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第47話 「俺まだグルグル巻き」

お読みいただきありがとうございます。


「やあ、あんた、どちらさん?俺はアルカナ、こんなでもSランク冒険者だ。よろしくな。」


牢屋の中は真っ暗だが、俺には関係ないな。何だったらダンジョンのが暗いし、それにスケルトンには〔暗視〕が標準装備くらいに考えておいて問題ない。


さてと、思わぬ形で現れた同室の腹ぺこさんだが、どうやら普通の人族の男っぽい。魔力量はほぼなし、身体能力に優れるわけではなく、持ってるスキルも店の店員が持っているようなものばかり。ふたつだけ特別があるとすれば〔統率〕というダンジョンのゴブリンキングが持っていたスキルと〔商業神の商才〕という【加護】を持っているということだろうか。


また身なりはボロボロだが、どうにもいい素材で作られた服や靴のようだ。今は神もぼさぼさ髭も伸び放題でボーボー、顔色も悪く頬もこけてしまっている。

この牢につながれてから長いのだろう。俺のように全身をグルグル巻きにされているわけではなく、足を壁から伸びる鎖に拘束されている。その足は鎖の先の足環が擦れて皮膚がズタズタになっている。


「よろしくお願いします。私はこのニピッドの町で商会を営んでおりました、オジアル・マロと申します。このように鎖につながれたままで申し訳ございませんがご容赦ください。」


「あ、ご丁寧にどうも。こちらこそ、グルグルと拘束された状態で申し訳ないです。」


場違いなほど丁寧にあいさつされて面食らってしまった俺は、どうにかしてこの縄を解けないか聞いてみる。

ボロボロな人にお願いするのは気が引けるが、少なくとも拘束されているのは不便でしょうがない。

それに、この縄をほどいてさえくれれば彼に対して報酬を渡すこともできるので、一石二鳥だろう。


「どうにかこれは解けませんかね?手がしっかり拘束されていて一切動けないんですよ。どうでしょう、これからは同室となるわけですし一つ協力しませんか?」


俺がした提案は彼にとっても有意義なことだったはずだが、マロ氏の表情は芳しくない。その理由は俺には推し量れなかったが、何だろう。


そして、いざ、と決心を固めたような表情で、よし、とつぶやいたマロ氏は、その鎖につながれた足を持ち上げながら話しだす。


「私は、今こんなものをつけられておりますので、脱出のお手伝いはできそうにもないんですよ。また、これでも家族がいましてね、余計なことはするわけにも行きませんのです。ははは、面目ない次第です。」


「そうですか。もし差し支えなければ、なぜ投獄されてしまったのかお聞きしても?無理ならこれ以上は聞きませんので。」


こんなに丁寧なしゃべり方や痩せていても裕福だとわかるくらいには良い生地を使った服からもわかるようにそれなりに大きい商会の人であるマロ氏がこんなところにいるのは、何か理由があるはずだ。

とても小さい理由でこんなところにいるような立場の人ではないだろう。この疲労具合から見ても、鎖に繫がれてから短く無い時間が経っていることは理解できる。よほど大きなことをしようとしたとかだろうか。例えば反乱、違法薬物、殺人?いや、あの町長だから、従わなかったから難癖つけて捕縛、みたいなことくらいしてそうなもんだな。


さて、答えてくれるだろうか。


「対して面白く無い話ですが、特にやることもない牢屋生活においての暇つぶしの一つとして楽しめるのなら喜んでお話いたしましょう。あれは、さかのぼること一か月ほど前―――」



***



私は、この支店ながらニピッドで最も大きな商会を経営しておりました。もともとは王都で商店を経営しておりましたが、すでに年も40を超え体力の限界を迎えたことで、大口の取引を求めて国中を動き回ることが難しくなり、商会の会長職を辞して息子に譲り、妻の故郷であるこのニピッド支店で店長をしておりました。

ニピッドでの生活は順調な毎日でした。今になって思えば、仕事ではあまり代わり映えのない毎日でしたが、それが気持ちがいいと思えるくらいには精神的にも疲労していたのだと思えます。

なんだかんだと私も妻もこの町にきてからおよそ10年は気持ちよく過ごすことができました。


というのも私がニピッドの先代領主、トゥーピッド子爵とは古くからの友人であったこともあり、日々の生活で問題もなく過ごしていました。先代がまだ存命で町長を代官に任せていたころは、今とは町の気風も真逆で他種族に寛容な町だったのです。


我がミライナ商会も従業員には優秀な亜人族が多数おりましたから、トゥーピッド子爵領は良い地域でした。


しかし、そんな気風もとある出来事により変化していったのです。本来だった祝福される出来事だったのですが、領民、特に亜人族には歓迎される出来事ではありませんでした。

トゥーピッド子爵家の長男、現在の領主様が、ご結婚されましたのです。婚約が発表されて時間をかけずにご成婚となりましたので、領民たちは皆、最初はそのご婚約を歓迎しておりました。しかし、お相手が発表されるとともに一切の歓迎ムードが霧散しました。

それも仕方ないことでしょう、そのお相手というのが、ムリニール伯爵家のご長女であったのだから。


ムリニール伯爵家というのは、その当時から人族至上主義を掲げる典型的な帝国派の貴族家であるということで有名でした。

そのことは貴族や貴族と付き合いのある商会の人間から平民にまで広まっており、一時期はその広まり具合から、監査などにかけられたという噂までございました。このベルフォード王国が人族を中心にして多種族が集まって建国されたという歴史がるため、単一種族至上主義者は徹底的に排除されてきました。今も伯爵家として存続しているからには、監査は乗り切ったのかそもそもなかったのか、私にはわかりませんが、取り潰しのようなことはありませんでした。


トゥーピッド子爵領に住む者はとても心配していたのですが、実際に嫁いでこられた奥方は、予想に反しまして他種族に対して理解ある素晴らしい方でした。領民との交流や教会での炊きだしなど積極的に活動され領民から慕われるようになり、ご成婚当初ささやかれたムリニール伯爵家によるトゥーピッド領の乗っ取りの噂は立ち消えになりました。


そんな中でトゥーピッド子爵領にとって不幸な出来事が起こりました。

奥方様は領主の妻として男子を二人お産みになられましたが、二人目のお子様、現在のこの町の町長をされております、ニコラス様を出産された際に産後の肥立ちが悪く、儚くなられたのです。


領民は皆が涙を流し、その死に悲しみ暮れました。今からおよそ11年前のことです。それからこの領は持ち直していきましたが、いつからか領主様が病がちになりその代行をご長男がされるようになりました。

ここで問題なのが、領主のご子息の教育係がムリニール伯爵家から派遣されていたことです。

その人物はよく調べなくともわかるほど人族至上主義者でございました。そんな人物が教育係では、ご子息もそうなってしまうのではないかと考えましたが、どうにもそれに気が付いたのが遅く、今ではもうトゥーピッド子爵家のご兄弟は人族至上主義貴族の集まり、俗に言う“帝国派”の急先鋒となってしまわれたのです。


ご兄弟が行われた改革では、トゥーピッド子爵領より亜人族を排除する計画が実行されました。それは国の考えとは逆を行く計画でしたが、普通では無理であろうことを時間をかけることで成し遂げてしまったのです。


人族だろうが他種族だろうが働かなくては、生きていけません。そこを突かれてはこの領では生きて行けず、仕方なく他領に流れていくしか無くなりました。

仕事をなくされた亜人族が国へと抗議されましたが、領の方針は領主に一任されているため国が口出しをすることができず、結局のところ、今も亜人排除の方針は変わっておりません。


今も領主様は病に伏せておられますが、ご長男が代行して、表面上問題なく領の運営はされております。しかし、その実態はムリニール伯爵家の傀儡となってしまっているようです。

今この町の町長はご次男ですが、彼もムリニール伯爵家の長男に従っているようです。


いろいろとこの領の話をさせていただきましたが、ここからが私自身の話です。私は気風の変わったトゥーピッド子爵領でもどうにか前のように戻らないかと奮闘してきました。亜人族の従業員は大事を取って本店に戻し、この領の亜人族の保護を始めました。


その時にはすでに亜人族の流出は始まってから長い時が経過しておりましたので数こそ多くはありませんでしたが、資産などの問題で移動ができずに生活していたような人もおりました。

彼らの保護は概ね完了し、私の経営する農地で働き口を与えました。彼らは今も元気に働いてくれているようです。このように鎖につながれているので、確認はできないのが残念ですが。


そんな活動をしている陰で、この領では亜人族にかかわると領主一族から経済的な制裁を食らうとおびえて関わらないようにしていた領民が、だんだんと他種族排斥主義者に鞍替えしてしまったのです。


私の活動はひっそりと行っていたのですが、どうも領主のご長男に見つかってしまったようで、今、こんな状態になってしまったんですよ。



***



なるほど、領主が病で伏せているというのはどうにもきな臭いが、それよりもこの人はすごいな。商会のことは何も知らないが、引退してからも現場一筋とは、恐れ入る根性だ。

あと話を聞いていて思ったのは、マロ氏の活動がどのようにして領主代行に伝わったか予想が付いてしまう。


どうせ、鞍替えした商会が目の上のたん瘤であろうマロ氏の商会を潰しにきたとでもいうところだろう。支店が最大の商会って言うのは他の商会からしたら、悔しい思いもあるだろう。

まあ、やってることは、あくどいし人道的でないことは確実だが。


「それじゃあ、マロ氏はこのままずっと繫がれたままでいるつもりなのか?話を聞いた限りでは、もはやこれは拉致監禁だと思うが。」


「もちろん最初は国に訴え出て問題解決を考えておりましたが、どうにも妻を人質にとられてしまいましてね。下手なことはできないのです。」


あらら。拉致監禁に略取誘拐、殺人くらいはありそうだな。

それなら少しでも希望を持ってもらえれば、手助けしてもらえるかもしれない。どうもSランクの冒険者という肩書では手助けするにはリスクがあると考えているようだから、ここは申し訳ないけどレイアの名前を借りるかね。すまん、レイア。


一応丁寧な口調でっと。


「マロ氏、俺の仲間には、高位の冒険者がおります。彼女の手を借りればこのことを王都に伝えて国が口出しする口実も作ってくれることでしょう。そもそもこのニピッドの町は王都と鉱山都市をつなげる主要街道であるため、王都側も口実さえあればすぐに動きたいんじゃないんでしょうか。それは俺よりもマロ氏のほうがお詳しいでしょう?」


俺が丁寧な言葉使いになったことからも空気が変わったと思ったのか、マロ氏も真剣に話を聞いてくれる。


「もちろん、王都では、この町のあり方は、国の方針としても間違えているとお考えです。そこまで言うのであれば、言ってしまいますが、国よりこの領、少なくとも町に国が介入できる口実を作る協力要請がありました。それは、断ってしまいましたが、その時はまだニピッドがこのようなことにはなるとは思っておりませんでしたので、選択を誤ったと日ごろから後悔しております。」


さて、とマロ氏は一度区切って探るように続ける。


「今からでも国への協力をするというのは、やぶさかではありませんが、そのつてが大事です。ムリニール伯爵家も力ある貴族ですので、その後ろ盾あるトゥーピッド子爵家をどうにかするには大臣クラスの権力が必要です。それをあなたに用意できますか?」


大臣クラスって言うと伯爵以上の貴族か。ルグラでの冒険者活動期間でも貴族からの指名依頼はぜんぶ子爵以下だったから俺には無理だ。しかし、レイアならどうだろうか。

彼女は王都での冒険者活動歴もあるし、SSSになってからもそこそこ時間がたっている。何とかなるだろう。


「何とかできると思います。私の冒険者としてのパートナーはSSランクの冒険者です。彼女ならどうにかできるかもしれません。SSランクの冒険者の要請は国としても無視できないでしょうから。」

「ほう。SSランクの冒険者ですか。私も以前お目通りしたことがありますが、王都のSSとなれば伯爵程度の権力を持ちます。それは期待できますね。もしよろしければ、そのSSランクの冒険者のお名前と二つ名をお聞きしてもよろしいですかな?」


伯爵ってそんなの初めて知ったわ。ただの実力者では成れないとは聞いていたが、権力が伴うって言うのが理由か。

にしてもあのレイアが伯爵相当か、似合いそう女伯爵。


「レイアといいます。二つ名は『女神』。本人は気に行っていない二つ名の様ですが、ご存知ですか?」


俺が二つ名を言った瞬間、マロ氏は目を見開き、立ち上がる。突然立ち上がったため足環の鎖が大きな音を立てて、驚いた。


「もちろん知っておりますとも!!SSランクとはおっしゃったので候補より外しておりましたが、そういえば彼女は公的にはSSランクでしたな。ギルド側もまだ若いという理由で公表を控えているというのも残念なことです。彼女のような有望な人物を前面に押し出さずにどういうつもりなんでしょうか!」


マロ氏は興奮しているが、そんなにすごいとは思わなかった。しかし、この様子だと知ってるんだな。それなら話は早い。


「そうです。彼女は実際はSSSランク。SSで伯爵相当となるとSSSランクならどうでしょう?大臣クラスの貴族を引っ張りだせるでしょうか。」

「ええ!もちろん大丈夫でしょう!彼女は『竜種すらひれ伏させた女神』というような逸話もあるような人物です。彼女を無視できるのなんてこの世にいるのでしょうか。いや!いるわけもないです。なるほど。それなら何とかなるかもしれません。」


マロ氏はニカっとと笑って手を差し出す。


「それではよろしくお願いします。具体的な話はこれから考えるとして、協力はしましょう。」


手を差し出してから数秒後、まだ手を出しているマロ氏は俺の状況が見えてないのだろうか。


俺まだグルグル巻きなんだけど。





尋問が始めましょう。


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