第182話 村長への報告2
三が日も二日目ですが、皆さんは初詣、行きましたか?
二つ目の異変とは海王の封印に関してのことである。ソフィアたちが言うには何者かによって封印が解かれたとのことであるが、それについて村長たちには伝えていない。
ソフィアは、次は何?とでもいう様な顔をして俺が次に喋り出すのを待っているので、俺も遠慮なく話す。本当は、海王のことなので当事者でもあるソフィアに話してもらいたかったんだけどな。
ソフィアにはそんなつもりが全くないみたいなので、俺が代理で話すことになってしまった。
「さて、その二つ目の異変というのは海王の封印に関してだ。俺が海王に引きずり込まれてこの島に着いたのは覚えているよな?」
「うむ、その後レヴァ様によってここまで流れ着いたというのが正しいじゃろう。」
「あーそうか。まあ、俺はそこら辺は魔力欠乏で気絶していたから記憶には無いんだがな。シュツェンも同じだろう。」
そう言えばそんな感じだったな。会っていない神獣に助けられたというのは実感が無いので記憶にも薄くて困る。まあ、本人(?)に会えばその辺のことも教えてくれるだろう。
とりあえずここでは、この島に来る以前の俺が海王と接触したことを覚えていれば良い。根源種であるがゆえに引き寄せたのだと思う。
「それなんだが、当初はその封印が緩んだことによって船を襲ったと思っていたんだが、事実はそうじゃなかったみたいなんだ。」
「ふむ、それはどういうことじゃ?」
あの時はどうせ吸われるんだったらと魔力を注ぎ込んで〔戦力把握〕で海王のステータスを除いてやった。村長にはその時に俺が〔戦力把握〕で見たことは伝えてあるので、そこで見た説明文のことももちろん話してある。
もう一度、その説明文を示しておこう。
***
ベルフォード王国とエルフの国を繋ぐ航路に生息する海の怪物。その実態は過去海神に仕えた神獣の成れの果てであった。人を生贄として捧げさせていたことが発覚して神獣の地位を剥奪され神獣封印を施されたが、その身を魔物と成り下げて裏技的に封印の効力を減衰させ、船を襲う魔物と成った。
***
このように、海王の封印が効力をまだ持っているというような記載がある。減衰だからな。
だけど、竜宮氏族が言うには封印はすでに解かれているとのことで、この記載は誤りだということになってしまう。
しかし、そこでこの『裏技的に』というのが効いてくるのだろう。それがどういう物かは分からないとしても、封印を残したまま自由を与えるか、封印があると誤認させる何かがあるということはわかったわけだ。
また、最後の「魔物と成った」って言うのが、封印から解き放たれたことを示していると今ならわかる。話を聞いた感じ、封印が有効であれば、まだ神獣に近い存在だったってことだからな。
始めは魔物と成ったから神獣を対象とした封印の効力が弱まったのではないかと思っていたが、封印は神獣としての最後の形を保っていたんじゃないかと今は思っている。
というようなことを、ソフィアとの会話や竜宮氏族長との会談で知り得たことを伝えた後に説明する。
村長たちは直接、海王と会ったことは無いみたいで、色々と驚いていた。
特に村長が驚いたのは、当時、海王を封印したのが竜宮氏族長と海龍王であったことだろう。その封印自体は知っていたみたいだが、それも海龍王からの又聞きで詳しい説明は受けていない様だ。
「まさか、封印から解き放たれているというのは驚いたが、それを施したのが人魚とレヴァ様であったとはな。儂も知らんかったわ。レヴァ様より封印のことはお聞きしておったが、まさか魔物と協力をして封印をしたとはさすがに予想できなかったのぅ。
しかし、どういうことじゃろうな。アルカナ様は海王様を〔鑑定〕して、封印があると見たのであろう?さらには、誰が解き放ったのかも不明じゃて。
分からないことだらけじゃ。」
村長は俺の言葉を聞いて混乱しているみたいだが、俺の教えた海王のステータスを思い出しつつも説明の不可解な点を思い返している様だ。
「ああ、それなんだけどな。腐神ザンビグルの言葉を思い出してくれ。」
俺は村長やキョウカに水竜ゾンビに憑依していた時の腐神ザンビグルの言葉を思い出させる。
「せっかくここまで誘導したのに」
という言葉はまず間違いなく海王に交易船を襲わせたことを指しているのだろう。確かに俺はここに図らずも到達することになった。これを誘われたと言わずしてどれを言うのだろうか。
少なくとも腐神とは因縁もあるし、奴が根城にしているであろうベルナント帝国とも数度の交戦を経て、浅からぬ因縁がある。こういう罠にハメるのが得意そうなやつに心当たりがないわけでもない。
何にしても計画的に誘い込まれた可能性があるし、海王の封印をあいつらが解いたとすれば、辻褄も合うんだよな。
俺がそう説明すると、ソフィアは分からない顔をして首を傾げているので今までの話が理解できるようになるくらいは軽く説明すると、納得したように手を打って頷く。
「それで、海王様の封印を解かれてしまったのね。迷惑な話だわ!悪なる神っていろいろといるみたいだけど、中でもその、ざんびぐる?は面倒くさそうね。粘着質っていうか嫉妬深いという感じで。」
「本当に。スケルトンさんは聞いた感じ、悪いことは一つもしていないのに巻き込まれているじゃないですか。迷惑とはこういうことを言うんでしょうね。」
ソフィアとキョウカが意気投合して憤慨している。まあ、少しずつズレている気がするがな。ソフィアは先祖の封印を解いたことに対して、キョウカは純粋に俺を不憫に思って、だな。
とりあえず憤る彼女たちを落ち着かせる。怒ってもどうしようもないし、俺としては巻き込まれて迷惑を被る度に少なくない被害を相手側に与えているつもりだから、不思議と怒りとかは感じていないというのが本音だ。
俺の正直な気持ちを彼女たちにも伝えることで、どうにか場が落ち着いた後、俺の因縁話を黙って聞いていただけの村長が1つ質問する。
それはミザネ村と竜宮氏族の同盟を組んだ一つのメリットである協力関係を理解した発言であった。
「しかし、海王様は封印が解けて、ただただ強力な魔物が暴れているだけになってしまったわけか。
これは放っておくわけにはいかんぞ。儂らはまだ先になるだろうが、竜宮氏族ではそうはいかない。」
「おじいちゃんもそう思う?あたしもそう思うわ。だからパパにも討伐することを進言したんだけど、煮え切らないの。村の戦力でどうにかならない?」
ソフィアは海王の討伐をガルガンドに願い出ていたのか。それは知らなかった。それで陸に来たついでにミザネ村の戦力を当てにしたのだろうな。ただの元気っ子かと思いきや意外と強かな考え方のできる少女である。
まあ、人魚の魔法の固有魔法があれば、ミザネ村の村人を海中に連れて行くことも可能だろうし、悪くない要請と見える。
村の住民は総じて戦闘力も高く、絡め手や力技など獲れる手段も多い。しかし、この間の襲撃に際しては水中のアンデッドに対して獲れる手段が無く、救援に来ることも無かった。
アレは俺の邪魔をしないようにと言うことだと後から聞いたが、人魚魔法があればああいう時でも戦力を当てにすることができるだろう。
だって、水中で呼吸できるのであれば、いくらでも戦い方があるってもんだからな。
村長も俺と同意見なのか顎髭に手を這わせて考え込んでいる。きっと、結論も俺と同じことだろう。ここで協力をしないのであれば、同盟を取り付けた意味が皆無になってしまうのだからな。
「よし!その話には乗っても良い。じゃがな、これはそちらの長との協力体制を築けた場合のみじゃ。なぁ、ソフィアちゃんや。儂も長じゃ。儂が統治するこの村の村人の命を後先を考えずに賭けるなんてーのはできないのじゃよ。分かってくれるかい?」
「もちろん、分かってるわ。その確約さえ貰えれば、パパは、竜宮氏族長はあたしが説得する。でも、そうなるとレヴァ様の許可もいるかもしれないわね。」
「そう言えば、封印はレヴァ様も携わったって話ですもんね。」
キョウカが言うように封印をした中に海龍王もいる訳だし、討伐ともなればその意見も聞かねばならないか。海王を討伐ではなく封印としたのには理由があったかもしれないしな。
しかし、まあ、ちょうどいいと言えばちょうどいいのかもしれない。あの使者が言うように、数日もすれば海龍王はこの島にやってくる。その時にこのことについても話せばいいだろう。
「どうせ、近いうちに会うだろう?その時に聞けばいいさ。海王の討伐に関しては俺も島を出る前に協力する、というか、海王には借りがあるんだ。返さなきゃ帰れねぇ。なんとなく責任もあるみたいだしな。」
「そうじゃな。海王様には申し訳ないが、今後の海の平和を乱すどころか陸の平和まで脅かしかねない彼の方には退場願おうか。ソフィアちゃん、頼んだよ。」
「任せて!」
「アルカナ様は気にするなと言いたいところじゃが、協力してくれると本当に助かる。本来であればアンデッドの討伐以外に儂がお主を頼るのは良くないんじゃがなぁ。ここは仕方が無かろう。」
「おう、遠慮はしないでくれよ。これでもこの村は気に入っているんだ。」
ということで、海中の異変についてはこれくらいか。なんだかんだで海王を討伐するという目標で二つの集団が団結できるのであれば、悪くないと思う。海王が海を荒らし尽す前に討伐したいものだ。
そのためにはこの後ソフィアにも頑張ってもらわねばならないわけだ。お土産に肉をたくさん渡しておこう。
さて、海中での異変の話が終わりとなれば次に話すべきことは、今日の使者とのことだろうな。
俺は使者がどこからきてどこへと帰っていったかを知ることはできなかったが、それでも分かったことが全くないわけではない。
そのあたりを共有しておきたいという訳だな。
***
「さて、それじゃあ、今日のことについて話をしようか。俺たちは使者に会ったのは初めてなんだけど、以前も来たというのが彼だったのか?」
「うむ、彼がレヴァ様がこちらへといらっしゃる日付を伝えに来てくれた者で間違いない。これはキョウカも同席したのでな。」
「はい。その場に私はいました。ですがさすがに今日は無理でしたね。」
キョウカはそう言って残念そうな顔をした。きっと使者の神気に押し負けたことに悔しさがこみあげているんだろう。まあ、あの神気は相当に強かったし、村長の神気は〔村長の許可〕で中和されているのだから耐性があるわけでもない。
となるとまた不思議なことがあるな。どうして、一度目は平気だったのだろうか。
うぅむ、使者についてはやはりわからないことがいくつかあるな。もう少し考えてみるべきだろうか。
うん、そうしよう。
考えましょう
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