第56話 「な?驚いたろう?」
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38部の神の名前が誤っていたため修正しました。
ガイア → ガリア
「あーあ、えらい目に遭った。」
俺とレイアは、ただ、普通に、特におかしなところもなく、一直線に仕立て屋に向かっていたはずだが、どう進もうとも人混みに呑まれてしまうこととなった。
その原因は、そう、私の隣を歩いていた方、王都在住公的にはSSランク冒険者の『女神』レイアさんでございます。
いや~、舐めてたねSSランク冒険者の認知度。いやね、王都の門をくぐってレイアとしゃべってた頃から、なんだか視線を感じてたよ?殺気とかってわけじゃなかったし、俺もモテ期か?なんて馬鹿なことを考えてましたよ。そんなことあり得ないのに。そもそも俺、影龍のローブで顔はほとんど隠れてたからあり得ないって気づけよって話ですよ。
すべての視線はレイアさんのファンでした。いやぁ、群がる群がる。一歩歩けば群れが拡大して手に負えない。どんどんと俺から離されていくから、単純に困ったよね。
そんな大群を引き連れたレイアさんの一声でザッと引いて行ったのはさすがでしたね。
「邪魔だから解散してくれる?」
もっと早く言ってやってくれって話ですよ。すでにいろいろと影響でているわけだから。
しかし、こんなのが毎日続くとしたら、王都で過ごすのは想像以上に大変なのかもしれないな。
俺のそんな考えが顔に出ていたのかレイアが徐に振り返って、訂正する。
「普段はこんなことはないのよ?かなり久しぶりに帰ってきたから、反動で群がってきたのかしら。ふふふ、邪魔だったわ。」
Oh……笑顔で辛辣なことを言うね。
そんな感じで仕立て屋に向かう道中は、精神的に疲労が蓄積した。レイアの家がどんなだか知らないけど、今日はいい布団でぐっすりと寝たい。
王都はルグラのように通りごとに商店の種類が変わるということはなく、いろいろな店がばらばらに分布しているようだ。理由としてはおそらくその広さゆえだろう。
あまりにも広い王都では、一つの場所に、○○地区といった感じで密集して同種の店が開かれると、同じ王都の中と言ってもかなり遠方になってしまう。そう言ったことを解消するためには、各種店舗がまんべんなく王都中に分布している必要がある。
しかし、それでは、王都に初めてきた場合や、鍛冶師や薬師などの技術が足りないなど条件に合う店を狙って入るのが難しくなる。
これを解消するのが、ギルドである。
王都のギルドは冒険者ギルドも商人ギルドも両方とも王都の真ん中、つまり王城のすぐ近くに位置しており王都の門に直結する形で建てられている。王都の真ん中にあることで、そこで条件に見合った店を紹介してもらい出向くということができる。
今回の俺たちは、レイアが知っている店に行くので、特にこのシステムによる恩恵は受けないが、実際に伝手も何もなく来る冒険者には役立っているようだ。
そんなこんなで到着しました。冒険者ギルド。
――――あれれぇ、おかしいなぁ。いつから俺は冒険者ギルドに向かっていたんだろうなぁ。
うん、まあ、俺はレイアについてきただけだから何も考えてなかったけど、仕立て屋に向かってたんじゃなかったっけ。何で冒険者ギルド?
「なんで戸惑っているのよ。移動が完了したら冒険者ギルドで所在地を報告しておかなきゃいけないでしょ。だいたい到着したらその足で行くものよ?それに聞かなきゃいけないこともあるでしょ?」
「なるほど、そんなことを言われた気がする。覚えてないけど。」
「そんなんじゃ、フィンちゃんが悲しむわよ。」
悪いなフィンさん。あんまり大事なことだと思わなかったから忘れてただけなんだ。許してくれ。
それにしても聞かなきゃいけないことって何かあったっけ。 ......うーん、思い出せん。冒険者ギルドで聞きたいことか。
俺が全くわかってないことはレイアにも伝わったのだろう。苦笑しながらい教えてくれた。
「エルフの国に行く方法を調べるのよ。それが目的でしょ。忘れたの?」
「そう言えばそうだった。いろいろな情報が集まってくるギルドで調べるのが効率がいいってことか。」
「そうよ。」
そういってギルドのスイングドアを押しのけて中に入っていくレイア。いつぞやのルグラの冒険者ギルドのように中にいる冒険者の視線を一身に受けるが、それを意にも介せず、ずんずんと進んで受付にたどり着く。
「ちょっといいかしら。エルフの国に行きたいんだけど、どう行けばいいかしら。」
「これは、レイア様、おかえりなさいませ。今度はエルフの国ですか。あまり長い間王都を離れられると困るんですが。」
「そんなこと、私の知ったことではないわ。冒険者は元来、自由なもの、でしょ?相手が貴族だろうが、王族だろうが、文句は言わせないわ。」
「そうですか。いえ、失礼しました。それでエルフの国への生き方ですが、以前までだったら、組合連合国を抜けて行くというのがポピュラーだったのですが、今は、そのルートは使えないようです。理由は知らされていませんが、あちらのほうから来た冒険者によりますと。強大なモンスターが出現し居座っているのが確認されたようです。」
「それじゃ、どうやっていくの?それを討伐しろってわけじゃないのよね。」
「はい、さすがに被害が出ていないですし、その状態でSSランクの派遣はできません。そこで次に行ける可能性ですが、エルフの国との交易を行う商船に同乗することです。」
この国はエルフの国と貿易しているんだ。まあ、そうじゃなかったら、ルグラでエルフ料理なんて食えなかったか。海でつながっているわけか。そういえば、この世界の地図って見たことねえな。
モンスターは気になるけど、エルフの国に行けるんだったらよかった。
「それでその船はどれくらいで出航するの?」
「それが......実は先週出たばかりで、年に一回の交易ですので、次が一年後になってしまうんです。」
「なんですって?それじゃ、一年間は動けないってこと?どうしましょうか、アル。」
「いいんじゃないか。急ぐ旅でもないんだし。」
別にすぐに行かなきゃいけない理由もないし、そもそも行きたい理由は、うまい飯が食いたいってだけなわけで。
ゆっくりでもいいわけよ。
そこで受付の子が恐る恐る話しかけてくる。
「あの~、ところであなたはどなたでしょう。レイア様と一緒にいるというのはわかったのですが。旦那さんですか?」
ガターンッとギルド中に爆弾が落ちたかのように椅子が転がる音が響いた。
この受付嬢、ぶっこんできやがった。見ろ、周りの男性冒険者が立ち上がって、殺気を飛ばしてきやがる。さすがに王都だけあって、実力者が多い。中にはゴードンと同じレベルまでいる。
「違いますよ。俺はアルカナと言います。レイアとは目的が同じだから一緒に行動しているんですよ。まあ、俺は助けてもらってばかりなんですがね。」
「そうよ、まだ恋人でも何でもないわ!!」
二人して否定したのだが、どうにも周囲の反応は違う。声が小さくて何を言っているか聞きとれないが、殺気は散ったので良しとする。
(おい!『女神』がまだって言ったぞ)
(ああ、嘘だろ。俺たちのアイドルが。)
(まて!気をしっかりもて!まだそうとは決まっていない。)
(そうだ!俺にもチャンスが!!)
(ねえよ!夢見てんじゃねえ!)
(なんだと?夢見るのが冒険者だろ!!)
(そうだ!そうだ!)
どうにも周りがごたごたし出してきたので、とっとと用件をすましてギルドを出よう。
「これ、ギルドカードです。所在地の変更と滞在先はレイアの家でお願いします。」
「はい、わかりました。それではお預かりします。――――はい、これで変更できました。2週間後の授与式があるため礼服のご用意お願いしますね。」
「うん、これから作りに行くんだよ。ありがとね、それじゃ。行こうかレイア。」
「ええ」
特にテンプレなどもなく、スムーズにギルドを後にすることができた。これで、ギルド関係でしなきゃいけないことは片付いたわけだから、次は、今度こそ仕立て屋に行く。
「さて仕立て屋に行きましょうか。アルは王都は不慣れだと思うから、はぐれないでついてきてね。」
「わかった。魔力察知もあるし、大丈夫だと思うよ。」
「そうね」
これだけ広いとはぐれてしまったら合流も難しいと思われるかもしれないが、スキルという便利な力があるこの世界では、そこまで難しいことではない。もちろん修練が足りないなどの理由で無理なこともあるが、はぐれた人を探すくらいであれば、〔魔力察知〕や〔気配察知〕、その上位スキルの〔探知〕などで容易に見つけることができる。
俺やレイアがはぐれたら、抑えている魔力を解放することですぐさま目印ができるわけだ。余計なのも引き寄せるかもしれないが、そういう心配は実際にそんなことが起こってからでいいだろう。
はぐれないように気をつけて進むとだんだんはぐれようもないほど人気のない道に出た。いくら王都と言えども、すべての道に人があふれているというわけではないが、にしても人がいない。まるで人除けでもしているかのように。
「なあ、何か人がいなすぎないか?」
「そうね、人除けの結界が張られているから、しょうがないわね。会員証を持ってないと、迷って入口に戻っちゃうのよ。まだアル一人では辿り着けないと思うわ。」
やっぱり結界だったか。さすがに異様だもんな。こんな結界張ってる仕立て屋って普通じゃない訳か。
どういったのが出てくるのやら。怖いもの見たさで興味が出てきた。
「そろそろ着きそうだから、アル、絶対に店主に見た目について指摘しちゃだめよ。いい?わかったわね。」
「お、おう。わかった。」
「そ。さあ、着いたわよ。ここが目的の仕立て屋、[フェアリーズ]よ。入りましょ。」
その店は、一言で言うと、ファンシーだった。
外観はピンク色主体の建物で、2階建て。上が住居で下が店舗という形のようだ。二階部に「フェアリーズ」という看板がでかでかと出ている。
こんなに主張しているのに、人除けの結界ってやってることが矛盾してないかね。
カロンコロンという音がしてレイアとドアをくぐる。すると中から一人のきれいな女性のエルフが出てきた。
出てきたのはエルフのはずなんだが、どうにも雰囲気が武闘家のそれだ。
エルフは基本的に魔法に長けた種族のはずだが、目の前の彼女からは、相当な武力を感じる。
普通だったら、油断したら殺られる、的な威圧感を感じるのだろう。俺はそこまでの脅威を感じないが、抑えてくれないかな。
「久しぶり、元気してた? エミィ。相変わらず店は繁盛していないようね。ところで送っておいた礼服とドレスなんだけど、誕生祭までに間に合いそう?」
「ええ。元気も元気、バリバリよ。繁盛してないんじゃなくてさせてないのよ。十分儲かっているもの。そうそう、礼服とドレスなんだけど、ドレスはもうできているわ。あなたが着るんですもの、細部まで覚えていたわ。でも礼服はまだね。会ったことのない殿方の服は作らない主義だもの。」
「そう言うと思って、着る本人を連れてきたわ。ほら、アル、こちらが、この店のオーナーのエミィよ。」
「エミィよ。よろしくね。アルくんは、どういった服がお好み?要望を聞いて作るのがあたしのやり方なの。」
店に入り、威圧感を感じたところから突然の声が聞こえて驚いてしまったが、どうにも驚きが終わらない。
いや、よく分からんだろうけどさ、聞いてくれよ。
エミィさんってさ、男の声だぜ?
な?驚いただろう?
礼服を作ってもらいましょう
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