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第144話 指名依頼

お読みいただきありがとうございます。

評価、ブックマークありがとうございます。


雲一つない青空が広がる下で俺は、過剰に装飾はされていなくても一目で良い仕立てだと分かる馬車に乗っていた。

馬車の中では俺ともう一人、男性が乗っており、彼はあまり口を開こうとはしない。


俺としては馬車の中で重い空気のままだというのは嬉しくないが、普段見る余裕のない外の景色を眺めるいい機会だとあえてこちらから話しかけることはしない。

まぁ、単純に彼は俺としゃべっている余裕なんてないんだろうけどな。


今この馬車を引いているのは、俺の騎獣でもあるシュツェンだ。その速度は並の軍馬など比較にもならない速度だし、実際、彼の護衛として馬車に並走していた騎士たちの軍馬も置いて行ってしまっている状況だからな。

護衛は俺がいれば十分だから、騎士たちは目的地で合流すればいいとして、今の状況を少しばかり説明しておこうか。


***


王都に来てからすでに半年以上が経過し、そろそろエルフの国へと向かう船が来航する港町に向かう準備をしようかという頃、俺のもとに冒険者ギルドからの呼び出しを受けた。


レイアはまだ、こちらに合流出来ないほどに忙しいようで、正直エルフの国へと行くのも少しばかり遅れて組合連合国経由で合流する、としようか相談しているところだ。SSSランクに昇格したことで、手続きやら指名依頼やらで動きまわることになるのは予想していても1年近く多忙になるとは予想していなかったな。


まあ、そんなわけで、この呼び出しも俺一人のようだった。俺には冒険者ギルドに呼ばれるようなことをした記憶は無かったので何の用だろうか、と首をかしげながらも冒険者ギルドを訪れる。

そして俺が通されたのは、ギルド3階にある個室で、そこは主に依頼人との打ち合わせやパーティーでの作戦会議などに使われる部屋だ。俺も何度か利用したことがあるが、ギルドからの呼び出しでここを使うのは初めてだった。


その時の俺はおっかなびっくりではあるが、少しだけ何かがあるのを期待して扉を開けた。俺も冒険者だったってことなのだろう。だが、そこにいたのが顔見知りだったのは、誤算だったがな。


部屋に居たのはギルドの職員とグレイビー辺境伯だった。思い切りドアを強く開けたから驚いていたっけな。グレイビー辺境伯は国王の誕生祭で会った貴族の男性でまだ若いながらも領地のことを考えるいい領主だったと記憶している。彼は帝国側の国境に領地を持つ貴族で、フルネームは、セイル=グレイビーといったかな。酒の席でクレインに教わった限りでは、なかなかに頭の切れる人物だって話だ。


だいたいなんで呼ばれたか予想ができてしまった俺はとりあえずは職員に向かって聞いたんだ。

「なんで呼ばれたかは一応聞いても良いんだよな?」

ってさ。職員は別に肯定はしなかったけど、その理由を教えてくれたよ。ただ、その後はセオリー通りではなかったから俺が今度は驚かされちまったよ。


「アルカナ様に指名依頼です。難易度としては調査がSランク、原因の解決がSSランクになっています。詳しい内容は依頼主でもあるグレイビー辺境伯様よりお話があります。これはギルドを通しての依頼ですが、ギルドは関知しません。ご了承ください。では、失礼します。」


な?意味わからないだろ?ギルドを通して依頼を受けるのにギルドは関知しないんだと。驚いた俺にグレイビー辺境伯が心配そうに見てくるが、それよりも理由が知りたくって急かしちまったよ。


「あ、あの」

「ああ、それで?どういうことかは説明してくれるよな?」

「ええ!もちろんです。改めましてセイル=グレイビーです。先日はどうも。

本日はアルカナ殿に指名依頼という形で依頼させていただきたくギルドを通してお呼び出しさせていただいた。応じてくれて感謝するよ。

僕が直接窺おうとしたら軍務大臣殿に止められてしまってね。それでこういう形を取らせてもらったんだよ。」


クレインが止めなければ屋敷に直接押しかけてくるつもりだったのか。貴族街には問題なく入れるだろうが、ブラッドレイ邸は特殊だから手紙などのアポイントが無いと門を開けてもらえないから無駄足になっただろうな。

まあ、結局は同じ形で呼ばれるんだとすれば一緒か。


「んで?指名依頼ってのは何をすればいい?職員の話では調査と解決の二通りあるみたいだが、説明してくれるんだよな。」

「もちろんさ。」


そう言って辺境伯は姿勢を正してこちらをまっすぐ見る。その瞬間に先ほどまでの柔らかい雰囲気が引っ込んで上位貴族特有の威圧感を前面に押し出してきた。


「僕、セイル=グレイビー辺境伯がSSランク冒険者、『死神』アルカナ殿に依頼したい。我が領の西部帝国国境に出現した正体不明の魔物の討伐、及び、原因の調査、解決がこちらの希望だ。

先程の職員の彼女が言った様に依頼ランクは、討伐は共通として調査まででSランク、問題の解決まででSSランク。相応の報酬は支払わせてもらう。

問題の全容次第では国からの報償も出ると見てくれていい。」


グレイビー辺境伯の語った依頼内容は詳しい内容にこそ触れられていなかったが、それが国家規模の案件であることを明確に示唆した。


グランドマスター辺りが仕掛け人かね。

普通に考えて国が動くなら冒険者である俺に声を掛けないだろうが、何らかの事情で国が動けないから、それなら俺にって話だろう。どうやら最近は御前会議にこの辺境伯も参加しているみたいだし。そこでグランドマスターと会ったのかもな。

内容を聞かないとわからないが、その依頼が帝国絡みの可能性が非常に高いということだけは一目瞭然だった。


「ふむ、それならギルドの言い分も分かる。冒険者は国家に属する訳ではないからな。組合連合国も国という体を取っていても実際はギルドの集合体ってだけで自治都市みたいなもんだ。関わり合いたくないだろう。」

「ええ、グランドマスターにも言われたよ。でもこうしてアルカナ殿を紹介してはくれた。内容こそ伏せて依頼を作れって話だったけど、アルカナ殿が納得してくれればこちらは問題ないからね。で、どうだい?」


辺境伯の期待のこもった眼は正直、ずるいと思ったが、まあ、俺もベルフォード王国では割と便宜を図ってもらっている。

SSランクに対する得点というか、武器の整備費やシュツェンの食費、素材の売却の税率の軽減など、国に引き留めるタメだとしても、まあ、恩を感じなくもなかった。


「良いだろう。内容が開示されないと分からんが、出来るだけはしよう。」

「本当かい?それは助かるよ。実は時間はあまりなくてね。この後すぐに王都を出たいんだけど。」


辺境伯はずいぶん急いでいるように感じたがここまでとは思いもしなかった。俺としてはすぐに依頼に行けるならそれでよかったが、受けてやるっていうんだから、それがどんな依頼かくらいは教えてくれてもいいのにと思ったさ。


「まあ、いいが、どうやっていくつもりだ?」

「馬車を用意してある。それでいこう。グレイビー領までは3週間もあれば着くだろう。」


辺境伯の予定はずいぶん急ぎの予定だった。本来、馬車で王都からグレイビー辺境伯領まで向かうと約1カ月かかる。それを馬車で3週間というんだから相当なものだ。聞いた時は頭がくらくらしたが、そこまでの案件であると、つくづく感じたよ。


しかし、俺がそれに付き合わされるのはさすがにきついので、こちらから一つ提案したんだよ。まあ、一つ隠し札を切ることにはなるが、うすうす気づいているギルド職員もいるみたいだからな。良いかって思ったからな。


「分かった。ただ、移動は二つ条件がある。一つはその馬車を引くのは俺の従魔のライノ

に任せてもらう。間違いなくその方が早い。

二つ目はグレイビー辺境伯領までのルートは俺に決めさせてくれ。最速で連れて行ってやる。」


俺がしたのは主に移動手段の最速化の提案だった。シュツェンの速度は軍馬より遅いのはしょうがないだろう。馬とサイだとさすがに勝負にならない。

ただ、スタミナやパワーは話しが違う。シュツェンは〔龍因子〕のおかげで無尽蔵の持久力と絶大な馬力を誇る。人を乗せて短距離を走るだけだったら馬に軍配が上がるが、馬車を引いて短距離となれば話は別ってことを言ったんだ。

辺境伯はライノのことを知っていたのか、特に疑問を持たずに承認してくれた。

ただもう一つの方は疑問を持たれたようだった。


「馬車の件は分かりましたが、ルートについてはどういうことでしょうか?一応最短を選んでいるんですが。」

「ああ、それについては説明する。と言ってもグレイビー辺境伯領の二つ隣の領の村に俺が行ったことがあるってだけの話なんだけどな。」

「それはいったい?」


質問をしようとした辺境伯を遮るように俺はスキルを発動した。何をするかって言えば〔魔法陣魔法〕だよ。魔法陣が構成され光りだすと、俺を今座っている椅子から扉の外へと《転移》させた。

目の前で何が起こったのかわからないだろう辺境伯を安心させるために、俺はドアをノックして再び入室した。


「やぁ、驚いたか?つまりこれでその村まで《転移》してそこから移動を開始する。小さい領地一つ越えればいいから3日か4日ってところで到着するはずだ。」

「いや、これはすさまじいな。しかしこれなら確かに一瞬だ。よし、こちらは君の条件をすべて受け入れる。それでは内容について話を使用じゃないか。」

「ああ。」


感動に近い感情を抱いた辺境伯はすぐにでも契約に移りたいのか少し必死だった気がする。だけど気持ちが分からなくもないので流れに身を任せる。どうせ、すぐに出発するのは同じだからな。


「いや馬車はすでにギルドの前に用意してある。移動しながらでも大丈夫か?」

「もちろん。」


そうして移動を開始したわけだ。まあ、俺は一度屋敷に《転移》してシュツェンを迎えに行ってセバスチャン殿が居なかったのでマイさんに長期で依頼に出るという話をする。レイアはその日の朝から南の方の領地に何かの用事で行っている。ギルドに行く前に俺がルグラまで送ったから間違いない事実だった。


シュツェンを連れて再びギルドに行くと馬の外された馬車と軍馬に乗った騎士が一個小隊5人いた。護衛もそこそこのレベルで一概には言えないがBランク冒険者くらいだった。


「それじゃ、シュツェンに馬車をくっつけて王都の外に出るぞ。食糧とかは大丈夫か?3日4日とはいえ何もないとひもじいぞ。」

「大丈夫です。必要なものはマジックバック詰めてありますので。」

「そうか、じゃ、出発!」


かなり切羽詰まった出発だったが、ここで《転移》するわけにもいかないので仕方がない。護衛たちにはグレイビー辺境伯が伝えてくれたのか不満が出ることはなかった。それに俺のランクからして彼らに意見を言うほどの力はないしな。

騎士は所詮騎子爵。実家が爵位が高くても本人は下級貴族に過ぎない。まあ、辺境伯に仕える騎士が伯爵以上の出身者であることは珍しいがね。


王都の大通りを進んで外まで出るとやっと好奇の視線が切れて、シュツェンが落ち着いた。俺がシュツェンを連れて依頼をしているとしてもまだまだ珍しい物なのだろうからしょうがないが、まあ、一生無理だろうな。


そんなおこんなで一目の無いところまで移動して《転移》の準備を始め、ものの数十秒で魔法陣を敷き終わった。多くを一度に《転移》させるのは結構魔力を使った。だから今も馬車に乗ってゆっくりしてるんだけどな。


そんであとは軍馬ごと騎士を魔法陣の中に入れて準備が完了。これであとは俺がスキルを発動させるだけ。

後は光が覚めたら…


――――目的の村に到着ってな。


こうして俺たちは目的の場所までの3週間という予定を大幅に繰り上げて現在、馬車の旅ってわけだ。


***


つまり、俺はまだ、この依頼の内容を詳しく教えてもらってないわけだ。まあ、そろそろ暗くなるから街道沿いの野営地で一泊目だ。その時教えてもらおう。


俺も馬車の揺れで酔っている辺境伯に聞くほど鬼じゃねぇさ。騎士たちを待たんといけないしな。







依頼内容を聞きましょう


拙作を読んでいただきありがとうございます.


「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」「こいつのステータスを教えて!」


などありましたら,ブックマーク,評価、感想をしていただけると励みになります.また誤字報告は自分でも気が付かないミスに気付かせていただける機会ですのでありがたく感じております。

ステータスに関しては応えられる範囲で一人ずつ回答したいと思います。


ここより下にある星を塗りつぶして評価してくれるとありがたいです。

すでに評価ブックマークしてくださった方は引き続きお楽しみください.

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