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第221話 VS偽物④


海龍王と化したファイシュと対峙した俺とミザネ村長は、神獣級の敵と対する緊張感からか、一瞬も気を抜けない状態を維持していた。

村長は手に持った仕込み杖を構えてじっくりとファイシュを観察中だ。俺が言った様に何か突破の手がかりを探してくれている。


俺もイシュガルを構えて村長を守る形で気を張る。俺が推測するに、ファイシュの〔擬態〕はデルキウスの〔擬態〕よりも精密で高度な技術だ。

デルキウスのトロの海よりもファイシュのトロの海の方が腕力や耐久力、回復などすべてにおいて上だったと言える。一瞬でも気を抜けばその隙にこちらが殺されかねない。


「フゥ、フゥ、フゥ。」


一定のリズムで呼吸をして集中していく。ファイシュはどうやら無手のままなのだが、先ほどの様に〔水魔術〕を行使してくる可能性もあるので、海の方にも注意を向ける。まぁ、今はメアリーの防壁で海は見えないわけだから、そちらの方向を気に掛ける程度だ。フライングシャークが飛び越えてきたくらいだし、魔術で水を引っ張り込むことはできるだろう。


「じゃあ、まずは肉弾戦から。フッ!」


ファイシュがそう言った次の瞬間には目の前から姿が消えた。その速度は先ほどまでの日ではなく、奴が本気を出してきたことが分かる速さである。

姿を見失ったわけだが、俺には〔探知〕がある。ファイシュはその強すぎる力を抑えることを一切していない。つまり、〔気配探知〕だけでも十分に見つけることが可能なのである。


俺は自分の背後にノールックでイシュガルを振り、気配が動いた方向に蹴りを放つ。どうやら背後から奇襲をするつもりだったみたいだが、そこまで甘く見られると腹が立つな。


「おっと。残念。背後からの攻撃に反応するんだったら、今度は正面から行くさ。こんな風にねッ!」

「クッ。」


ファイシュは俺に対して拳を固めて連撃を開始する。最初は何とか避けることができたものの一発二発三発と回数を重ねるごとに激しさは増していき、次第に回避が間に合わなくなる。


「グッ、ガッ、ウッ」

「ほらほら!さっきまでの威勢はどうしたんだい!このままじゃすぐに終わっちゃいそうだなぁ。」


俺は何度も殴られながら冷静にその威力を分析する。

ただでさえ硬い俺はダメージが通ることはほとんどない。しかし、今の攻撃はダメージよりも衝撃が強いため、こちらから動くことができないというある意味で最悪の攻撃であった。


俺は衝撃をどうにか逃がして体が吹き飛ぶのを防ぎつつ、ファイシュの攻撃に合わせて体を動かし始める。少しでも威力を軽減させてファイシュの拳に負荷を与えたかった。

しかし、俺の目論見は見事に失敗する。ファイシュも考えていなかったわけではない様だ。俺が硬いということを。つまり、ファイシュはただ殴っていたわけではないのだ。


「あれぇ?もしかしてボクの拳を壊そうとしたのかな?ざぁんね~ん。君が丈夫なのはわかっているさ。だって、トロールのフリして君を見ていたし、さっきは壊すつもりで殴ったんだからね。まさか壁から出てくるとは思わなかったよ。

だからね、ほら、こうして手を守ってるんだよ。さすがの君もこれじゃどうしようもないでしょ?」


ファイシュは殴りながらも俺に種明かしをする。どうやら俺を殴るのにわざわざ両手だけをアダマンタイトに変えているみたいだ。言われてみれば手が鈍い茶色をしている。

殴られ続けながらも、少しでも村長が情報を得られるように最小限のダメージで切り抜ける。さすがの俺もノーダメージでは受けきることができないらしい。

久方ぶりにダメージを食らっている。心配になるのは混合魔獣面キメラマスクの耐久だな。俺の耐久の影響を受けているとは言っても、ダメージが蓄積すれば破壊されてしまう。


さて、どうするかね。ここらで反撃をした方がいいよな。耐えて時間を稼ぐのも良いが、どうせなら圧倒するつもりで攻撃しよう。


「やられっぱなしも、性に合わ、ねぇし、そろそろ反撃する、ぞ?やろうと、思えばこういう、こともできるん、だぜ!!」

「フンッフンッフンッ、は?ぐへぇぁ!!」


俺は滅多打ちにされながらも強引にイシュガルを振る。それと同時にアッパーだ。さすがに攻撃に全部りしているところに二方向から攻撃されたら避けようがないだろう。

イシュガルは柄の部分がファイシュの側頭部に当たり、アッパーが顎にクリーンヒットする。どう考えても常人なら気絶するだろう一撃が入ったが、ファイシュは多少よろけただけで意識を手放すことはない。

そりゃ、神を名乗る者がこんな簡単なわけはない。ましてや神獣の能力を模倣しているのだから、甘すぎる考えだったか。


「クソッやってくれたな!でも、まだボクの攻撃は続いている!今度は魔術も混ぜてやる!<水よ>!」


ファイシュが手を前に突き出すと空気中の水分が集まって一つの塊になる。それで攻撃してくるのかと思えば、どういうわけかそれを右手で掴み取った。

ファイシュに掴まれた水は形を変えて巨大な土のような形になる。


「名付けるなら、“水の大槌”ってところかな。さ、今度はボクの番だ。」


とりあえず、そのネーミングセンスはどうなんだ、とか、さっきまでずっとお前の番だったじゃん、なんてツッコミはやめて、俺は精一杯距離を取る。さすがにあの大槌で殴られ続けたら、ミスりそうだ。一つ失敗しただけでどこまで飛ばされるかわからない。ここは回避に徹しよう。そんで村長に聞こうじゃないか。


「村長!どうだ!そろそろ何かわかったか?」


俺は必死になって回避し続けながら村長に尋ねる。ここで話し合ったらファイシュに筒抜けだとかそういうのは考えていられない。

俺の一縷の望みをかけた問いかけは、村長が首を振ることで残念な結果に終わる。


「いいや、どうしても本物との差も、制限や代償なども見つからんのじゃ。敵ながら完璧な〔擬態〕じゃな。」

「いやっ関心っしている場合っじゃない!」

「フフフ。そうだろうそうだろう。ボクは完璧なんだ。」


村長の言葉にファイシュは気分よく俺を攻撃する。というかいつの間にか左手にも同じサイズの水の大槌が増えているじゃないか。単純に二倍になっている。


「ホラホラホラホラァ!避けてばかりいないで受け止めてみなよぉ!」

「ンなことできるか!クッソ!ぜってぇ目にもの見せてやる!」


俺は調子に乗っているファイシュに苛立ちながらも何か突破口を考える。少しでもいい手が思いつけば実行するしかないだろう。


***

Sideミザネ


「ふむ、完璧、完璧のぅ。何か逆転の一手はないのか。」


儂はアルカナ様が体を張って守ってくれている間、集中してファイシュの弱点を探す。あれだけ完璧な〔擬態〕にマイナス要素がないわけがないというのが儂とアルカナ様の共通認識だ。

スキルでも権能でも、高い効果にはデメリットが付くことは珍しいことではない。ここまで完璧であれば、間違いなく何かあるだろう。しかし、それが見つからない。


バキボコと殴られる音が聞こえる中で、儂はファイシュを見る。海龍王様と全く同じ姿をしておるファイシュ。そもそも、ここで初めて相見えたわけであるし、弱点など見つけようもない気がする。


「ミザネぇ!こいつを殺したら、次は君の番だよぉ!世界神の犬が、ボクらに盾突いたんだ。それくらいは覚悟してよ!」


どうやら儂はともかく、アルカナ様が世界神に関係あるとまで知られているようだ。悪神でも情報の共有をしているのかもしれない。

アルカナ様はザンビグルという腐神と面識があるようだし、そこから広がっていてもおかしくないのぅ。


青い髪を振り乱して一心不乱にアルカナ様を殴り続けるファイシュに儂は何かが引っ掛かった。何かを忘れておるような。


儂は今一度、ファイシュをよく観察する。海龍王様の姿なのだから、当たり前のように美しい容姿、透き通るような深い青色の髪と同色の瞳。額には青紫色の鱗が一枚、まるで白毫ビャクゴウの様に存在する。

そんな海龍王様の美しい容姿が、醜悪に歪んでアルカナ様を殴りつけている様は形容しがたい不快感を催す。


そこでふと思い出す。あの白毫、なんであったか、ということを。もしかすると、これが逆転の一手になるかもしれない。


儂は確かめるべく、地面に手をつき神気を放つ。地形を変化させて投擲具を作成する。これがうまくいけば隙を作るくらいはできるはずだ。


いくつか分かりやすく、やってみるとしようか。儂は作り出した投擲具を引き絞り、手近にあった石ころをかけて、手を放す。簡易的だが、弓矢のようなものだ。補助として〔自然魔法〕で追い風を送る。

儂が放った石ころはまっすぐに二人の間に飛んでいき、|ファイシュの目の前で爆ぜた《・・・・・・・・・・・・・》。


「うぁ、なんだ?!グヘ」

「フム、あの威力じゃ大した意味はないか。目くらましが限界じゃな。」


アルカナ様には影響が出ないように追い風にしたわけだが、ファイシュがひるんだ隙をついて腹に強烈な一撃をお見舞いした彼の思い切りの良さに脱帽じゃ。

踏み込んでの腹パンは、舞い上がった砂煙をもろに被る形になったのじゃが、物ともせずに突っ込みおった。彼も決めることはできずともチャンスは見逃さない。これも冒険者だからか、それとも本人の才覚かのぅ。


「ペッペッペッ。なんだかわかんねぇが、村長が何かしたのはわかった。まだ時間はいるか?」

「うむ、もう少し検証を重ねておきたい。儂の推測が正しければ、少しばかり光が見えたのぅ。」

「おっしゃ!気合入れるぜ!」


アルカナ様はそう言って悶絶するファイシュに向かって走り寄る。どうやら動き出す前に追撃に移るようだ。

儂はとにかく、至急で仮説を検証しなくてはならない。


今度は先ほどよりも大きくなるように石ころを固めて投擲具で放つ。先ほど同様に追い風にして破裂させた。


「フン!二度も効かないよ!」


アルカナ様は先ほどと同じようにファイシュに攻撃を仕掛けたようだが、さすがに同じ手は食わないらしく、ファイシュに防がれる。そこから、一進一退の攻防が続き。魔法を織り交ぜたファイシュ、物理一辺倒のアルカナ様はどちらも譲らず、殴っては殴られ、水で流されれば強引に押し切り、と決着はつかない。

時折検証のために儂も横槍を入れるが、調整が難しいのぅ。ファイシュはそんな儂が邪魔なのか、時々こちらに向かって水魔術で攻撃してくる。さすがに食らうわけにはいかないのでその時ばかりは検証を中断して身を守ることに徹する。


「あーもう!うっとうしいなぁ!安易がしたいかわからないけど、面倒なだけだからやめてよ!」


敵にやめろと言われてやめる馬鹿はいない。むしろ数を増やしてやる。そろそろ仮説通りの反応が欲しいところじゃが、どうだろうか。


「ほれ、次じゃ。」

「また?うっとうしいだけじゃん!」

パンッ


試行回数が何回かなど数えておらなんだが、今回は成功したようだ。破裂した音が聞こえた瞬間に、ファイシュが悲鳴を上げてのたうち回る。

その光景にアルカナ様は驚くが儂も想像以上に効いたので驚いてしもうた。


「いだぁあああああああぁい!な、何をしたんだ!」


状況が分からないファイシュは困惑や苦痛、怒りで顔を歪ませながら問い詰める。その答えを知っているのは儂だけじゃから、聞くのも理解できるが、敵が教えてくれると本当に思っているのかのぅ。


ま、教えてもどうしようもないじゃろうし、良いけどのぅ。


「単純な話じゃ。儂はおぬしの完璧な〔擬態〕がどれほどまで完璧なのかを考えただけじゃ。完璧であることがいいこととは限らない。おぬしにとっても教訓になるのではないか?」

「ぐぉおおおおお、完璧で何がいけないんだ!ボクが本物になるには完全にならなくちゃいけないんだよ!」


どこか心からの叫びのように聞こえるが、だからと言ってトロの海にしたことを正当化できるわけではない。そもそも島を襲撃した者に慈悲など与えるつもりはないのじゃ。


「完璧だからってのはどういうことだ?俺にもわかるように教えて...いや、いいや。敵の目の前でバラす必要はないか。俺はとにかく此奴を倒すだけだ。」


アルカナ様はそう言って大鎌をぶんぶんと振り回す。あの大鎌にもどこか神の雰囲気を感じるのは気のせいではないじゃろう。その銘も神の名を持つ名品だ。きっと【加護】が付いているのじゃろうて。


儂が検証を重ねてきたのはあの額の鱗がどこまで再現されているかというものだ。海龍王レヴァルトラーネ様の額の白毫はご自身の逆鱗である。

龍や竜にとって逆鱗というのは最も感覚が強く、ほんの少し傷ついただけで尋常じゃないほどの刺激を与える。この場合の刺激は主に痛覚に作用するもので、全身をめった刺しにされるほどの激痛なんだとか。


海龍王様は、さすがは神獣というか、その痛みを克服し、白毫の痛覚を完全にコントロール下に置いているので、一切の痛みを感じていないらしい。

しかし、この海龍王様の姿を模しているだけの偽物ではどうだろうか。もともと逆鱗など持ち合わせていない者がそれを突かれた時、どれほどの反応を示すかは、今はっきりと結果として出た。

やはり逆鱗は触れてはならぬものなのだ。


「アルカナ様。ここからは儂も参戦するのじゃ。先ほどの様に隙を作って見せようぞ!」


儂は勇んで杖を構えてファイシュに突撃する。


***

Sideアルカナ


なんだかファイシュが苦しみだしたのは、本当に何もしていないタイミングだった。もちろん俺が何もしていないというだけで、ミザネ村長はそうでもなかったのはわかる。じゃあ、何をしたのか。それは聞かないことにする。敵の前で堂々と作戦会議はしない方がいい。たとえ痛みで何も聞こえていないだろうファイシュの前であっても。


額を抑えてもだえるファイシュに俺は追撃を加える。狙うのは無防備に差し出された腹である。


「グハッ、こんなに苦しんでいる相手に追撃とか、血も涙もないな!」

「うるせぇ!黙って死ね!」


俺は所謂サッカーボールキックってやつを何度もファイシュの腹に叩き込むつもりで近寄ったのに、ファイシュの奴はなぜだか必死に頭を押さえてゴロゴロと転がって避けた。

ふむ、村長のアレは此奴の頭を攻撃するためのものだったのか?


俺は推測の域から出ないソレを振り払って、今度は横たわるファイシュに向かってイシュガルを振り下ろす。そのまま地面に縫い付けてタコ殴りの予定だ。


「ハァアアア」

「クソッ、痛い痛い痛い痛い!はぁはぁはぁ。何だってんだ、いったい。」


俺の一撃は残念ながら地面に突き刺さり、その隙にファイシュは立ち上がる。痛みに耐えているので、顔は歪んでいるが、まだ戦う意思はあるみたいだな。

自分の痛みの原因がわからないのかいら立ちが募っているようだが、そこに村長の無慈悲な攻撃が迫る。


「ほれ、今度はさっきより痛いぞい!」

バァンッ!

「ぐぁあああああああああああああああああああ」


さっきよりも数段強烈な破裂音がしたと思ったら、また頭を押さえて転げまわる。よほど痛いのだろうが、もしやあの額の点が原因か?


まぁ、俺にとって都合がいいので、とりあえずこの波に乗ることにしよう。

























戦いは続くでしょう


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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