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第248話 相談


「じゃあ、遠慮なく話させてもらう。実はミザネ村長に折り入って頼みがあるんだ。」


俺は遠慮することなくミザネ村長に頼みを話す。これは今後のことではあるが、どうしても俺個人の事情を優先することになるので、承認されるかわからないことだ。

しかも、最終的にはこの島の庇護者である海龍王にも承認を得なければならないと考えていたので、その当事者がここにいるのは少々、都合は悪かった。


場所を移動して話をするつもりでいたし、実際、ミザネ村長もそのようにしてくれそうだったのを海龍王に潰されてしまったのは残念だ。

まぁ、手間が省けたと考えればまだマシだが、ミザネ村長をこちらサイドに引き入れた後に海龍王に話を持って行こうと思っていた身としては、策を練る必要があるかと考える。


頭の中で出来る限り希望の形に持って行けるようにいろいろと考えつつもミザネ村長に話を振る。


「実は、近いうちに俺はこの島を出て、大陸へと戻ることになるだろう。だけどさ、この島に二度と来れないというのも寂しいだろ?だから、ここに戻ってこれるようにしてはダメかっていう相談なんだ。」


俺の相談事というのは、俺がこの島を出た後も島へと立ち寄れるようにしてはいけないだろうかというものだ。

今言った様に、ここを出てしまったらもう戻れないというのは寂しいじゃないか。せっかく村のみんなとも仲良くなったのにさ。

もちろん、この島が隠れ島であることは理解しているし、自分が行き来する以外には他者に広めることをするつもりはない。

そんなことをさらに連ねて語ると、それを黙って聞いていたミザネ村長は静かに口を開いた。


「ふぅむ、アルカナ様がこの島と大陸を行き来できるように、ですか。それは儂の裁量を越える案件ですな。

確かに、アルカナ様はこの島の住民や竜宮氏族とかなり親しくなりました。神の襲撃や海王の件でアルカナ様を神聖視している村人まで出ているのは聞いておりますのじゃ。

儂としても気軽に立ち寄ってくれるのであれば、いろいろな意味で助かるとは思うのじゃが、さすがに儂の裁量を越えておりますな。

儂は海龍王様にこの島を紹介してもらった恩もある。漂流している者を流れ着かせてもらったりと、返し切れないくらいじゃ。

アルカナ様としては、儂を味方に引き入れた後、本丸を落とす心積もりだったのじゃろうが、すまぬがそれは出来ぬ。儂にできるのは反対をせぬということくらいかのぅ。」


ミザネ村長は申し訳なさそうにそう言った。俺もこの件が村長の裁量を越えるということは十分に理解している。

俺の心算まで見透かされているのは驚いたが、それは仕方がない。生きている年数が違うのだ。経験値の差だろう。


結果として味方に引き入れることは不可能であった。しかし、敵にはならないという言質を取ることが出来た時点で十分だ。海龍王の説得にプラスのポイントになることは間違いない。


のんきに飯を食べている海龍王レヴァに視線を向けると、彼は旨そうに昼食を食べてから、コチラに体ごと向ける。


「ズズズゥ...。フゥ、話は聞いていた。まぁ、そんなところであろうとは思っていた。その話を持ってくるのが少し遅いくらいだ。

確かに我はこの島をミザネに与えた。どうせ我が所有していたところで、未開の地として魔物が跋扈する島になっていただけだろうからな。

本来なら自由にせよというべきところなのだが、魔物が平和に住まう隠れ島という性質上、そう簡単に行き来されるというのもよいことではないのだ。」


茶を飲んで答えた海龍王は俺に対して鋭い視線で島をミザネ村長に与えた経緯を話す。それは以前、ミザネ本人から聞いていたので初めての驚きはない。

簡単に行き来、とは言うが、隠れ島であることが重要なのは俺も理解しているつもりだし、そこはルールを決めることで対応できると思う。


「俺も冒険者だったり、骨の王だったりと忙しいから、頻繁に行き来することはないさ。もちろん誰かを連れてくるってこともない。息抜き程度に来るだけさ。だから、許してはくれないか?」


俺がこのミザネ村と大陸とを行き来するには、【加護】を貰ったマスクで泳ぐか、〔魔法陣魔法〕で《転移》するしかない。泳ぐのは出来れば遠慮したい。

俺としてはこの島に来るメリットはいくつもある。もちろん息抜きというのも本当だが、食肉区画での肉や素材の確保、ヤンへのマスク製作の依頼など他にもいろいろとある。


「クククッ、本音を話すが良い。それを分からぬ我ではないぞ?貴様の本心を見抜けぬと思うたか?」


俺の考えはお見通しで、海龍王はすべてを話せと言う。まぁ、隠すようなことではないし、全部吐き出してしまおうか。


「あ~、分かった。全部話すから検討はしてくれよ?」

「最初からそうするれば良いのだ。」


若干不服そうな海龍王に俺は密かに考えていた計画を話す。


「まずはこの島でとれる食肉に関して冒険者ギルドに卸すことを考えている。ダンジョンでの狩りは大陸でもあるが、ミザネ村みたいに肉に特化したダンジョンは他にはない。同じ量を手に入れようとすれば、どれだけの時間がかかるかわからないのが現状だ。

ここで狩りができれば、いざという時の食料の調達は不要になるし、場合によっては食糧難の国や街に支援することも可能になる。

俺は骨の王として、人でも魔物でもない者を狩るのが仕事だが、人を救ってもいいだろ?」


俺の一つ目の答えを聞いたミザネ村長と海龍王レヴァは別の反応を示す。ミザネ村長はありがたい言葉を聞いたかのように目を閉じ、海龍王は目を丸くして驚いて見せた。


「さすがですのぅ。———そのような志の者が一人でもおれば、我が故郷も飢餓に苦しむことはなかったであろうに。」

「!まさか、その様な考えを持つ根源種がいるとはな。代を重ねるのを見届けてきたが、貴様のような骨の王は初めてだ。他者のためになぜ働けるのだ?」


俺は自分でも節介を焼く性分であることは理解している。それが少しばかり広い範囲になっただけで、特におかしいことをしているつもりはないんだがな。

まぁ、そんな性分になった理由は一応あるし、一応質問には答えておくか。


「特に理由はないんだけどさ。俺はダンジョンで生まれた時、一番最初にあったスケルトンに救われたんだ。助けられたってわけじゃなくて、ただ挨拶してもらっただけだが、それだけで、十分救いになったんだ。

ソレを俺が自分のやれる方法で他人に分け与えているだけなんだよ。それ以上の深い意味は存在しねぇ。少なくとも俺はそれだけの理由で動いてる。」

「なるほどな。」


俺の答えが、質問の答えとして適当だったかは分からないけど、海龍王はそれを聞いて納得をしてくれたので、これで良かったのだろう。

安心した俺は、次の計画を話す。


「他にも考えていることはあるぞ。この村に貨幣を広めようかと思ってな。価値の共通化は非常に大事だと思ったんだ。

この島で物々交換をした際に、ゴブリン族の細工師が出した対価には驚かされた。明らかに貰い過ぎだったからな。

この村では一部の店を覗いて貨幣は使えない。基本的に物々交換だ。これで十分だったのは分かるが、今後、俺が島と外の懸け橋として商売ができるようになればそうも言ってられなくなる。

俺はこの島の商品を買い付けて外で売ろうと思っている。細工や服飾、武器や防具に至っても、そこらの店よりも出来は良いからな。」


俺はこの島で最初に俺と取引をしてくれたゴブリン族の青年を思い出す。彼はそれでいいと言ったが、あれは明らかに俺に有利過ぎる取引で、今でも心のどこかで引っかかっていた。そう言った不利な取引を無くすためにも、貨幣を導入して価値の共通化をすることが大事だと思ったのだ。


「貨幣の導入には儂も賛成ですな。我が村は元は物々交換のみで賄ってきましたが、ここ数百年で移住してきた者は慣れるまで苦労しておる。貨幣を学べば、村全体の水準が向上するはずじゃ。」

「ミザネもそう思っておるのか。我は貨幣というものに詳しくはない。が一考の余地ありとは思っておった。ガルガンド達も導入を考えていると言っておったしな。」


どうやら竜宮氏族も貨幣制度の導入には協力してくれそうだ。それならとより後押しをする。


「貨幣があれば、小遣いやお年玉なんてこともできるぞ。」

「ほう?なんだぞれは?」


俺は小遣いやお年玉のことを海龍王に説明する。ソフィアの話だと海龍王レヴァはどこかおじいちゃんのような行動をしているらしいので、これを伝えればより前向きになるかもしれないと考えたのだ。


「なんと!?そんな制度が...————ふむ、素晴らしい。その小遣いやお年玉とやら、気に入った。」


海龍王からの感触は抜群だった。孫を思う爺さんのような声を出して想定以上に食いついたので、畳みかけるように言葉を続ける。


「貨幣を増やすと言っても島独自の貨幣となると新しく来た村人が困惑するだろう。それを避けるには、外貨を取り込むことが大事だと思っているんだ。

ってことで、どうかな?俺の〔魔法陣魔法〕で《転移陣》を設置させてもらえればいいんだけど。」

「くふふふ。良かろう。貴様の甘言に踊らされてやろうではないか。決して我が子らに小遣いをあげたいというわけではないぞ!」


こうして俺の提案はほとんどペナルティなしで通ることとなった。国をまたぐ取引ではほとんどの場合で関税などが掛かるが、この隠れ島では税などないので、関税ももちろんない。

俺にとっても村にとっても良い取引ができる下地ができたと内心で笑う。海龍王も納得してミザネも理解を示してくれた。もう怖いものはない。


「アルカナ様。良かったですのぅ。これで、自由に村と大陸を行き来できるのじゃ。魔法陣は今使っている家に設置してくだされ。そこに特別な設定をしておきますのでな。」

「分かった、ありがとう!」


俺はミザネに礼を言って、海龍王に挨拶をした後、家へと戻ることにした。大陸との行き来に必要な《転移陣》を設置するためだ。しかし。


「待て。」


いざ立ち去ろうとしたところで海龍王から引き留められる。その声は先ほどの孫を思う爺さんのような声音をどこにやったのか、真剣そのものだった。


「まだ何かあるか?俺はすべて話したけど。」

「いや、そうではない。先ほど貴様は、『誰かを連れてくることはない』と言ったが、それについては守る必要はないと告げておく。」

「はぇ?」


俺は海龍王の言葉の真意が分からずに呆けた声を出してしまった。海龍王はそんな俺にかまわず話をつづけた。


「際限なく連れてこられるというのも困るが、この島はまだまだ発展途上だ。ミザネ村があるのも島の10分の1程度の範囲でしかない。村人を増やしても構わぬと言っておるのだ。」


なるほど。要はこれまで海龍王が一人でやっていたことを手伝えと言っているのかもしれない。

冒険者として各地を巡る中で、不遇な存在に出会うこともあるだろう。それをこの島へと誘ってもよいと海龍王は言っているのだ。


「もちろん、その新しき民の見極めは貴様がするのだぞ。」

「ああ。分かっている。そうか。ありがとう。そんな人を見つけたらこの島のこと伝えてみるよ。土地が足りなきゃ俺も手伝うしさ。と言ってもダンジョンを広げる方法は知らないんだけどな。」

「それでも助かるのじゃ。」


これで、俺がミザネ村と大陸を行き来する許可が正式に降りた。それどころか新しい村人を招待する権利まで与えられたことになる。一時的に村に所属した程度の俺には過分な待遇だが、俺の性格からしても役に立つ権利だろう。


「じゃあ、俺は魔法陣を設置しに行くよ。ここで作っても別の魔法陣がないと意味はないけど、それは大陸に戻ってからどうにかするさ。

そうだ。もし大陸に行きたい場合も使ってくれてもいいぞ?」


俺は親切のつもりでそう言ったが、それは海龍王とミザネに首を振られてしまった。


「それは出来ぬな。」

「そうですな。ここと大陸をつなぐ《転移陣》を使用するには、村人では魔力が圧倒的に足りぬでしょう。儂やレヴァ様、その他数人と言ったところでしょうが、帰村できなければ意味がないのじゃ。」


言われてみれば《転移》は莫大な魔力を消費する。普通は簡単に使えないんだったな。忘れていたので素直に謝罪して、今度こそ社を後にする。とりあえず、今日のところは“スパイダーシルク”やゴブリン族の工房なんかにも顔を出して仕入れもしないとな。


そしたら明日は【加護】の練習だ。もう少しで何かつかめそうなので、集中してやってみよう。


俺は自分が思っていた通りに進んだ事態に満足しながら滞在先の家へと一路駆けていく。


余談だが、《転移陣》は俺が使わせてもらっている寝室に設置することに決定した。どうやら、メアリーの住むあの家には主人が使っていた寝室にのみ状態保存の〔魔法陣〕があり、魔法陣を設置するにはそここそ都合が良いとなったからだ。

まぁ、メアリーも納得してくれているから、遠慮なく設置することにする。


あ、今日は出来ないんだけどね。魔力を限界まで使ってしまっていたのを忘れていたからさ。



























旅立ちでしょう


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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