第249話 長くて短かった島生活
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「ふぅ。これくらいで良いだろう。」
海から出て、マスクをいつもの獅子王面へと替えてから独り言つ。どうせ誰も聞いていないのだからサボってもよかったのだが、何となくそうは出来なかった。融鯨面の最終調整としては上々だろう。
一昨日、海龍王に《転移陣》の設置の許可を貰ってから俺は島を出る準備を本格的に開始した。元々、島を出るために必要な物資や土産などは用意していたので、あとは仲良くなった住民に挨拶をする程度だが、それが簡単に終わるわけはない。
島の住民との関係はまだ2か月に満たないほどでも俺を群れの一員の認めてくれていた者も多く、なかなかに強く引き留められた。
彼らには俺が根源種であることは伝えていないので、その役割など説明するわけにもいかず、なかなかに苦労させられたが、いくつか誰にも迷惑のかからない嘘をついて誤魔化した。
例えば、大陸に婚約者がいるとか、冒険者として俺の助けを待っている人たちがいるなど、実際はこの世のどこにもいない人間を登場させ、信じさせることで引き留めてはいけない空気を作ったのだ。
前半の村人たちは最終的に俺を送り出す決断をしてくれたが、その仲間意識に俺の涙腺は崩壊間近だった。
俺が仲間と言えるのはレイアだが、群れと言えるものはこれまでいなかった。ダンジョンで最初にあったスケルトンはそう言えるかもしれないが、彼(彼女?)はすでに故人である。〔骨壺〕に姿を変えた状態で存在しているがその事実は変わらない。
挨拶も後半に差し掛かったところで、『スパイダーシルク』のヤンの元へと向かい、いくつか注文しておいた〔海王の棲み処〕で手に入れた魔物のマスクを受け取り、ついでに挨拶をすると、彼女からも猛烈に引き留められた。
彼女が言うには、俺は『これまでになかった依頼をしてくれる貴重なお客』なんだそうだ。たしかに言っていることは分かるのだが、そこは嘘でも寂しいとか言ってほしかったと思った俺は悪くないはずだ。
まぁ、彼女にとっては客と職人という立場が一番付き合いやすい形だったのかもしれないが。
ヤンの元へと行って挨拶をした後は、ガルガンドの元に行った。彼ら竜宮氏族はあれからミザネ村長の社へと集合し、みんなして刀術の鍛錬を行っている。どうやらガルガンドがうらやましくなってミザネ村長に頼み込んだらしい。
ガルガンドはそんな我儘を言う氏族に困った顔をしながらも目を輝かせていたようだ。自分一人で新たな技術を学ぶよりもみんなで学んで海底でも切磋琢磨できる方が良いと考えたのだろう。
竜宮氏族の者たちとは模擬戦闘訓練や海と陸の魔物談議などでなんだかんだと仲良くなったので大勢に引き留められたが、そこはガルガンドが長としてうまく仕切ってくれた。
「こらこら、アルカナ殿も大陸に戻りやらねばならぬことがあるのだろう。そんな男の旅立ちを妨げることがあってはならぬ。私たちはそれを暖かく見送ってやるのが一番のはなむけになるのだよ。」
ガルガンドにそう言われてはそれ以上引き留めることはできずに、俺は送り出された。元々は竜宮氏族の姫を釣り上げたことから始まった奇妙な縁だったわけだが、こうしていざ別れの時が近づくと本当に寂しい気持ちになる。
これで《転移陣》の設置を許可されなかった場合は、もっと寂しい気持ちになったことは間違いないだろう。王都ベルフォリアまで移動した時は、ここまでの寂しさを感じなかったのは、同じ大陸にいるという認識があったからかもしれない。
親しくしていた者たちに挨拶した後は、適当に村を歩きながら会う人に村を離れるつもりであることを伝えて回る。ここら辺まで来ると、すでに顔見知りですらない者までいるが、『村の外から来たスケルトン』ということで有名な俺は、知り合い未満の者にも残念に思ってもらえるようだ。これはこれでうれしいね。
と、あいさつ回りが終わると、俺も暇になったので別のことをする。挨拶以外には主に買い物や武具の整備、マスクの調整などを行う。
物々交換が主な村では、こちらも何かしらの物品を出さなくてはならないのだが、こういう時に大陸で集めていた魔物の素材や肉、不要なダンジョン産の武具、俺やシュツェンが食べない分の魔核などが使えるのだ。
俺は主にシュツェンが食べる用の食事と大陸で待っているだろうレイアやその従魔の飛竜へのお土産などを買う。
シュツェンは龍の因子を持っているからか食事の量は多くない。魔力で十分に腹を満たすことが出来るらしい。詳しいことは分からないので、次に学園長に会えたら聞いてみたい。
この島がダンジョンであることから、意外に貴重な素材なども多く存在し、ゴブリン族が保有する宝石などはめったに見られないほどの純度で、こちらはレイアへの土産としていくつか選んでおいた。
彼女の瞳の色と同じピンクダイヤモンドは中でも特に美しく、きっと彼女なら素晴らしいアクセサリーにすることだろう。俺は細工職人の知り合いがいないので加工は任せるしかないからな。
飛竜には適当に肉を用意した。
武具の整備とマスクの調整はどこまで行っても自己満足の域なので、ほどほどに満足するまでやって終わる。そうじゃないといつまでたってもいじり続けることになるからな。
イシュガルや防具なんかは海中で使ったので念入りに拭き取って磨いたが、ドヴァルの作だけあってどちらもほとんど整備が要らないほどであった。そう言えば防具に関しては〔自動修復〕の特性があったわ。
さて、何となく装備の点検やマスクの調整は砂浜で海を見ながら行ったわけだが、時間はいつの間にか日が暮れそうだ。
明日の準備もすべてが終わったことだし、そろそろ家へと帰ろうか。
俺は砂浜に広げていた物をすべて回収して〔骨壺〕に仕舞うと村へと向かう。やたらと複雑な結界を抜けて村にはいると家への道を進む。途中で畑区画へと寄り道して野菜の収穫をするのも忘れない。
実は今朝、メアリーにとって帰ってきてほしいと頼まれていたのだ。
流石ダンジョンという感じで季節関係なく収穫できる野菜を両脇に抱えて歩いていると、オークファーマー兄弟に遭遇した。
「あんれ?スケルトンさんでねぇか。これから買えりだぎゃ?んならこいつを持ってくと良いだがや。」
「それが良いぎゃ。オラたちが獲ったやつでなくて別のオークの釣果だけんど、うまい奴だからメアリーちゃんも喜ぶはずだぎゃ。」
オークファーマー兄弟が渡してきたのはやけにでかい魚で、1mは越えるサイズはこれまで見たことがないものだった。
見た目は鮭に似ているが受け取って触れた感じ鱗がないみたいである。すべすべとした触感は不思議だったが、うまいというなら礼を言っておくしかない。
「ありがとうな。さっきも言ったけど、俺はこの島を出るからさ。おいしく食べさせてもらうよ。」
「そうだったがや?まぁ、うまいのは間違いねぇべ。」
「んだ。島での最後の晩餐を楽しむだ。」
オークファーマー兄弟はそう言って去っていく。この島に流れ着いて初めて会ったのが彼らの訳だが、最初はオークがここまでフレンドリーであることに疑問を持った。しかし、過ごしていくうちにこれがここでの普通なのだと理解して、それからは何も疑問に思わなくなった。
意外なことに彼らはそれぞれ家庭をもって子だくさんの家系を支える大黒柱なのだ。それぞれ、兄はエルフの嫁を持ち三男一女のパパ、弟はドワーフの嫁を持ち二男三女のパパである。嫁さん頑張った。
と、思いがけぬ収穫があって荷物を持ちきれなくなった俺は仕方がなく貰った魚を〔骨壺〕に仕舞い、野菜を抱えなおして歩き出す。
***
そこから家までは然程時間がかかることもなく到着し、いつものようにシュツェンを横に見て中に入ると、すでにいつものメンバーがそろっていた。
「あ、おかえりなさい。」
「お邪魔してます。」
「ああ、ただいま。ここに来るまでに大きい魚を貰っちゃったよ。」
俺に気が付いたソフィアとキョウカに声をかけられて、道中で手に入れた食材を見せる。野菜はいつもと同じなので、台所にさっさと置いてしまうと、〔骨壺〕からオークファーマーから貰った大きな魚を取り出して、見せる。
俺には何の魚か分からなかったが、海に棲むソフィアや村で何度も食べているだろうキョウカはそれが何かわかったようだ。
「すごい!おっきいスネークサーモンね!ちょうど今が旬だし、くれた人はセンスがいいわ!」
「これって村でもなかなかお目にかかれない魚ですよ?オークの方に予約して融通してもらわないと村長でも難しいくらいですもの。」
ソフィアはただのおいしい魚というイメージのようだが、キョウカにとっては非常に珍しい魚という認識らしい。俺としても初めて見る魚なので期待をしていたが、想像以上だったらしい。
「スネークサーモンか。」
名前を知ってからじっくりと見ると、どことなく蛇のような顔をしているような気がしないでもない。体が長いというわけではなく、普通に大きい魚という感じなので、蛇っぽいところは顔立ちくらいなのかな?
まぁいいやとそれを厨房まで行ってメアリーに渡す。調理する際に面倒を減らすために〔骨抜〕ですべての骨とついでに内蔵を取り除いた上で腹を裂いて一枚にするとそのまま直接まな板にゴー!である。
三枚におろすののではないので、余すことなく食べることが出来るこの方法は、移動中に魚を調理する際にレイアに褒められた技術である。
「感謝...。」
「こちらこそ、いつもおいしい料理をありがとうな。今日の骨も期待してる。」
メアリーに礼を言われたので、俺はスキルで取り除いた骨と内臓を別の器を取り出して入れると感謝と共に手渡した。いつも普通の食事とは別に俺専用の骨料理を作ってくれるメアリーには感謝しているのだ。
メアリーは嬉しそうに調理を開始する。俺がこのままここにいたら邪魔になってしまうからな。ソフィアたちの元へと戻ろう。
俺が戻ると二人とも食卓の席について料理が運ばれてくるのを待つ姿勢だ。メアリーが一人で料理をしているのだから、そんなに早く来るわけもないのに準備の早い奴らである。
と言いつつも俺も同様に食卓について待つつもりなのだけどな。
俺が食卓に着くとソフィアが先ほどの魚について追加で情報をくれる。
「ねぇ、アルカナはあの魚のことを知らないみたいだから、少しいいことを教えてあげる。スネークサーモンって、実は魔物ではないの!でも、生きている時は魔力を感じるの。不思議でしょ?」
ソフィアが言った言葉の意味を考えるも理解できずに聞き返す。キョウカも知らないようで、驚いている。
「死んじまえば魔力を感じなくなることはよくあることだしなぁ。生きている状態を知らないから何とも言えん。」
「そうですね。浜に打ちあがるスネークサーモンは基本的に息がないですから。釣り人が釣ることもめったにありませんし。」
俺たちがピンと来ていないことに不満があるのかソフィアはより細かく説明する。
「スネークサーモンは鱗がない代わりに体表面に不思議な層を持つの。その層に魔力を溜め込むことで自分の存在を大きく見せて周囲を威嚇するんだって。」
「要は、自分が魔物であると周りに誤解させるってことか?賢いというかずるいというか。」
「すごいですね。魔物ではない動物が進化の糧に手に入れた防衛能力ってことですか。」
「ずっと魔物だと思われていたから竜宮氏族を含めて人魚や魚人の中でも食べられ始めたのは最近なの。魔物だと下手に手を出して怪我しても困るのだもん。」
魔力をその身に宿しているというわけではなく、ただとどめているだけだから魔物ではないわけだが、進化の仕方が魔物に近いのは不思議だな。
その皮を使えば、何か特別な魔道具当たり創れそうなもんだが、知り合いに魔道具師などいないので考えても詮無いことだ。
さて、そんな感じでスネークサーモンについて話をしていたところで、厨房からメアリーが料理を絶妙なバランス感覚を発揮して両手に持って現れた。それをすかさずキョウカが受け取って配膳していく。
なんだかんだでこの光景も見慣れたもので、もうすぐ見れなくなると思うと感慨深い。
「準備完了...。」
「ありがとう、メアリー。それじゃ、食べようか。っとその前に俺から乾杯の挨拶をさせてもらおうかな。」
「え?なんで?」
「まぁまぁソフィアさん。まずは聞きましょう。ね?」
ソフィアが不思議そうに聞いてきたが、キョウカがそれを止めて俺に続きを促す。どうせ無視して話し始めるつもりだったので気にしない。
「あー、俺が島を出る前に君たちには感謝を述べておきたい。
まずはメアリー。メアリーには島についてから宿無しの俺を泊めてくれた恩がある。まぁ、村長が言うから従わないわけにはいかなかったのかもしれないけど。なんてな。
衣食住のサポートを受けることで俺は自分のやるべきことに専念できたし、偽物の海龍王との戦いにおいては得意でもない戦闘までやらせてしまった。本当にありがとう。
次はキョウカ。君には村での仕事面でのサポートを何度もしてもらって感謝している。俺はこの村においてはどうしてもよそ者だった。それを懸け橋となって助けてくれたことは忘れようもない。
君はまじめな性格だし、俺を放り出すことが出来なかったというのもあるだろうが、俺はそんな君の性格に何度も助けてもらったよ。ありがとう。
最後にソフィアだ。ソフィアには竜宮氏族との繋ぎを任せた時、本当に不安だったが、しっかりとガルガンドを引き合わせてくれたことに感謝するよ。出会いが釣りと少々奇縁ではあったけど、あの相方をしたからこそお互いに遠慮ない関係が創れたのではないかと思う。
ソフィアにも偽物の海龍王との戦闘などではずいぶんと世話になった。ソフィアがいなければ俺たちは使者が偽物であることも分からなかったかもしれないし、海龍王が本物であると誤認していただろう。今回の勝利はソフィアによるものだ。」
俺が真剣に三人に対する感謝を述べると誰も次の言葉が出てこないほどに固まった。どうやらまじめに礼を言われることを想定していなかったのか、脳みそがキャパオーバーしているのかもしれない。
一番に再起動できたのは順当にキョウカだった。
「ハッ!こんな真剣にお礼を言われるなんて想像もしていなくて意識が飛びかけました。こちらこそ、スケルトンさんには感謝していますよ。村であそこまで肉を卸し続けることが出来る狩人は数えられるほどしかいません。情報もいただいてしまいましたし、私もこれからはスケルトンさんみたいに大量に肉を卸せるように精進していきたいと思います。
ありがとうございます。アルカナさん。」
キョウカが最後に初めて俺の名前を呼んだ。村人たちのほとんどが俺のことを「スケルトンさん」と呼ぶ例に漏れず、彼女もそうだったので、強く衝撃を受ける。
どことなく距離感を感じる「スケルトンさん」から脱することが出来たのは僥倖だった。
次に戻ってきたのはメアリーである。彼女はいつものように言葉を紡ぐ。
「こちらこそ、感謝、します。私の家に、来てくれてありがとう。」
キョウカと比べれば少ない言葉数ではあるが、その内容には非常に驚いた。これまでは簡単な単語か定型文のような言葉しか話さなかったのに、とぎれとぎれにでも文章でしゃべってくれたからだ。
「め、メアリー?言葉が話せるように?」
「??」
あまりの衝撃にメアリーに確認を取ろうとするも彼女は俺が何を言っているか分からない様だった。そこで助け舟を出してくれたのはキョウカであった。
「アルカナさん、もしかしてメアリーさんの言葉が理解できています?」
「あ、ああ。しゃべれるようになったみたいだ。」
「違いますよ。それはおそらくアルカナさんが〔魔物言語〕を習得し始めたんですよ。」
確かに以前、メアリーと普通に会話するなら〔魔物言語〕が必要だという話は聞いた。つまり俺はスキルを習得したということか?と思ったら少し違うみたいだ。
「〔魔物言語〕を習得するまではもう少しかかると思います。今は潜在的にスキルが発言しただけですから。」
「なるほどな。まぁ話せるだけでも十分だ。な?」
「ええ。話ができる、それだけで、嬉しい、よ。」
メアリーも俺と同じでスムーズな会話がうれしいと感じてくれているらしい。どうしてもこれまでは一拍考える時間が必要だったからな。
「ッ!ちょっとアルカナ!いきなりお礼を言うなんてびっくりするじゃない!かと思ったらメアと喋れるようになるし!あんたってば忙しないわね!」
最後に戻ってきたソフィアがまくし立てるように言った。驚かせたのは悪いと思うが、正直に自分の気持ちを話しただけでおかしなことはしていない。
「でも、言いたいことは言っておかないとな。俺ももう島を出ることになるわけだしさ。」
「そ、そう。でも《転移陣》?を設置するんでしょ。それならいつでも来れるじゃない。」
ソフィアは口をとがらせて拗ねた。でも、それはできないのだ。
「《転移陣》があってもまだ開通してないからね。それに簡単に開通できるようにもできないんだ。誰でも使えるようでは問題があるからさ。」
「そうなのね。」
ソフィアは納得してくれたが、今度はだんだんと顔を赤らめながら次の言葉を紡ぐ。
「それなら、あ、あたしも感謝の言葉を伝えないとね!
あたしは竜宮氏族の長の娘として窮屈だとずっと思ってきたの。遠くに行ってはならない。別の種族とは喧嘩してはダメ。好き嫌いはダメ。戦闘に参加してはダメ。他にもあるけど、とにかく刺激の足りない毎日だった。
ソレがアルカナに釣られて一変したの。もちろん釣り上げられた時は如何してやろうと思ったけれど、下手に敵対しなくて良かったとは今になって本当に思う。
そこからもお肉のダンジョンとか、レヴァ様や使者の偽物との戦いとか、海にいるだけじゃ体験できないこともできたもの。
・・・・・・うん、やっぱり、アルカナに会えて本当によかったよ。ありがとう。」
「ソフィア。」
「でも一番はおいしいお肉を食べられたことかなぁ♪」
せっかく感動的だったのにこれじゃ意味がないじゃないか。でも、まぁ、明るい雰囲気になったのは、ソフィアの性格の為せる業なのかもしれない。
「うん、みんなにはいろいろと迷惑もかけたし本当に感謝している。俺は島を出るから、これが一緒に食べる最後の食事になると思う。でも、俺はまた、この島に戻ってくるから。その時はまた一緒に飯を食べよう!乾杯!」
「「「乾杯!」」」
俺たちは手に持ったグラスを掲げてチィンと鳴らす。
そして、食事会が始まった。断言しよう、この食事会はいつもの数倍楽しかったと。
***
そして翌日。俺は砂浜にいた。村の正門前の砂浜には、村人たちが勢ぞろいで、竜宮氏族や海龍王まで来ている。さすがに日光が苦手な種族とかは来ていないがそちらは昨日の時点で挨拶してあるから大丈夫だ。サキュバスクイーンの彼女にはいろんな意味で世話になったからな。
「それじゃ、みんな。俺は行くよ。〔換装〕融鯨面。〔人化〕。」
俺は獅子王面から融鯨面へとマスクを変えてみんなの前に立つ。鯨の魚人というのもおかしい気がするが、そんな姿の俺は最後にミザネ村長と握手を交わした。
「アルカナ様。この度は我が村を救ってくれたこと、誠に感謝いたしますぞ。一度ならず二度までも。我が村ではアルカナ様の偉業をいつまでも称えて行こうと思いますのじゃ。」
「いや、そこまでしなくていいよ。こちらこそ、村に滞在している間も良くしてもらってありがとう。すぐにとは言えないと思うけど、また必ず来るからさ。その時はまた受け入れてくれると嬉しいな。」
「もちろんじゃ。」
俺とミザネ村長はもう一度硬く握り込むと満足したように手を放す。この世界では『握手した後にもう一度強く握る』というのが『指切りげんまん』に該当するらしい。
「骨の王よ。」
俺とミザネ村長の別れの挨拶がすんだら今度は海龍王レヴァルトラーネだ。彼はこの数日の間、俺に【加護】に扱い方のレクチャーをほんのりとしてくれたし、そもそも【加護】がなくては脱出もできなかっただろう。もろもろの意味で感謝している。
「貴様には大きな役割がある。しかしな。我ら神獣が一体ではないように、貴様らも一人ではない。三人がお互いに補い合うことが前提の関係だ。決して一人で何でも解決しようとするではないぞ。
出来ないことは他者の手を借りることで解決しても良いのだ。貴様にはそうしてくれる仲間がおるであろう?
無論、そこなライノもな。」
レヴァは俺の隣にいるシュツェンを見てほほ笑んだ。どうやら龍因子が海龍王に孫を見るような眼をさせるらしい。
「ぎゅい~」
「ああ、よろしくな、シュツェン。レヴァもありがとう。みんなも!ありがとうな!」
シュツェンを一撫でした後に俺は村人たちに最後のお礼を言うと、縄をもって海へと歩き出す。そしてその縄のつながった先には大きな木製のボートを押すオーク族の屈強な男たちの姿があった。もちろんボートの中にはシュツェンが乗っている。
俺は【加護】によって島の外の海流を抜けることが出来てもシュツェンはそうじゃないからな。そのためのボートだ。俺の筋力でならシュツェンを乗せた船くらい難なく牽いていける。
そして、船が海へと着水すると、いよいよ出航だ。俺は二か月近くいた島を出てエルフの国に向かう。レイアと合流するのが第一目標だ。
さて、行くか。
「それじゃ、行ってきます!」
元気よく挨拶した俺は泳ぎだす。
ああ、早く「ただいま」と言いたいものだ。
詰め込んだせいで少し長くなりましたが、次に別のヒトの話を挟んで新章になります。
また、新章突入の前にストーリーを組み立てストックを作る期間を設けます。それにあたって少しの間、更新が止まるかと思います。
その代わりに書き上がった新作を次話の前日17時に投稿します。そちらもお読みいただけると作者が喜びます。
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拙作を読んでいただきありがとうございます.
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