第208話 使者の違和感
暖かくなってきました。
俺が考えている間も話は進んでいたようで、村長と海龍王が海王への対応を協議しており、時折、使者が海龍王の補足をするような感じだ。
ミザネ村長はその話をしながらも俺の方を気にかけてくれていたので、おそらく俺が考える時間を稼いでくれていたとみていいだろう。
想定よりも相手戦力が高いことは、村長も気が付いているので、改めて話す必要はない。それにここまでは静かにしていたが、シュツェンもいるのだ。俺、村長、シュツェンがいれば、お互いをカバーできると考えている。
よし、まずは、使者から崩していきたいものだが、とりあえずは村長と海龍王の話がひと段落した時点で、介入しよう。
「――――というわけで、我らは海王の攻撃により半数が魔力枯渇状態に陥ってしまった。これでは攻撃もままならず、半数が動ける今が最後のチャンスと、そこの使者を立てたのだ。」
「なるほど。海王様はすでにそこまで。封印から解放されたことは感じておりましたが、海龍王様方が被害を受けるほどとは思っておりませんでしたのぅ。
して、具体的に儂らに何を求めるおつもりか?儂らは海龍王様に恩はありますが、それを返すとしても、海の中では戦えないのが現状です。それとも支援物資等をお求めですかな?」
海龍王が海王についてを騙るのを聞いて村長が問うたのは、海龍王が何を望んでいるかだった。
それは俺も気になっていた。この偽物共が、島の壊滅を目的としているとして、海王との戦いを話題に出した理由が分からない。海王を倒すのに力を貸してくれと言うが、村長が言う様に、海中で戦うことができる者が村にはいない。
ソフィアという例外はいるが、それを村の戦力には数えることは不可能だ。ミザネ村としても竜宮氏族との共闘は今後の予定にはなっているが、それは飽くまで人魚魔法により水中呼吸できるようになる前提の話だ。
こいつらが同様の魔法が使えるとは思えないので、海王の前に連れていかれたとして、そこで裏切られたら村の戦力が一網打尽にされてしまいかねない。
村長もそれに気づいているからこそ、支援物資などといったのだ。とりあえず俺は、シュツェンに視線を送って、いつでもソフィアとメアリーを守れるように指示を出す。
シュツェンはここまで黙っていたが、少しずつ二人のもとへ移動を開始した。海龍王たちもシュツェンについてはフライングシャークと同じように考えていたはずだ。戦力であるとみなされなかったのはラッキーだ。
村長に問われて答えたのは、海龍王ではなく使者だった。
「皆様には海王との戦力として期待しております。海中での呼吸や活動は我らが支援させていただきますので、不安はありません。もちろん、戦地に運ぶのもこちらで足を用意します。」
「なるほどの。」
やはり戦場に送るつもりのようだ。俺はその使者の言葉に自分の考えを確信する。もしかしたら、島の戦力を海王にまとめて始末させるための作戦なのかもしれない。
奴らがどういった存在かを考えずとも、海の上では勝てるはずもない。俺は一度海王とも戦いっているため、それを踏まえて海中では勝ち目がないと思う。
不安がないとか言っているが、それでこちらが納得すると思っているのだろうか。そもそも、戦場に連れて行くのはこっちでやるから向こうで戦ってね、と言われても、はいそうですか、とは言えんだろう。
村長は、一つ頷いただけで、それ以降言葉を出さない。
そこで俺は少し質問をすることにした。あちらが俺というゴブリンを気に入っていないことには気が付いているが、この際、それは無視だ。埒が明かなかったら、〔人化〕でもすれば黙るだろうさ。
「ナァ、質問スルゾ。貴殿ラハドウシテコノ島ノ戦力ヲ当テニスル?」
俺が聞いたのは、わざわざ村の戦力を連れて行こうとする理由だ。なぜなら、海龍王には自分の配下として、十分な戦力を持っているはずだからだ。しかも、その戦力は海を統べる者の配下らしく海中での活動を難なく熟すわけで、海中戦が不得手な村人を連れて行く意味はない。
俺の質問には使者が答えるようだ。二人とも俺が気に食わないのだろうが、そうなると身分が低い、または力の弱い使者が対応するんだろう。
「フン、そんなの簡単な話よ。我らの戦力は余裕がないのだ。海は広大。そこかしこで起こる問題に対処しているため、戦力は余っていない。これで十分だろ。」
「エエ。アリガトウ。」
俺は使者に礼は言ったが、内心では納得できるわけがないだろうと、否定する。そもそも俺は竜宮氏族という海底の戦力が余っていることを知っている。ガルガンドの話では他にも人魚や魚人の氏族がいるらしいので、そちらを頼るのが先のはずだ。
とりあえずそちらから突いて崩しにかかるとするか。
俺は黙ったまま成り行きを見守っていたミザネ村長に視線を向けて口撃を開始することを示す。村長も俺に頷いて返してくれたので、遠慮なしだ。
「では、村長殿、かんが「スマナイ。疑問ガアルンダガ、イイカ?」え...はぁ、またお前ですか。最後にしてください。」
使者の言葉をさえぎって俺が言葉を挟んだものだから、いら立ちが隠せないみたいだが、遠慮なく言わせてもらおう。
「マズ、ドウシテソンナ嘘ヲツク?サスガニ見過ゴセナイレベルノ嘘ダ。」
「なっ?!私が言った言葉のどこが嘘だというのだ!」
「落ち着け。ゴブリンよ。覚悟を持って発言しているのだな?」
使者は俺の言葉を聞いて怒鳴る。そんな様子の使者に海龍王が落ち着くようになだめると、俺に言葉を続けさせた。
使者だけではなく、海龍王も結構苛立っているみたいか?意外に沸点が低いのかもしれない。いや、ゴブリンが言ったからっていうのもあるかも。
脅しのような海龍王の言葉に、そんなもんはねぇよと言ってやりたいが、切れて暴れられるのも困る。俺は冷静に話を進める。
「モチロンダ。俺モ馬鹿ジャナイ。貴殿ラノ能力モ理解シテイル。タダ、嘘トイウウコトハ確信ヲモッテイル。」
「良かろう。その確信とやらを話してみるがよい。」
「アア、ソウサセテモラウ。マズハ貴殿ラガ使エル戦力ガアルトイウコトダナ。」
俺は竜宮氏族のことを話さずに海底の戦力についてを教えてやる。こいつらが知らないとして話しているが、最悪の場合は近海に待機している竜宮氏族にご登場願おう。
「海底ニハ我ラノ知ラナイ戦力ガアルコトヲ村長ニ聞イタ。氏族トイウ集団ガ複数アルンダッテナ。ソチラハ海底ノ治安ノ維持ニ使ワレルラシイガ、ソチラハ今、ドウシテイルンダ?」
「ぐっ、そ、それは、今も戦場で戦っています。もちろん彼らが出払い、戦力が足りないと考えてこちらへと来たのです。」
「ソレハ無理ダ。」
使者の無理な弁解を俺は一言で切り捨てる。悪あがきにもほどがあるだろう。ついでにこの使者についてももはや不要だ。ここで切り捨てるか。
「ソノ氏族トハコチラデ連絡ヲ取リ、今モ特ニ戦ッテイナイコトハカクニンガトレテイルカラナ。
モウ、メンドウダナ。最初カラ、使者殿ニハ違和感ガアッタ。ソレヲココラデ解消サセテモラウトスルゾ。海龍王様モ構ワナイダロウカ?」
一人ずつ糾弾したいので、まずは海龍王は無視して話を進める。まぁ、使者が偽物だと言えば、その主も偽物だろうと結びつくが、今は騙されているふりでもして海龍王には黙っていてもらおうじゃないか。
「う、うむ。しかし、これはどういうことだ?」
「海龍王様、あの使者は少々おかしいのですじゃ。あなた様も騙されていた可能性があります。今は成り行きを見届けましょう。」
「そ、そうか。ワシも騙されていたと。ミザネの言うとおりにしよう。」
海龍王は俺が言ったことで少なくない動揺をしたが、村長が押さえるように彼を落ち着かせ、使者の行く末を見届けるように抑え込んだ。
俺はそのやり取りに聞き耳を立てて確認すると、遠慮なく違和感を指摘して使者を糾弾する。
「ココカラハ使者殿ノコレマデノ行動カラ感ジタ違和感ヲ指摘サセテモラウ。ヨロシイナ?」
「いいでしょう。ゴブリンのような下等生物の証言をだれが信じるとも思えませんがね!」
「フム、デアレバ、〔換装〕〔人化〕...ふぅ。これで文句はないか?」
使者がそういうので、それならばとマスクを変更して〔人化〕する。これでどこをどう見ても下等生物ではないだろう。
俺はいつも通り、獅子王面で〔人化〕した。今日は少しでも人族に近づくために耳は獣ではなく人耳だ。
「な、あ、なん、なんだと?き、貴様は、アルカナ?!」
使者は俺と面識があるため、すぐに気づいたようだ。まぁ、いいや。とりあえずこれで文句はないだろうし、さて、楽しく糾弾しよう。
「じゃあ、これまで感じた違和感を遠慮なくつかせてもらうがいいよな?」
「あ、いや、ちょっと、待ってく「というか、答えは聞いてないんだけど。」れ。クッ」
使者が悔しそうな顔をしたので、俺は愉快な気分でこれまでに感じた使者の違和感を告げる。
「まず、一つ目、俺と最初に会った時のことを思い出せ。使者殿は、あの時かなりの神気を放っていたが、気が付いているか?...その反応は気が付いていなかったようだ。
あれほどの神気を周囲への影響を考えずに垂れ流すのは、普通に考えてあり得ない。あの時は村長ですら抑えていたんだからな。
つまり、あの時のあんたは、神気の制御ができないか、神気を感じ取ることができなかったのだろう。そうであればあの状態も納得ってことだ。
そうなった理由も見当はついているし、言い訳は通じないってことを理解してくれ。
次にあんたの帰り際のスピードだな。正直な話、あんたのスピードよりも俺の方が数段上だ。
あの時、俺は〔認識阻害〕であんたをつけていた。ところが、俺はあんたが村を出てすぐに見失ってしまった。あの瞬間、俺の〔探知〕にもかからないし、あんたの見事な〔気配遮断〕には驚いたよ。まぁ、その後に出会った人物のおかげで、何となくそうなった理由が分かったんだけどな。いなくなった人じゃなくて入れ替わったっていえばいいのかな。
まぁ、それは今はいいや。キョウカがここにはいないが、そのうち朗報を持ってきてくれるだろうさ。
最後にこれが一番大きいな違和感というか間違いだな。
使者殿、あんたはソフィアと会った時に初対面だと言ったな?それは明らかにおかしいんだよ。あんたは知らなかったみたいだが、ソフィアは実はな、海底の人魚氏族のうちの一つ、竜宮氏族の姫なんだよ。
わかるか?自分の発言がいかにおかしいことを言ったのかを。まぁ、わかったところでどうしようもないほどのミスだけどな。」
「なん...だと...?まさかその娘が竜宮氏族長の娘だと?クソッ、クソがッ...ククク、クックハハハ。まるで私は道化ではないか。ハハハハハ。」
俺が告げた事実にあまりにも驚き怒りすぎたのか、使者は壊れたように笑いだす。俺には何が面白いのかまったくわからないが、それよりも次は海龍王だ。今まではミザネ村長のおかげで他人事かのように傍観していた海龍王だったが、俺が海龍王に視線を向けたことによって、奴は自分に向けられた視線が何を意味するモノかを理解したのか、「あっ」と口をついて出す。
「やっと気が付いたか。そうだよ。海龍王サマよぉ。あんたも言っちまったなぁ、「初めまして」ってよ?この場にいる全員が聞いているんだぜ?言い逃れは出来やしねぇぞ?」
さぁて、海龍王サマよ。次に化けの皮をはがされるのはお前の番だ。
次でしょう
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