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第227話 救援の理由


自分で殺した海王に逃げられたと勘違いする目の前の根源種オレと同類だという僧侶ディランは朗らかに笑う。


「ぬぅ、やはり近くには感じられぬな。吾輩も鈍ったものよ。昔は敵を逃がすことなどありえなかったのである。カッハッハッハ。」

「ハッ!まずい!ファイシュは!?」


俺はディランが笑うのを他所に村長とガルガンドに視線をやるとファイシュを見つけたか確認する。

ディランがファイシュを見逃したとは思えないので、きっと難しいだろうとは思ったが、予想が外れることを祈ったのだ。


しかし、二人の反応は同じで、俺と視線がぶつかると残念そうに首を振る。俺も〔探知〕で必死に探したが、やはりファイシュの気配はすでに感じ取ることはできなかった。


「クソが。逃げられたか。まぁ、海王があそこで復活することは予想できなかったし、ファイシュが生きているのを見逃した俺の落ち度だな。すまない。」

「いや、アルカナ様のせいでは。儂も確認しなかったですしのぅ。」

「そうだ。まさかあの状態で生きているとは考え難い。それが自然だ。」


二人は俺を慰めるようにそう言ってくるが、空気を読まないものが一人。笠をかぶった坊さんである。ディランは被っている笠を取って、その頭を露出させると、俺たちのミスを笑い飛ばす。


「カッハッハッハ、この付近にはすでにおらんよ。あ奴らは逃げることに関しては一流である。吾輩や死神も何度も逃げられておるでな。気にするな。」


ディランが死神という言葉を出したことで、少しだけ気になるが、それよりも逃げるのが一流というのに納得がいってしまい、それ以上は考えられなかった。


確かに今まであった悪なる神はずいぶんと逃げるのが上手であったと思う。デルキウスは少々特殊だが、ザンビグルやファイシュには見事に逃げ切られてしまったのだから。


「まずは、海王を殺してくれたことに感謝を申し上げます。しかし、どうしてここに?先ほど、主の命とおっしゃっておりましたな?」


その場を代表して、島の主でもあるミザネ村長がディランに質問する。そういえばそんなことを言っていたな。龍の根源種ってことは、創造と破壊の神ブラウマンの使徒ってことなんだが、そう言うことだよな?


「ぬ?仕留めることができていたか。それは重畳。ここへ来たのは、我が主、創造と破壊の神ブラウマンに命じられたのである。そもそもの経緯までは知らされておらぬが、どうやら別の世界神からの依頼だと聞いたのである。隠れ島に襲来した悪なる神を追い払えとな。」

「なるほど、それでこの島までいらっしゃったのですか。」


村長は納得したようだが、俺はまだ気になることがある。それは“この島に悪神が来ていることを知らせたのが誰か”というのと“なぜ追い払えなのか”ということである。

誰かは聞けばわかるかもしれないが、追い払うに関しては本人もわからないかもしれない。あれだけの力を持っていれば、追い払うじゃなくて殺すこともできるだろう。しかし、それを命じなかったのは何かがあるのかもしれない。


「ああ。主は吾輩にこう仰った。『ディランよ。ファイシュが動き出したらしい。ガリアより救援の依頼だ。島を守りたいのだとさ。適当に追い払ってこい。あの島にゃ今、オーリィンのとこの根源種がいるはずだ。別に仕留める必要はない。追っ払う程度でいい。あ、障害があればその殲滅は許そう。......』とな。吾輩はこの命に従い、先ほどの巨大な魔物?を仕留めた。」


声を真似るようにディランがそう言ったが、端正な顔にスキンヘッドという少々不思議な組み合わせの彼は不思議そうな顔をしている。


「ううむ、しかし、あれは本当に魔物であったかわからぬのである。魔物にしては神気を放ちすぎであった。不思議であるな。」

「ああ、あれはファイシュの魂を入れられたことで疑似的に神気を扱えるようになっただけだ。まぁ、それでも十分に脅威だったからな。事実、助かったよ。感謝する。あんたが来なければどうなっていたかわからない。」


俺は素直に感謝を述べるとディランに頭を下げる。ディランはそれを受け取ると笑い飛ばしながら俺の背中をバンバンと叩いてさらに笑う。


「カッハッハッハ、そうかそうか。助けになったようで何よりである!しかし、吾輩と貴殿は同じ根源種同士、仲間ではないか!水臭いことを申す出ない!カッハッハッハ!」

「何やら豪快な御仁じゃな。根源種に合うのはこれで三人目じゃが、皆、面白い方ばかりじゃ。」

「そうですな。」


俺たちのやり取りを見ながら村長がそんなことを言うが、俺としては聞き捨てならない。それだと俺まで変人ってことじゃないか。

抗議の意味でもそちらを一瞬だけにらみつけ、もう一つ気になったことをディランに聞く。


「なぁ、どうして追い払うんだ?それだけの力を持っているならファイシュを仕留めることも可能だろう?」

「ふむ、確かに可能だが、それは時期ではないのである。まぁ、吾輩もわかってはおらんのだがな。主がそう言っていたのである。」


やはり正確な理由はわからない様だ。しかし、世界神がそう言っていたというのであれば理由がないはずもない。

もしかしたら、俺が殺そうとしたことはまずいことだったのか?そう思ってディランに聞くと、意外にもそうではなかったようだ。


「もしや、俺がファイシュを殺すのもまずかったか?」

「いや、貴殿なら問題ないである。骨の王であるからな。吾輩らとは役割が違うのである。」

「役割?」

「うむ、これはあまり広めるわけにはいかぬが、この場にいるのは神かそれに準ずるものばかり。言っても問題ないであろう。我ら根源種のそれぞれの役割について少しだけ話すのである。」


ディランはそう言うと、少しだけ身なりを正して咳払いして話し始める。そういえば、ここは村の前の浜だけど、立ったままの話でいいのだろうか。村長の社まで引き返す必要はないか?

俺が思ったのとほぼ同時に村長も思ったようで、ディランに場所の移動を申し出る。ガルガンドも言い出せなかったのか、村長に感謝の視線を投げかける。それは俺も同じであった。


「少しお待ちくだされ、ここで話すにはあまりにも何もない。ここは一度、我が社に招待させてはいただけませんかな?何もないのは変わりませんが、漏れることはさらになくなるでしょうしのぅ。」

「うむ!そうであるな!吾輩も広めるべきではないと言いながら配慮が足りなかったのである。」

「ありがとうございます。では、アルカナ様、案内をお願いいたします。儂は村人たちに事情を説明してきます。」

「おう。」


村長は俺にそう言って駆け足で村へと戻っていく。ガルガンドは俺と一緒に村に戻るようだ。

村のみんなには危機が去ったということだけを伝える必要があるのだから、村長が言ってくれてよかった。このまま、話し込んでしまうと、いらない警戒をさせることになるからな。


「それじゃ、ディラン殿?こちらへ。社まで俺が案内する。」

「ああ。しかし、貴殿。吾輩のことはディランでいいのである。吾輩もアルカナと呼ぶが良いか?」

「あ、ああ。それじゃ、よろしくな。ディラン。」


俺は自己紹介していないのに名前を呼ばれたことで少しびっくりしたが、もしかしたら、俺の〔戦力把握〕みたいなものがあるのかもしれない。世界神から聞いた可能性もあるしな。オーリィンの奴、口が軽いから。


俺たちは握手をした後に村に向けて歩き出す。村長が急いで行った意味は分かっているので、できるだけゆっくりと。ガルガンドも特に尋ねることなくついてくる。

ディランとはその間も話し続ける。意外に話しやすい人間で、助かった。改めてお互いに軽く自己紹介をしつつ、歩いていくと、村の正門へと到着し、あの面倒な手順を踏んで村の中へと入る。裏の門は楽なのに正面がこれだけ面倒だと大変だ。


村の中に入ると、村長がどういう説明をしたのか、俺たちに向けて盛大な拍手と黄色い声援が聞こえる。まるで英雄になった気分だが、実際その通りな気もするので、ありがたく称賛を受ける。最後の部分はディラン一人の手柄なので、少々、申し訳ないが。


「パパ!アルカナ!っと誰よこのハゲ!?」

「お帰りなさい。」

「ぎゅい!」


俺たちを避けるように道の端に集まる村人たちの中から、3つの影が現れた。ソフィア、メアリー、シュツェンだ。二人と一体は駆け寄ってくる。

ソフィアはガルガンドに抱き着いて、メアリーは綺麗な姿勢でお辞儀をし、シュツェンが俺に突撃する。ガルガンドに受け止められたソフィアは俺とディランにも声をかけるが、もちろんはじめましてなガルガンドにはちょっと辛らつだ。


「こら、こちらはディラン様だ。レヴァ様と同格な御仁だ。」

「じゃあ、アルカナと同じね!よろしく!ディラン!」


確かにそうなんだけど、さすがにまずいかもしれないとディランの方を見ると、彼は実にいい笑顔で笑う。本当に気のいい人物だ。


「カッハッハッハ。うむ、元気のいい童である。そうである。吾輩はディラン、アルカナと同じように接してくれ。他の二人もな。」

「うん!」

「承知...。」


ディランがそう言うと二人は元気に返事をしたが、シュツェンは俺に突撃するので聞いていない。それを俺は謝ると、ディランは気にしていないと言ってくれた。

そこでガルガンドに先を急いだほうがいいと促され、慌てて社に向けて急ぐことにする。社の場所を知っているのは俺だけだからな。


「すまんがみんな、これから村長の社に行かなくてはならないんだ!今日のことはまた後でな!」


俺がそう言うとみんな素直に退いてくれる。こういうところで俺が村に受け入れてもらったということを実感できる。

うれしい内心を押し殺して進むと、空気を読まない男がこそこそと耳打ちしてくる。


「うれしそうであるな。」

「なっ!?」

「そう照れるな。根源種でここまで他者に好かれる者は珍しい。アルカナの気質が好ましいのであるのだろう。」

「うるせぇ!黙ってついてこい!」


俺は少しどころじゃないくらい気恥ずかしくなって、乱暴な口調で言って早足になる。それを苦笑しながらディランとガルガンドが付いてくる。

まぁ、人に好かれるに越したことはないのだから、はずがしがる必要もないのだけど、こればかりは仕方がない。


こうして俺たちは村長の社へと到着する。ここで聞けるのはどういった話になるのだろうか。

根源種の役割とは何なのだろうか。言われるまで考えもしなかったが、大層な肩書を持つ俺の役割は気にして然るべきだ。

オーリィンが言わなかったのはなぜか、死神も何も言わなかったのも不自然だ。


社の戸を開けると、村長が慌てた様子でお茶をたてていた。ああ、これもあったから急いで戻ったんだな。


村長の様子を見ながら何も言えない俺はそんなことを考えながらぼーっと突っ立っていた。

あ、早く中に入らないと。




















役割でしょう


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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― 新着の感想 ―
[一言] タグに主人公最強って入ってるけどそんな最強じゃなくね?そこそこ強いくらいなところしか今の所見えないんだけど。
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