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第242話 海王の棲み処⑨


骨の王のそこからの快進撃は凄まじい物であった。我はまさか最下層まで到達するつもりであることなど思いもせず、半ば冗談でダンジョンの攻略を勧めてみたわけだから、この状況に少なからず驚いている。


ガルガンドやミザネは骨の王を正しく理解していたようで、このことを伝えるとさも当然といった風に頷いた。


「アルカナ殿であればそうでしょうな。」

「うむ、儂らが彼の方のすべてを知るというわけではないじゃろうが、村で過ごしたわずかな時間でもアルカナ様の気質を少しは理解しておりますじゃ。彼は基本的に他者に優しいのですよ。」


ガルガンドは訳知り顔で頷き、ミザネは過去を振り返りつつもなぜそう思うのかを教えてくれた。どうやら今代の骨の王はヒトの生活に溶け込み、なかなかに奇抜な生き方をしているらしい。


「アルカナ様は無意識なのかもしれませぬが、儂らが困っていることがあれば、ほとんど自主的に解決に向けて動き出してくれたのですじゃ。

例えば、村に肉が不足すれば翌日には狩人たちと協力して食肉区画での狩りを延長したり、肉として活用した魔物の死体の内、処分に困った骨を回収してくれたりと本人は気にしていないでしょうが、我らは助かっているのです。」

「聞いた話ですが、大陸においてもいろいろな経験をされているようですよ?学校の臨時講師や薬師の手伝い、鍛冶師の補助、冒険者もその経験の内なのかもしれません。」

「そのことを話しているアルカナ様の表情は柔らかく、自分が世話を焼いた自覚はないのでしょう。ただ、楽しい思い出を語った、といった雰囲気でしたな。」


ふむ、骨の王が海で流されているところからは大体把握しておったが、それ以前もそんなことがあったとはな。骨の王は本来、この世の理に反する行いをするものを浄化する役目が強い根源種だ。

アンデッドはその一例に過ぎないが、その性質上、人とかかわることが極端に少なかった。前代は武器戦闘に特化した骨の王だけあって、ドワーフなんかとは付き合いがあったらしいが、それ以前の骨の王は壊滅的なまでに孤独だった。

そう言った点ではフレンドリーに他者に優しいくらいがちょうどいいのかもしれぬ。巨大なスケルトンや自らが作り出した骨型のゴーレムを率いるスケルトン、武器だけが愛しいスケルトンなど、そんな傍から見ても異常な者よりは、な。


「そうか。今代の骨の王は我にも世話を焼いているということであるか。」

「ですな。」


我はふと思い至ったことで、小さくつぶやいた。それを拾ったのはミザネである。たった数千年の青二才が、耳だけは地獄耳め。


「アルカナ様はレヴァ様がダンジョンを攻略してもいいと言った時点で、無自覚に頭の中で言葉を変換したのでしょう。

きっと『攻略してもいい → 攻略したいなぁ → 攻略してほしい。』とこんな感じじゃないですかな。」

「ふむ、そこまでの意味を持った発言ではなかったのだが、まぁ、我が直接ダンジョンを沈めるよりは有効に使われていると思える。」


我が一人で納得していると、ガルガンドが何かに気が付いて少し慌てたような顔をする。重要そうなことなので聞いてみると、実際に重要なことであった。


「あっ!大丈夫でしょうか。」

「む?何がだ?」

「ええ。あのダンジョン、“海王の棲み処”はすでに主なしのダンジョンなのでしょう?そんな場所にアルカナ殿が行けば、所有権が彼に移るのではないでしょうか?」


ガルガンドが言う様に、何らかの理由によって主のいなくなったダンジョンに神気の器たる【伝説級】のスキルを持つ者が侵入すればどうなるかなど言わずとも分かろう。


「言われてみれば然り。失念しておった。我が疑似的に管理をしておるが、所有者はいないのが現状だ。今はまだ攻略をしているだけだから問題ないが、攻略を完了した後は所有権の移譲が行われるかもしれぬ。」

「それは大変ではないですか!?」


ミザネが慌てたように言う。実際そうなると人の世で生きる骨の王にとってはまずい事態なのは間違いない。

我のように世界中の海を管理する存在であるなら別として、位置ダンジョンの所有者になると、極端に行動範囲が狭まるのだ。ミザネがその良い例だろう。ミザネはそれで満足していることから問題にはならないが、島を出ることは出来ぬだ。


人の世で冒険者として生活する骨の王がダンジョンを得てしまえば、困ったことになるかもしれん。しかも骨の王の役割としてひとところに留まりすぎることもあまり良くないのだ。

これは下手すると我が世界神様方に叱られるかもしれぬな。


我は自分がしでかしかけていることに若干の絶望を感じながらも骨の王が最善の選択をすることを願う。一応、ガルガンドとミザネには告げておくべきか。


「大変なのだ。いや、本当に。

そこで、ミザネにガルガンドよ。貴様らには先に伝えておく。骨の王が選択を間違えた時、我は少し長い間、姿を見せなくなることだろう。しかし、心配はするな。」


我の言葉の意味が分からないのか二人は首をかしげているが、今は分からぬとも良い。骨の王の選択によって詳細を伝えるくらいで良いのだ。


我は自分の行く末が決まりかねないことに驚愕しながら、骨の王がダンジョンを攻略する様を見つめる。


どうか、選択を誤ってしまわぬよう願う。



****

Sideアルカナ


俺は40階層での戦闘の後、わき目も降らずに最後の階層を目指して突き進んでいた。その速度はこれまでの数倍で、もはや作業に近いレベルでサクサクと進んでいる。


一つの階層でやるのは主に二つ。一つはその魔物がマスク化した際に耐久が60万超えるかどうか。もう一つは魔物の殲滅だ。耐久が60万を越えればマスク化して越えなければ討伐、という流れなのだが、現状は該当する魔物は出現せず、すべてを討伐している。


〔戦力把握〕で確認し、判断したら獅子王面に〔換装〕して即殲滅。というのが大体の流れだ。

一瞬だけ獅子王面に〔換装〕して〔獣王の咆哮(キングスロア)〕で一掃という形が最も効率的に敵を殲滅できるということに気が付いたことで非常に楽な道を勧めたわけである。


「はぁ、とりあえず、48階層までクリアだ。ここの魔物は良い線言ってたんだけどな。」


俺は今殲滅して回収した魔物を思い出しながらつぶやいた。既に海蜥蜴面に〔換装〕し〔人化〕済みだ。この高速での〔換装〕も慣れてきたな。


今俺の手元にある死体は、イルカの魔物で、ドリフィンというらしい。口元がドリルのような形状をしており。回転しながら突撃してくるのは面倒だった。まぁ、ステルスレイのように姿が見えないわけではないので特に問題はなかったけど。


ドリフィンは最も高い耐久の個体が54万ほどと、悪くない数字だったのだが、要求値には足りず残念な結果となった。キメラ化して装甲を追加することで何とかなりそうではあるが、出来れば純粋に強い装備が良い。使いどころが難しくなるだけだからな。


俺は49階層への階層を下りていく。次の階層に近づくにつれて大きな魔力の反応を〔探知〕で確認することができた。

その数は一つで、これまでに感じたダンジョンのどの魔物よりも強大な反応はそれだけで警戒するに値する。


「これは期待できそうだ。」


俺は期待に胸を膨らませる。残すところ2階層というところで目当ての強さの魔物が現れたんだから仕方がないだろう。

俺がこのダンジョンに入ったのは大体真ん中だったが、それでも20階層以上もおりてきて初めてなんだからな。


階段を下りると現れたのは巨大な魚類?だった。その見た目はまるまるとしているが伸びた尻尾が魚のようで、大きさは20m以上あるだろう。

まずは〔戦力把握〕だ。これがどれだけの強さかわからないが、ワクワクしてドキドキが止まらない。ま、胸に手を当てても反応は返っちゃ来ないが。



~~~~~~~~~~~~~

名前:ルトワァール

種族:メルトウェール

性別:オス

レベル:325

体力:700000/700000

魔力:2300000/2300000

筋力:500000

耐久:1200000

敏捷:120000

精神:3000000

運 :20

【固有スキル】

 〔熱波〕〔両生〕

【通常スキル】

 〔尾撃〕〔水魔術〕

【称号】

〔取り残された眷属〕〔眷属の欠片〕

~~~~~~~~~~~~~


〔戦力把握〕による結果はまさしく待ち望んでいた物だったが、それ以上に気になる部分があった。

それはもちろん【称号】だが、その推測は容易にできる。このダンジョンの元の主は海王だ。神獣が眷属を持つことは海龍王が証明しているわけだし疑問に思うことじゃない。つまり、海王がまだ神獣だった頃、此奴はその眷属であったことに他ならないのだろう。


〔取り残された眷属〕か。このダンジョン内で海王が戻るのをずっと待っていたのだろうか。だとしたら不憫だが、それ以上に自分の知らないところで主人が封印され死んだことは悲しいだろう。

海王は人間に迷惑をかけた厄介な神獣だったかもしれない。しかし、こいつら眷属にとってはどうだったかなど俺には分からないのだから、否定だけをすることはできないだろう。


俺が少し感傷的になっていると、俺が〔戦力把握〕をしたことに気が付いたのか、まるい体を震わせて海王の眷属、ルトワァールが雄たけびを上げる。その瞬間、俺はぞくっと背筋に冷たいものを感じた。いつだかと同じようだ。


プァアアアアアアアアア


甲高い鳴き声が水を揺らす。水中にいる時点でルトワァールの得意なステージだろうが、俺もここで負けることはできないので、迎撃するとしよう。


「〔換装〕〔獣王の咆哮(キングスロア)〕!」


全方位に響くルトワァールの雄たけびに抵抗するにはこれしかなかったが、こうなると一瞬で息が続かなくなるので、即座に海蜥蜴面に戻す。


「はぁはぁ。あれだけ魔力を込めたのに大したダメージにはならないか。うん、良い耐久だ。これならレヴァの要求に耐えるだろう!」


俺はうれしくなってイシュガルを振り回しながらステータスを思い出す。うーん、どんな攻撃をしてくるのだろうかね。


スキルで予想ができるが、【固有】はそう簡単ではないのだ。〔熱波〕は分かりやすくてもおそらく〔海棲〕の類似スキルなのだと思う〔両生〕は意味が分からないからな。だって、間違いなく魚類なんだから、陸に出ることなんてないはずだし。


その意味はこの後すぐに知ることになるのだが、今の俺はただ頭を捻るばかりであった。
















新しいマスクを手に入れましょう


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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