第168話 閉幕
評価、ブクマありがとうございます。精進します。
水竜ゾンビの元へとゆっくりと近づいて行く。腐神の軍勢は基本的に死体を運用しているのか、ほとんどが原型が分からないほどに腐り果てているのだが、この水竜ゾンビだけは、そうとも言えず、まだまだ元の肌が残っていた。
それでもアンデッドであることは間違いが無いし、元に戻すことは不可能であるとわかっているため、そのまま地獄に叩き落としてやるのが温情だろう。
さて、この水竜は他とは違うと言ったが、それは見た目だけではない。ステータスを覗いた結果から言うと、こいつの立場はルグラで倒したゴブリンエンペラーゾンビと同じということが分かった。
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名前:ウォル
種族:死霊水竜
性別:メス
レベル:―
体力:80000000/80000000
魔力:20000000/20000000
筋力:2000000
耐久:50000000
敏捷:8000
精神:5
運 :32
【固有スキル】
〔水竜〕〔腐敗〕〔再生〕
【通常スキル】
〔光脆弱〕〔物理耐性〕〔統率〕
【称号】
〔水竜〕〔統率者〕〔腐りし者〕〔腐神の死徒〕
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ステータスは他のアンデッド同様これ以上の変化を許されていない状態で、レベルが表示されなくなる。
おそらく、生前のレベルが反映されているとは思うので、換算すればおよそ200以上というところだろう。巨大土竜が360だったとしても少々低いと考えて良い。
ただ、ゾンビと成ったことで〔再生〕などのアンデッド特有の耐久力の向上が見られるし、逆に弱点が表面に現れてしまっているというのもアンデッドの特徴か。
光属性が弱点であることは誰もが知ることではある。しかし、光属性は稀少な魔法属性だ。自身が会得しているケースは稀なので、武器に付与することが多いとされている。
冒険者であれば、ミスリルの武器に属性を付与することが一般的な対処法になっている。
「グル、ガアアアアアアァァ!!!(まあ、俺は獅子王面があるけどなぁあああ!!!)」
俺にとっては必要のない話だ。一気に距離を詰めて動きだした水竜ゾンビに爪を振る。
獅子王面、つまりは神獣のマスクはそれ自体が光属性を強く帯びている。このマスクの爪の一振りがアンデッドを消滅させるのだ。
しかし、俺の思惑は外れてしまった。どうも爪の通りが悪いのは、どうしてだろうか。
アンデッドにとっては最も効果的な光属性の魔力を込めた爪による一撃は間違いなく水竜ゾンビの体を引き裂いたはずだ。なのに傷は残らない。百歩譲って〔再生〕で修復しているとしてもあり得ない速度だ。
俺は疑問に思いながらも爪を振るう。一撃で不可能なのであれば、連撃を加えるだけ。どんなにスキルが優秀であろうともその連続稼働には限界があって当たり前なのだ。
アンデッドという疲労を感じない存在で在ろうともスキルの限界は間違いなくあるはずなのだから。
そこからは獅子王面の身体能力のすべてを使って爪での攻撃やブレスを吐いた。しかし、水竜ゾンビはそれらを受けても平然としている。もちろんあちらからの攻撃もあるが、水のブレス程度であれば当たってもいたくないし、ゾンビということもあってか動きは緩慢なのでヒレや尻尾などの攻撃は余裕で避けることができる。
水竜の見た目は、首長竜の頭に鰐のような顎が付いている感じだ。凶悪な見た目だが、その見た目に反して草食なのを知った時は意外過ぎて驚いたものだ。
そんな水竜はゾンビになって思考が変わったのか、先程から、ヒレや尻尾での叩きつけに加えて、噛みつき攻撃が増えている。
その鋭い牙で噛みつかれたら外すのに苦労しそうなので避けてはいるが、肉を口にいれることすら嫌う水竜がいるのに、こいつはそうでもなかったのかね。
とにかく、肉食になってしまった水竜ゾンビは緩慢であれど、重そうな一撃を繰り返している。
「グルルル(どうしたものか。)」
ついつい口を突いて出てきてしまったが、本当に手が無いな。爪は防がれているのか再生しているのか分からないし、ブレスにいたってはなぜか弾かれる。
弱点をはじけたらそれはもう無敵なんじゃないのかとすら思うぜ。
クルルルル
悩んでいると水竜ゾンビがアンデッドに似つかわしくない声を上げて口を開く。水を高圧で発射するブレスの予備動作だ。
先程までと同じであれば得に避ける必要はないのだが、何か嫌な予感がしてサッと身を引いて距離を取る。威力が無かった先程のブレスは超高速で放たれたことは間違いなかったので、近距離ではいつ当たるか分からないからな。
クォオオオオオオォォ
「グルォ!?グォ?!グラァ(何!?まずっ?!〔人化〕ぁ!)」
そうして放たれたブレスは俺へと一直線に放たれる。どうやら俺の予感は当たっていたようで、先程とは比べるまでも無いほど魔力が籠っている。どうやらさっきのはブラフだったようだ。
危うく掠りそうになった俺は慌てて〔人化〕をして小さくなって回避する。〔縮小化〕ではかかる時間から考えて間に合わなかったな。
ったく、アンデッドの癖に小賢しいまねをするな。
「チッ、後ろは大丈夫か?」
俺が後ろを振り向くと、俺が避けた水ブレスが背後にいるアンデッドに当たり、少なくない数を昇天させる。見境ないな。
「トロの海!無事か!?」
「ああ!ワシは平気じゃ!今ので死人共も数を減らしたし楽になったわい!」
思いの外、元気そうなトロの海に安心するが、その額の汗は尋常ではなく、向き直って水竜を睨みつける。さすがに彼でも先程のを直撃したら危なかったと思う。
睨まれたからと言って特に反応をするわけではないと思っていた水竜は、何を思ったのか、もう一度ブレスの準備をする。
ただ、それをすんなりと放つのを待つ俺ではないので、即座に口元に潜り込んで下顎めがけて飛び上がり腕を振る。もちろんその手にはイシュガルだ。
「させるかよぉ!〔換装〕大鎌斧イシュガル!オラァ!」
斧モードのまま振り上げたイシュガルは水竜ゾンビの下顎を押し上げて開いていた口を閉じさせる。そしてチャージされていたであろうブレスが放たれると、水竜ゾンビの口を破壊して上空に打ち上げられた。
ゾンビと言えども口が破壊されたことは痛手だったのか、水竜ゾンビが悲鳴を上げる。
ギュオオオオオオォォオオォオオォォ
その声にある抑揚はどこか悲痛な叫びに聞こえて、不思議に思うが、次に聞こえてきた艶めかしい声で俺はやっぱりなと納得する。
称号からなにから、あの時と状況が近すぎる。これでいないはずもなかったな。
「いたぁい。まぁた、あなたなのねぇ?あたしのお仕事の邪魔をするのわぁ。グギャルトの時もそうだけどぉ、どうしてあたしの邪魔をするのよぉ?」
「やっぱり出てきたか。俺ももう一度お前には会いたいと思っていたんでちょうどいい。あの時の言葉はどういうことだ?」
俺は腐神ザンビグルの話は一切無視して自分から質問をすることにした。実は前に話しことで気になっていたことが一つある。前回の戦闘中は気にしなかったが、今は看過できない可能性もある言葉だ。
「ちょっとぉ、あたしの質問は全部無視するのねぇ。まぁいいけどぉ。それでぇ?言葉って何かしらぁ?」
ザンビグルと俺は悠長に話しているように見えるかもしれないが実際は今も戦闘の最中だ。対話をしているように見えるが、ザンビグルin水竜ゾンビはさっきから殺す気の攻撃しかしていない。
そんなにゴブリンエンペラーゾンビの件で恨まれているのだろうか。まあ、それ以外にもいくつかこいつのゾンビを地獄に叩き落としているのもあるかもしれないけどね。
とりあえず、答えてくれそうなので、質問を続ける。聞きたかったのはこの言葉の真意だ。
「あの時お前は『あたしだってぇ、好きでこの体に入ってるわけじゃないのよぉ。この子はあたしがぁ、あいつの使徒を殺すのに使うつもりだったんだからぁ!』とか何とか言っていたな?」
「そ、そうねぇ、そんなこともあったかしらぁ。」
俺がやつの声まねをしつつ言ったら、若干引き気味で答えやがった。自分がそうみられているってことを理解していないとは残念なやつだな。
「その使徒っていうのは誰のことだ?」
そう、俺が聞きたかったのはザンビグルが言う使徒が誰であるかということだ。使徒と言えば神の加護を得たものであることは確定だが、特定の人物であることは間違いない。
俺の予想が正しければ、こいつの標的をする―することは俺にはできない。
そしてザンビグルはその言葉の意味を思い出したのか、水竜という魔物の顔でもはっきりとわかるようにニヤリと笑った。口が裂けているので非常に不気味なのは言うまでもないだろう。
「それはぁ、もちろん、ガリアの使徒よぉ?そんなの決まっているでしょぉ?アタシを差し置いて世界神なんて座にいるあのいけ好かない女の使徒よぉ。
たしかぁ、レイアちゃんって言ったかしらぁ?今はどこで何をしているんでしょうねぇ。パーティを組んだらしいけどぉ、果たして仲間は一緒にいるのかしらぁ?」
「そうか。分かったよ。」
その言葉に少し引っかかるが、俺はやはりなと思うと同時に仲間を狙われているという事実に怒りがふつふつとこみ上げる。
レイアは今はミツバにいるはずだ。他にも実力者が集まる場所なので襲撃されても心配はしていないが、エルフの国に来る時に攻撃されたら、さすがに危険だ。
居場所を把握されていないのなら俺が話すことは無いが、ここで仕留めるのは確定だな。
死神に聞いた話じゃ、魔物の中に入って直接動かす場合はその魔物が死んだあと自身も少しの間は活動を休止するしかないらしい。その間にレイアと合流すれば問題ないだろう。
俺はとにかくここで仕留めることにして、方針を固める。どうも、このまま長引かせる必要はないとわかったからな。魔物とのリンクを切られる前に消滅させるのが最も効率がいいだろう。
「さて、聞きたいことも聞けたわけだし?そろそろ退場願いたいんだけど、よろしいかな?」
務めて冷静に話しかけるようにして、とどめを刺すことを伝える。ザンビグルはそれでも先ほどまでの戦いから俺が決定打を持たないことを理解している様だ。
「あらぁ?そんなこと出来るのかしらぁ?この子の肌は傷つかないしぃ、ブレスも弾くのよぉ?神獣の姿でも無理ならどうもできないでしょぉ?」
「まぁ、分かってるさ。《解除》」
そんなことはわかっている。ただ、獅子王面のブレスはそんなに弱いわけがない。どうしても周囲への被害が抑えられないので、通常、威力は調整して使うのが普通だ。
だから、その制限を取っ払う。どうやら、ミザネ村長も俺の考えを分かってくれているのか、上空に展開されていた島を隠す結界が無くなっていたしな。
さらに言えば、これは新技だ。ブレスではどうしても空気中で減衰して、その威力が大きく下がる。魔力の消費でいくらかは防げるがそれも限界がある。
じゃあ、どうするか。直接注ぎ込めばいい。
「グルルルルルルルルルルルル(ゼロ距離なら、光をはじくことなんぞ出来ないだろう?その鱗が鏡の役割を果たしてブレスを逸らしているのは分かってんだよ!!)」
おそらくだが、〔水竜〕には〔反射〕か〔完全反射〕が融合されていると考えられる。スケルトンの中にシルバースケルトンがいたことから考えて、光属性への対策はしていると見ていたからな。
それで思ったことがあるが、今は良いだろう。終わったら考えることだ。
7m級のライオンの姿に戻った俺は、全身で魔力を練り上げてそれを両爪に通わせる。属性の魔力を纏わせるのは主に魔法剣士の領分だが、俺も〔拳聖術〕を訓練する中で多少はできるようになった。これはその応用だ。
「グラァアアア」
雄たけびを上げて水竜ゾンビに爪を立てて何度も何度も何度も光属性が体内に届くまで切りつけ続ける。再生をしているのは分かるが、鱗を貫通させてしまえば、もはや〔反射〕も意味がない。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと!アンタ!何しているのよぉ!?ウォル!全力で再生しなさいよぉ!」
クルォオオオ
ザンビグルが焦ったように水竜に指示を出すが、元々〔再生〕はフル稼働させているはずだ。水竜自身にだって俺のブレスの危険性はわかっているだろうし、直撃すれば消滅することも理解できているだろう。
そんなことはわかっているからこそ、俺もこういう手段に出たわけなんだけど。
がりがりと鱗を削り肉を抉り、再生が追い付かなくなるまで、傷を作っていく。表面上にばらけさせて作った傷では意味がない。であれば、同じ場所をひっかくだけだ。
がりがりと同じ場所をひっかくライオンの図はどうにもただの猫のようにも見えるだろうが、俺はいたって真剣だし、水竜も真剣に焦っているだろう。
そうして俺と水竜の滑稽な攻防は、決着の時が来る。
クルォオオオオオオオオォ
「グラァアアアア(ヨッシャァアアアア)」
俺の爪が再生が間に合わないほどの深さで水竜の肉を傷つける。あとはもう決まったも同然だ。
「グラァアアアアアアアアアアアアァ(〔獣王の息吹〕)」
至近距離で開かれた俺の口から集束された光がその傷に向かって放たれる。吸い込まれるようにして体内へと消えていった光は次の瞬間、水竜のいたるところから外に出て光を放つ。その光は体内を破壊しながら浄化していく。
「クソッ!クソッ!またお前に!せっかくここまで誘導したのに!次は!次は無いからぁ!!!」
「ハンッ」
俺はその言葉を鼻で笑ったが、やっぱりとも思った。どうやら俺がここに漂着したのにはもう少しだけ見えていない事実がありそうだ。
光が大きくなると、水竜が破裂し、中から光が溢れだす。その光は雨のように周囲に降り注ぎ、トロの海や復活したキョウカ、ファーマー兄弟と戦っていたアンデッドを浄化する。
予想外の結果だったが、悪い結果ではないので良しとしよう。
事態の収束を見たトロの海たちが俺の方へとやってくるので、最近ではスタンダードな姿となりつつあるスケルトンの姿に戻って迎える。どうやら光属性だけあって彼らに回復の効果までもたらしたようだ。
元気な姿に戻って良かったよ。
***
こうして、突如浜に打ち上げられた人魚のアンデッドから始まって、腐神ザンビグル率いるアンデッドの軍勢の襲撃は終息を得た。
ただ、これで終わりかと言えばそうじゃないだろう。
ザンビグルの最後の言葉。
「せっかくここまで誘導したのに」
これは紛れもなく俺をここに呼びこんだことに他ならない。海王の件とも何らかのつながりがあるかもしれないな。
すべては海龍王に聞けば解決してくれるのだろうか。
何とも言えない不安の残る結果とはなったが、とりあえずは疲れを癒すべきだろうと、村へ帰るとする。
村長にも話を聞かなければな。村への襲撃もあったみたいだし。
はぁ、エルフの国に行くだけのはずが、どうしてこうなったのだろう。
待ちましょう
拙作を読んでいただきありがとうございます.
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