。
つまり、称号を持つ〔骨の王〕は種族『骨の王』とは隔絶した力を持ち、それは一つの目的を持って行動する。死者の管理だ。
死んだ者の魂を管理し輪廻転生の輪に戻す。かつてはこれが死神の最大にして唯一の職務であったが地上で人間種が栄えるようになってきて唯一は唯一でなくなってしまった。死神は死の管理者。死を穢す者の始末も仕事のうちとなった。
長い歴史の中で腐神のような、死を弄ぶような神が出現したこともあり、そういった者も時を重ねるごとに増加していく。
そんな中で国王が死を穢す者の中心にあったり、貴族までもが関わっていたり、軍部にまで広がっていたり、はたまた国ごと関わっていたり。そういった中で生き残ったものによって文献が作成された。
文献にあることは一つも誇張がされず、〔骨の王〕が職務に忠実だったがために起こった大粛清ともいえるものだった。
各々アルカナとは別の成長の仕方により得意な方法で粛清を行うため、いろいろな力を持つような書き方をされたのである。
閑話休題。
逮捕した貴族たちの屋敷から大量に入手した悪事の証拠と、被害者についての報告書を持って王城の客間で待機していると、部屋のドアがノックされて国王の侍従が入ってくる。
いくら第二王子と言えども、王子の前に法務局長としての肩書があるユーゴーでは、直接、国王に伺いを立てることはできない。いまだ王子として継承権こそ保有しているが、実質的に王太子は仲の良い8つ上の兄がなるようなものであり、なかば臣籍降下しているのと同じ状況だ。
臣下と同じ手順を踏まなくてはならない。
案内されて見慣れた廊下を進むと、国王の執務室の前につく。一応王子であるからこそ、他の臣下とは違い、グルグルと意味のない遠回りをさせられないだけましだったなと苦笑する。
国王の侍従より入室の許可が与えられ、国王の第2執務室へと入る。
国王は万が一に備え、王城内に執務室を複数持ち、日替わりで使用する。昔は子供ながらに面倒なシステムであったと思うが、今ではその重要性も理解している。
執務室の中には多くの仕事を抱えた父が、宰相に監視されながらひーこらと汗をかいている。
父はすでに髪も白髪が混じるようになったがいまだに武王の名にふさわしいほどに筋肉は衰えていない。日々訓練を欠かしていないというのは有名な話で戦争が起きても彼がいれば大丈夫と言われるほどに国民から信頼されている。
そんな父も書類仕事は大の苦手で、こうして宰相の監視がなければすぐにでも投げ出して騎士団の訓練にでも参加しに行ってしまっていただろう。
そんな宰相も目を光らせながらも自分の仕事を進めていて、こちらを振り返るもすぐに視線を戻し、手元の資料に目を移す。
また、ここまで案内してくれた国王の侍従も執務室に入ってすぐに自分の仕事に戻る。彼は侍従であると同時に側近でもあるため、国王の仕事の補助もその仕事に含まれる。
(これは、勝手に話し始めろということか。やれやれ。)
なにも言わないのは、まあ、執務室という閉鎖空間であると同時に俺が法務局の制服ではないことが理由であるだろう。
このまま黙っていても話しが始まらないため、さっさと話し始める。
「本日は時間をお作りいただいて感謝します。国王陛下、宰相閣下。」
「はあ、よい。今は他に貴族もおらん。普通に話せ。」
一応畏まった話し方をした息子に面倒そうにため息をついて答える父。もともと礼儀など気にしない性格であるにしても、すこしは気を遣ったのに気付いてほしい。
宰相のほうをみるとうなづいたので、しょうがない、と話し始める。
「それじゃあ、早速だけど、要件からはいらせてもらうよ。いくつかあるけど、まずは、今回のニピッドを発端とした違法奴隷にかかわった貴族並びに商会の摘発、逮捕に関しての報告をさせてもらう。」
「ん?ああ。だいたいは報告書を読んだが、聞かせてくれ。」
報告書を読んだならいらないじゃないかと思ったが、新たにわかったこともあるので省かずに説明を続ける。
「今回はまずムリニール伯爵家を筆頭に以前より違法奴隷の所有、または、売買、作成を行っているという貴族家の家宅捜索を行い証拠の確保と身柄の拘束を行いました。ただ、噂レベルの貴族家からやったので、法務局だけじゃ手が足りなくなったから、騎士団に協力要請を行いどうにか余すことなく摘発が完了した。伯爵家以下の膿はすべて排除したはずだ。」
そう、今回の摘発では伯爵家以下の貴族が主な対象となったわけだが、それ以上にこの件にかかわった貴族がいなかったかというと、いないといっていい状況だ。
伯爵以上となると、辺境伯、侯爵、公爵、王家となるわけだが、高位の貴族になる様なやつは基本的に王立学園で領地経営や他国との付き合い方などを学ぶため、領地経営以外で稼ぐ手段は必要がない。
そんなわけで、今回は中位下位貴族ばかりの摘発となった。
「それによって空いた貴族位や領地は、現在、王家直轄領として一時的に所有し、将来的に下賜する予定だ。男爵位くらいまではこの件で動いた騎士団に渡してもいいと思うが、宰相、どうだろうか。」
「そうですな、報告書によると、今回出動した騎士団も平民で優秀な人員ばかりのようなので、騎士団としての要求もそう言うことなのでしょうな。総団長殿も平民で優秀なのがいても出世しづらいとぼやいていましたから。」
「そうか、それではそう言った方針でいこう。」
この話は終わりと次に行こうとしたとき、父から待ったの声がかかる。
何か文句があるのかと思いきやそういうわけではなく、追加の話のようだ。
「男爵ではなく子爵でもいいぞ。伯爵ともなると国政までに関わるようになってくるので、パッとくれてやるわけにはいかないが、子爵までだったらあんなことやってたなら、領地があるかどうかってとこだろう。大した問題はない。」
「そうですな、それでは領地があっても騎士団員では困るでしょうから、領地がない子爵位までとしましょうか。」
「うむ。」
「承知しました。」
これで、この話は終わりだ。予想よりも騎士団に渡す爵位が大きくなったが、特に問題は無く、領地はユーゴーの描いた通りになったため、文句もない。
さて、これで法務局としての報告事項は終わりだが、もう一つはちょっと報告が気が重い。
まあ、アレが来たことである。
「次の報告としては、以前にも話しました通り、いえ、これはそうですね。どうしましょう。」
そういえば侍従の彼がいたというのを忘れていた。一応彼のことは、国王と宰相にしか話さないと約束したこともあり、このまま話してしまうわけにはいかなかった。
ユーゴーの視線に気が付いた宰相と侍従が国王に目を向ける。
「ん?ああ、ライオネル、すまんが少々外してくれ。どうにも余と宰相だけにしてしまったのは面倒だな。」
「申し訳ございません。」
「いや、すまん。責めているわけではない。お前に言っても詮無いことだったな。知る人員を減らした意味はわかっている。」
あの時は国として上位の者と考えていたために、王と宰相と言ったが、王の近くには常に侍従がいたことを忘れていたのは失敗した。
「それでは失礼します。」
「ああ、話が終わったらもう一度呼ぶ。」
侍従が部屋から出ていったことを確認して、報告を続ける。
「それでは続けさせてもらいます。今日、昼頃ですが、以前話した彼の方が王都を訪れたようです。」
「なに!?もうか。ニピッドからこちらまで、もう少しかかるはずだが、早いな。」
「そうですね。『骨の王』ですか。文献通りなら、国を滅ぼすほどの力を持っているようですが、あれから調べましたが、およそこの世の者とは思えない力ですね。国家崩壊の象徴とまで言われているようですが、どうにもわかりませんな。」
「彼の場合は〔獣化〕して走ったのでしょう。それくらいはできるようです。過去を見た感じ人ともうまく馴染んでいますし、危険はないと思いますが。まあ、SS以上の実力者をほぼ無傷で完封していますし、エルサリウムエレイン翁とも交流があるようです。彼がSランクになる際の推薦は翁がしたと。」
「なんと、彼は確かルグラでギルドマスターをしておったな。王城を辞してからまさか冒険者ギルドマスターになるとは思ってもいなかったが、元気でやっているなら良いな。」
「ええ、私も陛下とともにお世話になりましたが、彼にはもっと居て欲しいと思う反面、頼りすぎてはいけないとよく前宰相に言われたものです。」
翁は王城で知らぬ者などいないほどに世話になった人物である。翁も魔法師団で総団長をしてくれていたころは、弟子を取って、今はその弟子が各所で重役についている。
「彼も認めているとなれば、大丈夫だろう。いやあ、余も安心したぞ。」
「そうですな。私たちでは束になっても勝てない方が認めたのですから。」
どうやら、文献上の恐怖よりも、信頼した人物が認めたという事実の方が効果は大きいようだ。これなら、自分が持ってきた冒険者ギルドでの彼の実績などはいらなかったな。
「そう言えば殿下が提出してくれた彼に対する報告は興味深いものでしたね。戦争と死の神の祠に神獣、最高神の使徒、死神、アンデットですか。『骨の王』に関する資料の中でもこれらについて書かれた文献は一つもありませんでした。」
「しかし、それは余も読んだが、禁書扱いなのは確実だ。魔物が神の使徒になるなどいったら、神聖龍国以外の宗教家どもが騒ぎ出すぞ。」
「でしょうね。ですから僕も極秘で提出したんですよ。」
「うむ。大儀であった。」
これで説明することがなくなったため、ユーゴーは部屋を退出する。
その際に一つ思い出したので、簡単に話してそのまま出ようと思った。
「あ、レイア嬢のブラッドレイ邸から連絡がありまして、近いうちに法務局でアルカナくんと会うことになりましたので、あしからず。それじゃ。」
「「な!?」」
バタンと音がして、閉まると、ふぅと息を吐く。父と父の友人として昔から知っているが、国王と宰相として見たときは、どうにも緊張してしまう。
ユーゴーは部屋の中から聞こえてくる声を聞き流し、窓の外を見て一言つぶやく。
こうして平和だと、いいねぇ。
屋敷の中に入りましょう
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