第57話 「なんだこのカオス」
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誤字報告ありがとうございます。自分でも気が付けないことが多々あるものですので助かります。
驚愕し通しの俺が、助けを求めてレイアに視線をやると、はぁ、というため息一つにエミィさんの頭をどこから取り出したのか紙を丸めたようなものでスパンと一撃する。
普通の人族による一撃だったなら、いかにも武人といった雰囲気のエミィさんには痛くもかゆくもなかっただろうが、そこはSSSランク冒険者の吸血鬼(根源種)による一撃なわけで。
目の前には頭を押さえて悶絶して女性が転げまわる、野太い声で呻きながら。
なんだこのカオス。
「だぁかぁら!!いつも言っているでしょ!?あんたは見た目と声の差が激しいんだから初対面の人には簡単に説明なさいって!!アルだって驚くに決まってるでしょ、こんな存在が何食わぬ顔で、よろしくね、なんて手を出して来たら。」
「でもでもぉ、別に普通のことじゃない?初対面で握手求めるくらい。取って食おうってわけじゃないんだしぃ。」
「語尾を伸ばすのやめなさい!!そんなこと言ってるとシバキ回すわよ。」
レイアが何を言ってもなしのつぶて、暖簾に腕押し、要はたいして真に受けていない。エミィさんはどうもつかみどころがないというか、そんな感じだ。
正直、驚いたし、ぶっちゃけ取って食われるかと思った。思ったけど、どうにも悪そうな人じゃないことはわかったので、仲裁に入ろうか。
「まあまあ、エミィさんも悪気があるわけじゃないし、俺もちょっと驚きすぎたよ。エミィさん申し訳なかった。しかし、説明してくれるとありがたいし、よりあなたと仲良くなりたいと思えるかもしれませんよ?」
「アルが言うなら、ここはこれ以上言うのはやめるわ。エミィはこの態度さえどうにかできれば文句なしの超一流職人なんだけどね。」
「あら、それはしょうがないわ。あたしのやり方なんだもの。良いじゃない、あたしみたいな服飾職人がいたって。」
確かに人のあり方はそれぞれだ。他人が口を出すべきことではない。エミィさんが女なのか男なのか俺には判断付かないが、どちらだとしても美人であることには変わらない。
男は美人には弱いと相場は決まっているものだ。
「そうですね、エミィさんみたいにキレイだったら、それ以外はどうでもいいですね。」
俺がフォローのつもりですごい簡単に褒めると、レイアはあちゃー、と額に手を当てさらに天を仰ぐ。
どしたん?と俺が不思議に思っていると、エミィさんがどうやってか一瞬で目の前に移動し俺の手を取る。ぶんぶんと握手したまま手を振られ、終わったかと思えばがばっと抱きしめられた。
「ありがと~!うれしいわ!あたしのことキレイって思ってくれたのね!やっぱりわかる人にはわかるんだわ!そうなの、これでも毎日のケアは欠かさないし、努力してるもの。それからね――――」
ズバンッ!
怒涛の勢いで自分の美容法を語り始めようとしたエミィさんを再びレイアの一撃が襲う。先ほどよりも鋭い一撃にまたもや悶絶するエミィさん。
「だから見た目については触れてはダメよ、と言ったじゃない。話し始めると止まらないのが原因で誰もエミィの容姿を褒めなくなったんだから。」
「うん、ごめんな。忘れてた。」
「いいわ。ほら、エミィ早く立ち上がりなさい。私が簡単にあなたのこと説明してあげるから。あなたはその間にアルの礼服を作る準備なさい。」
「あたた、もう、容赦がないったらありゃしない。あたしはあんたと違って耐久が低いんだから、すこしは加減してちょうだい。説明だったらあたしが手取り足取り教えてあげるほうが良くない?」
「そうしたら長くなるでしょうが。あなたには早く準備してほしいのよ。」
エミィさんは、はーいと言って、メジャーを取りだし俺の体を測りだした。
「できるだけ動かないでねー。」
「わかりました。」
「それじゃ、アル、エミィのことを簡単に教えるわね。彼女は本名エミリオ・バラク。この仕立て屋フェアリーズの店主よ。あと本人は副業として冒険者をしてるの。あ、もちろん性別は男よ?「そこは言わなくてよくない?」良くないわ。あなたは黙って作業する!」
「はーい」
「冒険者としてのランクはSSS級、彼女は公的にもSSSよ。〔万夫不当〕対人戦において並ぶものなしとまで言われた武術家なの。仕立て屋としても一流なんだけどね。」
「服の素材を取りに行ったりするのに、高位冒険者じゃないと入れない地域とかがあるから登録しただけなのよ。あたしは別になりたかったわけじゃないもーん。」
「こんな感じで、すべての冒険者を馬鹿にしたような理由でSSSになったのよ。ただ、冒険者としての仕事はほとんどしていないようなものだけどね。」
「うん、せっかくの素材をギルドに提出するのはもったいないしね。それなら自分で使っちゃうわ。」
なるほど、驚愕すべきことはまだあったようだ。
まず、エミリオさん、いや、エミィさんは、男であると。うーん、抱き着かれたとき、いい匂いがしたから、もしかしたら普通に女性かと思ったけど、違かったか。
まあ、キレイだから役得であったことに変わりはないか。
それで、SSSランクの冒険者に〔万夫不当〕、対人戦最強、と。これでさっきの動きも理解できたな。
突然俺の前に現れたのは敏捷が高いのかと思ったけど、それだけじゃなかったってことかな。
てか、こんな短期間にSSSランクと知りあえちゃったけど、いいのだろうか。誰に咎められるわけじゃないし、まあ、いいか。短期間に会ったおかげで驚きは半減だけど。
冒険者だけど冒険者活動してない?それっていいのだろうか。
「SSSランクってギルドから依頼されることもあるんじゃないの?」
「確かにSSSランクは冒険者ギルドからいろいろな場所、地域に派遣されて、魔物や大規模な盗賊団なんかの討伐が依頼されるんだけど、エミィは別なの。」
「そ、あたしは冒険者よりも仕立て屋だからね。ギルドもそっちを優先していいって言ってるのよ。」
なるほど、それだけ優秀な仕立て屋ってことなのかな。そんな人に礼服とはいえ、作ってもらえるとは、紹介してくれたレイアには感謝しかないな。
そんな尊敬の目でエミィさんをみて、感謝の念をレイアに送っていると、レイアがまたため息を吐いて話し始める。
「はぁ~、そんなわけないでしょ。現役のSSランク以上はいつでも人手が足りてないの。こんなに強い人を余らしておく余裕はないわ。」
「え、なら、なんで?」
「昔、SSSになって依頼ばかりやらされたエミィが切れて組合連合国まで行って大暴れしたらしいわ。その時にできるだけ遠くの依頼はさせるなって、当時の組合連合国の代表を脅したのよ。」
「あら、あれはギルドが舐めたマネしようとしたから、お灸をすえてあげようと思っただけよ?」
「それでもやりすぎよ。その後ギルドとの話し合いで、長期依頼という形で今もその依頼中ってことなの。」
すごいな、国に乗りこんで大暴れって、できなくはないにしても、しちゃだめだと思うわ。それを成し遂げて、今は仕立て屋って、どんな波乱万丈な人生だよ。
よくギルドもそんな爆弾を長期依頼なんて形で使おうと思ったよ。
「長期依頼ってどんな依頼なの?」
「ベルフォード王国の王都ベルフォリアの防衛よ。その代わり王都を出ることができないんだけどね。ギルドは枷にする心算で各国に打診したみたいだけど、当時の各国の王がギルドの要請をどこが受けるかで揉めたらしいわ。結局はエミィの出身国であるベルフォード王国が勝ち取ったみたいだけど、そりゃそうよね、たいした負担なく最強の防衛戦力が手に入るわけだから。」
「それもそうか。SSSが防衛のためにいるっていう事実だけでも十分な効果がありそうだな。」
「あら、人を兵器みたいに言わないでくれる?あたしみたいな可憐な美女に失礼じゃない?ふふふ、美しさは秘密兵器級だけどね?うふふ」
フフフ、と笑うエミィさんはどこか蠱惑的な笑みに見えるが、その実、男性なんだよな。まあ、異世界ならなんでもありとかいわれたらどうにもならんし、どうにかするつもりもないけど、変な扉開いたらどうしましょ。
「とにかく、エミィはこの王都防衛の要ともいえるから、王都の外での依頼は免除されているのね。」
「あら、レイアったら連れないじゃない。補足するとしたら、私の店がここにあるのは、ここが王都の中心で、結界は、王城の裏に店があることを露見させないためって言うことね。」
そういう意味で、結界があったのか。でもなんで中心なんだろうか。もっと門に近い方が良くないかな。
「なんで中心って思ったのね?アルくんはかなり強いからわかると思うけど、察知系のスキルには所持者の技量によって範囲が変わることは知ってる?知ってるわよね。そう、私の察知系のスキルの有効範囲は王都ベルフォリア全体を超えてそこからさらに5kmよ。まあ、どこにいてもいいんだけど、せっかく円形なんだから中心が便利じゃない。すぐに外にも行けるし。」
「なるほど、察知系に移動系のスキルですか。さっき一瞬で目の前に来たスキルかなんかで移動するわけですね。」
「そ。つまりこの立地が一番ってことよ。っと、はい!終わり。これで採寸の微調整が完了したから、来週当たりに取りに来てちょうだい。」
「わかったわ、ありがとう。私のドレスもその時でいいかしら。」
「ええ、それでいいわ。」
話しながらもずっと動かしていた手が止まり、採寸もしっかりと終わったようだ。メモとか何も取っていないが、大丈夫なんだろうか。大丈夫なんだろうな。
用事も終えたことだし、行きましょうかね。
「それじゃエミィ、出来上がった頃にまた来るわね。」
「ありがとうございました、よろしくな。」
「ええ、アルくんだったら、またいつでもいらっしゃい。あ、そうだ、これ、この店の会員証、魔力流してくれれば個人が登録されて、店の結界は発動しなくなるから。」
「まじで、ありがとう!」
これはいいものをもらった。何か必要になったら来させてもらおう。
「いいのよ、イケメンはいつでもウェルカムだもの。」
「こら、アルをそっちに引き込まないでよね!」
「おほほほ」
「うふふふ」
うおぃ、なんだか火花が散っているぞ。
それにしてもイケメンって初めて言われたかも。この世界って平均レベルが高いから、そこまで気にしなかったけど、嬉しいものだな。
「ほら、アル行くわよ!儀礼剣も作らなきゃいけないんだから!」
「あら、儀礼剣ってことは授与式の?あのドワーフなら王都にいないらしいわよ。ルグラの師匠に会いに行ったんだって。」
「え、ルグラなの?すれ違いになったのかしら。それなら、一度ギルドに行って紹介してもらわなきゃいけないわね。」
「そうしなさい。あたしが紹介出来ればよかったんだけど、生憎ドワーフはねぇ」
「ドワーフと仲わるいのか?」
「種族的にね。昔ほどじゃないけど、反りが合わないのよ。」
こういうのはテンプレ通りなんだな、エルフとドワーフが仲が悪いのはどこでも同じってことか。種族間で仲が悪いとかってほかにもありそうだな。時間があるときに調べよう、獣人と仲が悪い種族と会うこともあるかもしれない。
「さ、アル行きましょ。この後、私の家に連れてくんだから、移動の時間もあるし急ぎましょう。」
「ああ。」
「もう一緒に住むの?早いわねえ、結婚式には呼んでちょうだい。ドレスはあたしに作らせて。」
「ななんな、何を言ってるのよ!?アル!あほエルフはほっといて行くわよ!」
「はいはい、それじゃエミィさん、また。礼服よろしくね。」
「ええ、じゃあね~。」
レイアに腕を引かれるようにして店の外に連れていかれ、気が付いた時には、人通りのある大通りに出ていた。
これも結界の効果なんかな。知らないことばっかりだ。
ギルドに行きましょう
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