第30話 「はあ、初依頼の次は緊急依頼か」
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武器を手に入れた俺は、再び冒険者ギルドを訪れた。入った時にこちらを見られることがまだあるが、特に害意が強いわけでもないので気にせずフィンさんのもとに向かう。
フィンさんは最初に担当してもらった時と同様にカウンターで背筋を伸ばした状態で次の冒険者を待っている。
この人はずっとここにいるんだろうか。あっこっちに気づいた。
「どうも」
「どうだった?ドヴァルさんに武器を頼め…た…の?って、すごいねそれ。斧かな?刃の部分が大きいね。買えたんだ。」
フィンさんはイシュガルに気づいたようだったので、背に担ぐそれを前に出す。背に担げるようにドヴァルがくれた肩掛けベルトは貸与品だが便利で、魔力によって固定されるようになっている。防具にもこれと同様の効果をつけてくれるようなのでありがたい。
ここで刃を広げてみることは俺としてはそうでもないが、普通に危険なので、斧の状態で見せる。にしても、斧鎗は聞いたことはあるけど、鎌斧は初めてだよな。まだ見ぬ武器ってのはわくわくする。
「これは、“大鎌斧イシュガル”って銘の大鎌だよ。斧としても使えるようだけど、俺は〔鎌術〕があるから鎌を頼んだんだ。」
「そうなの。〔鎌術〕か、珍しいスキルね。それにその武器には銘があるのね。とってもいいものを手に入れたね。よく見たら素材はドヴァル合金ね、それ。それだけの量だと価値にしたら金貨1000枚くらいはするんじゃない?」
金貨1000枚か。えっと、確かこの世界は白金貨が1枚で金貨100枚だから・・・白金貨10枚分じゃん。やべぇ、全然足らん。明日防具をもらいに行く時にドヴァルに支払いに関して少し待ってもらえないか聞いてみるか。
「そんなにするとは知らなかったな。ま、まあそれはおいといて、実は宿のことなんだけど、全然考えて無くて、いいところないか?まさかこんなにドヴァルのところで引き留められるとは思っていなかったからさ。」
「宿屋なら冒険者ギルドが斡旋してるところがいくつかあるわ。その中から紹介できるけど、予算は、大丈夫そうだから、何か希望ある?」
「飯のうまいところがいいな。」
「そうならここね。」
そういって1枚の紙を差し出してくる。そこには図が書いてあり、目的地には“美食の箱庭亭”と書かれていた。
美食か、自己申告なのが何とも言えないな。
俺が悩んでいるとフィンさんから声がかかる。
「ここのご飯すごくおいしいのよ。値段もそんな高くないし、宿泊者には親切だしで評判もいいし。ギルドとしても、紹介する冒険者を選んでるから、いい関係を続けられているの。アルカナくんだったら大丈夫だと思ったから、紹介するんだからね。」
安くてうまい、ギルドの信頼厚いのは嬉しいな、間違いないだろうし。よし、行くか。っと、その前に依頼も受けていこう。まだ昼過ぎだし、すぐに行って帰れば大丈夫だろ。昨日はつまらないなんて思ったけど、この時間から受ける依頼なら、薬草採取とかがちょうどいいかね。
「じゃあそこにする。ついでに依頼受けていこうと思うんだけど、薬草採取なんてない?」
「あるわよ、ルグラ近くに2つ森があるんだけど、その街道沿いにある方じゃなくて、東にある森に行ってね。もう一つの森は魔の森っていって、すごい危険なの。ゴードンさんでも行きたがらないんだから。」
ほほぉ、人が入らない森か。俺はそんなとこから出てきたんだよな。俺ってもしかしなくてもあぶない魔物だよな。エミリアも、“なんちゃらの狐”も危ないところにいたんだな。ま、気にしてもしょうがないしとりあえず、依頼だ依頼。気を引き締めていこう。
「わかったよ、東の森に行けばいいんだな。じゃあ、依頼行くよ。」
フィンさんは依頼書を俺に渡すと、頭を下げてから笑顔で行ってらっしゃいといってくれた。この笑顔が人気の秘密かもしれない。
それじゃあ、行ってきます。
依頼を受けてから数時間程たったころ俺は街に戻ってきた。その手には大量の薬草を持って。
薬草とか獣人の嗅覚で簡単に見分けつくし、場所もだいたいわかるから、調子に乗って獲りすぎてしまった。一本見つけたらあとはそれと同じ匂いを見つけるだけだから獣人には簡単な依頼だ。いくつかスキルの取得もできたし、いいことづくめだった。
しかし、採取中にゴブリンだ、フォレストウルフだと何度か戦闘になった。それも一度や二度ではなく頻度としてはかなり高いだろう。初心者が行く森であんなに魔物出てきたら危ないんじゃないかな。
一応フィンさんに言っといたほうがいいかもしれない。ちょうど討伐数はギルドカードに記録がされるんだから説明も楽だ。
フィンさんにする説明を頭の中でまとめながら、ギルドに戻るとなんだか騒がしかった。酒場が併設されているため、基本的には騒がしい冒険者ギルドではあるが、その雰囲気はそんな陽気な騒がしさではなかった。
その騒ぎの中心にはフィンさんを含めたギルド職員が数人と初めて見る壮年というぐらいがちょうどいい渋いイケメンのエルフがいた。こちらをみるとエルフはほんの一瞬だけ驚いた顔になり慌てたように取り繕う。
見たことをばれるかもしれないが、気になったのでちょっと見てみると、このルグラ支部のギルドマスターらしい。ステータスやスキルなんかを見る限るではゴードンよりも少しばかり強い。進化前の俺ではおそらく勝てないだろう。
俺が中に入っていくと血相を変えたフィンさんが駆け寄ってきた。
「アルカナくん!!大丈夫だった!?よかった。帰りが遅いからやられちゃったのかと思って。なににも会わなかった?!」
「えっと、どういうこと?ただ採取依頼で集中しすぎて遅くなってしまったんですけど、何かあったんです?」
その勢いに圧倒され言葉が敬語になってしまった。なんのこっちゃわからない俺がキョトンとしていると奥のほうからこちらへとやってきたギルドマスターから声がかかる。
「ああ、東の森の奥地で、ゴブリンの集落が見つかった。それも1つではなく5つだ。その中にゴブリンからの進化個体も確認されている。確認されている規模から言っても十中八九、キングまたはクイーン、もしかしたらその上位種もいると考えられる。現在のルグラには高ランク冒険者の数も少なく、対処するにも猶予はあまりないだろう。そこで、とりあえず、緊急依頼という形でDランク以上の男の冒険者に依頼をすることになったんだ。そんな協議をしている時に薬草採取に行ったという君が帰ってきたわけだ。」
ギィン
ふむ。説明をしている間にも俺を何度も鑑定しようとしているようだが、いくら見ようとも偽装済みだ。【伝説級スキル】でも持ってこなけりゃわかるわけがない。しかし、これはうっとおしいな。
ギィン ギィン
ギルドマスターの話を聞いた時点でわかったことだが、魔物が多かった理由はこういうことだったのか。俺がいたのは森の入り口付近であるわけだから、探知にも引っかからず雑魚ばかりが増えたように思えたわけか。さて、俺はどうするかな。というより、俺のランクはGだし、緊急依頼には引っかからない。ほっとこ。
ギィンギィンギィン
ていうか、だんだん腹が立ってきたな。
「ギルドマスターですか?やめてくれませんかね?」
いい加減鑑定をはじく音にもイライラしてきた俺が少し〔獣王の威圧〕を込めて睨むとギルドマスターは連続してかけていた鑑定をひっこめた。とりあえずうるさい音は止んだが、ギルドマスターはあの程度の威圧なら大したことがないようだ。戦虎程度なら追い払えるんだけどな。
ギルドマスターは咳払いして話を戻す。
「では、皆には、このまま東の森に行ってほしい。パーティを組んでいってくれるとなおいい。明後日には王都からSS以上の者が来ると思うから、どうかそれまで耐えてくれ、頼む。無論、殲滅してくれても構わない。」
そういって頭を下げるギルドマスターに冒険者たちは少しうろたえるがすぐに動きだす。
その中でもリーダーシップを発揮するのは、ゴードンだった。
「おらてめぇら!速攻で準備して門の外に集合だこの町でやつらとやれんのは俺らしかいねえんだ。やるしかねえぞ!気合い入れろや!」
「「「「「「「「「「「「応、親父!!」」」」」」」」」」」」」
「よし!依頼受注するの忘れんじゃねえぞ!」
すごい人気だな。〔親父〕ってそういうことか。まあ、頑張ってもらおう。ゴブリンキングくらいなら、ゴードンでも余裕だと思うんだけど、クイーンとかそれより上位種となるとそう簡単な話じゃないのだろうか。
俺はとりあえず依頼の報告してから宿屋に行こうか。
フィンさんのところに行き依頼の報告を頼むと素直にうなずいて移動してくれた。フィンさんについて行こうと歩きだすと、不意にギルドマスターから声がかかる。
「ああ、アルカナくん、報告と報酬を受け取ったら、私の部屋まで来てくれないかな。少し話があるんだ。これはギルドマスターとしての緊急依頼時の特権だから、断れないよ。」
めんどいな。下手に断れないのがもっとそれに拍車をかけている。
これも人族に紛れるためには必要なことなんだろうか。
ひとしきりため息をつき終えてから答える。
「わかった。終わったら行くよ。」
それで満足したのか柔らかく笑って階段を上がっていく。
俺は切り替えてフィンさんのカウンターに行ってギルドカードと薬草を提出する。
。
「何の用かしらね。めったにないのだけど。もしかして、アルカナくんって強いの?ランクアップできるかもしれないわね。」
「それなりにだよ。とりあえず依頼を終わらせちゃっていい?これが、薬草で、依頼されてた量の3倍くらいあるんだけど大丈夫かな?」
「多い分には構わないわ。それに3倍ってすごいわね。もしかしてマジックバックでも持ってるの?いいわね。マジックバックは高価だから、あまり人前で使ってはダメよ。そういうのを狙う輩もいるんだから。あとこれが報酬ね。」
「わかったよ。気をつける。ところで、採取中に魔物に襲われたから、それの報酬ももらいたいんだけど。」
報酬を受け取って〔骨壺〕に入れながら、採取中に倒した魔物の報酬について聞く。
「魔物に襲われたの!?大丈夫だった?って、今ここにいるんだから大丈夫だったのね。討伐証明部位ってわかる?耳のある魔物はだいたい右耳なんだけど。ギルドカードと一緒に確認しなければいけないのよ。」
それは知ってる。外に出る前に確認していったからな。
討伐依頼を受けた場合は出発前にギルドカードの一部機能を初期化して依頼期間中に討伐した魔物を記録し、それを読み取ることで依頼の達成度を決めているらしい。
しかし今回のように薬草採取のついでなどで魔物を狩ると、ギルドカードを事前に確認をしていないため、どこまでが前回の依頼でどこからが今回の討伐かわからずトラブルに発展することもあるようだ。そこで依頼がいの討伐証明には魔物の一部位を持ってくる必要がある。
とりあえずざっと200ないくらいかな。それが入った袋をフィンさんに渡す。
その中身を見たフィンさんは驚きに固まってしまった。
「え、これ、え、なにこの量。全部アルカナくんがやったの?」
俺が首肯すると、フィンさんはその袋を持って裏に入っていった。しばらくして戻ってくると、その手には先ほどもらった薬草の報酬よりも小さな袋があった。
「かなりの量があって、結構な金額になったから、これで持っていってね。中に金貨が10枚入ってるから。それにしてもかなり強いのね。中にはホブゴブリンの耳も記録もあったから、これでランクも上がるわ。ギルドカード出してね」
ホブゴブリンなんていたかな?ほぼ瞬殺だったからな。イシュガルもかなり使い勝手が良くて面白いくらい簡単に殺せるし。特に不都合がないため素直にギルドカードを渡す。
そして、フィンさんはそれを受け取ると裏に持っていきすぐに戻ってくる。
「はい。これでアルカナくんはDランクの冒険者よ。これからも頑張ってね。」
「え?一気に上がりすぎじゃない?これって、大丈夫なの?それにこれじゃ、俺も緊急依頼に参加しなきゃいけないよね?」
「ホブゴブリンを倒せるかどうかがDとEの差なの。だから、ホブゴブリンが倒せたらすぐ昇格できるのよ。それにそうね、これだけ魔物を狩れるとなると、さすがに何もしないって言うのはできないと思うわ。まあ、そういうのはギルマスに聞いてみてちょうだい、行くんでしょ?」
困ったような顔をするフィンさんに少し申し訳ない気がしたが、とりあえずは呼ばれているので、行かないといけない。はあ、初依頼の次は緊急依頼か。フィンさんにギルドマスターの部屋の場所を聞く。
「この階段を上がって一番奥の部屋よ。迷うことはないと思うけど、部屋の中はかなり広いから驚かないでね。」
どういうことだろうか?
俺が疑問符を出していると、親切にもフィンさんが答えてくれた。
「実はね、ギルドマスターって空間属性を持つ高位の魔導士なの。空間拡張をしているから、部屋がとぉっっっても広いの。」
なるほど空間拡張ね。読んで字のごとくなんだろう。にしても、あのエルフすごいな。空間属性なんて初めて聞いた。もしかしてマジックバックも同じ原理なのかもしれないな。
フィンさんにお礼を言ってから階段を上りギルドマスターの部屋の扉をノックする。見た目は普通のドアだ。
「アルカナです。きました。」
すると中から声が返ってくる。
「どうぞ」
俺は中に入ると、驚くものを発見する。それはこのとても広い部屋のことではなく、そんな広い部屋の真ん中で土下座するギルドマスターにだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?どうゆうこと?
土下座の意味を聞きましょう
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