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第235話 海王の棲み処②


ケルピーの攻撃を必死になって耐えながら、俺は一歩ずつ次の階層への階段を目指す。ケルピーたちはおそらく、この階層の守護を任された魔物だ。ボスほどではなくともそれなりの強さなのはそう言った理由だろう。

ここがどの層なのかを確認したくてもケルピーが大量に迫りくるせいで〔戦力把握〕が邪魔されてできないのだ。しかも、どうにかこうにか階段の前まで行くと、ケルピーが大挙して押し寄せ、階段から離されるように攻撃の威力が増すのだ。これではいつまでたっても進まず状況を確認することはできない。


つまり、俺はとにかくこの場を切り抜けて下の階層で自分の位置を確認しなくてはならないのだ。海龍王が気を利かせてかなり下の方へと転移させてくれた可能性もあるが、これで一番高い場所に送られていた場合、あまりゆっくりと攻略している時間はない。

俺にも予定ってもんがあるんだからな。できる限り最速で攻略して、島を脱出するためのマスクを作るしかない。


ということで、ここを切り抜けるための作戦を考えよう。まず、ケルピーの攻撃はこちらには通らないので、ダメージを無視してもいい。しかし、それで進めなかったのが今までの俺なので、弾幕をどうにかするべきだろうと思う。

ケルピーは速度が高く魔力や体力もそれなりに高い。しかし、精神は非常に低い。これを突けば一時的に停止させることもできるかもしれない。


しかし、俺に精神攻撃を仕掛ける手札がない。もちろんマスクを装備すれば話は違うのだけど、ここは生憎にも海の中、マスクを装備してしまえば俺はなすすべもなく窒息してしまうだろう。故に今、骨なのだから。


さて、であればどうしようか。ケルピーを切り抜ける手段を考える。この間にも俺はケルピー集団の攻撃に晒され続けるも、何とか耐えている。


って、あら?なんだか数が増えている気がするな。もしや〔連鎖反応〕の効果範囲って意外に広いのか?もしかしなくとも、階層全域のケルピーが集まり始めている可能性が高い。


クルルルルゥキュイィイ


ケルピーが鳴き声を上げるとその攻撃がさらに勢いを増す。俺にダメージが通っていないことをどうやって感じ取ったのかわからんが、状態に気づかれているらしい。

水中であるからというか、ここには光源がない。つまり真っ暗なのであるが、俺はスケルトン特有の〔暗視〕によってケルピーの姿がはっきりと見えている。なのでわかるのだが、ケルピーは俺をしっかりと目で追っているんだ。

ケルピーのスキルには俺を〔気配察知〕意外に察知するようなものはなく、気配を消しているのに、どうやって俺を見つけているのかが不思議である。しかし、それこそが突破の手がかりになるのではないかと思う。


攻撃を受けつつもケルピーを観察していく。ケルピーは前半分が馬、後ろ半分が魚と言った半馬半魚の魔物なのだが、馬の部分にも魚のような鰓やひれなどの特徴が出ている。

鰓呼吸というなら、地上では生きられないのだろうか。俺のそんなふと浮かんだ疑問は、一瞬にして閃きに昇華し、練られて作戦へと成った。


(それじゃあ、まずは何から手を付けるかね。)


俺は思案しつつ手を動かし始める。近づいてくるケルピーをイシュガルで打ち付け、薙ぎ払う。それで仕留めることはできずとも俺に襲い掛かる数が微々たる数だけ減るのだ。

そうして俺に多少の余裕ができたところで、マスクを装備する。一瞬だけ装備するのなら何とかなるのだ。息を止めるだけだからな。


「(〔換装〕劣化飛竜面レッサーワイバーンマスク)|グギャオ《〔風魔法〕ウィンドバリア》」


俺は過去にダンジョンで手に入れたものの使いどころがなかったマスクを装備する。レッサーワイバーンは〔死の祠〕で手に入れた飛行が少しだけできる魔物なのだけど、対空出来るわけではないので、使い道に困っていた。

〔風魔法〕を使えるという点からいつか日の目が出る可能性があると考えて秘蔵していたのだが、やはり取っておいてよかった。


俺は息を止めて〔風魔法〕ウィンドバリアを発動する。これは空気のバリアで身を守るという魔法なのだが、今回は守るためではなくてケルピーを隔離するために使用する。

これに捕らえられたケルピーは全体のおよそ半分、付け焼刃の魔法の成果としては十分だ。もちろん、全部を囲えたなら、それが一番よかったんだけども。


さて、とはいえ、これでまずは上出来だろう。この後、行うのは捉えた方の処理だ。こうして捕まえてしまえば、魔力が切れるまでは逃がすこともないし、魔力もレベルが上がったことで桁違いに多くなっている。もはや詰みだな。


俺は鼻歌でも歌う気分になりながらも息を止めるのを忘れずにさらに〔風魔法〕で中の水を抜いていく。

空気が抜けたウィンドバリア内はどんどん移行していく。水がないと生きられないケルピーではもはや死を待つだけだろう。


キュイーという情けない声が聞こえてくるが、俺は今も攻撃を受けているので無視をしてさらに空気を抜く。すると中からの鳴き声が叫び声や悲鳴に代わり始める。よく聞くと、メキメキという、押しつぶされる音が聞こえてくるではないか。


どういうことかとそちらを見ると、そこではたくさんのケルピーが見るも無残に破裂している光景が広がっていた。それに一瞬だけ呆けると、俺はその仕組みに気が付いた。


なるほど、水を抜けば空気になるわけじゃないか。真空状態になるに決まっているじゃないか。ウィンドバリアは俺の魔力でどんどん強化しているために球体を維持しているが、中では真空が強まってどんどんと生物の生きられない世界になっていく。


そうして、ケルピーは潰されていったというわけか。その様はまるで重力魔法で押しつぶされたのと似ているが、それよりも悲惨かもしれないな。こちらは内からの圧力で破裂しているのだからな。血も飛ぶわ、破片は飛ぶわで気の弱い奴なら吐いちまう。


キィエエエエ


これを見ても俺を攻撃するのを止めないのだから、ダンジョンの魔物ってのはどうなっているんだか。普通だったら恐怖で逃げだしそうなものだが、それもないらしい。

俺は今は見た目だけはドラゴンの凶悪な姿だが、ケルピーにたかられる様はドクターフィッシュ中の足みたいだ。

そんな情けない姿を思いだして小さく笑うと、今度は残り半数の魔物を捕まえようと一度、まずは引き剥すためにも骨の姿になってから、再度〔換装〕する。


「《解除》(そんで〔換装〕劣化飛竜面)|グギャァオ《〔風魔法〕ウィンドバリア》」


再度レッサーワイバーンの姿になったら一度だけはばたき、ケルピーから距離を取る。そして魔法を発動して隔離する。あとは先ほどと同じパターンだ。

これだけで階層中のケルピーをすべて引き付けることができたと思えば、〔連鎖反応〕も厄介なだけではなく、便利なスキルでもあるということが分かったことになる。

次があるとは思えないが、覚えておいてもいいかもしれない。普通にスタンピードブルでも使える手でもあるからな。村の狩人に教えてみてもいいとも思ったよ。


俺は後ろでケルピーの死んでいく音を聞きながらもこの先に進むことを考える。ただ、そこで自分の失敗に気が付いて少しだけ落ち込んだ。


グギャ(解除)(ああ!一体だけ残すんだった。ケルピーは少々耐久が物足りないが、どこかで使えたかもしれないし。)」


残念に思いながらも足を進める。下の階層へと降りるための階段はすぐ目の前だ。


***

Side海龍王レヴァルトラーネ


我がミザネたちの報告を聞いていると、骨の王がダンジョンの次の階層への階段に差し掛かったことを感じ取った。


海王ミューネが神獣だった際、奴が寝床として使っていた方のダンジョンは、そのすべての階層がモンスターハウスと呼ばれる、まるで単一魔物の暴走(スタンピード)のような部屋だけという、少々特殊なダンジョンだ。

これは奴が、寝どこまで敵が来ることを嫌い。挑むのさえ躊躇するような仕組みにした結果である。これで自身は入り口から転移でひとっ飛びなのだから、手に負えぬ。


まぁ、ダンジョンの話は良いとして、骨の王は意外にも手際が良い。我が奴を飛ばしたのは、あのダンジョンの中腹である。最初の頃はただ数が多いだけの雑魚ばかりで、相手を辟易させるための魔物が配置されているため、それでは骨の王のためにならぬとスキップさせた。

つまり、それなりの難易度のところに飛ばしたわけだが、ここまで早く次の階層に行くとは驚いている。


リオウが言うにはこれまでの骨の王とは違う能力だとは聞いていたのだが、まさか、あんな面妖な能力だとは思いもしなかったな。

我も様々な配下を持つが、あそこまで特殊な魔物は珍しい。正確には魔物ではないが、似たようなもんだろう。


マスクと言っていたが、あれでは皮を被っているのと同義である。奴はリオウからマスクを譲り受けたという話をしていたが、つまりは神獣の能力を受け継いでいると言っても過言ではない。

殺されたわけではないのだから、必然的に弱っていた頃のマスクとなっておろうが、それでも十分な脅威となりうる。


うーむ、こんなことなら、我の抜け殻も取っておくべきであったかもしれぬな。我は他の神獣とは違い、弱ることなく神獣と化した。故に我が抜け殻は骨の王に非常に強力な鎧を与えるようなものでああっただろう。

しかし、それも今はどこにあるか。さすが我が身を捨てることはできなかったのだから、我が宝物庫を探せばあるだろうが、正直ごちゃごちゃして発見には時間がかかる。見つけるのであれば、海王の封印現場より引き返した暇な配下にでも仕事を振るかな。


ふふふ、それにしても、意外なことにダンジョンを攻略する者がいるというのは楽しいものだな。自分が創造したダンジョンではないとはいえ、だが。まぁ、攻略してもいいとは言ったが、途中で引き返すだろう。これなら我のダンジョンも開放してもいいかもしれぬ。

ただ、解放したとして、攻略者など来るか分からぬのが問題だな。我がダンジョンは最も深き海底にある故、普通の者では向かう途中の水圧でつぶれてしまう。うーん、入り口を別に作るのも検討するか。


我がそんな風に物思いに更けていると、ガルガンドより注意される。いかんいかん、今は報告を聞いている最中であったな。ミザネも不思議な顔をしているが、それにガルガンドが説明をする。意外にも辛らつだからな、我が巫女は。


「レヴァ様、アルカナ殿の様子を見ておりましたな?今はこちらの報告の最中です。あの方なら下手なことでは死にはしないでしょう。先にこちらを。」

「うむ。ミザネもすまんな。」

「いえ、しかし、ガルガンド殿。その、様子を見るとはどういったことなんじゃ?」

「ああ、ミザネ様は知りませんでしたか。レヴァ様は自身が所有するダンジョン内の様子を見ておられたのですよ。これでも海を支配する神獣ですからね。海水を通せば様子が見えるのですよ。」


フフン、ミザネもダンジョンを所有するが、我がダンジョンのように海水で満たされているわけではないので、似たことは出来ぬだろう。まぁ、我が特殊なのだが。それにしても、ガルガンドよ。仮にも主をコレ呼ばわりはひどくないか?!


「なるほど。」

「とにかく、今はこちらに集中をお願いします。」

「分かった。それでは、ミザネ、続きを頼む。如何せん、長らくこちらへと来れてはいなかったのだからな。」

「ええ、報告すべきはたくさんありますぞい。」


こうして我は骨の王のダンジョン攻略を観察するのを一旦終了して、報告に集中するとしようか。って、あれ?呼びかければコチラに声が届くことは伝えたっけ?


この後の我は知らなかった。まさか、自分が言ったダンジョンを攻略するというのが現実のものになろうとは夢にも。






















拙作を読んでいただきありがとうございます.


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