第189話 食後の運動(?)
散らかしたものを片づけるのは大変ですね。ブクマ、評価、誤字報告ありがとうございます。
活動報告にお知らせがあります。簡単に言うとPCのトラブルで、少し投稿が止まる可能性があるってことです。
目の前で楽しそうに歩く二人のステータスを確認させてもらった後、俺たちはシュツェンを迎えにメアリーの家の厩舎へと向かった。
シュツェンはこの島に来た当初よりもさらに体格が成長しており、幼体にしては大きかったのだが、現在は軍馬をもしのぐ大きさになっている。
なので、厩舎も普通の馬が多い村の厩舎では、他の魔物や動物を威嚇してしまうので、こちらへと移した、という理由もあるらしい。
俺としても近くに相棒がいるのなら嬉しいし、なんだかんだで側を離れることが減るのは安心感も生まれる。
シュツェンを迎えに帰ると、そこではメアリーが朝のうちに用意したと思われる食事を食べつつもごろりと寝転がっているシュツェンの姿があった。
シュツェンの厩舎はかなりの広さなのだけど、シュツェンしかいないのにぴったりサイズだ。本来は大きめの馬が3頭は収容できる程の広さだというからシュツェンの成長が窺えるものだ。
さて、それではシュツェンを連れて行こうか、とシュツェンに話しかけるとシュツェンから不満げな声を返される。
「シュツェン。狩りに行くぞ。今日は遠出をするわけじゃないから長距離を走れるわけじゃないけどな。」
「ぎゅい?ぐー。」
どうやらライノ種というのは走ることが好きな種族の様で、シュツェンもそれは同じようだ。走るというわけではないと聞いて、不満を漏らすシュツェンだったが、それでも外出をすると聞いて嬉しそうでもある。
まあ、馬狩りをする時以外はシュツェンを走らせてやることはできなかったし、これもいい機会だな。
今回は護衛も兼ねてるから、やり方次第では十分走れるだろうしな。
「ほら行くぞ。今日はメアリーの護衛だ。シュツェンにはできるだけ被弾しない様に心がけてもらうぞ。」
「よろ...。」
「ギュイ♪」
「へぇ、君がアルカナの相棒なのね。初めて見るけど、強そう。」
メアリーが頼んだらすぐに了承する辺り二人は良い関係を築いているんだろう。預けている期間が長かった分、二人で過ごすことも多いからな。
ソフィアもシュツェンの力は感じ取っているみたいだし、これから仲良くやってもらいたい。
「それじゃあ、食肉区画へと向かうぞ。」
「了承...。」
「楽しみねぇ。」
「グイ!」
さて、どんな魔物を狩るかな。需要で言ったら、スタンピードブルだけど、雑魚とはいえ大群を二人にやらせて大丈夫だろうか。
うーん、俺としては出来るだけ最初は手を出さずに見守るつもりだしな。まあ、何とかなるか。
***
「やっぱり広いわねー!」
「広大...。」
二人は滅多に入ることは無い食肉区画の広さに感動しているのか、どこか声が弾んでいる。そんな二人を見ている俺とシュツェンはそれなりの回数、頻繁に訪れていたこともあってか、気持ちの変動は皆無だった。
「これから狩りに行くっていうのに元気だなぁ。なぁ。」
「ぎゅぅ。ぐいー?」
シュツェンは俺に同意すると何かを質問してくる。その内容は俺に言葉としては伝わらないが、従魔契約の恩恵か、何を言いたいかというのは問題なく伝わってくる。
シュツェンは二人をこんなところに連れてきて危ないのではないか、と言っているのだ。
「まあ、その懸念は分かるけど、大丈夫だよ。彼女たちは十分に強いし、まあ、相手する魔物にもよるけどな。」
「ぎゅらぁ。」
シュツェンは俺の言葉だけで納得をしたのかそれ以上は言わない。言っても仕方がないと思ったのかもしれないが、それでもいいや。
食後の運動ということでそこまで強い魔物に挑みたいということではないのだから、最悪の場合でも俺たちで守ればいい。
「さぁて、アルカナ!ここにはどんな魔物が居るの?メアは知ってる?」
「多少...。」
ソフィアの質問にはメアリーは少しだけ知っていると答えたが、それならいろいろ見ている俺が話した方が良いだろう。
俺はソフィアの質問に答えることにして、今の段階で見えている魔物を指示しながら説明するかな。
「俺から説明するな。まず、この食肉区画にはミザネ村に置いての役割がある。それは分かるか?」
「ええ、その名の通り、食肉の確保でしょ?」
ソフィアは当然の用に答えてくれるので、それに少しだけ補足して説明する。
「そうだな。食肉確保のために鶏や牛などの魔物が多い。しかし、少しだけ補足すると、もう一つ役目があるんだ。」
「もう一つ?」
「ああ、それはな。ミザネ村の住民のレベルを上げるという役目だ。」
そう、この食肉区画では食肉を得ることに加えて村人の強化という大事な役割がある。この村の住民はみんなそれなりに戦えるが、基本的に本職には及ばない。レベルを上げると強くはなるが技術は伸びないからだ。
だから、ミザネ村長は村人の技術を向上させることを考えた。
食肉区画への入場資格を得るには二つの手段があるが、一つは狩人になること。もう一つは長期間村人として訓練すること。
狩人になるにはその時点で入場に足る実力があることが必須条件なので、ほとんどの村人は不可能だ。
しかし二つ目の手段はそうではない。村人は訓練の中で技術を身に着け、それを実戦レベルまで持っていく。
そこで初めてレベル上げの機会を得ることができるのだ。
認められた村人はこの食肉区画での狩りを許されるが、もちろん、初入場の時点ではほとんどの村人はレベルも低い。なので、弱い魔物を探す必要があるのだ。
つまり。
「この食肉区画には狩人のレベルに合わせた狩場というのが存在するんだ。」
「ふぅん。あ!そういうこと。」
俺がこれを言っただけで理解してしまったソフィアは存外、賢い娘なのだと再認識する。
要は食肉区画のメインの機能は村人のレベルを段階的に上げさせることであるということだ。
「そう言われてみれば、ちらちらと見える村人たちの気配は少し不思議だったわね。」
「乖離...。」
「そうだろうな。俺も村長に言われたり、自分で強者の気配を探るようになって気づいたけど、村人ってちぐはぐだろ?俺も混乱したよ。」
俺がこの島に来た頃は大して気にしなかったし、深く関わった人が狩人側だったこともあって、それには気付けなかった。
オークファーマーの兄弟やキョウカ、トロの海などは、皆が狩人としても働ける者達で、別の仕事があるから村の中にいるだけという者だ。
それ以外の村人は物々交換会でしか関わらないからわからなかったんだな。
「この村の村人は三つに分類できる。ひとつは狩人。レベルも高くて戦闘技術もある。そして二つ目は戦闘技術はそこそこでレベルが低い。最後にレベルは高くても戦闘技術は素人。最初の一つはほとんど古参ばかりで、後ろ二つは比較的新しい村人だ。」
「古参...。」
「ああ、メアリーみたいな例外もいるな。種族的なこともあるししょうがない。レベルが上がるってのも、なにも戦って勝つだけじゃないしな。」
「そうね。まあ、それだけ分かったら、十分でしょ?それでアルカナは何が言いたいの?あたしはどんな魔物が居るか聞いたんだけど。」
ソフィアは俺が言いたいことが分からないらしい。俺としても少し脱線してしまったのは自覚しているので、ごまかしつつ、本題に入る。
「まあ、何が言いたいかっていうと、君たちのような初めての人に向けた魔物から、相当な強さを身に着けた強者が挑む魔物までいるってことだ。」
「なるほどね。まずは弱い魔物からってこと。じゃあ、何からやるのよ。」
ソフィアは俺が言いたいことを理解してくれたので、その標的になる魔物を発表する。もちろんこれは最初の一匹ということで、レベルが高いし練度もあるソフィアには段階的に格を上げて行ってもらう。
「まずは、ここらでも最弱級のビッグコッコだな。あれらは考える頭も無いので雑魚だし、食っても旨い。練習としちゃ十分な相手だ。」
「でかい鶏ね。図鑑で見たことがあるわ。おいしいのかな。」
「昨日...。」
ソフィアがビッグコッコの味を想像していると、そこでメアリーが衝撃の事実を告げる。おそらくその意味は「昨日の夕飯にビッグコッコあったよ。」ってことだろう。
俺は気が付いていたが、黙っておこうと思ったのだけど、言っちまったもんはしょうがない。まあ、驚かせる意味も無いし。むしろ驚いているし。
「え?!ほんとう?あたし、ビッグコッコ食べたんだ。村人の皆がくれたお肉とかに混じってたのかな?でもどれかわかんないし、楽しみなのは変わらないわね!」
「立ち直りが早いな。」
ソフィアはすぐに気持ちを切り替えてしまったので、からかうこともできなかった。とりあえず、すでにビッグコッコは見えているので、そちらを示してまずは好きにやってみるように言った。
「ほら、あれがビッグコッコだ。強くはないし、適当にやってみな。」
「分かったわ!メア!やりましょう!」
「了解...。<ウィードバインド>」
ケコォ!?
俺が示したビッグコッコは一体でうろついている珍しいタイプで、突如として伸びて現れた雑草にからめとられて動きを封じられた。
どうもビッグコッコは個体ごとに鳴き声に違いがあるみたいだ。俺が前に狩ったのは普通にコケェだった。
「次はあたしね!<グランドコントロール><土槍>」
ケコ...コォ...
拘束したビッグコッコからソフィアの土槍が生える。その槍は即座にビッグコッコの息の根を止め、その生命活動を停止させる。地面から串刺しはなかなかにグロかったが、一撃で仕留めることができたので、文句はない。
ただ、一つ言うべきは〔土魔法〕であることか。
「おつかれさん。」
「別に疲れてないもん。早く次に行きましょう!」
「おっと、その前に今の戦闘の反省だ。何が良くなかったと思う?」
俺は逸る気持ちを抑えられないソフィアを引き留めて、今の先との反省をさせる。まずは何がだめだったかだ。
「うーん?何かあったかしら。メアとの連携も上手くいったし、及第点だと思うのだけど。ね、メア?」
「忠告...?」
メアリーはすでに気が付いているようでソフィアに助言している。
俺は食肉区画に入る前に二人にある一つの言葉を送った。これは俺も村長に言われた言葉だが、存外役に立ったのでそれに倣った形だ。
俺が送った言葉は、「食肉区画の魔物は物理に強く、魔法に弱い。」という言葉だ。これはダンジョンとしての機能からつけられた特性だが、自然ではあり得ないそれを利用しない手も無い。
ソフィアはメアリーのヒントで気が付いたのか正解を言い当てる。
「あ!もしかして〔土魔法〕?」
「正解...。」
「ああ、そうだ。何が悪いか分かるよな。」
ソフィアは俺の質問に頷いて、その答えを元気よく告げる。
「うん!そう言えば、ここの魔物は魔法に弱いんだったわ。〔土魔法〕は魔法だけど、性質は極めて物理に強いのよね。ビッグコッコは弱い魔物だから倒せたけれど、強い魔物だったら逆にこちらがピンチになってたかも。」
だんだんと声に元気がなくなっていくソフィアに俺とメアリーは慌ててフォローに入る。落ち込ませるつもりはなかったからな。
「いや、別に悪いっていうんじゃないぞ。ただ次は気をつけようってだけだ。」
「ファイト...。」
「うん。頑張る。」
すぐに気持ちを切り替えることはできないかもしれないが、それでもここへと来たのは食後の運動として、腹の中に溜まったカロリーを消費しに来たのだ。
それだけなので、動ければ何でもいいってことだ。気を楽にやりたい。
ソフィアはそれから数分して失敗を乗り越えたのか、自分が仕留めたビッグコッコの元へと向かってそれを槍から抜いてこちらへと持って来る。
おそらく俺の〔骨壺〕目当てなのだろうが、まあ、持ってやるくらいは良いか。
「アルカナ!預かってて?」
「了解。それじゃ移動するか。」
「分かった!」
「提案...。」
ビッグコッコを〔骨壺〕へと仕舞うとソフィアが期待の目でこちらを見るので、すぐに次の獲物に移ることを宣言する。そしてそのすぐ後、メアリーが提案をしてくれる。次の獲物の提案だ。
彼女が指示したのは、でかい蟹だった。それはファイトクラブという蟹の魔物で、陸棲の魔物だ。こいつは肉食で、他の魔物を襲う。捕食者であるという立場から、自分が食われると思ってないが、その肉は絶品で、蜘蛛人族のヤンにマスクの修復を頼んだ際はこの蟹肉で代金が支払えたくらいだ。要は高級品だな。
「それじゃ次はあのファイトクラブにしようか。」
俺がシャドーボクシングをするファイトクラブに狙いを定めると、次の瞬間にはメアリーが飛び出して<ウィードバインド>を発動する。
どうでもいいが、この子らはどうしてこんなに好戦的なんだか。先の狩りが少しだけ不安になった瞬間だった。
次の獲物でしょう
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