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第230話 根源種の役割③


自分の話を聞くことになるからというわけでもないが、背筋を伸ばして真剣な雰囲気を作り出しながら耳を傾ける。

ディランは骨の王の役割を本人オレに話すとあって、先ほどよりも少しだけ慎重になって話し始めた。


「骨の王は、根源種の中でも最も役目を果たしたものが少ない。それは彼らの役割が、他の根源種と比べるとずいぶん特殊だからである。」


ディランはそう言うと、俺の眼を見てニヤリと笑った。


「アルカナも自分が特殊な役割を担っていることは気づいているであろう?」


彼の問いかけは正しく自分が今までの話を聞いていて気が付いたことだった。確かに俺の役割を予想するに他とは毛色が違うことに気が付く。


「ああ。わかっている。」

「うむ、それなら難しく説明する必要はないであるな。ミザネやガルガンドにわかりやすく説明するのである。」

「助かります。」

「有難いのぅ。」


ディランは二人に配慮して言うと俺の役割が特殊であることの説明をする。


「骨の王の役割は、『人でも、魔の者でも、どちらでもない者を裁く』ことである。簡単に言えば、アンデッドであるが、不自然に作られたゴーレムなどのその対象になるのである。」

「ああ、それはオーリィンから言われている。はじめは死神の手伝いという名目だったのに、気づけば補助でなくて各自で動くようになっちまった。」


最初にオーリィンに言われてアンデッドを狩るときは、死神の指示を貰ってから動き出すことが多かった。しかし、最近では指示を貰うよりも前に問題に直面して、自分で仕掛けている。

この間のアンデッドによる隠れ島への大規模な襲撃も最初のころであれば、死神から即座に念話みたいな感じで頭に直接指示を受けてから対処する流れになっていたはずだ。

それが今は俺の自己判断で動くことが許されているあたり、自分の本来の形がコレなんだと思う。オーリィンや死神から何か言われたわけではないけれど、間違っちゃいないだろう。


「その最初の期間はおそらく研修期間のようなものであろう。吾輩はその件には部外者もいいところであるので、明言は出来ぬが。

生物の生命や死に触れるという行為は、世界の禁忌である。アンデッドの創造や疑似的な生命として生み出されるゴーレムなどは、その禁忌に十分に触れることであり、そう言った大罪を裁く権利を持つのが、貴殿、骨の王なのである。」

「ふむ、それはつまりは、アンデッドなどの不正にこの世に留まる魂や何者かによって魂が定着したゴーレムなどを狩ることが俺の役目ということだよな?それは他の根源種にはできないのか?」


俺は疑問に思う。俺がアンデッドを狩ることができるということなら、他の根源種はどうなのか、と。


「うむ、それが骨の王として立つ貴殿の役目である。しかし、それを他の根源種、吾輩や吸血姫が担うことは不可能である。飽くまで我らは生きた者を裁くもので、貴殿はそれ以外と完全な棲み分けをしているのであるからな。抜け道はあるが。」

「でも、レイアはアンデッドを狩る現場にいたことはあるし、その際に何度もアンデッドを消滅させていたこともある。〔光魔法〕も使えるからな。」


アンデッドを狩る現場にはレイアが一緒にいた時もある。それも一度ではないし、その際に何度か手伝ってもらったこともあるのだ。

レイアは俺の様に魂を冥府に送るなどの目的や手段はなくても、〔光魔法〕によって多くのアンデッドを消滅させていた。それはいったいどういうことだろうか。


ディランは俺の言葉を聞いて、少しだけ考えるように顎に手をやると、ううむ、と唸って何か結論付けて言葉にする。


「おそらくであるが、アンデッドを消滅させる際に神気を活用したのである。それもアルカナの権能“魂送り”を模倣して再現した上で。」

「は?権能?模倣?再現?」


俺はディランが何を言っているのか理解ができなかった。しかし、それでは話が進まないので、詳しい説明を求めて言葉を繰り返す。

レイアは神気のことを知っていても扱うことはできない。それは本人が言うのだから間違いない。彼女も俺と同様、【伝説級】が神気の器になっていることは知らないはずだし、それを使う方法を知るわけもないのだ。


「神気という力には、自由な変異を促すことができるのである。吾輩の様に長きを生きればそれも可能になるのであるが、話を聞いた限りでは、今代の大地の根源種は天才なのかもしれぬのである。」

「それは俺にもできるのか?」

「できるがする必要はないとしか言えぬ。神気を変質させる技術は骨の王の権能を真似るための技術に他ならぬからな。それ以外に変異させる技術を吾輩は知らぬ。」


つまりは、この神気を変質させるというのが、ディランが言う抜け道ということなのだろう。


「抜け道がどういう物かわかったけどさ。その俺の権能?ってのはなんだ?権能は神の領域の話じゃないのか?」

「そういう認識でいいのである。しかし、吾輩たち根源種は条件をクリアすれば権能を開放することができるのである。そのカギが」

「超越化、だな。」

「である。」


話しぶりからして俺とディランは権能を開放しているとみていい。そうなると、先ほど同様にレイアとの差はそこしかない。


「超越化をしてこそ根源種としては一人前と言えるのであるよ。と、まぁ、根源種の話はこれくらいである。吾輩にも分からぬことはある故、より詳しいことが知りたいのであるなら、吾輩に聞くのではなく、自らの主や吾輩たちの主を訪ねてみるのがいいである。」

「そうだな。ありがとう。これまでの認識が少しだけ深く理解できたよ。」


これまでは特に気にすることなくアンデッドを狩ってきたけど、それが他の根源種にはできないことだと言うのなら、これまで以上に力が入るってものだ。

俺はここまで活動してきて、自分以外のために行動することが嫌いでないことを自覚している。世話焼きの気質というのかな。冒険者ギルドでは若手の仕事を手伝ったり、戦いの指導をしたりと活動したし、学園でも生徒のために訓練を考えたりすることは意外に苦ではなかった。


きっと、今後もそう言った性格は変わらないだろうし、全力をもって自分の役割を務めていこうと思う。


「ディラン、いろいろと教えてくれて感謝する。これまで以上に自分の役目を自覚して努めていけそうだ。最初こそ、なんで俺がとも思ったが、今にして思えば、これも俺の性格を知ったオーリィンの采配だったのかもしれん。」

「うむ、過ぎたることを言うのは仕方がないのである。未来に向けて顔を上げて歩くのが一番であるからな!」


俺とディランは固く握手をすると、お開きの雰囲気がその場に流れ、ミザネ村長やガルガンドもこれで終いとばかりに片づけを始めた。村長は俺たちに渡した茶器を片付け、ガルガンドはずっと手に持っていたトライデントを布でくるみ始める。ディランも傍らに置いていた笠を被りなおして立ち上がる。


そんなみんなの帰り支度の様子を見ていて、俺はハッと思い出す。なんだか、大団円で終わりそうなところで、俺の一番の目的が果たされていないことに気が付いた。


「あっ!そうだった!」


俺が突然上げた声にみんなが反応する。一旦、帰り支度の手を止めてこちらを振り返り、なんだなんだとみている。

そんな三人に俺は自分の忘れていたことを話す。


「なんだか終わりそうな感じだったけど、俺はまだ終わってないんだよ。そもそも俺はどうやって大陸に帰ればいいんだよ!」


俺の心からの叫びに、みんなはそういえば、と思い出して驚愕の色を顔に張り付ける。まぁ、俺自身忘れていたから責めるようなことはしないが、ひどいとは思うよな。


「そう言えば、アルカナはこの島から出る手段を持ち合わせておらぬのであるな。ミザネ、ガルガンド、どうするつもりであったのだ?」

「それについて私が知ったのはつい先ほどですからね。案というほどの者はありませんね。我ら竜宮氏族が連れて行ってもよいですが、あまり大陸に近寄るのは避けたいところです。」

「儂としても案はないですな。そもそも海龍王様にどうするかご教授願いたいと思っていた次第ですしのぅ。」


そういえば海龍王を待っていた理由も忘れていた。そもそもは俺が大陸に帰るための手段を手に入れるためだったのだ。

それが偽物騒動やアンデッドの襲撃などがあったせいで記憶の彼方に葬り去られていた。本来の目的を忘れるほどの濃密な時間になったのは間違いないけど。


「ふむ、であれば、吾輩が乗せて飛んでもいいのである。これでも龍王であるから、それなりに大きい。アルカナやその従魔を連れて飛ぶくらいできるのである。ベルフォード王国まで行く用事があるのでな。」

「おお!それは名案ですな!アルカナ様は大きさを変えることができるスキルもあることじゃし、いいお話ですじゃ。」

「うむ、我らが海を泳ぐよりも確実であろう。アルカナ殿はどう思っているんだ?」


二人はディランの意見に賛同しているようだが、俺としてはベルフォード王国となると少々都合が悪い。ありがたい話であるというのは大前提だが、エルフの国に行きたいので、寄り道はしたくない。

悩んでいると、そこで俺は一つの疑問を思い出す。


「有難い話なんだが、その前に少し確認したい。ディランは本物の海龍王の居場所を知っておるか?」

「ん?レヴァルトラーネの居場所であるか?もちろん知っておるのである。吾輩の感知範囲は、広大故にな!んーと、今は...おっ?いいところなのである。」


ディランの言葉はさすがとしか言えないが、最後の部分はどういう意味なのか分からない。取り合えず説明してもらうとしよう。


「何がいいところなんだ?」

「カーッハッハッハ。少し遅くなったが、来ているのであるよ。」

「は?何が?」


俺は意味が分からず、聞き返す。しかし、その答えを聞くよりも先に俺の〔探知〕とミザネ村長の感知範囲に巨大な何かの反応が侵入してくる。


「これは?」

「彼の方がお越しになるのじゃ。」


俺の質問はミザネ村長の言葉で推測からか苦心に代わる。どうやら待ち人が来たようだ。突然の襲来に、先ほどの戦闘前の緊張とは別に高貴な存在に会うという緊張に襲われる。

俺が緊張しているその横でガルガンドがびくりと震えて何かに返答するように声を出した。


「ハイッ!ええ!ええ!承知しました!お気をつけて!」

「なんだ?!どうした!」


ガルガンドに聞くと、彼は一筋の涙をツゥーっと漏らして言った。


「海龍王様が、島の入り江まで来いとミザネ様に伝えてくれ、と。」

「なんと。承知したのじゃ。申し訳ございませぬが、アルカナ様とディラン様にもご足労願っても良いですかな?」

「あ、ああ。」

「もちろんである。久々に会うのは楽しみである!」


俺たちは急いで支度をして、指定された村の西側にある入り江まで移動する。そこは本物の海龍王が来る際に謁見に使われる入り江であった。

リオウ以外の神獣に会うのはこれが初めてとなる。正直を言えば、緊張が凄まじいが、それでも俺が大陸に行く手段の確保には必要である可能性が高いので、どうにか気を落ち着けて急いで移動する。

その後ろには村人たちが続いているのは目を瞑るので良いのだろうか。



















本物でしょう


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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