第244話 海王の棲み処⑪
評価いただく、それだけでうれしいんですが、「どうしてその星の数か」というのこそ大事な気がします。
水が無くなったことによってなくなった浮遊感に違和感を覚えながらも状況を把握する。落ちているのは俺だけではなくルトワァールも同じであった。
先ほどの音は何かが焼ける音に聞こえたし、おそらくだがその正体はルトワァールのスキルだろう。
〔熱波〕それがどんなスキルかわからなかったが、先ほどの攻撃によって判明した。頭に充填された魔力が一気に解き放たれたのは間違いなく、それが〔熱波〕であったとすると先ほどの音は水が蒸発する音だったのだろう。
あまりの高熱により水が一瞬で蒸発し、俺のマスクも一瞬で消滅したのだろう。海蜥蜴面もそれなりの耐久を誇っていたのだが、仕方がない。
お互いに空中で移動する術を持っていないので相手にどうすることもできない。というわけでもない。俺にはマスクがあるからな。イシュガルを〔骨壺〕へ仕舞って行動に移る。
「(〔換装〕飛行蛇面)」
姿を翼をもつ蛇へと変じると俺は空を舞う。このマスクの良い所はその隠密性だ。その証拠にルトワァールはすでに俺を見失っている。きょろきょろと探してはいるが、見つけられないみたいだな。
俺は安全に着地すると、息を吐いた。先ほどの〔熱波〕の発動によっていろいろとわかったことがある。すぐに地面まで到達するだろうルトワァールを眺めながら俺は思案する。
まず、あの〔熱波〕はこうなることが最初から決まっている。周囲の水をすべて蒸発することなんて威力としては破格だが、水棲の魔物としては死活問題のはずだ。
基本的に魔物であろうと鰓呼吸をする。それなのに自ら呼吸できなくなる場所に変えてしまうのは愚の骨頂だろう。しかし、このスキルを使用するに堪える形にしているのが〔両生〕のスキルである。
このスキルは単純に陸でも水中でも活動可能にする程度のスキルなのだろうが、これがなければルトワァールは自滅するしかないのだ。
ただ、水がないと動きは不便になることは間違いないだろう。どこまで行っても体の形状は水棲の魔物なのだから。
故に〔熱波〕というのは必殺のスキルなのだろう。動けなくなっても問題ない状況を作り出して、敵を抹殺した後に少しずつ水を戻していけばいいのだからな。
あれだけの広範囲に広がる熱量を間近で受ければ、まず生き残ることはできない。えげつない戦法だが、理にかなっている。敵がいなければその後はどうしてもいい。
俺がそんなことを考えていると、視界の隅で土煙が立ち上りドシンと音がする。どうやらルトワァールが着地したようだ。派手に落ちたことで視界が塞がれたが、〔探知〕で姿を確認する。
空中で動こうと足掻いたからか、背中から落ちたようで正しい向きに起き上がろうとまた足掻いている。
なんだか、かわいそうだな。必殺の一撃を俺は皮一枚で助かって武器の破損すらない。
「〔換装〕」
獅子王面に切り替えると歩き出す。〔熱波〕によって水が無くなったことで地面が乾き歩きやすい。
肉球で地面を感じながらルトワァールの方へと近づいて行く。いつもの感じで獅子王面に切り替えたが、それが良いよな。
ルトワァールは俺が飛行蛇面ではなくなったことで存在感が増して俺に気が付いたようだ。まぁ、獅子王面はそもそもでかいから気づくだろうけどさ。
土煙が晴れて視界が良好になると俺とルトワァールの視線がぶつかる。俺の姿が変わったことに反応があるかと思ったが、それもなく無言で威嚇される。
ルトワァールはどこか感情が薄いという気がする。先ほどから何度かそう感じたので間違いはないだろう。ゴーレムなどの人形を相手にしているようである。
『俺が想定した機会じゃないが、絶好のこのチャンスを逃すつもりはない。ここからは俺も本気でやらせてもらうぞ。』
俺は挨拶代わりに口に魔力を溜めて一気に放出する。空気があるところなら獅子王面が最適解だ。
『〔獣王の息吹〕』
光のレーザーがルトワァールへと直進する。ルトワァールは先ほどの〔熱波〕にどれほどの魔力を込めたのか防ぐ手立てはないと思っている。
プァアアアア
それでも何とかしようと動き出したルトワァール。しかし、リオウのブレスは持続型のブレスだ。多少動いたところで避け切ることはできない。ただ、下手に傷つけて殺すのはまずいので、慌てて反らす。このままでは跡形もなく消滅しかねない。
俺がブレスを反らしたことで余裕ができたのかルトワァールは高音で叫ぶ。
ピュゥウアアアアアアアア
それに俺は焦りつつも獅子王面を解除して何か別のマスクを探す。ブレスを避けるのに必死だったからかルトワァールは疲れ果てて動けない。今の絶叫も足掻きなのだろう。
そこで俺の頭に声が響き渡る。結構続くな。獅子王面の解除キーの時から連続で聞こえたわけだし。
【神獣の眷属による外部装甲の破壊を確認。強制的な武装解除により〔骨の王〕の権能を一部開放。骨外装が発動します。】
俺の了承もなくそれは発動する。ルトワァールの目の前で俺の姿はなぜか骨の姿に引き戻され、さらには軋み出した。バキバキと骨の形が変わるのを実感し、自分がどうなるか想像が追い付かない。
そして数十秒もするとそれも収まって終了する。どうやらこれで完了のようだ。俺の姿はずいぶんと変わってしまったが、骨であることは変わらない。
変形した骨は体を覆い、パッと見ただけではスケルトンだとは思えないだろう。騎士の全身鎧のようで悪くない見た目だと思う。うん、力がみなぎるようだが、こんな権能があるならファイシュと戦っている時に発揮してほしかった。
「まぁ、今でも遅くないか。って、喋れてるな。」
俺は自分が発音していることに驚きながらも手を握り自分ができることを確認する。何となく限定的な力な気がして急いで行動しようと思ったのだ。
「ふむ、獅子王面の力を取り込んだのかな?」
そう思う根拠は体からあふれる光属性の魔力だ。抑え切れずに漏れているのは獅子王面の時と同じだからな。
これなら〔温情〕をかけて倒すことができそうだ。
俺は何となく腕を前に出して構えると魔力が収束していく。これからやるのは獅子王面のブレスだ。無力化することが目的なので〔温情〕が必須だが、これで決めるつもりだ。
「よし、出来そうだな。〔獣王の息吹〕ってのも変だな。差し詰め〔骨王の熱線〕か?ま、どっちでもいいや。」
名前は何でもいいと結論付けて放たれたレーザーはルトワァールに向けて放たれた。それは獅子王面の〔獣王の息吹〕よりも高速でルトワァールに迫る。どうやらそう言う点でも強化されているようだ。さすがは権能。
そしてブレスが着弾するとルトワァールは悲鳴を上げる。さすがに皮膚を焼かれると声も上げるのだろう。
そのまま、続く限り当て続け無力化するまでそれを続けると、5分ほどで動かなくなった。〔温情〕が発動しているから死んではいないので、念のため警戒しつつ近づいて行く。その間も骨外装の姿のままだ。
ゆっくりと近づいて行くと俺の姿をルトワァールの瞳が写す。ここにきて一番理性を感じる瞳だ。今までのは何だったのだろうか。
俺は骨外装を解除してからルトワァールに話しかける。通じているかはわからないが、それでも話しかけるべきだと思ったのだ。
「なぁ、お前さんはずっとここに一人でダンジョンを守ってきたのか?そうだとすりゃ、寂しかっただろう?つらかっただろう?ここがどこにあるか俺には分からないが、自分の主がいつ帰ってくるかもわからぬまま、ずっと待ち続けるなんて、な。」
プルル、ルルゥ・・・
息も絶え絶えな鳴くルトワァールはそのすぐ後に目を閉じる。どうやら覚悟を決めたようだ。
まぁ、ダンジョンのボス?なのだからこれも定めと受け入れているのかもしれない。
でも、ここは49階層だよな。でも50階層が寝床とみると、此奴がボスである可能性が高いと思うんだけど。
「まぁ、良いか。安らかに眠れ。〔骨抜〕」
ルトワァールの頭に手を当ててスキルを発動させると巨体の中から骨が引き出されてそれがとどめとなる。一瞬で行われる〔骨抜〕に痛みは感じる暇もないだろう。
取り出した骨はすかさず〔骨壺〕に仕舞い、マスクになったルトワァールも仕舞う。これでこの層でやることは終了だ。次の階層に進もう。それでダンジョン攻略が終わる。次はまた海中に戻るのだろうが、さっそくルトワァールを使うことになるな。
ふむ、まずは〔換装〕して進むか。
俺はそう思ってスキルの発動をさせる。一覧からルトワァールのマスクを選択すると名前を確認して口に出す。
「〔換装〕融鯨面」
〔換装〕すると俺の姿が巨大な鯨に代わる。まるまるとした姿からはとても鯨とは思えなかったが、鯨なんだろう。
俺はこのままでは動きづらいと〔人化〕すると次の階層への階段へ向かう。
一歩歩き出したところで、頭に声が響いて権能が再びロックされたことを告げられた。
そしてその後、別の声が俺の頭に響き渡る。
〈感謝するぞ。新しき骨の王よ。我が身を冥界へと送ってくれてありがとう。〉
その声は高齢の男性の声だったが凛とした意志の強さを感じさせるものだった。
〈困惑するのは分かるが、まずは次の階層へと来てくれぬか。〉
困惑していると先んじて促されてしまったので、警戒を強めながらも次の階層へと足を進める。
さて、何がいるのかね。まさか、こんなところで人がいるとは思わなかったよ。
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Side海龍王レヴァルトラーネ
我は海王の眷属であった鯨の魔物が骨の王に倒されたところを見て目頭が熱くなる。あのものがどれだけの間、海王が更生することを望んでいたのかを知っているし、それがかなわず、封印された後も更生を祈っていたことを知っていたからだ。
ルトワァールは海王がすくい上げた魔物であるが、年齢で言えば海王よりも古き者だ。故にそりが合わなかったのかもしれぬな。
そんな長きを生きて使える主を失った眷属の末路はダンジョンに吸収されるのを待つしかない。しかし、ルトワァールはダンジョン管理の権能を使って我に身売りをした。いつか攻略者が現れるまで預かってくれとな。
それを了承した我だったが、こうしてそんな人物が現れたのは行幸だった。我、良い判断をした。
とまぁ、泣いてばかりもいられぬ。おそらくあのマスクが我の加護を受けるに値する唯一の魔物だろうから、我もそろそろ準備をしなくてはならぬ。この後は50階層で奴と会うだろうが、骨の王は奴にとって恩人となるわけだから心配はしておらぬ。
それに、奴の対処は骨の王としては仕事のようなものだ。うまいことしてくれるであろうさ。
クククッどのような加護をくれてやろうか。60万なんて言ったが正直言えばその半分でもよかったのだ。それが想定よりもさらに倍とは腕がなる。
どうせ帰りは一瞬だ。準備をしておいて困ることはないだろうさ。
50層で人に会いましょう
拙作を読んでいただきありがとうございます.
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