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第179話 村への帰還

大掃除は面倒ですが大切ですね。失くした物がたくさん出てきます。

評価ブックマークありがとうございます。


ソフィアに連れて行かれた朝食の場は、昨日と同じ部屋で今日も水は抜かれて乾いていた。

俺としては食事を食べるためには〔人化〕をしたいというのがあるので、ありがたいのだが、人魚はこんな乾いた部屋で大丈夫なのだろうか。今になって何をって話だと思うけどな。

まあ、様子を見る限りでいえば、そこは平気な様なので心配は不要だろう。


朝の食事会は、特に語るべきことは無かったと思う普通の食事会だったと思う。

海上となる部屋には、すでに氏族長とバルクス、そして知らない女性の人魚がいた。俺が〔人化〕してから席へと着席すると、ガルガンドからその女性についての説明を受ける。


「アルカナ殿。こちらは私の妻のナナリーだ。昨日は少し体調を崩していてな。申し訳ないが同席は控えさせてもらった。」

「アルカナ様、ナナリー・ローレライと申します。昨日はご挨拶できなかったこと、申し訳ありません。」


ガルガンドとナナリーはこう言ったが、まあ、これは方便だと思う。昨日の俺はミザネ村からの使者ではあるが、それ以前に娘が連れてきた不審なアンデッドもどき、というのが本音だと思う。

だからこそ、部屋を囲むように兵士が配置されていたのであろうし、万が一を想定して妻を隠していたとしても、あり得ない想像とは言えないだろう。


昨日の晩酌辺りで少しは信頼が得られたと考えてもいいかな。こうして嫁さんを紹介してくれたのだし。


「こちらこそ、挨拶が遅れまして申し訳ありません。改めまして、アルカナと申します。以後よろしくお願いします。こちらお近づきの印です。」

「まぁ!ありがとうございます。」


挨拶を返すのと同時に、出来るだけ好印象を与えるように昨日渡したお土産とは別に品物を渡す。

渡したのは王都ベルフォリアでご婦人方に人気の菓子店で購入したケーキだ。2家族分はある。


「これは、ケーキですわね。水中では難しいでしょうから乾いた部屋でいただきますね。楽しみです。」

「そうしてください。女性がいるのでしたら、スイーツは間違いないでしょうからね。」

「ちょっと!あたしは女子じゃないっての!?」

「ハハハ」


ナナリーにケーキを渡して軽い会話をしていると、ソフィアがいちゃもんをつけてくる。それには特に何も言わずに笑ってやり過ごす。日も登らないうちからドアを40分も叩き続ける女子がいてたまるか。


ソフィアと俺のやりとりは、他の氏族長家族には面白かったのか、その後笑われてしまったわけであるが、そこからの食事は特に何もなく、終わった。

言うことがあるとすれば、その食事のメインが魚介類だったということくらいだろう。俺が頼んだというわけではないのだけど、ガルガンドやナナリーの配慮で決まったみたいだ。昨日は肉だったから今日は魚って感じで。


出された魚介類は、どれも名前の分からないものばかりではあったが、筆舌に尽くしがたいほど美味であった。

どうやら、深海ということで魔物も知られていないということみたいだ。もちろん死んでいるので〔戦力把握〕も意味がない。

旨かったからいいけどね。


という感じで朝の食事は終了し、満足して帰ることになった。まあ、急ぎというわけではないが、一応、村長には早めに伝えるべきだろうと思う。

そうしてガルガンドとその家族に帰ることを伝えると、彼らは快くそれを了承してくれた。


「アルカナ殿、お帰りになる際には我が妹ソフィアもお連れください。ハーちゃんはソフィアがいれば問題なく連れて行ってくれると思いますので。」

「そうね!というより、元からそのつもりだったわ、お兄様!」

「それじゃ、お言葉に甘えるとします。バルクス殿ありがとうございました。ソフィア、よろしく頼むな。」


ソフィアは俺を島まで送り届けてくれるつもりだったみたいだけど、本当にありがたい。俺がここから自力で島まで行くには、現状、蟹になって歩いて行くしかない。

どれだけ時間がかかることか。海龍王が来るのに間に合うとは思えない訳だ。


「それじゃあ、そろそろ行きましょうか。じゃあ、パパ、ママ、お兄様。行ってくるわね。」

「気をつけるんだぞ。」

「気をつけてね。」

「アルカナ殿、お気を付けて。」


ガルガンドとナナリーはソフィアに声をかけ、バルクスは俺に声を掛けてくれる。まあ、親としては骨とは言っても男と一緒に過ごすことになるわけだし、心配なのだろう。そんな心配する必要はないと俺には言えるがな。俺は幼女趣味ではないし。


さて、行くか。


***


こうして俺は人魚の集落を後にすることになった。目指すは隠れ島だが、こちらに来た時を考えると、2時間程度の海中散歩ってところだろうが、不測の事態があるとすれば、すこしは時間が伸びるだろう。


え?不測の事態って何かって?そりゃ、魔物との遭遇やアンデッドの発見だろうな。あとは、ガルガンドも言っていたが、軟体系の魚人が不穏だからな。それらと遭遇すれば襲われてもおかしくないとは思っている。


俺とソフィアは城の外に出た後、ケインやレナと合流することも無く、そのまま集落の外まで出る。


「ハーちゃんを呼べる場所までは少し移動しないと、集落が壊れちゃうの。だから少しだけ移動するわね。ここは海底だし、その姿のアルカナだったら、走ってついてこれるでしょう?」

「(ああ、問題ないよ。行こう。)」


実際に足が地についていれば走れることはすでに確認済みなので、意味は無くても準備運動をしてから移動を開始する。

ソフィアが言うには30分ほどは移動しなくてはならないらしいから、もたもたしたくは無い。


***


そうして到着したのは、どこか地上の釣りスポットであるあの崖に似たような地形の場所だった。

あの崖程の高さは無いが、地形としては同じようなもんだろう。ここがハーちゃんを呼ぶ場所の様だ。


「ここでハーちゃんを呼ぶからちょっと待ってね。」

「(分かった。しかし、どうやって呼ぶんだ?)」

「それはね。コレよ!」


そう言ってソフィアはポケットから何か短い棒のような物を取り出した。それは木の枝のように見えるが、魔力が籠っていることを見る限り魔道具なのだと思う。


ソフィアがそれを徐に口に加えると、一気に息を吹き込む。水中で行うと意味が分からないが、笛のような構造をしているのだろうか。しかし、俺の耳にはその音は聞こえない。不発か?


「(何をしているんだ?)」

「これでいいのよ。しっかりと発動しているわ。そろそろよ。」

「(!?おお!)」


ソフィアが言ったすぐ後に俺の〔探知〕に大きな反応があった。それは昨日も感じたもので、間違い様も無くハーちゃんだ。

先程の魔道具はどういった仕組みなのだろうか。俺の探知範囲よりも遠くにいたハーちゃんが呼び出せるということは相当に距離をカバーできるということだろう。


「これはね、呼び出せる相手を限定することを条件に射程距離をすごく強化しているの。ハーちゃん限定の魔道具だけど、便利でしょ?」

「(確かにそうすれば距離を伸ばせるな。しかし、竜宮氏族っていうのは魔道具も達者なのか。)」

「まあ、中にはそう言う人もいるのよ。次に来た時は占い師と一緒に紹介してあげるわ。」


そう言えば、そんな人物の話があったな。結局ここでは自分の仕事を全うして飯食って酒飲んだだけで帰ることにしてしまった。

まあ、時間が無いと言えば納得できるが、次に来た時に期待したい。


「メェア」

「良く来てくれたわね、ハーちゃん。またよろしくね。」

「メェァ」


そう言ってソフィアがハーちゃんの頭をなでる。今回もお願いすることになったので、俺も礼を言ってからソフィアに声を掛ける。


「(ありがとな、よろしく。それじゃ、ソフィア?)」

「ええ、行きましょうか。」

「メェア」


そういうとハーちゃんの中に乗り込む。今回は特に驚くことも無いのでスムーズだ。


二人が乗り込むとハーちゃんが一鳴きして出発する。これで初めての竜宮氏族の集落は終わりを見たが、また来ることもあるかもしれない。魚人などのことで考えることがありそうだからな。


***


行きと同様、帰りもかなりのスピードが出ていた。海中は魔物でも出なければ障害物も無い。速度制限も無いので、今度は行き以上に気合いを入れてしがみつく。せっかく補充した骨をまた紛失するのは勘弁願いたいからな。


ということで、目的地には3時間ほどで到着した。どうも海流の問題や魔物やら魚人やらをハーちゃんは自身の判断で避けてくれたみたいで、それだけ時間がかかったのだ。


「いやぁ、ちょっとだけ時間がかかったわね。どうしてかしら。」


と、理由まではわかっていなかったみたいだけどな。とりあえず、現在値は隠れ島のすぐ近くの海中だ。ここからはどうするつもりだろうか。


「(どうやって陸に上がるんだ?)」

「それはね、こうやるのよ。《水流操作》水よ、上がれ!」


俺の質問にソフィアはスキルの発動で答えてくれた。ガルガンドも使っていたので、それが水を操るものであることは分かる。字面からしてその流れを操るのだと思うが、まあ、誤差だろう。

スキルが発動したことで、ハーちゃんの外では何かの轟音が鳴り響き、その音がどんどんと下方に移動すると、ソフィアが叫ぶ。


「アルカナ!あたしみたいにしっかりと捕まって!」

「(了解!)」


俺は指示された通りにしっかりと捕まる。こういうときは指示に従ったほうが大事にならないと、冒険者生活、いや、レイアとの生活で学んだ。なんだかんだで相手の方が長生きしている分だけ経験も豊富なのだからな。


俺は即座に体を〔変形〕させてしっかりと自身を固定させた。そしてその次の瞬間には、轟音が近づいて衝撃が来る。どうやらソフィアは大量の水をハーちゃんの下から上方へと向かって勢いよくぶつけたみたいだ。

ハイヤータートルという頑強な魔物だから耐えられる方法での上陸手段ってことなのだろうな。衝撃から推測してある程度のランクまでの魔物であれば今のだけで、全身の骨を粉砕されて即死だろうし。水の勢いってのはそれだけで凶器だからな。


ハーちゃんは水に押し上げられて高くまで噴き上げられる。どうやらこのまま上陸する様だ。弧を描くように運ばれて行く。


そして、ドシンという音がして、ソフィアと最初に出会った崖の上に着地する。ウミガメのようなハーちゃんはどうやって着地するのかと思えば、胴体着陸の様だ。まあ、本体は甲羅の中だから、鎧で攻撃を受けるのと同じということかもな。


打ち上げられたこともあってハーちゃんの中の水は無くなっているので、俺は〔変形〕で元の形に戻して外に出る。一緒になってソフィアも外に出てくるみたいだ。

ソフィアは竜宮城でも使っていた浮き輪みたいなものを出す。陸上で移動するのにはそれが必要だもんな。


とりあえず俺は村に戻るとしようか。さっさと報告したほうが良い事柄もいくつかあるし、海中でも異変が起きていることは伝えるべきだろう。


「(それじゃ、ありがとな。俺はいくけど、ソフィアはどうすんだ?)」

「私も行くわ!少しだけの滞在にするつもりだけれど、地上の村も気になるもの。」

「(なるほど。じゃ、行くか。)」


俺はソフィアを伴って村まで帰ることにする。ハーちゃん大きすぎるし陸上で移動するのは難しいだろう。ここで帰る様だ。ソフィアは海中であれば自分で帰れるらしいからな。


「メェア」ドボン


ハーちゃんを見送って俺たちも移動を開始する。ここからぐるりと回って浜を通って村に入る。門のところにオークファーマーの兄弟もいるだろうから、ミザネ村に人魚族を入れてもいいかは聞けばいいだろう。拒まれるとも思えないし。


「行きましょう。」

「(ああ。あっちから回るからついてきてくれ。)」


ソフィアを先導して村までの道のりを歩き始める。速度としては歩きの速度なので、ソフィアが送れるということもない。


そうして歩いて行くと、浜を過ぎたあたりで、ソフィアが周囲を見回し、徐に手を合わせて祈りを捧げる。すでに今日の漁は終わったのか誰もいないので、気になって話しかけると何を見ていたかを答えてくれた。


「(何を祈っているんだ?)」

「うん、ここで同胞が冥界に送ってもらったんだなぁって。あたしには何もできないし、知ることすらできなかったけどね。少しは救われてくれたのかなぁって思っちゃった。」


そう言えばここが戦場だったことを彼女は知っていたんだったな。それなら自分の仲間がここでアンデッドとして戦わされてしまったことに何か思うことがあってもおかしくないだろう。

少しでも彼らが救われてくれればいいと俺も思うので、俺も一緒になって手を合わせる。死神やら冥神やらが悪いようにはしていないと思うが、一応な。


「よし、それじゃ行きましょ。」

「(もう大丈夫か?)」

「ええ。こうしていても何も始まらないもん。」

「(そっか。)」


ソフィアはまだまだ長命な種族としては子供な方らしい。それでもこういったことには思うところがあるようで、切替もできるんだな。

俺もこれ以上は言わずに村に向かって再び歩き始める。


すると、そこにドドドッという音が響いて何かが前方から駆けてくるのが分かった。どうしたんだろう。


そうしてそちらを気にしていると、すごい勢いで4足の魔物が走ってくるというのが分かった。もうお気づきだろうが、それはサイの魔獣だ。


「(シュツェン!)」

「ぎゅい!」


俺はシュツェンをその勢いごと受け止める。ソフィアには少しだけ離れてもらった上で。


「きゃあ!」


それでも衝撃は彼女にも伝わったみたいで申し訳ない。そこでふと気が付く。どうやらシュツェンも上に誰かが乗っているみたいだ。

俺が見上げるとそこにはメアリーがちょこんとシュツェンの鞍に跨っていた。彼女はブラウニーで見た目も小さいのでシュツェンの上では余計に小さく見えるな。


「おかえりなさいませ...。」

「(ああ、ただいま。メアリー。)」

「ぎゅお」

「(ああ、お前もな、シュツェン。)」


二人に挨拶をしてから、どうしてこう言うことをしたのか聞こうとすると先にメアリーがソフィアについて質問をしてきた。


「誰...?」

「(ああ、彼女は「あたしはソフィア・ローレライ!人魚よ!よろしくね!メアリーちゃん?」...別に割り込まなくても。まあ、こういうことだ。)」

「了承...。滞在...?」


メアリーは彼女が家に滞在をするのかを聞いているんだろう。俺も彼女の予定は聞いていなかったので聞いておこうか。


「(ソフィアは今日のところは村で一泊するのか?)」

「ええ、そのつもりよ。場合に寄っては長期滞在も視野に入れてって話をパパにはしてきたから。」


どうやら俺が知らない間に村で過ごすことを決めていたみたいだ。まあ、その間の宿は俺も借りている家でいいかな。ということは。


「(メアリー、ソフィアは滞在するってことでよろしく頼むよ。)」

「了承...。」


これで滞在先は決まったみたいなもんだろう。まあ、村長が反対するとも思えんしな。俺も竜宮城で世話になったわけだし、こちらが持て成そうじゃないか。

しかし、どうしてメアリーが乗っているんだろうか。


気になったので直接聞いてみることにする。全く予想がつかないので恐る恐るという感じになってしまうが。


「(ところで、どうしてシュツェンにメアリーが乗っているんだ?)」


俺の質問にメアリーはそうだったと思いだしたのか、若干慌てたような表情で何かを伝えてくる。


「用事...。使者来訪...?」

「(ん?使者来訪だって?使者?誰からだ?)」

「海龍王...。」

「!?なんですってぇ!」


メアリーの言葉に反応したのはソフィアである。まあ、遣いが来たって話はしてあるので、こういう反応なんだろう。そう言えば海龍王の近くにいる者にソフィアは面識がある人もいるという話だし、一緒に行ってくれないかね。


「(ふむ、それで呼びに来てくれたわけか。ありがとうな。とりあえず、ソフィア、家よりも先にその使者とやらに会いに行こうと思うんだが、良いか?)」

「ええ。あたしも気になるもん。」

「(よし、それじゃ、メアリー、案内してくれるか。その後は家に戻ってくれ。何があるか分からんからな。シュツェンもメアリーを護衛してくれるか?)」

「了承...。」

「ぎゅぃ!」


いい返事をもらったところで、俺たちは使者の元へと向かう。門は兄弟たちに通してもらった。

一応、使者とやらがどういう人物か分からないからメアリーたちを遠ざけたい。また、その場に誰がいるかというのも分からないので、人は最低限が好ましいと思う。


まあ、色々と思うところはあるが、良い人物だと嬉しいんだけどな。


俺とソフィアを先導してシュツェンが走る。その背中にはメアリーが乗っているので、振動などを抑えてゆっくりだ。ただ、たったの一日だけど、シュツェンの全速力は久々に見た気がするな。

まあ、一日だけでも遠く離れたし、それもしょうがないか。


どうでもいいことを考えながらも、使者がいるというミザネ村長の社は近づいて行く。












使者に会いましょう


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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