第42話 「分かるだろう?」
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俺は今、レイアを乗せて走っている。
もちろん〔人化〕は解いた状態、ライオンの姿での話だ。
俺に乗った最初の頃のレイアは、走り始めこそ悲鳴を上げていたが、すぐに慣れたようで、今では俺の鬣につかまって器用に寝ている。もちろん極力揺らしたりしないように最大限努力しているが、それでも、器用だと思う。
鉱山都市ルグラを出発して、徒歩で30分、レイアを乗せて2日ほど走ったところで、〔気配察知〕に反応があり、戦闘している一団を発見する。俺の視力は〔人化〕時よりも強化されており、〔魔力探知〕でより鮮明に状況を掴める。
一団の中にも強いのがいることはわかる。いろいろ気になることは気になるので、立ち止まってレイアを起こす。
「なぁに~、もう着いたの?」
目をこすりながら言っているが、すぐに状況を理解したようで、前方にいる戦闘中の一団に目を向ける。レイアも〔探知〕があるから、すぐにどんなことがあったかわかったようで、俺のほうに声をかける。その声には不機嫌な色が混ざっていた。
何かあるんだろうか。
「なるほどね。なるべく、見つからないように行きましょう。あれは面倒だわ。それにあそこの護衛の中に一人だけ強いやつがいるから大丈夫よ。私たちが何かしなくても問題ないでしょう。」
確かに、強いのがいるのはわかるが、なぜ護衛とわかるのだろうか。この距離からではさすがに、分からない。個人の識別まではできないし、他のスキルだろうか?
また、今の俺は、〔獣化〕(便宜上、獣化という)している状態だ。この状態なら一瞬で片づけることも可能だから、面倒くさがらなくてもいいと思うのだが。
俺が何を考えているかわかったようでレイアはあきれるように言う。
「はあ~、アルは、初めてだもんね。倒すのが面倒ってわけじゃないわよ。一応聞くけど、〔魔力探知〕ってどういうスキルかわかってる?」
ルグラを出てから、レイアは俺のことをアルと呼ぶようになった。仲間として距離が縮まったみたいで嬉しいが、いきなりだったもので、初めて呼ばれたときは驚いたものだ。
もしかして、この世界に生まれて初めて愛称とかあだ名で呼ばれたかも。いいもんだ。
しかし、〔魔力探知〕とはどういうスキル、か。これは読んで字のごとく、周辺の魔力を探知することができるスキルだ。説明文にあったそれ以上でも以下でもないように考えていたが、そうでもないのか?それ以外に何かあるのだろうか?
「その様子じゃ知らないのね。それなら教えてあげるわ。〔魔力探知〕はもちろん魔力を探知することができるわ。でもね、副次効果として魔力を記憶して識別することができるの。人類みたいに個人によって識別できる、特徴がある魔力に限るし、覚えられる数は自身が持っている魔力量にもよるけどね。ここまでいえばわかるでしょ?」
なるほど、スキルってのは、副次効果なんてものを持っていることもあるのか。いろいろと試してみなくちゃわからないな。
おそらくだが、あそこで戦闘中のどちらかはレイアの顔見知りだということだろうか。それも会いたくないほうの。
それだったら、無視する意味も分かる。俺も面倒なことになるくらいなら無視していくことに賛成だ。そこで俺たちは、影龍の外套を使って無視することに決めた。俺が〔人化〕して二人で外套を被り、さらに〔認識阻害〕を発動させ、歩きだす形だ。
俺たちがどうするか相談しているうちに、前で行われていた戦闘は大きな問題もなく終了していたようだ。すでに、全員が馬車に乗り動きだしている。盗賊は全員一太刀で首をはねて殺したようだ。その死体もすでに集められて燃えている。
向こうはこちらの存在に一人以外は気が付いていないようだ。結局襲っていたのはただの盗賊だったようで、護衛している人物の力なら一切の不安要素なく余裕だったろう。
あの集団の中で明らかに一番弱い一人が護衛対象だろうからそれともう一人を除いて、大体がBランク冒険者程度の魔力量、一人は、確実にSランクよりも強いだろう。そんな集団によくて衛兵レベルの盗賊が太刀打ちなどできるわけがない。
あまりにも手際のいい盗賊の処理に感心しながら、走って集団を追い抜こうとしたときにかけられるはずのない声がかけられる。
「おい、貴様ら、何をこそこそと行こうとしている?姿を見せんか!」
俺たちの居場所がわかっているようだ。馬車から顔を出した男のその視線は、確実に俺トレイアをとらえている。〔認識阻害〕はしっかり発動しているはずなんだが、面倒なスキルでもあるんろうな。
ちょろちょろと移動してみたが、視線を外れない。間違いないねこれは。
まさかばれると思っていなかったのかレイアも驚きの表情を見せる。まあ、そうだよな。俺も俺も。しかし、そうやって黙っているわけにもいかない。レイアに確認すると、すぐにしょうがないといった感じにうなずく。
あーあ、なんでばれたんかね。双方ともに用事なんてかけらもないはずなんだけどね。
外套を外し、そいつらと対面する。
「よくわかったな。かなり高い探知能力があるということかね。まあ、いいや。こちらに戦闘の意思はない。このまま行かせてもらえないだろうか?」
だめもとではあるが、そのまま通りすぎることを希望してみる。
「それは許可できないな。どうやってかうまく隠しているようだが、そこのローブを被ってる者はレイア・ブラッドレイであろう?我らの依頼主がその女の存在をご所望なんだ。その女を置いていくのであれば、貴様はどこへともいけ!貴様に用はないわ、獣人風情が!」
レイアにも気が付いたようだがこれはまずい。こいつの言う通りレイアは念のため魔力を変質させて隠れていた。それに気が付くというのは、実力的にも対応可能な手段を持っていることにも警戒しなくてはならないということがわかる。
しかも獣人を見下す性根のようだ。本当に面倒ごとかもな。
気づかれてしまっているのでレイアはローブを外して顔を出す。その顔は心底めんどくさそうな顔をしている。きれいな顔がここまで歪むのかと、心の内で感心してしまった。
レイアが顔を出すと、彼らの言うところの依頼人、護衛対象出てきた。
おいおい、面倒ごとが増えやがった。
「貴様ら!早く進まんか!早く行かねば父上にしかられてしまうだろうが!・・・おや?これはこれはレイア嬢。お久しぶりです。ようやく私のもとへと来てくれる決心が付きましたかな?おい、そこの獣人、貴様は彼女を連れてきたことに免じて奴隷にするのはやめてやろう。わかったら、どこへなりとも立ち去るがいい。」
出てきたのはデブちびはげという容貌にジャラジャラした無駄に豪華な服を着た、いかにもな貴族だった。
初遭遇の貴族がこんなのかよ。面倒くさいなあ。
もはや台風が過ぎるのを待つしかない。なんて思ったすぐ後のこの言葉だ。さすがに仲間を置いていけってのはありえねぇだろ?
レイアは対面してすぐに呼ばれて気分が優れないようで、俺の後ろに隠れて睨んでいる。だいぶ怒っているようだ。しかし、俺よりも当事者が怒っていると、冷静になるな。
それにしても、この貴族の発言、この国の奴隷制はすでにないのに、そんなでかい声で言っていいのか?周りには俺らしかいないからいいのか。それこそ獣人は人とも思っていないのかもしれない。実際俺は骨だけど。
「誰がそんなことするのよ。ばっかじゃないの?あんたみたいな豚のところに行くくらいなら、オークのところに裸でいったほうがましだわ!!一回自分を鏡で見てから出直しなさい。どれだけ無理なことを言っているか分かるわ!」
おいおい、貴族相手にそれはいったらまずいんじゃないか?てかこいつ誰だよ?とにかく偉そうだな。貴族ってことしかわからんがまあいいや。この国で奴隷ってどこかで聞いた気がするけど、どこだっけ?
まあ、いいや。めんどいし、いこう。
「そう言うことだから、俺らはこれで失礼するよ。」
「まて。」
貴族が出てきた時から黙っていた護衛が俺を止める。俺の肩に手を置き、止めるその力はレイアより少し強い。
うーん、別に振り抜けないわけじゃないが、どうするかね。
「ズカーホ様がおっしゃってることが聞こえないのか?貴様のような獣人に慈悲をくださる聖人のようなズカーホ様の言を獣人風情が無視をするなど、無礼千万、死んで後悔しろ。」
「ぬおわっ」
おわっ、問答無用で剣を抜いてきた。変な声が出たわ。危ないな、なんだこいつ心酔系の護衛か、めんどくさいな。まさかこんなところで貴族と、しかも実に腐りきった貴族と遭遇するとは思いもしなかったよ。こんなことなら無視して走り去ればよかった
てか、ズカーホって・・・どっかで聞いたことがあると思ったら、あぁ。クズ貴族か。ゴードン、ギルマス、レイアから聞いてたクソ貴族じゃないか。御法度の奴隷商売しているらしい貴族。はぁ~めんど~。」
「誰を指して、クズなどと宣ったぁ!!貴様、不敬罪で死刑だ!おい、ゲオルギア!貴様を執行官に任命する。レイア嬢はそいつを処刑した後連れて来い!」
「はっ!」
ゲオルギアと呼ばれた護衛は、俺に向かって剣を振る。今も肩を掴まれているから、後ろからの攻撃だが、避けれるから何も問題ない。傷一つつかないだろうから避けなくてもいいけど。
しかし、かなり強いな。SSSランクの冒険者とやっても1分くらいは持つんじゃないだろうか。SSSの基準が根源種のレイアだから、他のSSSの強さは知らないけど。
とにかく、ただの人間だと考えるとかなりすごいが、そうじゃないことはもうわかっている。
俺が余計なことを考えているうちに、ズカーホは馬車に乗って他の護衛と行ってしまった。
こいつだけで俺をやれると思っているようだ。信頼の厚いことで。
道中の安全はほかのBランク級の護衛で十分なんだろう。
「行っちまったけどいいのか?」
「ふんっ!貴様など私一人で十分だ。ズカーホ様は、トゥーピッド領に宿泊される。そこまで行けば合流出来るのだから、貴様を処罰して追えば問題ない。フン!ちっ!なぜ当たらぶへらっ」
あらら、様子見のつもりで出したカウンターの裏拳がきれいに入ってしまった。
「貴様!貴様!貴様!キィィィサァァァマァァァ!!!!」
ぶちぎれていらっしゃる。しかし手は放さない。叫んだあと、なんだか笑っている気がする。気でも狂ったか?いや、怖いんだが。
俺が困惑しているとレイアが叫ぶ。
「アル!まずいわ!やつがスキルを発動させようとしているわ!手を振り払って距離を取って!」
「ふはは、ふはははは、もう遅いわ!!しかし、この力は使いたくなかったんだがな!貴様の力をよこせ!〔強奪〕!!」
スティールって・・・おい!まじか!!強奪系のスキルじゃねえか!ぐ、うおっ、なにかが抜ける。何か押さえつけているものが抜ける。
《個体名アルカナのスキル〔人化〕が〔強奪〕されました》
待てよ!!やばい!よりにもよってそのスキルか!?〔人化〕がなくなると姿が戻る!!
俺の体が光りだし、その光が体の中心に集まって肩へと移動する。移動している光の珠?のようなものは、それは感覚としてはふわふわと浮いて、肩に置かれているゲオルギアの腕を伝ってゲオルギアの体の中心から体外に排出される。必死につかもうとしたが、それは手をすり抜けた。
ゲオルギアは俺が掴めなかったそれを掴むと大口を開けて飲み込んだ。
「ぐ、ぐふ、ぐふふ、ぐはははは!貴様のスキルはいただいたぞ。スキルというのは、所持者の強さを支える重大なピース。戦い方というのは、ピースがパズルのようにきれいに嵌まってようやく真価を発揮する。貴様から一つのスキルを抜いた、これによって貴様は、満足には戦えまい!!」
高らかに叫ぶ。
確かにスキルというのはそれだけ大事なものであるということだ。しかし、思い出してみてほしい。俺はもともと何なのか。今どういう状態なのか。他にどんなスキルがあるのか。
分かるだろう?俺にとってのスキルの重要度というのが。
護衛と戦いましょう
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