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第233話 海龍王の提案


「これを見てくれ。」


俺が取り出したマスクは、戦争と死の神オーリィンのダンジョン、〔死の祠〕でよく世話になったマスクだ。


「これはまた珍しいのである。」

「ふむ、獅子王のところの魔物か。」


ディランとレヴァはすぐにそれが何かわかったようで、興味深そうに見ている。実際、外の世界では見ることがないほどには珍しい魔物だ。俺はこいつは〔死の祠〕で変質することで発生するかオーリィンの手が加わることで変異する魔物だと考えている。

んで、その手が加わるってことの根拠が、今回、このマスクを取り出した理由でもある。ただ、とりあえずはこのマスクの説明を困惑している二人にしようか。


「アルカナ殿、この魔物はいったい?」

「これほど濃密な死の気配を感じるのは初めてじゃ。」


二人が言う様にこのマスクは少し異常な気配を発している。しかし、このマスクがそれほどすごいというわけではない。なぜなら、その理由は加護にあるからだ。


「このマスクには神の加護が付与されている。それが死の気配を振りまいているのだろう。俺は感じないんだけどな。」


これだけで、この場に入り全員が誰の加護を得ているのかを察したことだろう。まぁ、俺が使っていて死の気配と言えば、思い当たる神なんて一人しかいないはずだから仕方がない。死神も該当しなくはないが、普通はあっちだろう。


「なるほど、戦争と死の神オーリィン様なのじゃな?」

「ですね。ミザネ様が言う通り、それ以外に考えられませんな。アルカナ殿、これはどういう経緯で入手したのだ?」


二人は入手経路を気にするが、もはやわかり切ったことを確認したいだけなのだろう。俺はさらっと答えると、これを海龍王レヴァに手渡す。


戦争虎ウォータイガーをマスク化して使ってたら、進化したんだよ。んで、このマスクがさっきの質問の答えだ。海龍王レヴァ。」

「ふむ、どうしたい、という問いに対する答えがコレか。つまり、貴様は我の加護をそのマスクとやらに付与しろというのだな?」

「ああ。」


海龍王が少し低い声で聞いてきたのだが、それでひるむことなく頷く。どう言い繕っても最終的な結論は同じなんだから回り道する意味もないだろう。

俺の覚悟を決めた言葉を聞いた海龍王は少し考える。そして、俺の死虎面デスタイガーマスクをじっと見て口を開いた。


「良いだろう。貴様にはこの島を悪なる神の魔の手より救ってもらった礼をせねばなるまい。貴様のマスクに加護を与えることでその礼と替える。良いな?」

「願ってもない。海を越えることができるマスクが手に入るなら十分すぎる。」


俺の要求が通ったようで何よりである。普通にディランに大陸まで運んでもらえばいいではないかと思われるかもしれないけど、そうなると、いろいろと面倒なのだ。

二か月近く前に国を船で出たはずの俺が、何食わぬ顔でベルフォード王国に戻ってしまうと、どうやって入国したのか、なんで戻ってきたのか、などと聞かれるだろう。

アルバトロやエルネイ船長はエルフだから、ベルフォード王国に説明はしていないだろう。ただ、冒険者ギルドとレイアには何かしらの報告をしているとみていい。海王のことまで言っていると考えても、あまり詳細を話すことになってしまうのは避けたいのだ。


ということで、できるだけディランに運んでもらってベルフォード王国に戻るよりは、俺自身が海を泳いででもエルフの国を直接目指して自分で説明したほうが良いのだ。


俺がホッとしていると、海龍王レヴァが手を差し出して「よこせ」という。俺は何のことかと思って首をかしげた。そこで助け舟を出してくれたのはガルガンドであった。


「アルカナ殿、レヴァ様は付与をするというマスクを貸してほしいと言っているのだ。」

「あ!なるほど。そりゃそうだわ。すまん。ちょっと待ってくれ。《解除》(〔人化〕)」


俺はガルガンドに言われたとおりにマスクを脱いで〔人化〕する。そして差し出された手に脱いだ大鱓面を渡す。海龍王は受け取ったそれをジーッと見てフンッと鼻を鳴らす。


「先ほどチラと見たが、やはり大喰の鱓か。フンッこれでは我の加護に耐えることは出来ぬ。そもそもこれは魔力を持っているが弱い部類だ。人魚のように我の加護には耐えられぬ。」


なんと、海龍王の加護を受けれそうなマスクがこれだけしかなかったというのはあるが、それでも大丈夫だろうと高をくくっていた。それがまさか海龍王本人から却下されることになるとは思いもしなかった。


「そもそも神と神獣の加護では少々違いがあるのだ。我らの加護は神の加護よりも与える際に与えられる者の資質が重要になってくる。

神の加護はその者に合わせて成長をさせることで体の崩壊を防げるが、我らにそのような芸当は不可能。故に我は人魚族の中でも一定の強者にしか加護を与えん。」

「そのような理由が。私も初めて知りましたぞ。」

「うむ、儂はこれでも神じゃからのぅ。加護の調整は得意じゃ。さすがに何千年も生きればさもありなんじゃ。」


ガルガンドは昔から思っていた疑問でもあったのか、それが解決して喜び、ミザネ村長は自分の技術を誇っている。何気に長寿であることを自慢しているようにも聞こえるが、そこは安定のスルーだろう。


俺はそれならどうしたらいいかを海龍王に尋ねる。俺としてはそれに耐えうるマスクを制作するにも時間がかかりそうなのですぐにでも取り掛かりたいと思ったのだ。


「とにかく、この大鱓はやめておくと良い。よしんば成功したとしても、そのうち崩壊するに違いない。安心して海を渡ることなどできぬであろう。」

「それじゃあ、どんなマスクならレヴァの加護に耐えることができる?」

「ふむ、最低でもミミクリーロック程度の耐久は必要であるな。」


ミミクリーロックの耐久と言えば、およそ60万だ。陸でもそこまで防御に特化した魔物を手に入れるには探し回らないといけないというのに、海の魔物でそれを探すのはもっと難しいな。


「そんな魔物がどこにいるか分かるか?」

「我が教えては詰まらぬだろう?礼ではあるが、それは加護を与えることのみ。物を集めるのは我のすることではない。」

「レヴァ様がそうおっしゃるのなら、私どもが探そうではないか。竜宮氏族は戦闘を得意とする氏族。海の魔物には詳しい。要は堅い魔物を探せばいいのだろ?」

「ほんとか!それは助かる!俺では海の中を歩くことはできても移動距離が稼げないし、ありがたいよ。」

「儂も村の文献を漁ってみようかのぅ。海底王国とは交流があったのじゃから資料もありそうじゃ。」


どうやらミザネ村長もガルガンドも手伝ってくれるみたいだ。しかし、そうなると俺は如何していればいいかな。何もしていないことになりそうだ。

俺がそう思っているとディランがふと小さくつぶやいた。どうも、思ったことが口を突いて出たみたいだが、その言葉は重くのしかかる。


「しかし、アルカナが加護を得るのに他者が味方するのは良いのか?」

「うぐっ」


俺としても心の中ではそう思っていた。他人の力を借りて加護を得るのは少々卑怯な気がしないでもない。俺はこれまで自分の力で道を切り開いてきたつもりだ。手助けをしてもらうことはあったとしても、全面的に任せるようなことはなかったはずで、今回もそれではダメな気がしてくる。


「しかし、ディラン様、アルカナ様では海の中で自由な戦闘は不可能じゃろ?」

「ミザネ様の言った通りだ。海でそのような魔物を探すのであれば間違いなく深海だ。アルカナ様であっても自由に動くことは出来まい。」

「それは確かにそうであるが。ふぬぅ、レヴァルトラーネよ。もう少し何かないのであるか?」


ディランは二人に言われてたじたじだ。助け舟が欲しくてレヴァに手を伸ばした。レヴァも巻き込まれるのはごめんだと何かないか考えるが、それよりも先にガルガンドがにっこり笑って言った。


「レヴァ様はきっと何か考えがあって我らの恩人にそういう条件を出したんですよね?」

「えっ?あ、ああ。もちろんだ。うん。そう。」


その笑顔は深みのあり反論は許さないとでもいう圧を感じる。海龍王という神獣を相手に容赦がないところを見ると改めて巫女というのは不思議な立場だと感じる。


俺が感心しているのを横目に必死に考える海龍王レヴァは、返されて俺の手の中にある大鱓のマスクを見てハッと思いつく。どうやらガルガンドに怒られるのは回避できそうだ。


「そうだ!それなら、海棲の魔物をがいる場所、かつ、骨の王でも戦えるような場所を用意すればいいのではないか!」


その答えは確かにそうだと全員が納得をした。しかし、そんな都合が良い場所があるのだろうか。だって、俺が戦える場所ってことは、ほぼ陸地でなくてはならない。現状、水中ッ戦闘ができるほどのマスクはない。


「それは確かにそうですが、その様な当てはあるので?」

「もちろんだ!我をだれと心得る。海の支配者、海龍王ぞ。それくらいの場所知らぬわけがなかろう。よし、今日中に骨の王を連れて行こうではないか!」

「え?今日?性急すぎじゃね?」

「何、我は大仕事を終えた故、少々休止期間に入る。ガリア様より指示がなければおぬしが満足する魔物を狩れるまで待ってやるつもりだ。」


どうやら長期になりそうな予感をびんびんに感じながら、俺はその話を受けるか考える。これからすぐにということはないだろう。だって、まだ村のことなどの話を村長とするはずだし、場合によっては竜宮城まで一度行ってからになるだろうから。

でも、海龍王が今日と言ったのだから今日なのだろうなぁ。


「ふむ、それでは儂からの報告やガルガンド殿の報告は如何しますかな?」

「ああ、それは今から聞く。その間に骨の王はダンジョン探索の準備を始めるがいい。」

「ダンジョンだって?この島以外にもあるのか?」

「うむ。我の作り出した深海ダンジョンがある。転移陣をここに作る故、それができるまで報告を聞く。」


俺が戦える場所を用意するということは、そのダンジョンを改変させる可能性が高いな。俺だけのためにそこまでさせるのは申し訳ないが、ありがたい話なので受けておく。


「わかった。それで頼む。しかし、わざわざダンジョンを改変させることになるとは申し訳ないな。」

「フンッ別に大したことはない。もとより使ってなかったダンジョンを我が接収したのだ。ほれ、今日ディランが滅した海王のダンジョンだ。元々潰す予定だったのだから、そのままダンジョンを攻略してしまえ。」


どうやら海王がまだ神獣であった頃のダンジョンを俺に教えてくれるということらしい。元から潰すつもりであるのなら、遠慮なく使わせてもらう。海王は海神の神獣だった。それなら海の魔物が出現するダンジョンだろうし、俺と海龍王レヴァにとって一石二鳥ってことか。


「なるほど。なら俺はすぐにでも準備をしに戻ろうか。村長とガルガンドは報告があるだろうけど、ディランはどうする?」

「吾輩は先ほど言った通り、ベルフォード王国に用があるのでな。アルカナが大丈夫そうであるならすぐにでも発つのである。長居しても申し訳ないのであるからな。」

「そうか。それじゃ、ここで別れか。根源種同士、また会うこともあるだろうし、それまでバイバイだ。」

「うむ。もう一人の根源種にもよろしく頼む。何かあれば我が主にな。では。〔龍化〕皆の者!さらばだ!カーッハッハッハッハ』


ディランは龍に変じてその場から飛び立つ。彼もどうやら忙しいらしい。俺のことで手を煩わせることがなくて安心した。

さて、俺も準備に行くか。


これから行くことになるダンジョンはどういうことなんだろうかね。ダンジョンに潜るのはずいぶん久しぶりだ。自分のマスクを手に入れるという目的こそあるが、それ以上にワクワクしている。楽しみで足取りが軽くなるのは少し恥ずかしいな。子供みたいで。


「骨の王よ。ダンジョンまでの転移陣の構築はそこまでかからぬ。急げよ。」

「ああ、わかってる。」

「なら良い。ミザネ、ガルガンド。では報告を聞こう。」

「「ハッ」」


俺も〔魔法陣魔法〕を使えるので、どれくらいかかるかの目安は分かる。なので、それに合わせて戻ってくるつもりだ。

ミザネ村長が、海龍王が島にいなかった時の報告を開始したのを聞きながら、俺は村まで急いで戻る。


ああ~、久々のダンジョン楽しみだ。シュツェンは連れて行くかね。


って、俺ってば戦いっぱなしで魔力の残量確認してなくね?えっと...ぬおっ!空っぽじゃないけど、三分の一も残ってないじゃん!

村で魔力回復用のポーションとか買えるかな?

















ダンジョンに行きましょう


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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