第240話 海王の棲み処⑦
時の経過は早いです。
爆発の余波で舞い上がった砂煙が晴れて辺りが落ち着くと、そこには俺とバカデカエイが相対した状態で膠着していた。
さすがに魚雷は〔防御貫通〕を所持していないようで、ダメージというほどのダメージはない。しかし、バカデカエイは違ったようだ。
俺を迎え撃つ形で発射された魚雷はバカデカエイの目の前でかち合い爆発した。ごく微量とはいえ、俺にダメージを与えた爆発を至近距離で受けることになったバカデカエイは、それなり以上のダメージを負ったはずだ。
膠着状態である今もどこか辛そうだ。まさか自分めがけて突っ込むとは思いもしなかったのだろうが、俺としては馬鹿にした雰囲気が無くなって気分が良い。
「さすがに爆発の衝撃はすごかったぞ。痛かないが、拍手モンだ。」
通じるかわからん軽口を言いながらも俺はイシュガルを斧モードに変形させ、上段に構える。さらに魔力を惜しげもなく込めて一撃必殺の振り下ろしの準備をする。
「さて、今度は俺の番だな。おっと、この距離でもう一回撃とうなんて考えるなよ?どう考えても自殺行為だからな。」
バカデカエイがこちらに発射口を向けたところで左手を前に突き出して忠告する。自殺するのは構わないが、それでバカデカエイ自体の品質が下がるのはいただけない。
面白い能力だからぜひともマスク化したいと思うので、出来るだけきれいに確保したいのだ。未だに〔戦力把握〕もしていないのだが、間違いなく面白いスキルを持っている。
グイッググググ
悔しそうな鳴き声が聞こえてきたが、もう無視を決め込んで魔力を込めたイシュガルを振り下ろす。俺が動き出すのを感じ取ったのかバカデカエイはさすがにまずいと全力で逃げ出した。
既に振り下ろしていたイシュガルは止めることができない。地面に当たると大きな音がして土煙を舞い上がらせ、小さくないクレーターが出来上がる。その中心にいる俺は舞い上がる土煙や砂利に当たってやや不快だ。
逃げられたことは特に何も感じないが、それ以上に距離を取られたことは面倒に感じる。先ほどはどういうつもりか俺を甚振ろうとしていたみたいだが、次は本気になるだろうからな。
「はぁ、面倒な。」
俺は泳いでバカデカエイの方へと移動する。今度は大鎌モードで魔力を込めて“飛斬”の構えだ。遠距離で来るならこちらも遠距離でやるしかないからな。
とりあえず、射程に入る前に〔戦力把握〕で覗かせてもらうとするか。どうやって自動で充填していたのかが気になる。
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名前:―――
種族: ディープ・シー・マンタ
性別:オス
レベル:25/140
体力:450000/450000
魔力:397000/400000
筋力:2000000
耐久:40000
敏捷:350000
精神:3000
運 :60
【固有スキル】
〔召喚術〕〔射出〕
【通常スキル】
〔魔力強化〕〔刻印〕
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ふむ、まぁまぁだな。耐久が低いので加護は得られないが、スキルはやっぱり面白い。【固有】の召喚系のスキルは以前一度だけ見たことがあるが、なかなかに便利そうだった。ただ、この〔召喚術〕がどちらかというのが問題か。
前に見たのは〔召喚魔法〕で、あの時は知らなかったんだが、王都にいる間にユーゴーに教えてもらったことによると、召喚というのには二つのパターンがあるらしい。
まず一つ目は魔物などと契約を結び、魔力を対価に呼び出して使役するというもの。こちらは契約した魔物などによって様々なことができるし、強い魔物でも契約さえしてもらえれば呼び出すことができる。ただ、その対価として魔力をずいぶんと与えなくてはならないらしい。
ユーゴーは基本的にペガサスやユニコーンなどの足代わりの魔物を呼び出していたが、戦闘にも使える非常に強力なスキルだ。
そして二つ目は世界のどこかにいる魔物などを選択して呼び出す、または一種類だけを呼び出す、というものだ。
こちらは呼び出す魔物の強さは一定でできることにも限りがあるが、その反面、魔力の消費が極限まで抑えられるというメリットがある。
もちろん、呼び出すものが相当遠い距離にいる場合などはそれに比例して消費する魔力が増えていくわけだが、近場のものを召喚する場合が多いので余談だな。
さて、〔召喚術〕の種類について話したところで、あのバカデカエイの召喚しているだろう物が何かというのを推測すべきなのだが、それは考えるまでもないだろう。
魚雷、それしかあるまい。先ほどのいつの間にか装填されていた魚雷がその証拠である。どこから来たのかわからないのなら召喚されたとみて間違いない。
そうなるとこいつの〔召喚術〕のタイプも分かるというものだ。魔力に注目してくれればどういうことかわかるだろうさ。
此奴の魔力は現在満タンではない。3000の消費魔力が確認できるわけだが、これまで発射した魚雷数から考えると、一体召喚するのに1000という低コストであることから二つ目のタイプだということが分かる。
つまり、この近くにいる魚雷、に似た魔物を発射口に直接召喚して〔射出〕しているのだろう。魔物を召喚しているのだから必然的に追尾機能があるのだろうと思う。しかし、それをどう指示しているかも問題だ。
声を出して指示しているわけではなく、〔念話〕のようなスキルも見受けられない。そこで確認するのは〔刻印〕のスキルだ。俺が初めて見るスキルではあるが、強力には見えなかったのに厄介ではあったようだ。
〔刻印〕:マーキングする。
な、何ともシンプルなスキルだ。ふむ、これで俺に印をつけて魚雷を発射していたわけか。しかし、これでバカデカエイを丸裸にしたも同然だ。できれば魚雷も確認したいが、難しいだろう。発射口にいる時はバカデカエイに阻まれて〔戦力把握〕は通らないし、発射された後はそんな余裕がない。
捕まえてっていうのも考えたが、おそらく無理だ。っと、そんなことを考えていたら奴の射程距離に入ったようで、魚雷が発射された。試しに捕まえてみようか。
「んーっと、飛んで来たのは一体か。引き付けてキャッチだな。」
飛んで来た魚雷はよく見ると顔があり、ミサイルのような形に魚の顔が描かれているようだ。これが魔物であるとは普通は考えないよな。
出来る限り引き付けて捕まえようと構えていたところ、さぁ捕まえるぞっていうところでその魚雷の顔が晴れる。
なぜかわからないと困惑した次の瞬間、魚雷が自ら爆発した。自爆だ。魚雷は自らの意思で爆発をするらしい。捕まえて覗くのはやはり無理だったな。
「ゴホッゴホッやっぱダメか。さっきの爆発でそうじゃないかと思ったんだよ。ていうかさ。」
俺は自分の近くまで来て爆発した魚雷の最後の顔を思い出す。ありゃ自爆することを何とも思ってないって面だったが、これもある意味で共生になるのかもな。
魚雷が欲しいエイと爆発したい魚雷、あまりにもエイに有利な関係だ。本人たちが納得しているならいいんだが、そうでもない気もするんだよな。
だってさ、さっき俺がエイに迫った時、魚雷が爆発しなければエイは被害を被ることはなかったはずだ。
もしかして魚雷に嫌われている?そんなわけないとは思いつつ、これは危ういと感じる。このままじゃ俺のマスクが手に入らない!
焦った俺はできる限り魚雷を使わせずに接近しようと考えた。その前に一つ確認すべきことがある。爆発に晒されながらも魔力を保ったイシュガルで“飛斬”放つ。
グイグイッ
まぁ、そりゃ阻止するためには魚雷だよな。連続して発射される魚雷。そんなのモノともせずに突き進む斬撃。
斬撃に当たると真っ二つになって魚雷は勢いを無くして落ちていく。死体を覗けないのが残念だ。
何はともあれ、確認したいことは確認できたので、俺も攻勢に動く。まずは少しでも動きを素早くするために〔人化〕を解除する。
「<解除>よし、行くか。」
俺はイシュガルを構えて尻尾をうねらせエイに向かって突撃をする。斬撃を回避することに夢中でこちらに気が付かないバカデカエイはどうにか逃げ切ると、今度は俺に追われる。
器用にも背面で泳ぐエイにどういう仕組みなのか聞きたいのを我慢してイシュガルを振る。魔力を溜める時間なんてなかったので小さいが斬撃だ。それを迎撃するのにエイは魚雷を4発放った。
グイーッ!
魚雷は2発で斬撃を無効化し、残りの2発が俺に飛来する。そして、爆発する直前、今度は斬撃ではなく、大鎌を振るう。イシュガルは魚雷を斬り捨てた。
ここで注目すべきは魚雷が爆発しなかったことだろう。先ほどの“飛斬”で斬られた魚雷も爆発しなかったからな。それを見て接近して爆発するよりも前に斬り捨ててしまえばいいと思ったんだ。
接近した俺はここで決めるつもりで自信を強化する。
「〔超強体〕〔温情〕諦めろゲゲェエエエエエ」
グイッ!?グゥウウウ
間違えて殺さないように〔温情〕を発動した後、身体能力を強化した一撃を見舞う。〔温情〕は生かして無力化するスキルなので、殺してしまう可能性もないし、新鮮なマスクが手に入る。
しかし、俺の思惑とは別に諦め悪くバカデカエイは足掻く。奴が選択したのは魚雷の乱射だった。発射口の外に無数の魔法陣が展開され、そこから数えることすらできないほどの魚雷が現れる。
一瞬で数をそろえると一斉に俺に向かって飛んでくる。これは避けようがないが、バカデカエイも被害を被る決死の攻撃だった。
「面白れぇ!受けて立ってやるよぉ!」
迫りくる大量の魚雷を爆発しかけている順に一つ、二つ、三つと斬り捨てていく。同時に斬れるなら願ってもない話だ。
バカデカエイは奴なりに好機と見たのか、魚雷をどんどん召喚し、その数は止まることを知らぬほどに増えていく。
こりゃ、奴の魔力がすっからかんになるまで持久戦になるかもな。初めての時点で397000だったから、一体につき1000の魔力を消費するとして、およそ400体の魚雷を捌かにゃならなくなったわけだ。こりゃ面倒だ。
気分が萎えつつも必死になってイシュガルを振り、さすがに手数が足りないと思って先ほど手に入れたシーリザードマンの槍を取り出して突く。ぼろくても刃が付いてりゃ魔力で強化して何とかなるさ!
そこから十数分、魚雷が絶えず襲い掛かり、爆発しようとするのを必死に防ぎ続ける。魚雷の合間からちらりと見えるバカデカエイの必死な表情に負けるもんかと奮起しながら。
決着でしょう
拙作を読んでいただきありがとうございます.
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