第49話 「ハンッ、馬鹿げているな。」
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俺が冒険者ギルドで突然やってもいない、いや、殺ったがやってない罪で拘束されてから一日が経った。らしい。らしい、というのは、俺自身は地下牢なので時間を知るにはマロ氏の【加護】頼みするしかないからだ。日の光が一切入ってこない地下で時間を告げる鐘の音もないのでは、どのみち時間はわからなくなっていただろうからありがたいことである。
「さて、俺が拘束されて一日が経ったということですが、そろそろお貴族様も起きて活動をし始めるころですかね。貴族の生活って言うのがわからないんですよねぇ。」
「そうですね。私が王都で商会長をしている時は、地位が高い貴族の方は基本的に早くから動きだしています。あ、地位が高いというのは爵位だけのことではなくて、大きな商会を運営されてるとか、政治的な地位、例えば将軍とか大臣のことですよ。そのような商売で成功されている貴族様や政治的要職に就いていらっしゃる貴族様は基本的に時間を無駄にしない方が多いです。」
なるほど時は金なりってことかね。
って、話の流れ的にトゥーピッド子爵家は違うって言いたいのかな。マロ氏は先代とは仲が良かったようだけど、今の子爵家のこともある程度把握しているんだろうか。
「お察しいただけましたように現在の子爵家の方々は基本的に約束の時間は守らないし、守ってもそれに感謝しろとでも言うような態度を取りますので、別派閥の貴族からは関わりをもたないようにされてますね。これに関しては帝国派全体がそうなのですがね。」
はあ、とため息をつきつつもどこか怒りのようなものを感じさせるマロ氏。そりゃ仲のよかった友人の家族が友人が築き上げたものをぶっ壊してるんだから、怒りたくもなるのが友情か。
ん?おっと。
〔気配察知〕に引っかかったので、俺は急いでロープでぐるぐる巻きになる。調べられたらばれるけど、あがいて悪いこともないだろう。
「誰かが来ます。たぶん俺の尋問だと思うんで、ばれないようにしてください。」
「わかりました。お気をつけて。」
俺がわざわざばれないようにと言ったのは、マロ氏の足のことである。足環で傷ついていた足首に〔骨壺〕より取り出したポーションをかけて治療したのだ。初めは治療を拒否されていたのだが、見ているだけで痛々しく俺の精神衛生上必要なことであると言い包めて、どうにか使ってもらった。
コツコツと音がして数人がやってくる。気配の大きさや魔力量からみて、トゥーピッドの次男と護衛二人ってところだろう。雑魚 + Bランク × 2 って感じだが、もしやゲオルギア以上の実力者は今はいないのだろうか。
あの時は、移動している最中であったから少ないだけかと思ったが、そうではなかったのかもしれないな。
なんだか、余裕で制圧できそうだ。っていかんいかん。そんなことしたら、最悪お尋ね者になってしまう。腐っても貴族だからな。
寝たふりをして三人がやってくるのを待っていると、やがて、ガンガンと牢屋がたたかれ、形として叩きこされた。やってきたのはやはりトゥーピッドの次男、ひょろ貴族だ。ニコラスだっけ?
「起きろ平民が!なんだ、昨日の食事係が縄が解けていたと報告してきおったが、見間違いであったか。あれはここにいる者の魔力でなければ解けないとズカーホさまより教わっているのだ。おい、あの食事係はクビだ。戻ったら処理しておけ。」
かわいそうに、本当のこといったのに、クビにされてしまうとは。同情はせんがな。
「さて、マロ様、いや、オジアル・マロ。久しぶりだな。そろそろ牢屋の生活にも慣れてきたであろうか。それとも、もう嫌になったのではないか?今なら、貴様が匿っている亜人どもの隠れ家を吐けば出してやろうではないか。私も兄上に急かされているのであまり時間はないのだ。いい加減吐かないか、老骨に牢屋の冷たさは応えるであろう?」
なるほど、こんな状態でもマロ氏を最低限殺さずにいるのは、領内のどこかにいる亜人族を見つけ出すつもりだからか。ムリニールの伝手を使えば、帝国に奴隷を売ることもできる、とか考えてんだろうな。
「お久しぶりにございます。しかし、こちらの別荘もなかなかの住み心地。住めば都とはよく言ったものでございますな。いずれ坊ちゃん方も住むことになるでしょうから、今のうちから住み心地を確認しておくことをお勧めしましょうぞ。さてさて、こんな老いぼれの皮肉を聞きに来たのではないでしょう。私のことなど気にせず本題に入っていただけると時間のない爺にはありがたいことなんですがねぇ。あ、欲を言えば家内の無事が知りたいところですが、まあ、知ったところで私にできることもありはしませんがね。」
マロ氏、貴族を煽る煽る。マロ氏は言外にその怒りを潜ませるが、もはや直接的に貶しているのと同様である。
いずれ住むことになるって、つまりは「いつか捕まるから覚悟しとけ」ってことですね、わかります。二人の会話からしても、昔からの知り合いだとはわかるが、知り合いな分だけ余計に怒りもあるのだろうな。
「貴様!我がトゥーピッド家を馬鹿にしているのか!!亡きお爺様に目をかけてもらっていた恩を忘れおったか!ふんっさすがは平民よ。恩など仇とするか!」
「いいえ、私が先代様にいただいた恩は精一杯お返ししました。亜人の方々を保護いたしましたのもその一環です。トゥーピッド家は先代様の目指すところとは別れてしまった。もはや恩などないに等しい。」
声を荒げて反論するマロ氏。どうにもヒートアップしてしまっているが、冷静に聞いていると、ずいぶんめちゃくちゃだと思う。
普通、拘束している人間に恩がどうとか仇がどうとか、なんて言うかね。恩があったとしても拘束された時点で、むしろマイナス、恨み100%って感じだと思うんだけど。
そんなことを考えていると言い合いは無意味だと察したマロ氏がひょろ貴族の言葉を無視しだしたことで終了した。言いたいことを全部言った様子のマロ氏は随分と晴れやかな顔をしているが、言われた側で自分が言いたかったことは言えないまま終わってしまったニコラスは怒り心頭のようだ。落ち着く様子もなく喚いている。
喚き続けるニコラスにしびれを切らしたのか護衛、二人いるので護衛Aとでもいうべき者がニコラスを諫め、護衛Bが耳打ちすると、最初の冷静な調子を取り戻す。
護衛の言葉で落ち着きを取り戻すくらいなら、そもそも取り乱すなよ、とも思うが、まあ、貴族なんて甘やかされて生きてきたわけだろうから、癇癪起こすのもしょうがないのかもしれない。
「おお、そうであったな。本来、私はこんな老いぼれと下らん口論をするために来たのではなかったな。おい、そこの黒髪の平民。貴様を尋問する準備ができた速やかに連行し、
知っていることをはいてもらうぞ。」
護衛の一人に出ろ、と言われたが、再びロープをグルグル巻きにしている俺は一人で歩くことはおろか、立つことはできない。そこでごそごそもぞもぞと動いていると、俺の状態に思い至ったのか、護衛に手伝わせてどうにかこうにか立ち上がる。
「本来は私の護衛ではないこやつら尋問官に下手な仕事を回すのはよくないが、ズカーホさまに許可はいただいておるのでな。こやつらが知る、すべての尋問を試させてもらうぞ。」
なるほど、そういうことの専門家か。見た瞬間にレベルのわりにスキルが戦闘に向いていないな、とは思ったわけだが、最初からそんなのを連れて歩いてるとは思わないわな。
こいつらの主張通り、俺がゲオルギアを故意的に正当な理由なく殺したというのであれば、賞罰の珠だかを使って殺人した証拠が出るはずだから、もはや、俺を無理やりにでも自供させる気満々ってことが見え見えになってきた。
「今更後悔してももう遅い、貴様の、いや、貴様とブラッドレイ嬢の運命は決まったが同然であるのだからな。」
「――――――あーうん、ブラッドレイ嬢ね。あ、なるほど、レイアね。いや、無理だと思うよ。むしろ未来が決まったのはお前らのほうかもな。」
やべ、一瞬ブラッドレイってどなたかわからなかったわ。そんなファミリーネームだったわ。てか、俺はオーリィンに名付けられたわけだが、ファーストネームだけなんだけど。ガリア様ってファミリーネームまでくれるの?それとも別でもらったん?
なんにしてもうらやましい。
「貴様は尋問に耐えることはできんだろう。せいぜい楽しかった記憶でも思い出しているのだな!よし、貴様らこいつを牢から出して尋問室手前、魔道具保管庫に移動させろ。」
「「はっ!」」
ニコラスが指示するとそれに習って尋問官が俺を担ぎだし、移動を開始する。どうでもいいけど二人して小脇に抱えるのはよしてもらえませんかね。
普通担ぐって言ったら肩とかじゃないのかね。二人してセカンドバックみたいに抱えるように運ぶってなんか滑稽。
俺がいた地下牢の近くにあった厳重な扉をくぐった先は廊下だった。廊下にはいくつかの扉があり、その中でも一番奥へと運ばれる。扉の前につくとニコラスが何やらドアノブを握り魔力を流し始めた。どうやらこの扉自体が魔道具で開け閉めする者の制限をする魔道具のようだ。
中にはいると部屋の真ん中にある立てかけられた棺に入れられる。立ててあるわけだから俺も立っている形になる。しかし、どうも浮いているようで。地に足が付いていない。
それと、この棺に入った時から魔力が吸われ始めた感覚がある。どうやらこれも魔道具のようだ。魔道具保管庫とは言ったが、ルグラにいた数か月の間では見たこともない魔道具がたくさんあるようだ。
尋問される予定ではあるが、自白させるような魔道具があるのだろうか。自白したところで主張は正当防衛でしかないだろうが。
「さて、平民よ、名はなんといったか。「アルカナです。」おお、そうであったな。平民よ、貴様には殺人の容疑がかかっておる。ムリニール伯爵家御嫡男ズカーホ・ムリニール様の親衛隊長ゲオルギアの殺人容疑だ。ゲオルギアは、魔族と聞いておるが、人でないにも関わらずズカーホ様の覚えめでたく昇進し親衛隊長までなった男である。元はどこぞの貴族家の五男だか六男だそうだが、そんなことはどうでもいい。大事なのはムリニール家、縁の人物に手を出したということである。貴様が殺したのは明白であるとズカーホ様はおっしゃられている。」
名前今聞いたよな?なぜ平民呼びのまま進めんだよ。俺の容疑はいいとして、ゲオルギアもこんなのに見下されるとは思いもしなかっただろうな。しかし、人族至上主義のムリニール家が魔族を重用するのも変な話だよな。まあ、それだけの強さがゲオルギアにはあったということか。
あいつが貴族出身なら身元もはっきりしているし、強いなら護衛にもぴったりだ。いざとなったら切り捨てられる都合のいい存在だったのかもな。そう思うと同情するぜ。殺した本人が言うのも何?って感じだけど。
俺がゲオルギアを不憫に思っている間もニコラスの話は続く。
「しかし私は下せんのだよ。ゲオルギアは私が以前も偶然見かけた強さから見て、高々、Sランクに負ける程度の者ではなかったと記憶している。さすが戦いしか能のない亜人である、とな。となるとである、そのズカーホ様がおっしゃられていることに認識違いがあったのではないかと考えられるのだ。―――――貴様が本当にやったのか?」
こいつの話を聞いているとどんどんと気分が悪くなる。いちいち亜人の悪口を言わねばしゃべることもできないのか。特定の人物の悪口ではないにしても悪口は悪口、聞いているだけでいやな気持ちになる。
俺も場合によっては亜人に分類されるかもだし。まあ実際は人じゃないけどな。
「さて、そこで私は考えた、貴様でないならゲオルギアを殺したのは誰なのか、と。そう、そこにはいるじゃないか、ゲオルギアを殺すことが可能な人物が。ここまで言って分からないわけではあるまい?そう、レイア=ブラッドレイ嬢である。」
突飛な発想だな。俺が殺せないからって、レイアが殺したと考えるわけだ。そもそも俺はゲオルギアを殺してないとは言っていないし、殺せないとも言っていない。
俺が黙秘している間にどんどんと推理は進んでいき、レイアを捕まえるという話をしてきた。しかも俺に協力しろとも。
「ハンッ、馬鹿げているな。あり得ない話だ。レイアはゲオルギアとは面識はあれど、戦っていない。レイアにはゲオルギアの主人、お前が大好きなズカーホがご執心だ。そんな女に刃を向けるわけもないだろう。そんなこともわからねえから、いいように利用されるんだよ!」
そう。ここまでのニコラスの迷推理を聞いていた上でわかったのは俺を出汁にしてレイアを捕まえようって考えを持っているということだ。
Sランクの俺ならもしかしたら冒険者ギルドも黙ってるかもしれないが、SSランク、実際はSSSランクのレイアとなれば話は別だ。正直こいつらが全力で眠っている猛獣の尻尾でファイブフィンガーフィレのようなことをしているようなもんだ。危ない橋というよりもはや壊れた橋が見えていない。
きっとわかってないんだろうな、こいつも、黒幕さんも。
ろくでもないことだとわかったので、とっとと終わらすために俺がゲオルギアを殺したことの顛末を教えてやる。
「――――と、まあ、こんな感じであいつとの戦闘の顛末だ。あのな?驚いてるところ悪いが、俺が今までゲオルギアを殺していないと一度でも発言したか?思い出してみろ、言ってないだろ?まあ、事実殺してるんだから、否定のしようがないな。まあ、正当防衛は主張させてもらうが、殺したことは事実だと理解してくれ。」
俺がいきなり殺した話を始めたことに驚いている。大方、俺にレイアがゲオルギアを殺したと証言させて逮捕まで強引に持っていくつもりだったんだろうが、無理に決まってんだろ。
貴族ってのはこんな考えなしばかりか?
まったく、嫌になるぜ。
「なんだと…?私はズカーホ様に利用されているというのか。貴様が嘘をついているという可能性だってあるだろう!」
「いやいや、私が殺しました。なんて嘘ついて何になるんだよ。実際に俺は襲われたから反撃しただけなの。そもそも、俺の拘束だって不当なのに、レイアもなんて無理に決まってるでしょ。」
「黙れ黙れ黙れ!おい、賞罰の珠を持ってこい。あれで、こいつに殺人が付いていたらそのまま死刑、ついていなければ、あの女を逮捕に急行しろ。こいつを拷問すれば証言の一つくらい取れるだろう。」
「「はっ!」」
そういって護衛Aが部屋をあさる。その間に俺は別の部屋、まあ明らかに拷問部屋に入れられる。そして足を縛ったまま吊るされ、サンドバックのような形で揺れている。
少しすると、賞罰の珠と思われる野球ボールくらいの珠をもって護衛Aが現れた。
「こちらにございます。」
「よし、それを使って調べよ。もし出なかったら、拷問して証言を引き出せい!」
「「はっ!」」
これで拷問確定なわけだけど、特に怖くはない。
護衛Aが珠を俺に押し当てると何やら文字が浮かびだす。そこには俺の賞罰欄が表示されているようだ。
しかし、それは理想の賞罰欄ではなかったようで、ニコラスが顔を真っ赤にして怒っている。だから言ったじゃん、正当防衛だって。
てかどっちなのよ、俺を犯罪者にしたいのか、レイアを犯罪者にしたいのか。はっきりしないなあ。
「こいつから証言を引きだすまで、拷問し続けろ。一瞬でも休ませるな。もう嫌だといっても続けるんだ。やめるのは、レイア=ブラッドレイがやったという証言が得られた時だけだ!わかったな!!」
「「はっ!」」
そういって、ニコラスは部屋を出ていく。まあ無理だと思うけど頑張ってくれ。
あと、どうでもいいけどさ、護衛B、「はっ!」しかしゃべってないよね。
一方そのころ
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