第247話 数日後
海龍王を名乗る偽物や海王との戦い、そして海王のダンジョンを攻略してから数日が経過した。
あれから特に騒動が起きるでもなく、ミザネ村は以前のような落ち着きを取り戻していった。
海底の竜宮氏族との間にあった距離は、この騒動によって縮まり、村には人魚族の姿もちらほらと見かけるようになった。
というのも、いまだに村に海龍王が滞在しているというのもあるのかもしれない。
俺はのんきにミザネ村長の社の軒下でくつろぐ海龍王を見て、その威厳の感じられない姿にため息が出かけるも何とか飲み込んで、声をかける。
「なぁ、そんなにくつろいでいていいのか?後始末なんかを配下に任せてきたんだろ?」
海龍王レヴァルトラーネは俺の質問に対して、なんてことない様に返した。それはさも当然とばかりの発言だったが、真実は分からない。
「ふむ、我が配下は仕事が好きな物ばかりなのだ。今も喜んで仕事をしてくれているだろうよ。我はそれを褒めるのが仕事なのである。」
グータラしている神獣に何とも言えない気分になりながらも、その言葉を聞いたので、視線を戻す。視線の先にはミザネ村長とガルガンドが刀術の訓練を行っていた。
どうやらミザネ村長がガルガンドに指導しているようで、その指導は適格だ。俺も獲物が鎌じゃなければご指導賜りたいと思ったかもしれない。
俺はダンジョンを攻略した後、何とか村へと帰還したが、その時点で村では宴が開かれており、有無を言わさずに巻き込まれた。
村へと入った時点で俺は、獅子王面で〔人化〕していたためしこたま酒を飲まされた。しかし、戦闘で長時間、張り詰めた空気の中にいた俺は最大限に宴を楽しむことが出来た。
海龍王レヴァもかなり酔っぱらっており、加護の話などできる状態ではなかったため、それは次の日に持ち越されたのだ。その分、宴を楽しめたので文句はない。
そして、宴の翌日、酒の結果かぐっすりと寝たことで完全に回復した俺は、海龍王にルトワァールのマスクを託し、【加護】を賜った。それはシンプルな効果を持った【加護】だったが、扱いが難しく練習が必要になった。
今日も【加護】を扱う練習をした後の今なのだが、俺としてはコツなどを教えてもらおうと社にきて、大したヒントもなく時を過ごしている。
「骨の王よ。貴様は我が与えし加護は掌握できたのか?」
ニヤリと笑ってそう言った海龍王に俺は若干苛立ちながらも否定する。分かっているのに聞いてくるのは意地が悪い。
「まだだ。どうにも難しくてな。〔水魔術〕とも違うのは分かるんだが、うまいこと扱えない。」
「フンッ我が加護がそう簡単なはずもないが、まぁ、素養はあるだろう。先ほど水を通して様子を見ていたが、あとは回数を重ねるだけだ。慣れというのは何にしても大事だからな。」
どうやら俺の練習を見ていたらしい海龍王からアドバイスを受けたようだ。何を言われているかを理解できなかったが、理解すればうれしいものだ。
もう少しで、この島を出ることが叶うかもしれない。問題はシュツェンをどうやって連れて行くか、なのだが、それは如何とでも成りそうだ。
「ありがとう。もっと練習してみるよ!と言いたいところだが、もう魔力がすっからかんだ。最低限しか残ってない。練習はまた明日にするよ。」
「それが良いだろう。焦ってもいいことはない。」
海龍王が言うと馬鹿に説得力があるのは焦ったところを想像できないからだろうか。とにかく俺は今日のところは練習するのはやめて、他のことをする。
俺がこの島を出るということは、二か月弱の間、俺が担っていた狩人という役割を誰かに引き継がなくてはならないからな。まぁ、元のさやに戻るだけかもしれないけど。
俺は社を後にしてキョウカを探す。俺の狩人という役割は彼女から引き継いだものだからだ。元々は彼女が食肉区画で狩りをしていたと聞いている。
村人に聞きながら彼女を探していると、村の中央広場にいるとのことでそちらに向かう。中央広場に到着すると、そこでは肉の物々交換が行われていた。
この村にはもちろん、俺に害にも狩人はいるので、それらの交換会かと思ったんだが、意外にもその中心にいたのは俺が探していたキョウカだった。
彼女はすでに狩人として活動を再開しており、今日はその初狩の獲物を放出しているようだ。
「うぃーす。」
気の抜けたような声であいさつをすると、それに気が付いたキョウカがこちらに笑顔で挨拶を返してくれる。
彼女が取ってきた分はすでに捌き切ったのか、すでに交換が終わったみたいだった。
「スケルトンさん!おはようございます。今日の練習は終わりですか?」
「ああ。魔力がもう残ってないからな。そう言うキョウカももう狩人として復帰したのか?」
「ええ!私、昨日の戦いではあまり役に立てませんでしたから。」
どうやら彼女は昨日の戦いでの活躍ができなかったことが残念だったようで、活動再開を速めたらしい。
俺としてはあの戦いは、神に近しい者のオンパレードだったのだから仕方がないと思うのだが、彼女が納得していないのなら何も言わない。
「そうか。まぁ、ほどほどにな。引継ぎをと思ったんだけど、大丈夫か?」
「ええ。もちろんです。それじゃ、おうちに行きましょうか。」
「ああ。」
キョウカの了承が取れたので、俺たちは俺が間借りしている家へと向かう。時間的に昼飯時なので、食べながら話そうと思ったのだ。
移動している間も、狩人のことについて話していく。主に話すのは俺がどこで何を狩っていたかという話と、どうやって狩っていたかという話だ。
俺とキョウカでは戦い方も殲滅力も違うので、一概に参考になるとは言えないが、それでも他者の狩り方を知って置けば、いつの日か役立つかもしれないからな。
「————まぁ、俺の場合は魔力でごり押しだが、キョウカならうまいことすべてを刈り取れるだろ。
っと、着いたな。シュツェン!あんまり寝てばかりいると動けなくなるぞ!さ、中に入ろうか。」
「うーん、そうですね。・・・フフフ、シュツェンさんはあの時も活躍されてましたし、少しは休息が必要なんですよ。さ、入りましょう。」
狩りに関する話に花を咲かせているうちに俺たちは家へと到着する。庭先でだらんとするシュツェンを軽く注意して家の中へと誘う。
ガチャリとドアを開けると、中にいるはずの者に声をかけて食卓へと着く。この時間に戻るとは伝えていないが、彼女なら余裕だろう。
「ただいま~」
「お邪魔しますね。」
二人で食卓へ行くとすぐにキッチンからメアリーが出てきて食事の乗った皿を並べる。今日はパスタのようだ。
「召し上がれ...。」
「食べながら話そうか。いただきます。」
「そうですね。いただきます。」
俺たちは三人でパスタを食べながら話し始める。先ほどまでの話をより詳しく説明しつつ、その傾向や対策を伝えて、今後の狩りに役立ててもらうためだ。
「————だから、あそこではこちらから————そして、あれは獰猛だが肉が柔らかく子供に人気なのでこれだけは狩るように————」
「なるほど、そんな方法で————ああ、そう言うことですか。でも、それでは————」
二人で話しながら内容を詰めていく。静かにメアリーは耳を傾けているだけだが、興味はあるようでしっかりと聞いているな。
「————と、こんなもんだな。俺がいつまでこの島にいるかわからないが、二度と来ないってことはないさ。海龍王に聞いた話じゃ、【加護】で言葉を伝えるくらいはできるらしいし、何かあれば聞いてくれ。」
「そうですね。スケルトンさんはお客さんだったんですもんね。忘れてました。それにしてもレヴァ様を伝書鳩代わりにするのは流石に気が引けます。」
「そうか?ハハハ。」
そんな感じで俺の狩人としての最後の話は終わった。あと残すところは村長との交渉と【加護】の練習くらいだ。【加護】は今はできないので、村長のところに戻るか。昼時を過ぎて、刀術の訓練も終わった頃だろうから、ちょうどいいかもしれない。
「ふぅ。満腹になったし、そろそろ村長のところに行くか。キョウカとメアリーはどうする?」
「私はこの後、別の狩人と打ち合わせがあるんです。合同で狩りをすることになったので。」
「ソフィ...。」
「そっか。分かった。またな。
合同で狩りか。面白そうだが、俺がいるうちに話が聞けるかわからん。メアリーはソフィアと約束があるらしい。ということは、ここで解散か。
まぁ、そのうち話す機会もあるだろうから、急ぐことでもないな。
俺は二人に軽く別れの挨拶をして家を後にする。
***
村長の社に戻ると、ちょうど海龍王とミザネ村長が昼食を食べているところだった。浜でとれた魚介の塩漬けを焼いた物に主食となるコメ、汁物の純和食みたいな食事だ。レヴァもうまそうに食べている。
村長はすでに食べ終わっているのか、お茶を湯呑で飲んでおり、ゆったりとした空間がそこにあった。
「邪魔するぞ。」
「む?アルカナ様?どうかしたかの?」
「ああ、少し相談があってな。今、時間あるか?」
「うむ、大丈夫じゃ。場所を移そうかの。」
村長が食事中の海龍王に遠慮して場所を移そうと提案してきたが、その海龍王がそれに待ったをかける。飯を食いながらもこちらの話にも入ってくるあたり、ただグータラしているだけではないんだろう。
「いや、ここで大丈夫だ。我は食事しながらでも聞いている。存分に話すがよい。」
「そうですかな?では、アルカナ様、こちらで話しましょうぞ。座布団をどうぞお使いください。」
「分かった。ありがとう。」
「うむ、気にするな。我は貴様を気に入った。遠慮はするな。ミザネもな。」
俺は差し出された座布団を受け取ってそれに座る。海龍王が飯を食べている横で相談をするのが吉と出るか凶と出るかは分からないが、気にしなくていいか。なぜか気に入られているようだし、悪いことにはならないだろう。
俺は村長と向き合って相談を開始する。相談の内容を聞いた二人の反応はどうだろうか。期待しながら言葉を紡ぐ。
相談しましょう
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