第166話 アンデッド襲来
ちょっと短いです。
まず、情報の整理をしよう。このアンデッドがなぜここに流れ着いたのかを考えるのに知っておくべきことがある。
おそらく、この島は招かれざる者が来ない仕組みになっているはずだ。ミザネ村長が言うには海龍王レヴァが潮の流れや波を利用して島の周辺に来たモノを選別しているような感じらしいし。
俺やシュツェンのように何らかの理由があってこの島に流れ着くものはほとんどいないと見ていいだろう。なぜなら、1週間の狩人生活の中でこの村の住民の中に島の外から来たという者は一人もいなかったのだから。誰もがこの村で生まれ育ったか、ずいぶん昔に海龍王本人に連れてきてもらったという者だけだった。
この島にたどり着くには海龍王という関わりを持つには如何せんハードルの高い相手に運ばれなくてはならない。これは直接連れて来られる場合も波に運ばれる場合も同様だ。
それを成すことができる魔物や人は基本的に世間では稀有な魔物やスキルを持った人である傾向があるようだし、さらに言えば悪人がいないということも付け加えておこうか。
つまり、この島にたどり着くには、何らかのルールによって海龍王自身が選んだ者に該当する必要があるということだ。
となると、今回のアンデッドが流れ着いた件において、俺が知るべきはその何らかのルールだろう。アンデッドもそれに該当してしまっているというのは少しばかり危ないと思う。
それに、この村のアンデッドに対する知見の低さは、これまでにそう言ったことに関わってこなかった証拠であるため、この村の子供が俺に興味があることもそうだが、アンデッドという物はこれまで知識の中にしか存在しなかったと考えられる。
なので、村長ですら、浜に打ち上げられたアンデッドに驚いているのだ。平和な村であるので、仕方がないことではあるがな。
とりあえず、俺はルールを解明する必要があると思うのだが、実はこれについては少し予想がついている。
先程、浜に到着した時に見た漂着物の中には俺の様な骨も混じっている。それ以外にもあるのはどれも命の無い物ばかりだ。魔物の死体や骨、肉、どれも過去に遡ればどういった形であれ、生きていたモノという訳だな。
それらから考えると、おそらくルールってのは生きていた痕跡があるか否かということではないかね。
そうなると、武具はどうしたって話になるが、たぶんあれは生命ある武具の類だったんじゃないか?そう思えば辻褄は合うだろう。
後は魚介類もそのルールに則ればここまで運ばれるのもおかしくないだろう。今も転がっている魚を〔探知〕で見る限りすでに死んでいるみたいだし。
んで、このルールを正しいと考えると、俺やシュツェンはやはり海龍王に呼ばれたとみていいと思う。一応、まだ生きている存在ではあるからな。少なくともシュツェンは。
そして、アンデッドもこのルールにしっかりと該当する。だって、死体が動いているのがアンデッドなんだから、そりゃそうだろって話だ。
これまでにアンデッドが流れ着いていない理由は、この島が守られていたことの証だろう。それなりに海龍王も気を使って選別をしていたのかもな。
それが何らかの理由で、疎かになったことでアンデッドが漂着したってところか。まあ、なんにしても、オーク族たちの機転でアンデッドが何かをする前に無力化できているんだけどな。
「(なあ、念のために聞くが、アンデッドが流れ着いたのは初めてなんだよな?)」
「うむ、ここらでは悪なる神がちょっかいを掛けてくることも無かったしのぅ。じゃが、その分どうやって対応すればいいか分からないのじゃ。」
ミザネ村長に確認するが、想像通りの答えが帰ってくる。アンデッドってのは魂を持ってはいるが死んでいるし、他者の命に執着する。
ゴブリンエンペラーの様な術士が直接操る場合を除くと、基本的に生者を襲う。この村に入り込んでいたら相当な被害が出た可能性もある。子供もいる村だからな。
俺は問題のアンデッドを見る。流れ着いたアンデッドはたったの一体だが、実は最初に見た時点でちょっと良くない物が見えてしまっているのだ。
それはこのアンデッドの称号。〔腐神の下僕〕。これだ。
どう考えてもザンビグルのことだし、下手したらブレナンド帝国が関わっている可能性まである。いや、むしろ高いかもな。
人魚ってのは初めて見たが、こいつは男性の死体から変化したアンデッドの様で、所々腐ってる。時間が経過してからアンデッド化させたか、漂流している間に腐ったみたいだ。
その風貌も分からないくらいなので、どちらにしてもずいぶん昔に死んだ人魚なのだろう。
今もオーク族の拘束を解こうと足掻いているが、元々の力の差か、ビクともしていない。
俺は村の者達にはザンビグルのことは伝えずに、とりあえず人魚を拘束するように伝える。このままオーク族たちに任せておくのも悪くはないが、万が一が無いとも言えないからな。
俺は〔骨壺〕から絶対に拘束が外れない様な太めの鎖を取り出してオーク族の漁師たちに人魚ゾンビを拘束してもらう。
ミザネ村長もその行動を見て、俺が何を気にしているのかに気が付いたようでオーク族たちには拘束が完了した時点で村へと帰っているように伝える様だ。
「さて、漁師たちよ。その人魚の拘束が終わり次第、村へと帰還しておるが良い。ちと嫌な予感がするのじゃ。あと、オークファーマーの兄弟にこちらへと来るように伝えてもらえるかの?」
「んだ。分かっただ。オラたちは村長の指示に従うだよ。ほれ!みんな急いで帰るだよ!今日の収穫物も忘れるでないだがや!」
「「おお!」」
オーク族たちはみんな一斉に帰っていくが、村長が衛兵である兄弟を呼んだことで状況を理解したのかもしれない。
「(村長は、まだ来ると考えているんだな?)」
「うむ、アルカナ様も同じじゃろう?」
「ああ。」
俺たちは二人で今は波も静かな海の方を眺め、されど警戒を強める。ミザネ村長の能力は良くわからないが、村の周囲を警戒する様な事はできるようだ。俺と同じ方向を向いて何かを考えている。
俺たちが無言で海を眺めていると、後ろの方からどすどすと足音が響いて誰かがやってくる。まず最初にそれを確認したのは、俺たちの後ろで無言で立っていたキョウカだった。どうやら彼女も今回はここに残るらしい。まあ、狩人もしているみたいだからな。
「村長、スケルトンさん、ファーマー兄弟が来たようです。」
「うむ、とりあえずはこれで十分じゃろう。村にはトロの海がおる。心配ないじゃろうて。」
「(しかし、何があったのだろうか。)」
ファーマー兄弟がこちらへと来るのを振り返ってみつつも、俺は〔探知〕を海の方へと広げて、よしんば海龍王の状況がつかめないかと確認しようとする。
まあ、そんなことよりももっと注意しないといけないことに気が付いただけになったけどな。
「ミザネ村長!オラたちに何か用だぎゃ?」
「門を守らなくていいだがや?」
2人はおそらく何も聞かされていないのだろうが、こちらへと近づいてきて人魚のアンデッドをみると顔色が変わる。
一目瞭然でアンデッドとわかるそれに、二人はどこか悲しみの様な表情を浮かべるが、それも一瞬で次の瞬間には村長の方へ質問を投げかけた。
「村長。そう言うことですかい?」
「オラたちが呼ばれたってのは。」
「うむ、儂もじゃが、アルカナ様も同じ意見みたいじゃからな。」
「「了解した。」」
村長と話すファーマー兄弟の表情はどこかキリッとしていて、しゃべり方まで変わっている。何がそうさせたか分からないが、いつもの農家の男性風ではなく戦士の雰囲気は頼もしい。
これからのことを考えると頼りにできそうだからな。
「それでは、この後のことを考えましょう。まずはこの捕らえたアンデットはどうしましょうか?」
「うむ、すまんがキョウカ。こいつは儂の社まで運んでくれんか。儂が検査を行う。アルカナ様もすでに見たのであろうが、後程、情報のすり合わせを。」
「(ああ、分かった。)」
そういうと村長は村の方へと歩き出す。彼はこのあとは不参加のつもりの様だ。
「儂はミザネ村の守護者でもあるじゃて、ここらじゃちと分が悪い。すまんが、ここは頼むぞ?」
「私も出来るだけ早く戻りますので。」
「「オラたちに任せてくれ。」」
「(そちらも一応気をつけろ。)」
村長はこの場の4人と言葉を交わして去っていく。キョウカも人魚ゾンビを担いでついて行く。
村長は自らを村の守護者に設定してしまったことで、そこ以外で力が発揮できないのだろう。守護者ってのはだいたいそうだ。守護者でありながら暇だからと世界に飛び出したどっかの神獣がおかしいだけである。
さて、そんなことをしているうちに俺の〔探知〕にもシャレにならない出来事が起こりかけている様子を見つけた。本当に海龍王は何をしているんだか。
「(そろそろ来るぞ?)」
「んだ。」
「腕が鳴るだよ。」
ファーマー兄弟はその手にある槍をブンブン振り回しながら俺に答える。どうやら彼らも何が来るかすでに分かっている様だ。
そうして数瞬後、先程まで静かだった海がうねりだし、波も高くなっていく。その海には何者かの魔力が混ざっていて、海龍王の物だろうと予想ができた。
俺は少しずつ迫る気配に悟られぬように波打ち際に近づく。こんなことになるならシュツェンを連れてくるべきだった。今頃家でのんびりしていることを考えるとちょっと失敗した。
「海龍王様の魔力だな。」
「んだな。少し荒い気もするだが、ちょっとだけだぎゃ。」
俺が後悔しているうちにそんなことを言うファーマー兄弟だが、彼らも俺の後ろに追随して波打ち際で槍を振り回している。
そうして待つこと数分、ついにそれは姿を現した。
クルルルルルルル
何か喉を鳴らすような音と共に海から上陸したのは、首長竜のような魔物だった。いや、正確に言えばその死体、だな。
その後ろには大量のアンデッドが付き従い、ざっと見ただけでも400はいるんじゃないだろうか。スタンピードブルの群れのざっと倍くらいに見える。
「こらぁ、大仕事になりそうだ。」
「んだな。嫁さんに弁当作ってもらうべきだっただ。」
俺の隣でのんきにそんなことを言うファーマー兄弟に少し肩の力が抜けるが、それなりにピンチだからこそ緊張を和らげようと軽口をたたいているのだろう。
俺もここまでのアンデットの数は初めての経験だが、まあ、そこまで心配していない。たくさんを相手するよりも一体の大物を相手する方が大変だということはゴブリンエンペラーとの戦いで分かっているからな。
「(それじゃあ、とりあえず殲滅するぞ!)」
「「おう!」」
俺が気合いを入れて言うと、彼らもそれに呼応して気合いを入れる。どうやら二人とも覚悟を決めた様だ。
アンデッド共も最初は小さいやつらが来るようで、最初に上陸した首長竜は動かないみたいだ。俺たちとしてはそれはありがたいので、安心して小物から片づけられる。
こうして俺たちと、島を襲うアンデッドの軍勢の戦いが開幕した。
アンデッドと戦いましょう
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