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第218話 VS偽物①


俺とミザネ村長はこちらへと睨みを利かせる偽物の海龍王に対峙して、武器を構える。俺は上の両手でイシュガルを構え、下の両手は徒手空拳の構えを取る。半身になっていつでも飛び出せるように構えていると、俺の隣でミザネ村長も武器を構えた。


ジャキリ

「これを使うとは。そうなってほしくなかったのぅ。」


彼はそうつぶやきつつも、その手に持つ杖の持ち手を引き抜く。中から現れたのはどこか神秘的な輝きを持つ刀身であった。

どうやら仕込み杖になっていたようで、それを構える村長は普段の仙人らしい見た目からは想像ができないほど、鋭い威圧感を放っていた。


「フン。」


対する偽龍王はそんな俺たちを忌々し気に見て、掌を前に突き出すとクルリとひっくり返す。

すると、それに呼応するように海面が激しく唸り、大量の水が空へと浮かび上がる。偽物とはいえ海龍王だからか、水を操るのはお手の物ということだろうか。

浮き上がった水は一塊の水球に変化し、その中でグルグルと回転を始める。勢いはどんどん増していき、最終的には一つの竜巻のようになる。その回転速度はただの海水を温めていく。


「貴様ら、よくも我に盾突いてくれたな。これで死ねよ。超高温の大渦だ。鉄すら溶かしてしまうほどの熱で溶けてしまえ。」


なんだか口調も変化しつつある気がするが、それよりも今はこれをどうやって凌ぐかだ。村長も焦っているのだろう、緊張で体が一瞬だけ強張ったのが感じ取れた。


「村長。あの水は俺が対処する。その後の追撃を頼む。」

「うむ。しかし、あれをどうやって止めるのじゃ?儂から見てもかなり強力な魔術じゃ。」


村長もあの竜巻に込められた魔力に気が付いたようだ。既存の魔法ではありえないほどに魔力が込められているアレは、〔水魔術〕で操作しているのだと思う。

魔術は魔法と違い、法則に縛られず、自在にその形状や効果を操ることができる。しかし、その分だけ魔力を消費するし、扱いの難易度が非常に高い。

そんな魔術でもあれほどの魔力は使わないと言えば、偽龍王の竜巻が異常であることが分かるだろうか。


「大丈夫。俺にはこいつがあるからさ。一応、周りに被害が出ないように気を付けるけど...。」

「うむ、万が一もあるじゃろうし、メアリーにも言っておこう。メアリー!そちらで大変だとは思うが、こちらの周囲に防壁を!」

「!...了解...。」


俺がイシュガルをポンポンと叩きながらそう言うと、村長はメアリーに俺たちと偽龍王を囲うような防壁を作ることを依頼した。即応したメアリーには感謝しかないが、これで周囲の様子がほとんど見えなくなったので、できるだけ早く外に出たい。

防壁なので、もちろん上は開いているが、それでも音だけで周囲を把握するよりはしっかり五感を用いて把握したほうがいいに決まっている。


偽龍王は自分を含めて閉じ込められたところでどうということもないのか、不敵な笑みを浮かべてこちらを観察している。

俺は〔超強体〕を発動してイシュガルに魔力を込める。これで多少の無茶は可能だ。〔超強体〕も日々の修練で15倍ほどまでなら使いこなせるようになっているので、以前よりも強化されているだろう。


「虫けらが何をしたところで、ボクの《超熱渦巻ヒートスパイラル》には意味がないね。いけ!」


偽龍王が腕を振ると滞空していた竜巻はドリルのように形を変えてその先端が向けられ、俺たちの方へと飛来する。


「よっし、オッ...ラァアアアア!」


俺は村長の前へと出て、イシュガルを振りかぶる。そして飛び上がると、《超熱渦巻ヒートスパイラル》を縦に両断した。


真っ二つになった《超熱渦巻ヒートスパイラル》はメアリーが建てた防壁にそれぞれ当たり、勢いを失う。勢いがなくなればそれはただの海水なので、砂浜から作られた防壁に染み込み、何事もなかったかのように消える。


「なっ?!なんでだ!ボクの《超熱渦巻ヒートスパイラル》は金属を一瞬で溶かすほどの高温のはずだ!そんな鎌で切れるわけがない!」


自分が思い描いていたのとは別の結果になったことで、偽龍王が騒ぎ出す。まさかあんな風に退けられるとは夢にも思っていなかったのだろう。俺もホッとした。

まぁ、イシュガルが普通の金属で出来ていれば、そういった結果になったことは間違いなかっただろう。そう、普通・・の金属、だったらな。


俺は得意気にイシュガルを担いで偽龍王に見せびらかす。それを見た偽龍王は、やはりイシュガルに一切の損傷がないことに騒ぐ。


「なぜだ!なんでそれは溶けるどころかぼろぼろにすらなっていないんだ!ボクの魔術だぞ!」

「あのなぁ、自分の魔術がすごいなんて思っていると、足元掬われるぞ?こんな風にさ。結果は結果だ。お前の魔術よりも俺の鎌の方が優れていた。それだけじゃないか。」


俺は馬鹿にするようにそう言ったが、内心では安堵をしていた。正直を言えば、イシュガルで切り裂くというのは賭けではあった。もちろん、それなりの自信はあったが、実際にしたことがなく、ぶっつけ本番だったのだからそれも仕方がないと思う。


俺が何に賭けたかというと、それは大鎌斧イシュガルという武器の特性に賭けたのだ。この大鎌はドワーフの名工によって作られた傑作だ。そのドワーフの作り出した金属で作られたこれにはいくつかの特性がある。

もちろん、武器として完成した時に発現した特性もあるが、それ以上に金属が武器に加工されたことで発現した特性がある。それは〔熱無効〕というものだ。


ドヴァル合金で作られた武器には共通して発現する特性があり、それが〔熱無効〕だ。これによって打ち直しができないという、鍛冶師にとってはありがたくない特性だ。どれだけ気に入らなくても0からやり直せないのだから。

金属を打つには熱して柔らかくすることが一番必要だ。ドヴァル合金ではそれができない代わりに、今回のような場面で役になったというわけだ。


つまり、俺はイシュガルが熱では溶けないと分かっていたため、今回のような手段に出たというわけだ。

村長もドヴァル合金を知らなかったし、偽龍王が知っているとも思えなかったので、堂々と斬れたというわけだ。


説明してやる義理はないので、小馬鹿にしたように忠告してやると、その整った容姿には似合わない、地団太を踏んで怒りを表現している。

まぁ、時間稼ぎにはなったようなので俺は内心でほくそ笑むと、すでに背後に回っている村長に視線を動かす。


偽龍王に気づかれないまま背後に回り込んだミザネ村長は、手に持った仕込み杖を振りかぶり横に振るう。その一撃はスパンと音がして振りぬかれ、偽龍王に届く。


「なぁ!!?」

「フン。気づかないと思った?ハッ」

「ぐふぅ!!」


しかし、結果は失敗。どうやら、こちらとの会話の中でも村長が背後に回っていたのには気が付かれていたようだ。スパンと音がしたのは、偽龍王の服で、一枚だけ布が切れている。村長は降りぬいた腕をつかまれて、引き寄せられると、腹部に偽龍王の拳がめり込む。


村長が飛ばされていくのを俺は見送るしかなかった。なぜなら、村長が殴られた次の瞬間には、偽龍王は俺に向かって何かを飛ばしてきたからだ。

防御力に任せて突っ込んでもよかったのだが、それはできない。向かってくるそれは小さいし、取るに足らない威力しかなさそうでも、はっきりとわかるほどの存在感を発して迫ってきたからだ。

何発も飛来するそれを回避するだけで精一杯になり、村長の救援まで手が回らなかった。


そんな俺の様子を見て、偽龍王は俺をバカにする。どうやら先ほどの俺の言葉が相当むかついたようだ。


「あれぇ?どうしたの?ボクにかまってないで、ミザネを助けに行かなくていいの?」


口調が完全に先ほどの偽龍王とは別物になったのは、今は触れないとして、わかっていて言うその姿に俺もいら立ちが募る。

〔探知〕でミザネ村長を探ると、意外に元気そうだったので安心する。既にこちらへと戻ってこようと全力疾走中だ。海の方向へと飛ばされたのにどうして走っているのかは俺には分からないが。お?


「うるせぇ。それより、お前には聞きたいことがあるんだ。」

「聞きたいこと?」

「ああ、おそらくだが、お前が、お前こそが普段村にいた、トロの海だろう?さっきの攻撃で感じた存在感。いつか感じたトロの海の底知れない存在感に似ている。」


俺は先ほどの飛来物に感じた存在感に覚えがあり、それを偽龍王にたたきつける。以前トロの海を〔戦力把握〕で覗こうとしたときに感じた威圧感は、底が見えないほど圧倒的強者の威圧だった。

それをさっきの飛来物にも感じたのだ。偽龍王は俺がミザネ村長の救援に動かないように牽制の意味で放っただけかもしれないが、それがあの時の威圧感につながってしまった。


「へぇ、あの時もしっかり感じ取っていたんだったね。まさか、一回目に見破られるとは思っていなかったけど、さすがだよ。やっぱり、君は要注意人物だ。」

「ハンッあんなの気づかない方がすごいだろ。あいにく俺は間抜けではないのでな。気づいたついでに言わせてもらえば、お前のトロの海への〔擬態〕は不完全だったぞ?」

「ん?」


俺が言った言葉に偽龍王はぴくッと眉を上げて反応する。そして次の瞬間には偽龍王としての体を変化させ始めた。


そして、二回ほど瞬きをする間にその姿は完全に変化し、現れたのは馬鹿みたいにでかい、5mくらいのトロールだった。魔物の毛皮で作った服を着ていて、普通のトロールより身なりが整っている。

 

「ほら、これのどこが不完全だっていうんだ?ワシの〔擬態〕は完全じゃろう?!」

「ああ、見た目だけはな。でもな。お前がマネできていないことはいろいろとあるよ。例えば、その服装。〔擬態〕で作っているから仕方がないかもしれないが、新しいものだな?その素材があり得ないんだよ。俺がお前と交換したのはそんな素材じゃないし。」

 

俺が指摘するとトロの海に化けた偽龍王、トロ龍王は悔しそうに歯を食いしばる。どうやらそこまで考えていなかったみたいだ。まぁ、そこまで見るのは村にはいなかったのかもしれないな。それで気が抜けたか。


「ああ、そういえば、村長の社付近の建築物のセンスの違いがあったな。以前トロの海が建築したという建物と、最近になって建築された建物ではそのセンスに違いがある。しかも最近建てられた方には見覚えがあってな。それがこの島にいるトロの海じゃ再現できないはずなんだよ。」

「見覚えだって?」


俺は最近の建物に感じた既視感を思い出そうとしていたのだけど、全然思い出すことができなかった。しかし、そこでいろいろと思い出しているうちに悪なる神のことを考えて思い出したのだ。これまでに見た建物の内、いくつかはどこで見た建物に似ているのかを。


「ああ、俺はな。冒険者だ。もともとはベルフォード王国で活動していた。その国の中を飛び回るようになって知ったんだけどさ。領地ごとに建物なんかに特徴があるってことが分かったんだ。」

「?」


それがどうしたと言わんばかりのトロ龍王に俺はもっと説明してやる。


「その特徴は何に起因するかに気が付いたのは地図を見ていた時だ。まぁ、レイアに勉強させられた時の本にもあったんでな。」

「地図?本?」


レイアには冒険者たるもの地理やその国の文化くらいは知っておくべきだと言われていた。なので、俺も渋々勉強したが、その時に知ったことがある。

領地、中でも辺境、なんて呼ばれる領地では、ある特徴があるらしい。それはその土地独自の建築技法や配色センスがあるということだ。

単にベルフォード王国と言っても、北に東に西に、と辺境領に行けばその特徴がある建物が見られた。


その土地独自とは言っても、そのルーツはもちろん存在する。例えば、東側だったら、その建築技法はベルフォード王国の東側に存在するヴォルフガング獣王国だ。

そんな感じで、以前俺が行ったグレイビー辺境伯の領地では、そのすぐ隣にあるブレナンドの帝国の建築様式に影響されて、レンガ造りの頑丈な家が多い。つまりだ。


「新しく作られた家は、ブレナンド帝国の建築様式を真似して作られているってことだ。それは、お前が帝国に関係あるやつだからってことだろう?」

「?!なるほどのぅ。ワシは意識したわけではなかったが、無意識に長く触れてきた帝国の建築を参考にしてしまったか...。」


俺の話で自分が帝国に関係あると勝手に自白したトロ龍王は、その表情を落として俺に語り掛ける。


「ふむ、しかし、それが分かったところで、なんになる?」

「ばぁか。俺が聞きたかったのは、トロの海がお前だったかどうかだ。答えは出ているんだよ。今してるのは時間稼ぎだ!」

「?!でも、効かんぞい!」


俺はトロ龍王にそういうと地面を蹴って飛び出し、トロ龍王に肉薄するとイシュガルを振り下ろす。しかし、それはトロ龍王に防がれる。

それに慌てたトロ龍王はいつの間にか手に持っていたこん棒を横にして前に出し、イシュガルを受け止める。デルキウスもそうだけど、トロの海に〔擬態〕するとこん棒もセットなのかね。

ま、受け止められたのはいいんだけどさ。


「アルカナ様が言ったじゃろう。時間稼ぎと。」

「な!?ンハァアアア」


俺によってこん棒を使わされたトロ龍王の背後から、ミザネ村長が斬りつける。どうやら完全に気配を消して戻ってきたようだ。

走り出してから気配が読めなくなったので、不思議に思ったが、トロ龍王にもバレないほどの隠形はさすがとしか言えないな。


ミザネ村長の仕込み杖はトロ龍王の背中を深々と斬る。変な悲鳴を上げて前に倒れるトロ龍王は、その表情に驚きの感情を乗せて言葉が出ない様だ。


「これしきで倒れるわけがなかろう。トロの海に〔擬態〕しておるとは驚いたが、のう。奴ほどの耐久であれば、今のは大したケガにもなるまい。」


村長がそういうと、笑い声がトロ龍王から漏れてくる。どうやら本当に大したダメージではなかったようだ。


「ヘッヘッヘッヘ。そうだねぇ。この体は便利でいいや。ぜーんぜん痛くないんだもん。もう血も止まっているし。頑丈だねぇ。

おっと、ワシに傷をつけるとは酷いではないか、村長よ。」


最後に取ってつけたようにトロの海の口調で村長に抗議するが、それは村長を怒らせるだけだった。俺は苛立ちが募ったが、村長の怒る様を見て冷静になる。


「貴様!我が友を侮辱するか!切り捨てる!」

「村長!落ち着け!怒っては奴の思うつぼだ!」


俺は村長を落ち着かせてトロ龍王に向かうと、言い放つ。


「真似をしたところで偽物は偽物!勝てないわけがない!」


そう宣言した俺の言葉が気に入らなかったのか、トロ龍王までもが怒り出した。なんでだ。怒っているのはこっちの方だったんだけどな。


「ボクが偽物であろうと、本物を殺せば残ったボクが本物だ!いいよ、ボクが君らを殺して変わってやるさ!それこそが世界のためになる!」


トロ龍王の叫びはどこか心からの叫びに聞こえたが、その次に聞こえた言葉でそれ以上考えることはできずに口をはさめなかった。


「このボク、創造を司る神ファイシュが君らに成り代わる!」


その神の名はあり得ない。


























また明日も更新します。


謎は深まるでしょう


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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