第211話 〔神式呪法:享楽〕
いろいろあって時間が削られる関係でストックが作れないぃ。何とか、仕上げました。どうぞ。
Sideミザネ
「む?アルカナ様の動きが止まった?」
儂が海龍王様に化けた何者かを戦闘に参加させないように少し離れたところで眺めていたところ、使者、いや、デルキウスが何かをした後に突如としてアルカナ様の動きが止まった。
デルキウスとアルカナ様の会話からして二人は何らかの縁のようなものがあるようだ。それがどういった縁なのかはわからないが、少なくとも現在は敵対しているわけだから、良い縁ではないんだろう。
儂は隣でただ見ている海龍王に化けた何者か、偽龍王に視線を向けると、軽い質問をする。その質問には答えてくれるので、何を考えているのかわからない。
まぁ、先ほどの話の流れで、海龍王も偽物であると言った手前、敬う様に話すのは少し不快ではあるが、アルカナ様が戦闘している最中に介入させないためにも、ここは偽龍王がとぼけていることを利用して引き留めることにした。
「海龍王様、あなたが偽物であるというのは今はいいでしょう。今ここであちらに介入しないのがその証拠となるやもしれませんしのぅ。
儂が知りたいのはあの使者が今何をしたのかを知っているかということです。アルカナ様が止まったアレはスキルですかな?それとも権能ですかな?」
「ふむ、ま、まぁ、ワシ、いや、我は真の海龍王である。疑われたままというのは納得がいかないからな。仕方がない。介入することはしない。それにあの使者についてくらいは答えてやろう。
あの使者については我も知ることは少ないのだ。何せ新参であるが故にな。ワシは長らく海を離れていたということもあって、配下をすべて把握しているわけではないのだ。」
偽龍王は儂が告げた、本物であるなら介入しないよな?という軽いけん制をどう受け取ったのか、一人で納得して介入はしないと言う。
儂はそれがどれほど信用できるかはおいておいて、デルキウスをアルカナ様がどうにかするまでは時間が稼げそうだとほくそ笑む。偽龍王は意外に頭が回らないのかもしれない。
それにしても偽龍王はとぼけているのか本当に知らないのか、デルキウスに関しての情報は出てこない。儂も追及してもしょうがないと思ったので、これ以上は追及するようなことはせずに、偽龍王の足を止めることに終始することにする。
「しかし、おかしなことになりましたなぁ。海龍王様がいらっしゃる時期は基本的に不定ですが、今回のような事変は初めてじゃ。
儂らは海龍王様に島を提供していただいている身として、歓迎を心がけておりました。故にこんなことになるとは申し訳ないですじゃ。」
「ふむ、偽物の疑いをかけられたことは誠に遺憾であるが、我が配下にあのようなものが紛れていたことを暴いたことには感謝するぞ。」
偽龍王はなんだか疑いが晴れたようなことを言っているが、とんだ戯言だ。儂やアルカナ様は偽龍王が本物の海龍王ではないことは確信しているし、それは覆らない。
今はそう勘違いしていることが好都合なので、あえて否定することはしないが、本当だったら今の時点で否定して殴り飛ばしてやりたいと思う。
「そうですな。しかし、あれはどういう状態なんでしょうな。」
儂の目の前ではアルカナ様がまるでサンドバックのようにデルキウスに殴られ続けている。
見た感じ、意識がないようだが、どういうわけかメアリーとソフィアを守るように動き続けている。彼がデルキウスの〔神式呪法:享楽〕とやらによって、あんな状態になったのはわかるのだが、どのようにして体を動かしているのかはわからない。
しかし、それでも仲間を守るその姿には感動を覚える。我が村へと来訪してから大した時間こそないが、彼が守る対象に入れてくれていることに感謝しかない。
「メア!アルカナがなんだか様子がおかしいけど、守ってくれているんだから、あたしたちで少しでも削るしかないわ!」
「了解...!」
二人は息を合わせて魔法でデルキウスを攻撃している。それをクフクフと笑いながらも避け続け、さらにアルカナ様に攻撃を加えるのだから、奴も大概、化け物である。
現時点では、アルカナ様の意識がないのもあるのだろうが、戦況は拮抗している。この状況が続くとは思えないので、できるだけ早くアルカナ様には戻ってきてもらいたい。
儂は戦いの様子を見ながらのんきにもそう思った。それにしても、あれだけ殴られ続けて無傷なのはどういうことなんだろうかのぅ。
***
Sideアルカナ
何もない空間で俺は、地べたに座り込んで腕を組む。今の状態は限りなくまずい状態だ。外の様子が分からないし、ここの仕組みもわからない。
ただひとつわかっているのが、ここが〔神式呪法:享楽〕によって作られた世界であるということだろう。
ベーとの戦いの際には〔呪法:享楽〕を食らった覚えはないが、さすがに神が行使する呪法ははじくことはできなかったようだ。
さて、待てども待てども何の変化もないこの空間で、俺は何をすればいいのだろうか。そもそも享楽ってのは何のことだ?とりあえずは歩いてみよう。
俺は立ち上がり周囲を観察しながら歩いてみることにした。
この場には俺しかいないし、ほかには何もない。それ以外は黒という、不思議な空間なわけだが、出ることを目指して探索する。
ただ、真っ黒な空間では歩いても進んだ感覚にならないし、止まっているとそれだけで気が狂いそうになる。どうも〔探知〕も効かないらしく、まさしく五里霧中だ。
というか、これが享楽ということなのだろうか?まったく面白くない。楽しくない。呪法なのだからそれでも正解かもしれないが、名前負けもいいところである。
「チッ、まさかこんなところに閉じ込められるとはな!まだ、後ろには海龍王もいるっていうのに!ここで足止めを食らうことはできないぞ。〔換装〕大鎌斧イシュガル!チッ、ダメか。」
俺は苛立つのを必死に抑えて、冷静に周囲の観察をする。と、そこで、明らかな変化を見つける。
それは真っ黒な空間に一つだけある扉。色は空間と全くの同色で、目を凝らしてもほとんど見えず、触ってみるまで分からなかった。
俺はその扉を調査しつつ、開かないか試したり、ぶち破れないか攻撃してみたりと思考を繰り返す。
先ほど試した通りに、この空間では俺のスキルは軒並み使えないようで、〔骨壺〕を開くことすら不可能であった。
しかし、そこで扉に変化が訪れる。なんと、何をしてもうごかなかったそれがギィーと音を立てて開いたのである。
中から出てきたのは、スーツを着て、シルクハットを被り、眼鏡をかけた優男であった。その雰囲気はどこか軽薄で、整った見た目に反して、好みが分かれるだろう印象を抱く。
その男は手に持ったステッキをくるくると回しながらアルカナを見て、にこりと笑って言う。
「クハハハ。やぁ、アルカナ君。どうだい、この世界は気に入ってくれたかな?」
「気に入るわけないだろ!早く俺を元の場所に戻せ。」
にこやかに言う男に俺は苛立ちを隠さずに帰ることを要求するが、それはすげなく否定されてしまう。
「いや、無理だよ。僕にはそれはできないさ。いずれも君次第さ!」
そんなことを言う男に俺は頭をひねる。というかこいつは誰だ?
「あれ?その顔はどういうことだい?まさか、僕が誰かわかってないってことはあるのかな?」
「あぁ?お前?」
俺は本当にわからなかったのでそう聞き返すと、男はまさか!?というような表情に変えてこちらを見る。
そこでふと俺は真っ黒な空間で光もないのに相手の顔ははっきりと見えていることに疑問を思った。
「なんで顔ははっきりと見えるんだろうな?」
「そこが気になるのかい!?今は僕が何者かってことの方が大事じゃないのかい?!」
デルキウスはそんなことを言っているが、分かりきっている答えなんかより、そちらの方に興味を引かれるのは必至だろう。
こんな状況で現れるのが、デルキウスでなくて誰なんだよ。
「それで、デルキウス。ここは何なんだ。今すぐ俺を出せ。」
「クフフ、なぁんだ。僕ってわかってるのかぁ。フフフ、さぁね。それはできない相談だ。僕はここでベーがやられた仕返しをするって決めているんだからね。」
仕返しというにはどうも楽しそうだが、デルキウスが遊神であることを考えると、その結末は楽しいでは済まないかもしれない。
俺は警戒をしつつもデルキウスに尋ねる。
「仕返しって何をするつもりだ?俺はあの時は襲撃されえたのを撃退しただけだ。仕返しなんて受ける義理はないと思うがな。」
あの時襲撃してきたのはツェーで、こちらは何も悪くない。それで撃退されたからとその上役が出てくるのはいささかおかしな話だ。
まぁ、ブレナンド帝国には人族以外と仲良くするベルフォード王国が気に入らないのだけなのだろうから、そこは関係ないのかもしれない。
そんなわけで、あきらめながらも反論した俺にデルキウスは笑う。
「ハハハ、そんなの関係ないよね。僕にはそんな事情はないのさ。僕のかわいい子を傷つけたのが君、だから仕返しをする。それだけだよ。」
これは何を言っても意味がないと分かった俺は、デルキウスに殴り掛かる。今の時点で言っても意味がないなら、次は武力を行使するしかないだろう。
とはいえ、〔骨壺〕が開けないなら、持っていない武器は使えないので、素手である今は殴り掛かるしかないのだ。
「仕方ねぇ!オラァ!!」
「おっと、ほい」
しかし、俺の拳は空を切り、体ごと突き抜ける。どういうわけか、俺の拳はデルキウスの体を投下してそのまますり抜けた。
このデルキウスが幻かと思ったところで、そうじゃないという風にデルキウスが俺の背中を押した。それによって触覚はあることはわかる。
「なんだ?!俺の体は通り抜けたのにどうしてお前は触れることができる!?」
「クハハ、いいね、いいね。いい感じに困惑しているね。愉快だよ。君がこんな風に慌ててくれるとはね。クハハハ。」
笑うデルキウス。俺は確かに困惑をしているが、それは半分は演技だ。実際に困ってはいるが、それ以上に今、頭の中ではこの状況を打開するためにフル回転しているのだから。
「クハハ、でもね。これで終わりじゃないんだよ。僕の呪法は、君を享楽に堕とす。楽しいよ?君もどうか、享楽に耽ると良い。」
デルキウスは楽しそうに降格を挙げてそういうと、次の瞬間には姿が消える。やはり幻覚だったのかと思う一方で、奴の声はまだ聞こえることから、そうとも言い切れないと判断した。
「ここからが僕の呪法の真骨頂さ。君には仕返しとしてうんと出力を上げてあるから、それじゃ。楽しんでねぇ?クハハハハハ。」
そういうと今度は声すらも聞こえなくなり、本当にこの場には俺一人になったようだ。まぁ、何をされるかわからないが、ここが不思議な場所ということが分かっただけでも収穫だ。できることなら脱出方法まで聞き出したかったが、欲張りすぎだな。
よし、まずは何をされるかを考えて、打ち破ってやろう。
「しゃあ!来いよ!」
目を一度閉じて再び開くとともに、俺は気合を入れて叫ぶと、その目に映ったのは先ほどの真っ黒な空間ではなく、どこかの店?の中だった。
どうしてそんな場所に移動したのかわからない俺は、とりあえず警戒をして店内を見まわす。
そしてふと思い出す。これはどこかで見たことがあるな。何かに似ていると言った方が正しいだろうか。
俺は記憶の中の何かをサルベージしながら、周囲に気を配る。それは食事処といった雰囲気だが、少しだけ狭い気がする店。
ともすれば、飲食店ではなく、宿屋の食堂と言ったところか。これをどこかで見たと思えば、そこで、パッと思い出すのはルグラで長く滞在した、あの宿屋。
エルフの家族が営むその宿屋は、“美食の箱庭亭”。思い浮かぶのは俺を案内してくれたブレッドや、店主のサイフィズ、その妻ヘレン。誰もがエルフ特有の整った容姿で、あれからもう一年以上も経つ。懐かしいなぁ。
この宿屋で思い出すのは、食堂にいることもあってか、食事のことだった。どれもが和食のようで、俺の下に合う。ルグラでの活動の期間中は毎日食べたわけだが、結局飽きることなく毎日食べ続けた。
また食べたいなぁ。なんて考えていると、俺の前には黒い人影が現れる。それはエルフのような形を作った影のような存在で、真っ黒なマネキンというべきか。黒マネキンは俺を席へと案内し、座るように促した。
俺はそれが罠だとは思いつつもどうしてか逆らうことはできずに座ってしまう。そして時間を空けずに俺の目の前に現れたのは、あの“美食の箱庭亭”で出された和食に他ならなかった。
湯気の立っている料理が目の前に現れたことで、腹がすいたのか、ぐぅと俺の腹の虫が鳴きだした。今の俺は獅子王面だ。鼻が利く。クンクンと鼻を鳴らしてにおいをかぐと、それに毒が入っていないことを確認して手を付ける。
どうしてか、それを食べなければ、食べるしかない、と思ったのだ。俺は料理をがっつくと、すぐに皿はきれいになくなってしまう。
そこで、すぐに立ち上がろうとするも、それよりも腹の中にたまったはずの料理が感じられず、それよりもさらに食欲がわいてきたような感覚さえあった。
俺は傍らに立つ黒マネキンに「料理はまだあるか?」と尋ねると、黒マネキンはすぐに一礼して、手を振り、次の瞬間には目の前に新たな料理が現れていた。
この時点でずいぶんとおかしいのだけど、この時の俺は自分の置かれた状況、そしてデルキウスの撒いた罠に気づけていなかったのだ。
脱出でしょう
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