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第48話 「ま、改めてよろしくお願いします。」

お読みいただきありがとうございます。


「あっと、私としたことが、まだアルカナさんはまだグルグル巻きでしたな。すこしこちらにお近づきください。ほどけるかやってみましょう。どれ。」


芋虫的な動きでマロ氏に近づくと、おそらく結び目だろう位置を見せるように横になる。仰向けに寝るとちょうど結び目が背中に刺さるので話を聞いている最中も、どうにも気になってしょうがなかったんだよな。


「これは何とも厳重な拘束ですね。そういえばあなたを拘束したのはムリニール家の私兵でしたね。あそこは国に隠れて奴隷で儲けているという噂もいまだにありますし、やはりと納得してしまいますね。今の若い方には馴染みは無いでしょうが、この拘束の仕方は、奴隷を捕まえて逃げることができないように拘束する時の方法ですね。」


直接結び目を見ることができないので、どんなもんかわからないが、確かにこれはすんなりと抜け出すことはできないようにされている。

しかし、やはり、というべきか、当然、というべきか奴隷を扱った商売をしていると見て間違いないだろ、あいつ。


「これでは素手で拘束を解くのは難しいですね。この結び方は魔力的な個人識別がされているので、拘束した際に結んだ本人とその人物が許可した者しか解除ができないようにしています。しかし、見たところ、縄自体は普通の物の様ですので、縄さえ切ってしまえば何とかなりそうです。」

「そうですか。しかし、ここは牢屋の中ですし、どうしたものか...あっ!ナイフありましたよ、そういえば。〔換装〕採取ナイフ」


スキルを発動すると、採取用のナイフが手元に現れ、手でつかめずに床へと落ちる。

カラーンという音が地下牢中に響き渡るが、看守やら見張りやらがいるわけではないので、何の問題もない。

ただ、何もないところからナイフが出てきたことにマロ氏は目をまん丸くして驚いている。


「これは驚きましたな。〔アイテムボックス〕持ちでしたか。道理でつかまった際に装備などが着けておられなかったわけですか。Sランクと聞いて装備がないというのも変な話だと思っていたのですよ。これで納得いたしました。」

「ええ、まあ、このことはどうかご内密に。一応これも俺の飯の種ですので、あまり広められると困るんですよ。」


そんな感じで一応言っておいたが、そんな心配ははなからしていない。これから協力するやつを騙してどうなるって言うのもあるけど、王都で商売やってきたんだったら信用第一でやってきたはずだからだ。信用ならない商会が儲かるはずもないだろう。

〔アイテムボックス〕ってのは珍しいだけではないスキルのようなので、マロ氏もその情報の機密性も理解してくれるだろうしな。


「とりあえずそのナイフでどうにか縄を切れませんかね。収納はできないみたいですので。」

「ええ、お任せください。内密の件も承知しました。私も商人の端くれ、情報の重要度くらい理解しておりますからな。さて、では、ナイフを拝借しましてっと。」


マロ氏が床に落ちたナイフを拾い上げて持ち直し、縄にあてる。ズリズリと擦り縄を切断していく。何重にもグルグルにされた縄は、一本ではなかったようで、最終的には全部で4本の縄だったことがわかった。


「これで良しと。アルカナさん、取れましたよ。それにしてもすごい切れ味のナイフですね。ほとんど力を入れずに頑丈な縄が切れてしまいました。鋼の様ですが、よほどの名工が手掛けたのだとわかります。牢生活が長く筋力が落ちたこの手でも切れてしまうのですからね。差し支えなければどなたの物かお聞きしても?」

「ありがとうございます。マロ氏はナイフの良し悪しまでわかるのですか、さすがですね。このナイフはルグラで鍛冶師をしているドヴァルに作ってもらったんですよ。素材持ち込みでよく切れるナイフをって。」

「なんと!?ドヴァル師といったら国一番の声が聞こえるほどの名工ではないですか。もはやこの採取用のナイフでも、普通の長剣以上の価値がありますぞ。彼の名工が作りだしたというドヴァル合金、いつかは見てみたいと思ったこともありましたな。」


国一番とは聞いていたけど本当にすごいんだな。ダンジョンの外に出てからは、本当に人との出会いに恵まれていることに感謝をしなければならない。まあ、一部を除いてだけど。

このナイフも素材こそ俺の持ち出しの大したことのない魔物だが、ドヴァルの手によって一級品の仕上がりであるわけだ。感謝しかない。


あ、そうだ。結局、飯を食い損ねたし、腹ごしらえしておこうかな。牢の生活が長いとか言っているし、マロ氏もろくに食べていないはずだ。


「よろしかったら、食事にしますか?幸い自由にできる環境です。他に虜囚もいませんし、提供しますよ。」

「おお、それはいいですな。明日以降は力をつけて頑張らねばいけませんのでな。しかし、それは、あと30分ほど待ってくだされ。そろそろ見回りの私兵が来る頃ですので。」


なるほど、そういうことなら、従うしかない。急いで食べるのもよくはないからな。しかし、なんで正確に時間がわかるのだろう。この町は鐘も鳴らないのに。


「なんで時間がわかるのかって顔ですな?それは簡単な話です。私は〔商業神の商才〕という【加護】を賜っておりまして、効果はいろいろとありますが、時間がわかる効果もあるのですよ。」


へえ、いろいろあるんだなぁ。




そんな感じで待つこと30分。カツカツと音がして、地上への階段から朝いなかった私兵がやってくる。その手には二つの皿があり、おそらくそれが俺達の食事ということなのだろう。

ただ、私兵は俺たちの前に腰を下ろして座るとおもむろに皿の中身を食べ始めた。

俺たちの飯であることが間違いないそれを、あろうことか俺たちの前で食いやがった。


一瞬ぶちぎれそうになったが、マロ氏に止められたので何とか思いとどまり、自分たちはもっとうまいもんをこの後食えるんだと、考えてどうにか耐えきった。


「あーあ。こんなところにいて飯も食えねえ、女もいねえ、ろくに眠れやしねえと、ねえねえ尽くしで、俺だったら発狂もんだが、よく耐えてるよなじいさん。新入りも下手に耐えるよりも、とっとと町長様に頭下げちまったほうがいいぞ?こいつは親切な警告だ。せいぜい考えてくれ。」


俺たちはいかにも飢えてますといったような視線を皿に向けていたが、そんなのおかまいなしに食べきった私兵は、あんなことを言い捨てて上へと上がっていった。もとより返答は期待していなかったようだが、それなら話しかけるなよと思う。


やつが帰って来ないのを〔気配察知〕と〔魔力察知〕を使って確認してホッと一息つく。


「さて、我々も飯にしましょうか。俺は今日つかまって早々なのでいつも通りですが、マロ氏はつかまってからろくに食べさせてもらっていないようですし、おかゆにしましょうか。コンロの魔道具なんかもありますので、簡単に作りますね。」

「ありがたいことです。それにしても、便利ですな。」

「ええそうですね。これがなければ別の町にいこうなんて思いませんでしたよ。マジックバックがあればまた違うんですがね。料理しますか。」


最後にマロ氏に向き合い手を差し出す。


「ま、改めてよろしくお願いします。」


そんな話をしながら、飯の準備をして明日に備える。







*****


一方そのころアルカナが連れていかれてしまった冒険者ギルドでは、レイアと受付嬢が今後の対応について話し合っていた。


「ちょっとギルドとしてはSランク冒険者を守る必要があると思うんだけど、そこのところどう考えているの?返答次第では私が直接、王都の冒険者ギルドのベルフォード王国本部にかけあうわ。そもそも私が彼に罪がないことの証明ができるし、拘束されたこと自体あり得ないのよ。」

「それは承知しています。」

「でしょうね、ギルド職員なら冒険者の賞罰をギルドカードで確認できるのは知っているわ。そもそも賞罰がついた時点でギルドの入り口で警報が鳴るはずだし。」


アルカナが捕まったのはどれだけ絶望的に考えてもあり得ないことだった。Sランク以上の冒険者というのは、国に何万人といる冒険者の中でも100人いれば多いというほど数が少ない。それだけ貴重なSランク冒険者はギルドによってよく管理されており、そもそもそれだけの実力者が犯罪を起こすくらいならギルドになど所属はしないだろう。


「とにかくアルが犯罪を起こした事実はないのだから即時解放を訴えるわ。」

「わかっています。記録を見る限りで分かる、アルカナさんのように真面目に依頼をこなしてくれるSランク冒険者はギルドにとっても貴重なので協力は惜しみません。現在会議の関係でギルドマスターは王都に出張に行ってしまっているのですが、不幸中の幸いか連絡手段はありますので、それで王都の本部にかけあってもらいます。」


ギルドマスターは定期的に王都の本部で会議が行われ、その間の実務や決済の権限は副ギルドマスターに委任される。

この受付嬢、受付時業務がすきで受付にいるが、実は副ギルドマスターに任じられているやり手であるみたいだ。


「こういってはなんですが、この拘束には貴族、言ってしまえばムリニール家の思惑があると思います。トゥーピッド子爵家も関わっているのでしょうが、どちらももはや国の政策を脅かす様なことをしている可能性が高いことがわかっています。これまでギルドとしては国に所属する貴族に手を出すのは国とギルドで線引きする上で避けてきましたが、こちらの身内が被害にあっているというのであれば話が変わります。ここらで、国に貸しを作りつつ膿を排除することを本部に提案いたします。」


それから、と続ける受付嬢にレイアも頼もしげに耳を傾ける。


「おそらくですが、この件に関して裁量を持った法務官の派遣がされると思います。法務官が到着してしまえばアルカナさんの無実は確実になり拘束も解けると思います。それまでに自白してしまうとまずいですが、大丈夫ですよね?」

「大丈夫でしょうね。アルならかなりの長期間拘束されても健康な状態で過ごすことが可能だと思うわ。」


「それでは、私は王都本部に連絡するための準備が必要になりましたので、ここで失礼します。どうか、どうか、先走って町長の館へ襲撃するなどの直接的な行動はお控えください。アルカナ様の立場が悪くなるだけですので。」

「わかってるわよ。アルがそう簡単にやられることがないのはわかっているの。―――わかってるのよ。」


受付嬢はそそくさとギルドの奥に入っていく。レイアもここにいてもしょうがないので、一端情報を集めるついでに腹ごしらえしようと、外に向かう。

するとギルドの入り口付近で一人の大男とすれ違いざまに肩がぶつかる。その大男は修行僧のような格好をした筋骨隆々の美丈夫だった。


「おお、すまぬな、おなごよ。吾輩はこう見えて視界が高いのでなどうにも周りが良く見えておらんようだ。お主も何か焦っているようだが、そういうときこそ落ち着くのが良いぞ。ではな、おなごよ。」


そういって修行僧はギルドの中へと入っていく。ちょっとだけ気になったので、聞き耳を立てると、どうやら人を探しているらしい。その人物というのが”骸骨のような細い男”と聞いて、「本当の骸骨なら知っているけどね。」と誰にも聞こえないような小さな声でつぶやき、クスッと笑う。

修行僧が言うように落ち着くことができたのは良かったのかもしれない。


そんな小さく笑ったレイアを、修行僧が見ていたのに気づいたものは一人もいなかった。





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