第41話 「それじゃ出発しますか。」
お読みいただきありがとうございます。
王都まで行かなければならない期間が間違っていましたので、修正しました。
3週間 → 4週間
ギルドマスターの執務室から出て、ギルドの受付に向かう。これから、当初の予定通りルグラを出発して王都へと向かうつもりだ。
受付につくと、どうやら俺たちとギルドマスターの話が終わるのを待っていたであろうゴードンと受付業務を行っているフィンさんがいたのでこれからもう一度挨拶回りしてから王都に向けて出発することを告げて、本当に最後の挨拶をする。
「それじゃ、ゴードン、フィンさん、いろいろと世話になった。俺たちはそろそろ行くよ。王都までの道のりはフィンさんが教えてくれたルートの中から最短のルートを行ってみようと思う。このルートなら王都まで2週間くらいだし、中継の村や町もあるから、野宿も少なく済むからさ。いくらか心配なところもあるけどさ。」
「アルカナくん、そのルートって一番やめたほうがいいって言ったルートだよね?まあ、そんな気はしてたけど。本当に大丈夫かなぁ。あそこは獣人に優しくない領主だし、できるだけフードを外してはいけないよ。」
フィンさんに教えてもらったルートは、いろいろとあったが、中でも選んだルートは圧倒的に早く王都まで行けるルートである。
その代わり、王都までの道中にある町が、人族以外にとってはあまりよくないのである。その町はトゥーピッド子爵領に属する町で、代官として子爵の次男が赴任している。この子爵家が問題である。
トゥーピッド子爵家は、ある貴族家の親戚に当たる。その貴族というのは、これまでにもチラリと話に出てきたムリニール伯爵である。もちろんムリニール伯爵家が主家で、その気質も受け継いでいる。つまり、人族以外をヒトとは認めていない。平民を見下し、貴族という立場を使ってやりたい放題、そんな連中の集まりだそうだ。こういうところでも遺伝ってすごいなと思う。家族でクズなんて遺伝以外に考えられんでしょ。
この国は完全な中立国であるため、それなりの数の亜人が住んでいる。そんな国の中にあって人族至上主義ともいえるムリニール伯爵家はある種異端ともいえるが、違法ではないため、いまだに存続しているのである。歴代当主はその気質を受け継ぎながらも貴族としての立場を守れるものだったことも理由だったみたいだ。
もちろんそんな危険を冒さずに王都に向かうというのもできるが、早めに行きたい理由もできた。
どうやら王都では今、近々開かれる祭りの準備を行っているらしい。これに参加するには、4週間以内には王都につかなくてはならない。どうやらレイアはこの祭りに絶対に参加しなければいけないらしい。詳しくは聞いていないが、その剣幕にはどうにも逆らえない威圧感といったものがあった。
そんな感じで間に合いそうなルートがこのルートしかなくなったわけだ。
フィンさんはこのルートは最初にやめておいた方がいいと言ってくれていたわけだが、なんだかんだで無事付きそうだと考えている。その根拠もある。
「フィンちゃん?この私がいるのだから、めったなことにはならないわ。あのクソやろうが出てきても、逃げればいいだけだしね。伊達に高位の冒険者やってるわけじゃないわ。それなりに振れる権力があるもの。」
フィンさんにパチンとウィンクして微笑んでいるレイアがいるのだから滅多に危機には陥らないだろう。万が一にもない。
それにしても高位の冒険者ってやっぱりそれなりに偉い立場なんだな。権力ってことはそこらの貴族よりは偉いのかもしれない。さすがSSSランク。
最後まで、ゴードンとフィンさんは心配していたが、いつまでもいてもしょうがないので、切り上げて、次のところに挨拶に行く。
次に行くとしたら一番世話になったドヴァルのところだ。
「おうドヴァルいるかー?っと、青年今日も受付か。ドヴァルは奥か?俺たちはこれから王都に向けて出発するんだが、最後に挨拶でもと思ってな。」
「そうなんですね。親方は今作業が終わって休憩に入るころだと思いますよ。そろそろこっちにきますよ。待っててください。」
青年はそう言うので、ありがたく待たせてもらうことにした。数分待っていると、店の奥から口をもぐもぐさせながらドヴァルが出てくる。
俺に気づくと、急いで口の中のものを飲み込んで近寄ってくる。
「なんだなんだ、どうした?アルカナじゃないか。もう点検の日か?それにしちゃちと早いか。てことはどうしたんだ?結局わからんわい。まさか本当に装備の点検か?」
「いや、これからルグラを出て王都に向かうことになったんだ。最終的な目的地はエルフの国だけどな。ゆっくり行くことにしたんだ。それにレイアの装備も頼んじまったしな。なんで、礼をかねて一応、挨拶しておこうと思ってさ。」
「そうね、このレイピアは今まで使ってきたダンジョン産の装備にも負けてないし、硬度にいたっては圧勝よ。ありがとね?」
ドヴァルもそろそろとは思っていたようで、あまり驚きはしていない。それどころか、やっとかといったような雰囲気さえ感じる。
「そういや今日はお前さんの昇格試験があったはずだが、その様子だと無事に終わったみてえだな。しかし、そうなるとゴードンの方は新しい大楯の依頼がありそうだな。だから、全部ドヴァル合金にしとけって儂は言ったのによ。」
昇格試験のことも知っていたのなら、驚かないのもしょうがないか。もともとAランクになったら、ルグラを出ることは言ってあったしな。
よし、挨拶も終わったし行くか、と腰を上げようとすると、ドヴァルから待ったの声がかかる。
「おいおい、急ぐ旅だとしても、一、二時間くらいはあるじゃろう?最後に儂が装備の点検しちゃるわ。ちょいと見してみい。」
ドヴァルの申し出は正直ありがたかったので、持っている装備を全部渡して点検してもらう。もちろんレイアも同じように装備をすべて点検してもらっている。
王都にも腕のいい鍛冶屋はいるかもしれないが、ドヴァルほどの信用信頼がない。
王都まではもちろん戦闘があると考えられるので、装備も万全の状態で出発できるのであれば悪いことはない。
ドヴァルが点検してくれている間、青年と話したり、店内を見学したりして時間を潰す。レイアと一緒だから、これまでの戦闘経験でどういった状況ではこういった武器がいい、など有意義な時間となった。
それから1時間ほどしてドヴァルが装備を持ってあらわれる。点検を終えて装備もピカピカだ。
ドヴァルは、最後に俺たちの装備を手渡して、餞別として大きめの砥石と一枚の紙も渡された。紙に描いてあったのは、イシュガルをはじめとした装備の簡単な手入れ方法とその他防具の手入れ方法だった。
また、以前作成し今回の昇格試験でも世話になったドヴァル合金で作られた手甲は、指が出るタイプなのでそのまま武器を握ることができるから常につけるようにしろ、と言われた。
その指摘に否やはなかったので、それに従う。先ほどの紙にはもちろん手甲の手入れの方法も書いてあった。
最後にお互いに秘蔵の酒を渡して別れを告げる。最初の時から飲み友達になった俺たちはよく一緒に酒場を巡ったものだ。まあ、またいつか一緒に酒を酌み交わしたい。
世話になった人たちに挨拶回りをした後、王都に向けて出発するために王都方面の門へと向かった。
依頼の関係でルグラの外にも頻繁に出ていた俺は門番ともなんだかんだで顔見知りになった。レイアも同様だ。
今日の門番ももちろん顔見知りで、彼は衛兵隊長さんである。
「次の者!っと、アルカナにレイアちゃんじゃないか。今日も依頼かい?君たちが高位の依頼を達成してくれるおかげで、ゴードンさん一人の時よりもいい素材が多く市場に出るようになって、衛兵隊の装備も一新出来たんだよ、ありがとうな。」
「いや今日は、依頼じゃないんだよ。俺もレイアも、これから王都に向かうんだ。これまで世話になった人には挨拶したしな。素材は、冒険者ギルドがやったことだから気にしないでくれ。俺たちは依頼料ももらってるし必要な素材に関してはいくらかもらってるし、な?」
「ええ、私たちにとってもついでのようなものなのだから気にする必要はないわ。お世話にもなっていたのだし。それでも気にするというのなら、今度またルグラに来た時には、また仲良くしてくれると嬉しいわ。」
「そうか?それなら、そうしよう。俺たち鉱山都市ルグラ衛兵隊は貴殿らが再び訪れた際には、変わりない友誼を結ぶとここに誓おう。」
二かっと笑って宣言する。それじゃ、と衛兵隊長たちに別れを告げて先に進む。
他の衛兵には多少は引き留められたが、すぐに理解してくれたのか、最後にはその日の当番の衛兵全員で俺たちが行くのを手を振って見送ってくれた。
なんとも気のいい衛兵たちであった。
ここで、俺たちの移動手段の確認をしておこう。もちろん徒歩である。
ルグラは、ベルフォード王国では重要な都市であり、交通手段も設けられている。
馬車や、竜車、グランドドラゴンという温厚な亜竜種が引く車があるが、それらに揺られて王都を目指すとなれば移動時間や距離は、どうしても伸びてしまう。
俺たちには祭りに参加するという時間的に余裕のない目的がある。それを達成するには馬車での移動では間に合わず、竜車でもある理由から間に合わない。本来の竜車の速度なら問題ないはずなのだが、俺たちに問題がある。
俺たちは、現在人の形をしていても、その本質は魔物の最上位種である。正確には半分魔物ってところであるが。とにかく亜竜にしか過ぎないグランドドラゴンでは、格に違いがあり、なまじ知能がある分、俺たちに委縮してしまい、本来のパフォーマンスが出せないようだ。
これは俺が体験した話ではないが、レイア自身の体験談だった。
「あいつら仮にも竜種のくせに意気地なしったらありゃしない。あいつらがそんなだから王都では、『竜種すらひれ伏させた女神』なんて嫌なあだ名で呼ばれちゃったのよ。それに今回は、あなたもいるわけだから、間違いなく竜車は無理ね。」
だそうだ。魔物としての格って言うのは感じたことはないが。知能が高い相手には威圧が一番の手段かもしれないとは思った。
そんなことを考えているときにレイアが何やらいいことを思いついたというような顔をして顎に手を当てる。
「うーん。それなら、あなたが馬車を引けば?アルカナだったらでかいし、馬車くらい余裕でしょ?」
そんな提案に、不覚にも確かにと思ってしまった。正直、圧倒的に俺がステータスに任せて馬車を引いて走ったほうが断然早い。もっと言うと、俺がレイアを乗せて走ったほうが断然早い。
もちろんこれは俺が人化を解除した状態の話ではあるが、人としてじゃなくても馬車を引くのは勘弁してほしい。
しかし、乗せて走るのはわるくないなと、思う。思ってしまった。
レイアくらいの美女を乗せるのはやぶさかじゃないってことだな。悔しいが俺も一人の男でした。
それじゃ出発しますか。
王都に向かっています
拙作を読んでいただきありがとうございます.
「面白い」「続きが読みたい」
と思っていただけるようなら,ブックマーク,評価をしていただけると励みになりますのでどうかよろしくお願いします.
ここより下に表示されていますので,星を塗りつぶして評価してくれるとありがたいです。一つ星でもありがたいです。
☆☆☆☆☆ → ★★★★★
すでに評価ブックマークしてくださった方は引き続きお楽しみください.




