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第32話 「先人の知恵ってわけだ。」

お読みいただきありがとうございます。



「また明日来るよ」


ギルドマスターの部屋から出て、フィンさんに再度お礼を言ってから、ギルドを後にして宿屋に向かう。日はすでに落ち初め、6時の鐘が鳴る。この世界では深夜の零時以外で3時間おきに鐘が鳴る。


この世界にも時計は存在する。実際、商業ギルドでの取引などには時間に正確でないと成り立たない、というくらいには普及している。しかしそれも貴族、商人が限定で、そういった取引等をしないなら鐘を基準に動くくらいでも問題はない。




少し歩くと目的の宿屋である“美食の箱庭亭”についた。そこは、広い通りの横道にそれた細路地の中にあった。振り返って広い通りを見ながら思う。これは知らないと気づくこともできないな。


もう一度、箱庭亭をみると、宿屋にしてはあまりきれいとは言えない外観をしていた。

これは、フィンさんに騙されたのかもしれない、と考えていると横から声がかかる。


「にいちゃん、お客さんかい?うちにきたのか?冒険者みたいだけど」


唐突に俺に声をかけてきたのは、まだ、10歳前後の幼い少年だった。

その耳は種族特有の形をしており、今の時点で将来的にどれほどの甘いマスクに成り得るか想像に難くない、そんな印象を受けた。サラサラの金髪は所謂エルフであるということを示していた。

そんな少年に自分が客であること、フィンさんの紹介であることを伝える。


「そうか、フィン姉の紹介か、それなら大丈夫だな。いらっしゃい、ようこそ“美食の箱庭亭”へ」


そういってドアを開けてくれた少年は中にいるであろう従業員に声をかける。


「母ちゃん、お客さん!フィン姉の紹介だって。ほらお客さん、入って、入って!」


予想通り家族経営なのだろう。中にいるのは少年の母親のようだ。

俺の手を引いて中に入っていく少年は、カウンターの前につくと止まる。中は外が何だったのかというほどきれいに掃除されている。少しするとカウンターの扉の向こうから、どこか母性を感じさせる美しいエルフ女性があらわれる。


母性を感じるとは言っても、その姿形からはとても10歳ほどの子供がいるとは思えないが、呼ばれて出てきた当たり、少年の母親であるのだろう。重ねて言うがそうは見えない。

実にファンタジーである。


いや、骨が動いている時点でファンタジー、なんて指摘はいらない。俺自身のことだとどうも実感がないし。


「いらっしゃいませ、私はヘレン。ここの主人サイフィズの妻でございます。フィンさんからの紹介と聞いておりますが具体的にはギルドからの紹介でございましょうか?」


「ああ、まあ、そういうことになると思う。何日か宿泊できるか?」


「もちろん可能ですよ。何日ほどにいたしましょう?」


「とりあえず一週間ほどで頼む。また、都度更新をさせてもらうってことでいいか?いくらだ?」


「朝晩の食事付きで一泊銀貨5枚1週間ですので、大銀貨3枚です。更新は期限内にしてくだされば大丈夫です。」


銀貨1枚だいたい100セル、1セル10円程度なので、日本円にして、一泊5000円、硬貨は10枚で一つ上なので、一週間3万円。かなりリーズナブル?これで飯もうまいらしいから、最高かもしれない。




ここでこの世界の金の価値を示しておくと

銅貨=1セル

大銅貨=10セル

銀貨=100セル

大銀貨=1000セル

 金貨=10000セル

白金貨=1000000セル

だいたいこんな感じである。


またこの世界は、一日24時間一週間六日の月五週が12か月、よって一年360日である閏年はないようだ。規則正しく星が回っているようだ。




てなわけで、ここにお世話になることにして、お金を渡して話を進める。


もともと敬語は使っていなかったが、これはフィンさんにも確かめて、容認された。冒険者が敬語を使うのはランクが上がり貴族や豪商などの依頼で礼儀が必要になってからのようで、それから必死になって覚えるようだ。それ以外では威嚇も兼ねて敬語は使わないようだ


もちろん今の俺には、貴族の依頼なんてまだ先の話だ。宿屋の主人に舐められることはないと思うけどね。


閑話休題それはさておき


「俺はアルカナだ。冒険者をしている。といっても、まだ駆け出しだが。明日、鍛冶屋で装備を受け取ったら、そのまま東の森に行くので、帰ってこれないかもしれない、その時は、遠慮なく金を引いてくれ。部屋のキープ代だ。」


「そうですか、それではそうさせていただきますね。今晩の夕飯はここでということでよろしいですか?その時にでも、主人から挨拶をさせていただきたいのですが。」


わざわざ宿屋の主人自らが挨拶に来るのか、真面目だな。普通は、そんなことをしないと思うのだが。


宿屋としての真面目さに感心していると、ヘレンさんはさらに続ける。


「普通のお客様には、宿屋の主人、といっても厨房から出ないあの人が挨拶をすることはありませんよ。暴れられたらお止めできないようなお客様にのみ、ご挨拶させてもらっています。」


その時、ばちっと何かをはじくのを感じた。この感覚は鑑定だな。偽りのステータスしか目れないといってもあまりいい気分はしない。俺が、ヘレンさんをにらむと、あっけらかんとして受付の壁にある張り紙を指しながら答える。


「このように、わたしでは測れないようなお客様もおられますので。あぁ、こちらの張り紙にあるように、これがうちのルールですから。」


張り紙を見る。


『鑑定御免』か。

・・・・・・・・・なんだか負けた気がするな。ここは適当にごまかすべきだった。もっとうまくかわせるようにならないと。


とりあえず、部屋に案内してもらう。もちろん案内役は、店の前にいた少年、ブレッド君だ。ブレッド君は俺の武器に興味津々だ。

イシュガルは大鎌斧なんていうたいそうな武器であるが、レア度で言ったら相当なものだろう。宿でいろんな冒険者を見ているといっても、はじめてお目にかかったのだろう。

ブレッド君もエルフといえど男の子だし、冒険者になりたいのだろうか。


部屋に向かいながらブレッド君にいろいろと聞くと、この家族のことが少しはわかった。

ここの従業員は、ブレッドの両親を含めてみなエルフ族で、国から出てきた排他的でないエルフのみが働いているようだ。ただの家族経営では無かったようだ。


また主人でブレッドの両親であるサイフィズとヘレンはエルフの中でも種族的に進化したハイエルフなのだそうだ。そのため、この宿屋で不届きなことをすると、武力的に制圧されるらしい。


ハイエルフは相当な長命種で2000年ほど生きるというらしい。ギルドマスターはハイエルフなんじゃないかと思っていたが、もっと上かもしれない。


なんだかんだ話しているうちに、部屋につくと、ブレッドからカギをもらって中に入る。

部屋は、かなり豪華だ。日本でスウィートルームといっても不思議ではない豪華さである。やはりとんでもなくリーズナブルだ、フィンさんありがとう。


「おお!これはすごいな!ベッドはふかふかで、風呂も、冷暖房も完備だ。ここは天国だな。」


ブレッド君がいるにもかかわらずはしゃぎまくる俺は、その存在を思い出し我に帰る。


あらら、笑っていらっしゃる。


「にいちゃん、こわいだけの人じゃないんだな。僕、獣人族見るの初めてじゃないけど、そんな変な武器を持った獅子獣人は初めてだったから、なんだか安心したよ。」


この子はそんなことを思ってたのか、不愛想だったかな、俺。冒険者なのだからと、少し自分の性格とは違う者を演じていた気がする。これからはもう少し自然体で行こうか。


ブレッド君にお礼をいうと、彼は夕飯時に呼びに来ることを伝え、戻ってゆく。俺はそのままベッドに寝転がりそのまま目を閉じる。


明日は、初めての討伐依頼、しかも緊急依頼だ。気を引き締めていかなければもしかしたら足元をすくわれるかもしれない。それに、他の冒険者の力を見ておきたい。自分が化け物であることがわかってるから、少しでも埋もれるために、目安を決めておきたいのだ。

さすがにゴードンを目安にしたら、目立つ。

できればBランクぐらいが妥当だと思うが、そう都合よく見つけられるだろうか。いってみればわかることだが、スキルもあるし大丈夫だろう。


気持ちを切り替えて武器の整備、といっても汚れをふき取るだけだが、しっかりとこなしていると、ヘレンさんの声が聞こえた。


「夕飯の用意ができておりますご都合のよい時間にお越しください。」


その声にすぐに反応して、食堂画と向かう。うまいと聞いている食事はとても楽しみだったのだ。これまでもちょくちょくと骨を食べてきたが、獣人になってからの食事は骨だと養分を摂取しているだけのような感覚になっている。味覚のある獣人とないスケルトンでは感覚が違うのだろう。骨だけに舌はないのだからしょうがない。


足取りは自分が思っているよりもかなり軽い。そもそもこの宿を選んだのも、食事がうまいという理由からで、ついにその食事ができるのだ。これで、気持ちがはやるのも無理はないだろう。なかばスキップ気味に向かう俺を見て、ブレッドやヘレンさんは笑っている。

なんだか自分でも不思議なくらい楽しみになっている。



席について待っていると、これまた嫌味なくらいにイケメンなエルフが料理のうまそうなにおいとともにやってくる。


「待たせたな。これが今晩の飯だ。カレーと言う。我々エルフが育てた野菜をふんだんに使った野菜カレーだ。あいにく肉は使ってないが、我慢してくれ。宿泊一日目の客にはこれを食べてもらうことにしてるんだ。」


まさか、カレーとはな。

また食えるとは思ってなかったから、願ったりかなったりだな。前世の記憶なんてないが、一般的なことは覚えている。カレーも覚えてはいたが料理などできないのだから、今世ではあきらめていた一つである。どうやら他の食事もありそうだ。


また楽しみが増えた瞬間であった。


「これは一般的に食べられているものなのか?このカレーと言うのは」


精一杯知らないふりをしながらサイフィズに尋ねる。


「いや、これは、エルフ族に伝わる料理だからな。はるか昔に族長が人族に教わったらしい。」


人族に、か。

十中八九、地球人だろうな。先人の知恵ってわけだ。


スプーンですくって一口食べる。口に広がる香辛料や食材の甘味、辛味も相まって、感動するほどうまい。


それに、この味は、日本人だろうな。家庭の味だ。めちゃくちゃうまい。野菜も普通の野菜じゃない。全部栄養値がマックスだ。こういうときに〔戦力把握〕のよくないところが出てくる。戦いに関係ないから普通の鑑定はできないってことだ。これはうますぎる、原因が知りたくなるってものだ。エルフ秘伝の農法とかなのかね。

まさかこんな感じで先人のしたことに触れることになるとは。料理改革でもしたんだろうか。


「その人族からはほかにも料理何かを教わったりしているのか?」


「ああ、我々エルフ族は長命だからな。娯楽に飢えている。そんな中で、料理というのは、日常にあり続ける娯楽のようなものだ。教えを乞わないわけがない。国に行けばそう言ったものもあるぞ。」


ああ、エルフの国、なるだけ早くにいこう。きっとそっち方面にアンデットも多く出るに違いない。けして食事のためじゃない。いつあるかわからないお仕事のためだ。


なぜ俺がこんなに食事にこだわるのかというと、先ほども言ったが味覚もあるのだが、骨だったころには考えられないほど腹が減るということもある。骨の時は平気なのだが、マスクを被ると、生物の生理的欲求が押し寄せてくるとでもいうのか、そんな感じだ。


能力として取り込んだ時点で自分の体になっているようなものなので、骨の間も生理的欲求が溜まっていっているらしい。

全部オーディンとリオウに聞いたことだから、間違いないと思う。

実を言うと、マスクを被ってるときで獣形態の時、同種の雌がいると、三大欲求のうちの一つが活発に活動を始めるので、ダンジョン内にいたときは困った。戦虎に欲情した時はどうしようかと思ったものである。


今は、人化しているから、大丈夫だが、獅子王面リオウマスクでも獣形態になるともしかしたら発情してしまうこともあるかもしれない。まあ、俺の同系統なんてのは、神獣か根源種くらいだからそうそう出会うことはないだろう。


話がだいぶ反れたが、食欲が半端ないことになっているのだ、ある程度食べればなんとなくは収まるのだが、今のまま、しっかり満腹まで食べたい。それに、食べるならうまいものがいい。

骨に戻ることがむずかしい今、味のしない骨だけをむさぼるのは勘弁したい。


それだけ、俺からしたら味のある食事はあ感動するようなものだったのだ。

ペロリとカレーを食べ終え数回お代わりをする、その際しっかりと銀貨2枚とられました。安いもんだと思う。


夕食を食べた後部屋に帰るとベッドに横になり、すぐに寝息をたててしまった。


この体は、睡眠欲もある程度たまるようだ。





描写されていないだけで、手持ちの非常食ならぬ非常骨はどんどん消費されています。今までは常にマスクを被っていたわけではないので、食欲については問題がなく、肉は捨てていました。


工房に行きましょう


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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[一言] お金のこと二回目ですよ。
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