第29話 大鎌斧イシュガル
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都市に入った時に通った2つの通りのちょうど反対側は人通りも少なく、あっても冒険者だと一目で見てとれる格好をしている。武器の購入や整備、修理などで鍛冶屋や武器防具屋にでも行った帰りだろう。
聞いた話ではここの通りは、鍛治通りと呼ばれるらしく昼夜を問わず鉄を打つ音がなるらしい。もちろん今もずっと鉄をたたく音がなっている。ちょっと聞くだけなら心地いい快音が響いているように聞こえるが、これがずっとだと話が違うと思う。
宿はできるだけここから離れた場所にしよう。
俺は今、フィンに紹介状を書いてもらった店に向かっている。彼女が言うには国一番の鍛冶師らしいのだが、そもそも武器がなくても問題ない俺としては適当ななまくらでもよかったんだが。国一番だとするとその商品も相応の値段もするだろう。あの時出すなら白金貨ではなく、最高でも金貨とかにしておけばよかったな。
ため息はつきつつも、初めて出会うファンタジー種族に心は躍っている。
ファンタジー作品よろしく、ドワーフはかなり気難しく酒が好きな種族らしいので、手土産には自分でも飲んだことがないようなそこそこ高額で上等な酒を買った。
「これで、機嫌が取れればいいんだけどな。まぁ、そんな簡単にはいかないよなぁ」
そんなことを思ってた時期が俺にもありました。
「がははは。おもしれえな、お前。アルカナっつったか?いやあ、久しぶりにこんな笑ったぜ!!いやぁ、気に行った!!お前なら、腕次第では武器も作ってやってもいいぞ。」
「は、はは」
何がなんだかわからないけど、かなり気にいられた。
数分前に話はさかのぼる。わくわくして若干早足になりながらも無事に店についた。
教えてもらった店の場所は正直言って、かなり寂れていた。うーん、ほんとにここか?まあ、一応看板には教えてもらった店の名前が書いてある。どうにも儲かっているようには見えない。国一番と確かに聞いたんだけどな。
“竜の金鎚”というらしいこの鍛冶屋は、店の前に立っている今も音が鳴り響いている。どうやら作業中であるようだ。
「あの~、すいません。ドヴァルさん、いますか~?」
俺の声に反応する人はいなく、ずっと音がなっているばかりであった。うーん、鍛冶師以外に受付とかはいないってことだろうか。
悩み始めたその数秒後に聞こえた音は野太く低い声であった。
「おーい、ちょっと待っとれい!!」
おそらくだが、鍛治をしているドヴァル本人しかいないということはわかるので、その言葉に従って、少し待つ。ドヴァルが打ったと思われる剣や槍、刀などを見て少し待つ。道具にも〔戦力把握〕は有効なのでいろいろと見て回って少し待つ。いい武器ばかりである。品質も高い。武器は見終わったので今度は防具を見て少し待つ。
少しってどれくらいが少しなんだろうか。夕方ごろ来たんだけど、今はもう日が落ちて外も真っ暗なんだが。あ、宿どうしよう。はぁ、この時間じゃ無理だよな。
武器から防具からいろいろと見て、そろそろ手持ち無沙汰になってきたころ、奥から聞こえていた音が止んだ。そして、奥からずんぐりとした髭を生やしたおっさんが出てきた。そのおっさんは俺を見るなり開口一番叫ぶ。
「誰だ、てめえ!!俺の店に盗みに入ろうなんていい度胸してやがるな!ただじゃ置かねえから覚悟しろよ!」
おっさんは手に持った金鎚をふる。俺はとにかくその一撃を防ぐが、今まで受けたどの攻撃よりも重い。身長はゴブリンと同じくらいなのだが、どこからこんな力が湧いてくるのかと驚いた。
今、武器も防具もない俺は全部、〔骨の王〕の硬化で防いでいるが、衝撃を逃がすことができない。
どんなに耐久値が高くとも減らせるのはダメージで、衝撃はそのままだ。いい加減手が痺れる。
それに俺は守るものがあった。結構な金を出しているのもあってこれを傷つけることは俺の本意ではないし、目の前のドワーフも気が狂うほど悲しむんじゃなかろうか。今だって金鎚の逆の手には酒瓶を持っている暗い酒がすきなんだろう。というか、どうして俺は犯罪者に間違われるんだ?ちょっと待てと言われ、とんでもなく待たされた挙句、泥棒扱いってさすがにあり得ないだろ。
とりあえず止めよう。
「ちょっと待ってくれ。俺は泥棒じゃねえし、むしろ客だ!冒険者ギルドのフィンさんから紹介状ももらってる!!とりあえず攻撃はやめてくれないか?!」
俺の言葉に攻撃は即座に止む。するとすぐに、目の前の小さいおっさんは、俺が出した紙を奪い取る。
それを読んだ後、俺の持っている酒瓶に目を移した後にニンマリ笑う。
「すまねえな!俺ぁてっきりコソ泥だと思ってよ。さっきの防御もあるし、フィンからの紹介状なら期待できるんだろうが、さて、何を持ってきたのかな?」
その顔は緩んだまま戻らない。
俺の手にあるのが酒だってことに気がづいてんな。どんだけ酒好きなんだよ。手に持ってるのも酒じゃないのかよ。ふう、まあ、いいや。これで機嫌がとれて武器が買えるんなら。
「酒だ、飲んでくれ。そこでおr「やっぱり酒か!!」・・・うん。」
おっさんは俺から酒をひったくるとすぐに開ける。瞬きをしたほんの一瞬のうちにどこから出したんだか、ジョッキに注いで飲んでいる。おい、俺の持ってきた酒以外にもたくさん酒があるんだけど、これもどこから出しやがった!?
「おい!!お前も飲め!!」
おっさんは俺にもジョッキを渡すと酒を注いでくる。俺は人化をしてるし、獅子王面を着ているとしてもスケルトンだ。酒に酔ってしまうことはない。しかし、人間だったころの記憶は無いにしても酒に酔っぱらうという感覚はわかる。だからこのジョッキの酒を飲んだらどうなるかもわかる。間違いなく度数が高いし多少ためらわれるが、武器のため防具のためと覚悟を決めてジョッキを傾ける。
「がははははは。いい飲みっぷりじゃねえか。お前なんてんだ?俺はドヴァルだ。鍛治の腕ならドワーフ族でも5本の指に入ると自負してる。武器防具なんでもござれだ!」
スケルトンである俺はともかく、すごい勢いで酒を飲んでいるドヴァルはどうして酔っぱらないんだろうか。
しかしながら、一応話も元の道に戻ったのでホッと胸をなでおろしてから自己紹介する。
「俺は、アルカナという。今日冒険者になったばかりで、武器も防具もない。ここでいいものがないかを見せてもらいに来た。あと、ドワーフ族というのを見てみたくてな。」
「おう!いいから飲め飲め。がははははは。俺の秘蔵の酒も出してやろう!ドワーフ族の火酒だぞ!」
それから数時間、俺とドヴァルは酒を飲み続け冒頭に戻る。
これも飲みにケーションか。
そんなこんなで気が付くと朝だった。スケルトンのときは眠気など感じたことはなかったが、人化している状態では、どうしようもなく眠い。人化のデメリットを一つ発見した。ステータス半減だけじゃなかったんだな。
隣ではドヴァルが今もなお酒を飲みまくっている。
ああ、だめだ。落ちる。
俺はこの世界に来て初めての睡眠に落ちた。
ダンジョンを出た後の一日は、こうして幕を閉じた。
朝(正確には昼過ぎ)起きると、俺はソファに寝かされていた。さらに俺の両腕は万歳した状態で固定されている。
その腕はだれかに触られているようで、なんだかくずぐったい。
まあ、触ってるやつはなんとなくわかる。ドヴァルだ。ごつごつした手は職人であることがよくわかり、経験を感じさせる。
「おお、起きたか。すまんな、いろいろと寸法を測らせてもらった。もういいぞ。すべて測り終わったからな。それにしてもいい身体してんな。驚いたぞ、その若さでそこまでの強さだとは。」
寸法ということは俺の装備を作ってくれんのか?それは嬉しいんだが、あのちょっとした攻防で俺の強さがわかるのか?
「俺がお前を強いって言ったのが気になんのか?俺だってそこそこ戦えるぞ。俺は自分で鉱山まで行って採掘してくるんだからな。弱くちゃこの町じゃやってけねえ。そんな俺の金鎚を、それもアダマンタイト合金の金鎚を受けて無傷なんだ、あり得ないほど強くないと割にあわねえ」
アダマンタイトだと?やはりあるのかファンタジー鉱石。てことは有名な魔法金属もあるんじゃないか?ミスリルにオリハルコン、ヒヒイロカネ。どれも一度は見てみたい。
――ハッ、今はそれよりも俺の装備を作ってくれるかを聞かねば!!
「なあ、ドヴァルさん、俺の装備を作ってくれないか?」
「やめい、やめい。ドヴァルでいいわい。それにな昨日も言ったじゃろう?気に入った、作ってやるってな。」
マジか、嬉しいけど。買うつもりだったけど、まさか一から作ってくれるとは思ってもなかった。とりあえずは買うだけ買って依頼でもしようと思ったけど、これなら待ってもいいな。
「まあ、ぶっちゃけ、お前の持ってきた酒はうまかったからな。あの酒分の仕事くらいはしてやるさ」
あー、あの酒そこそこしたもんな。ぶっちゃけ、高かったし。100000セル、金貨10枚したし。100万円くらいか。まあ、いい結果につながったし無駄ではなかったな。買ってよかった、高い酒。
「とりあえず、寸法ははかったが、希望はあるか?どんな武器がいいとか、防具は軽いのがいいとか、こうゆう効果がほしいとか、どんなスキル持ってるとか、何か言ってくれれば努力はするぞ。」
「ああ、俺は〔鎌術〕を持ってる。それと、軽い防具がいい、防御力としてはすでに足りているから、格好だけでいい。そうだな、自己修復なんてのが好ましいな。あとは、フード付きのマントでもあるといいな。」
俺がスキル名を言うとドヴァルの目が輝く。なんだ?俺は何か変なこといったか?
「鎌か……面白いスキル持ってるな。ちょうどいい、一つ見てほしいのがあるんだが、ちょっと待っててくれ。」
ドヴァルは店の奥に入っていく。ガタゴトと騒々しくひっくり返す音が聞こえ、ドヴァルが戻ってくる。その手には武器を一丁持っていた。
その武器は、俺が言った鎌、ではなく、斧に見えた。
俺が不思議なそうな顔をしているとドヴァルから声がかかる。
「おいおい、何つー顔してんだよ。これはしっかりと鎌だぞ?まあ、斧としても使える優れものだ。鎌の部分が両刃になってるからな。それを開閉することで斧にも鎌にもできる。それに、俺オリジナルの合金を使ってる。アダマンタイトより硬く、オリハルコンやミスリルよりも魔力伝導率も高い。名付けてドヴァル合金だ。神器といい勝負できるはずだ!合金の特許はとってある!!」
何のことだかわからないが、とりあえずすごい物ってことだけはわかるな。それより、特許ってことは配合比率を発表してるんだよな?まねされるんじゃないのか?
「まねされたりしないのか?」
「安心しろ。配合比率に関しては言ってない。商業ギルドは、ある程度の抜け道はある。ぎりぎりだけどな!」
ギリギリなのかよ。まあ、強い武器が手に入るならいいか。俺の責任じゃないし。
「てことでこれ持ってみてくれ。しっくりくるようなら、使ってやってくれ。」
俺は鎌を受け取り振り回す。それは不思議と手になじみ、自分の手足かのように自在に動く。少し振り回しているうちに、いくらか〔鎌術〕の技が頭の中で再生される。
これは、試してみる価値があるな。まあここじゃ無理か。
「よし、いいようだな。酔っぱらった勢いで作ったんだが、〔鎌術〕なんてスキル持ってるやつも習得しようなんてやつもいなかったからな、倉庫にいれっぱだったんだよな。ドヴァル合金をシャレにならんほど使っちまって困ってたんだ。」
「他の武器に変えればよかったんじゃないのか?」
「いや、ドヴァル合金の欠点の1つなんだがな。直しがきかないんだ。熱が通らんからな。インゴットの状態なら形も変えれるんだが、一回変えると武器の特性に必ず〔熱無効〕が付いちまってな。廃棄しか道はねえんだ。あ、ちなみに、この鎌は〔超速修復〕が付いてるぞ。銘は“大鎌斧イシュガル”だ。持ってってくれ。」
マジか、これは、かなりの強武器なんじゃないか。俺が〔鎌術〕を持っていることやドヴァルに気にいられたのは運がよかったと思っていたけど、この都市にきてから本当にうんが付いている。それにしてもいい腕だな、紹介してくれたフィンさんに感謝だ。
「それはいいとして、武器は決まった、あとは防具なんだが、これは一日くれ。明日には作っておく。マントもいいもんがあったはずだから、探しといてやる。」
そこから俺とドヴァルは少し話した後に作業に入るというのでイシュガルをもらって、特に値段のことは言われなかったが前金として、白金貨1枚をおいて、”竜の金鎚”を後にした。
宿をとりましょう。
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