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第53話 「はぁあ。これで一件落着かね。」

お読みいただきありがとうございます。


全員が揃ったところで、ユーゴーが咳払いをして、ニコラス・トゥーピッド、ズカーホ・ムリニール、ブレンダン・ニールの三人を眼前へと引っ立てる。あれ、ユーゴーの部下が一人減ってる。まあいいか。


まずはクソ法務官、いや、クソ元法務官は俺に対しての振る舞いの様な横柄で実に貴族的な態度は息を潜め、すでに刑が確定した罪人のように悲壮感や後悔、はたまた責任転嫁などのとにかく気持ち的に沈んでいた。


他の二人は、今この状況が全くと言っていいほど理解できていないようで、少しでも自分が置かれている状況を素人きょろきょろとしている。もしかしたら、気絶した際に直前のあれやこれを忘れてしまったのかもしれない。


どんなに落ち込んでいようが、今のこの状況がわからなかろうが、彼らはこれから尋問される立場で、まだまだこれから沈んでいく状態だ。今の内からこのように、世界で一番不幸だ、とでもいうような態度でいられても困ってしまう。

それはユーゴーも同じだったのか、三人に対して何とも言えないような顔をしている。


「さて、君たちは現在拘束されているわけだが、どうしてこうなったか......わかっているかい?」

「お、おい!これはどういうことだ!私をムリニール伯爵家嫡男ズカーホ・ムリニールであることを知っての狼藉か!」

「そ、そうだ!私たちにこのようなことをして、ただで済むと思っているのか!」


二人は口々に、今この状況は不当であると訴えている。

しかしね、今この場にはこういった状況においてやってはいけないことがあると知らないようで。だめだなこいつら。

普通この場で、一番偉いのが誰であるかぐらいは理解して発言するだろうに。


「ただで済むと思っているのかだって?そりゃ思っているよ。君たちは、どうやら自分がどういったことをしてしまったかを理解していないらしい。いいかい?子供でも分かるようなことだがしょうがないから、説明してやろう。


まず君たちが最初に犯した罪は『国家反逆罪』、なんのことかわかるかい?わからないか。

君たちが無謀にも拘束したのが誰かということを考えてくれ、まず一人目、マロ商会の先代の違法な拘束。彼は王都でも有名な商会を一代で飛躍的に大きくした、大商人だぞ?先代国王の友人でもあったそうだ。そんな人物を誰の許可を取って拘束などしているんだい?なあ、ニコラス・トゥーピッド、君が拘束を指示したことはわかっているが、それは誰にやれといわれたんだ?ああ、言わなくていい。どうせそこのズカーホ・ムリニールだろう?後程君らの記憶を覗かせてもらうのでな。言い逃れなどさせないよ。


次はアルカナくんの拘束に関してだな。『国家反逆罪』ってのは、こちらがメインだな。

わかりやすく理由を言うと、国と冒険者ギルドの延いては組合連合国ミツバとの関係悪化を引き起こそうとしたからってことだな。

ん?何を青くなっているんだ?当り前だろう。冒険者ギルドに所属している冒険者、しかもSクラス冒険者を拘束してとんでもない罪を着せようとしたわけだからな。そりゃギルドも黙ってないさ。ついでに言うと、レイア嬢にしようとしたことも許されることではないな。


――――ああ、そうそう。アルカナくんの記憶からズカーホ、貴様が奴隷をうんたらかんたらと言っていることがわかった。これに関しては貴様だけでなくムリニール伯爵家、並びにその一門、親戚縁者に至るまで調査をすることを決定した。すでに王都へ手続きを進めるように通達した。貴様が王都へ護送されることには、全員が拘束されて取り調べられているだろう。奴隷の所持なんてしていてみろ、即縛り首だな。

トゥーピッド子爵家はすでに奴隷を所持していることが制圧時に判明しているため、病床の子爵以外は縛り首が確定しているので覚悟しておけ?


よかったじゃないか。全員仲良く縛り首。みんなでくくれば怖くない。全員仲良くあの世へレッツゴー。ってな。

最後にギルドとの関係悪化はレイア嬢が中に入ってくれたおかげでなんとか阻止できそうだよ。」

「う、嘘だ。そんなはずは...。」


この数分の間に今回の件に加担したトゥーピッド子爵家とムリニール伯爵家、ニール男爵家の処分が決定し、さらにはギルドの関係悪化を何とか阻止したなど、急展開に目が回ってしまう。...回る眼がない俺だけれども。


「さて、これで君たちが置かれた状況については理解できただろうか。残念だが、これは嘘でも夢でも、言い方はなんでもいいが、とにかく何でもない。せいぜい自分がしでかしたことに責任をもって死んでくれ。もういいよ連れていってくれ。」

「「「あ、あああああああ」」」


三人は崩れるようにして膝から倒れるも襟首を掴まれて連れていかれる。まあ、俺にこいつらにしてやれることなんて、首をはねることくらいしかないし、どうしようもないとあきらめてくれ。

気の毒なのは、馬鹿な身内のせいで痛くもない腹を探られる、親戚縁者だよな。ん?家族?そんなの自業自得でしょう。こういうのは大体親の背中を見て育った結果だよ。


三人はユーゴーの部下に連れられてどこかに行ってしまった。残ったのは俺とユーゴー。さて、これからどうなるやら。一応、俺の罪(笑)はなくなったってことでいいんだよな。


ユーゴーの方をみると、にこりと笑って察してくれる。


「これで、アルカナくんにかけられた冤罪は完全に晴らしました。公式の場で謝ることができない以上、非公式となるが謝らせてくれ。我が国の貴族が実に申し訳なかった。この通りだ。」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、いくら非常識であっても頭を下げるのは違うだろう!?俺はそちらの都合はわかる、無理に頭を下げずとも気持ちは伝わっているから、本当にやめてくれ。」


正直、先ほどまで、今や罪人となった貴族を糾弾していた目の前の人物がこのように殊勝にも頭を下げるとは思っていなかったので、小市民特有の動揺を隠せずに狼狽えながらも頭を上げさせる。

法務局長ってだけでも偉いのに、と釈然としない気持ちもあるが、なんとか納得してもらったはずだ。


「さあ、アルカナくん、こんなくだらない事件で、君たちを足止めする結果となってしまったが、そろそろレイア嬢の我慢が効かなくなるころじゃないかと思うのだが、行きましょうか。僕もオジアルには直接会っておきたいですので、一緒に行かせてもらいます。」


さっきから脱いでいた猫を被って口調を戻したユーゴーに少し笑いそうになったが、さすがにそれはよくないと気を引き締める。

結構前から気になっていたが、敬語は抜けるし一人称は変わるしで、素は違うんだろうと思っていたので素が出る分には何ともないが、逆はこうも腹がよじれるとは思わなかった。よじれる腹もありゃしないけど。


さて、町長館を出ると、そこには町長館で働いていたと思われる執事やメイドが拘束された状態で集められている。中には、先ほどの三人やムリニールの私兵などもガチガチに拘束された状態でひとまとめにされているみたいだ。

周りを見渡すと、すごい速度で突っ込んでくる存在に驚きつつも受け止める体制を整える。

ドスンと、人と人がぶつかったにしては鈍い音がして、辺りに砂埃が巻き上がる。


「アル~、本当に心配したんだから。よかった~、このまま乗り込んで皆殺しにしようと思っていたところに、王都から法務官がいらっしゃると聞いて、何とか耐えたんだから~。ケガはない?」


グスグスと涙をこらえきれていないレイアを抱き留め、その頭をよしよしといった風になでながら、どこにも怪我がないとアピールする。

しかしながら、皆殺しというのはなかなかに過激だが、まったくもって不可能でない、どころか、余裕で可能であることがその恐ろしさを強調する。


レイアの強みはその速度と筋力を活かした連撃にあるが、〔血液武器ブラッドウェポン〕での多剣術でその凶悪性が増し、さらに吸血姫特有の〔瞬速再生〕というスキルの継戦能力が一対多に大きなアドバンテージを持つ。


数か月という時間をパーティーを組んでいた間に随分と仲良くなれたものだと、感心する。もともと境遇が似ていたこともあり、そこまで距離があったわけじゃないが、それでもやはり、親しくなったと実感できるくらいには距離が近くなった。


「心配かけてごめんな?知ってるだろ?俺がそこらのやつに傷一つ付けられるわけがないじゃないか。ほら、こっちの法務官殿のおかげで、どうにかことを荒げることなく収束できたといえるかもしれない。感謝しなきゃな、ははは。」

「そうね。と、とにかく無事でよかったわ。私がギルドを通して法務官を要請したのよ?感謝してよね!って、あら?ユーゴーじゃない。あなたが直接来たのね。ってことは今回は法務局がらみの不正もあったってことねぇ。しっかりしなさいよ!ずいぶん無理を通そうとすると思ったら、法務官を抱き込んでたからだったのね。」


どうやらレイアとユーゴーは知りあいだったようだ。ユーゴーが法務局長だってことも知っているようだし、付き合いも割と長いのかもしれない。


「いやはや、これは手厳しいですね。私も自分の管轄は目を光らせているつもりなんですがね。いかんせん手が足りないんですよ。しかし、アルカナさんのおかげで、今まで証拠を残さなかったムリニールに捜査のメスを入れることが出来そうです。」


奴隷売買にかかわっている噂があっても決定的な証拠などの確証がなかったため、捜査に踏み切ることができなかったようだ。

さっきの時点で、王都の法務局、並びに王宮に報告が上がっているらしいので、今までうまいこと避けてきたムリニール伯爵家も、今回のトゥーピッド子爵家及びニール男爵家のように年貢を納める時が来たようだ。


これで、王国の治安が良くなると、いいことした気持ちになるんだけどな。

はぁーあ、こんなに厄介ごとに巻き込まれるつもりはなかったんだよね。


「ユーゴー、あなた王子として国を良くしていかなきゃいけないんだから、しっかり王太子を支えてしっかりやりなさいよ。ゴルギアスだって万能じゃないんだから、あんたたち兄弟がしっかりしないと、国なんて一瞬でつぶれるわ。」

「わかっております。私も兄も偉大なる我が父、ゴルギアス=メルエム=ベルフォードを手本としてその背をいつか超えて見せましょうとも。それと、そう簡単に国は潰れやしませんよ。いや、潰させません」


まあ、俺たちからしたら、人族の一生なんてすぐに終わるだけに国が一瞬で潰れるって表現になるんだな。

ふーん、王子に我が父ベルフォードねー。うんうん、知ってたよ、もちろん。見たもん。しっかり称号にあったよ、〔王位継承権第二位〕って。

ワンちゃん公爵とか、直系じゃない可能性もあるなー、くらいに思っていたけど、そんな変化球じゃなかったみたいね。


「あれ、驚かないね。アルカナくんには一応ぼかして自己紹介したんだけど。」

「アルは、そういうの分かるから、すでに知っていたんでしょ。」

「ああ」

「ふーん、知ってた(・・・・)んだぁ。それじゃ改めて、ベルフォード王国法務局長で第二王子のユーゴー=レイク=ベルフォードだ。以後よろしく。」


第二王子様ですか。お偉い方が来てくれるだろうと思ってたし、実際そうなったことには驚いたよね。

王都にこれから行くわけだし、伝手があるに越したことはない。

そんなことを言っていたら、もう一人の伝手があちらのほうからやってきた。


「おーい、アルカナさーん、ご無事ですかー?」

「オジアルが来たようだな。」


やってきたのは王都でも大きな商会の先代でもあるニピッドの商人、オジアル・マロがユーゴーの部下を伴ってやってきた。

ずっと牢屋につながれていたはずのマロ氏が、しっかりと自分の足ですたすたと歩いているのが不思議なのか、ユーゴーの部下は支えるべきか否かで戸惑っている。


「無事救出されたみたいでよかったよ。お互い散々な出来事だったな。まあ、これでこの町もすこしは昔みたいないい町になるかもな。」

「ええ、それもこれも皆さまのおかげでございます。子爵家の皆さまは本当に残念ではございますが、こうなってはしょうがありません。子爵様はどうなるのでしょうか。」

「うむ、現子爵は病に伏せていたことがわかっているので、今回の件とは無関係だとわかっている。王都で療養してもらって、回復しだい領主として働いてもらう。次代はまあ、おいおいの話だな。」


そういや、子爵が病気になって長男が代理になってから、おかしなことになったって言ってたな。

まあ、これでオジアルが匿っていた亜人も自由に過ごすことができるわけだな。


「アルカナくん、改めて礼を言わせてもらうよ、オジアルは私が子供のころは、王宮の御用商人として良く世話になっていたんだ。ありがとう。それじゃ、私は王都に戻るよ。」

「ユーゴー第二王子殿下、今回は王都よりご足労いただきまして感謝申し上げます。つきましては、我がマロ商会で馬車をご用意いたしましょうか?」

「いや、それには及ばない。足は用意してあるんだ。〔召喚サモン〕ペガサス。」


王子が手をかざすとそこに魔法陣が出来上がり光りだすと、そこから翼の生えた馬が複数現れた。

おお、ファンタジーの定番、ペガサスじゃん。本当に翼があるわ。5頭いるが法務官全員分か。


「ヒヒィーン」

「これからよろしく頼むよ、アルフレド。じゃあ、これでも忙しくてね、ここで失礼させてもらうよ。レイア嬢、オジアル、またな。アルカナくん、王都まで来たら、歓迎するよ。何かあったら訪ねてくれ。これでアポなしでも対応できるようにしておくから。」


ペガサスに飛び乗ったユーゴーが指で何かを弾いてよこす。何かコインのようだ。

人の横顔と目が彫られたコインだが、十中八九、ユーゴーを示したコインなんだろう。ありがたくもらっておく。〔骨壺〕に入れて大事に保管する。


「ありがとう。王都で何かあったら頼らせてもらうよ。」

「ああ、何もなくても来ていいよ、なんてね、それじゃ!ハッ!」


ユーゴーは空に一気に駆け上がるようにして飛び上がる。その様はさながら空を駆けているようで、こういうのを白馬の王子様とでもいうのかね。

他の法務官が乗るペガサスには今回拘束されたうちの主要人物が括り付けられて連れていかれた。それ以外はこの町の兵士が牢馬車で護送するみたいだ。


「最後まで気障ね。まあいいわ。私たちは王都まで行くのにもまだ余裕があるから一泊してから行きましょう。」

「それでしたら、うちの商会が営業しております宿屋を提供させていただきます。私がつかまっていた間、営業を停止しておりましたが、すぐに再開させましたので、どうぞ。」


マロ氏の提案はありがたい事この上ない。いくら町長がつかまって更迭されたからといって、町の気風がすぐに昔のようになるわけではない。すでに獣人の姿ではないが、一度嫌な思いをしたところに何食わぬ顔をして宿泊するというのはどうにもできないだろう。


「ありがたく一泊させてもらうよ。」

「そうね。明日の朝一で王都に向けて出発しましょう。」


それではこちらです。とマロ氏の宿に行く。


久しぶりに営業したというマロ商会の宿屋は、一言で言うと、実に最高でした。




「はぁあ。これで一件落着かね。」


その日は明日に備えて早めの就寝にした。







ニピッドの町を出ましょう


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