第135話 久々の休日 前編
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評価、ブックマークありがとうございます。
今回から少しだけ日常っぽい感じで整えて、新省へと移行します。閑話集くらいに思っていただければ。
国王の誕生祭で貴族や王族に会ったり、高位の冒険者として授与式に参加したりと忙しい日が過ぎて、そこそこの時間が経った。およそ二週間ほどだ。
結構な時間が経ったが、それで何があったと言われても、何も無かったとしか言えないくらいにはしょうもない日々だった。
ただ、しょうもない日々だったからと言っても、それが暇な日々だったというのとは全く違う。レイアは元より知名度や実績もあるSSランク冒険者だったので、SSSランクに昇格した今でもその依頼量はそう多くは増えていない。まあ、SSSランクに依頼せにゃならんような依頼は多くないので、来てる依頼もいくつも断っている様だ。
そして、それなら俺はというと、忙しい日々を送ることになった。なってしまったんだよ。
どうせ俺に依頼が来るようなことなど無いだろうと高を括っていたが、全くそんなことはなく、かなりの数の依頼と面談希望が殺到したらしい。
俺はもともと、特に知名度は無く実績も公になっていなかったことから、指名依頼はほとんどなかった。貴族からの俺へのイメージはほとんどが、“運よくレイアとパーティーを組めた若造”くらいだったと思う。
それが、授与式での宰相の紹介や発表によって評価が爆上がりしたのだ。俺としてもギルドとしてもこうなることは予想していなかったわけではなく、帰り際にグランドマスターに「対策はしてあるが過信するな」と言われたわけだが、その理由を後になってこんなにも痛感するとまでは予想していなかった。
予想では、今までの指名依頼の数から見ても、およそ10倍程度という見通しだったのだが、実際に来た依頼の数はおよそ予想の10倍、今までの100倍だ。
どうやらこれまでは俺が活動していたルグラ周辺の貴族や商人、裕福な平民からの指名依頼がメインだったので、そこまで殺到していたわけではなく余裕があったみたいだが、授与式に出席したことで、そんな余裕が一瞬で消し飛んだみたいだな。BとSSじゃ、普通にそれくらいの違いはあるかもしれんけどな。
王都ではフィンさんの様な俺の担当ギルド員などいないので、みんなで対応をしてくれているようだが、相当な負担を強いていると思う。まあ、それも彼らの仕事と言えばそれまでなのだが、今度何か詫びを含めてお礼をしたいね。依頼を受けるかどうかはギルドと相談して、ある程度こなしている。
あ、そうそう。面倒な貴族や、ちょっと避けることができない貴族との面会は多く、そのすべてに一度会ったので、面倒でとっとと王都から出たくもなったが、その裏でこの知名度によって嬉しいことも起きたんだ。
それが何かっていうと、ギルドで俺が出していた依頼に希望者が現れたんだ。まあ、辛うじて一人なんだけど、その一人がすごいんだ。王都に来たばかりのエルフでコーキングさんというんだが、どうやら組合連合国で料理人ギルドに所属していたらしく、独り立ちしてこの王都で店を構えようとしているんだと。
王都に来たは良いものの思ったよりも地価が高かったり、賃貸でもまだ先行き不透明なら余裕がないってんで、俺の依頼に応募してきたらしい。
俺も毎回来るギルドでは断れない貴族との面談の中でどうにか時間を作って会ってみたら、ずいぶんとしっかりした料理人だったので、しっかりと契約して、とりあえず一か月。良さそうだったらそのまま俺が王都を出るまでの間、レイアの屋敷で料理人として働いてもらうことになった。
屋敷でのことだから、コーキングさんをレイアと、使用人を束ねるセバスチャン殿とマイさんにも紹介して、許可はとったんで、勝手にやったわけじゃない。給料は俺が払うので反対はされなかったし、マイさんも料理の腕を認めた様子で厨房で意外に仲良くやれているようだ。
コーキングさんはエルフの国でしっかりと料理人として学んだ後、人族や獣人族、神聖龍国の精進料理など、自らが知らない料理や調理法を知るために組合連合国で料理人ギルドに所属したんだそうだ。そこではエルフ料理を教える傍ら、他の料理人に弟子入りして修行したらしい。
そして去年ついに師匠に認められて、ベルフォード王国に来て王都を目指したようだ。ただ、そこで巨大魔獣の出現に巻き込まれる形で、別の町への移動が制限され、移動に時間がかかったんだってさ。
コーキングさんはこの王都でも、料理人として仕事するのと同時にエルフ料理を広めるつもりの様で、王都にも一応ある料理人ギルドにも頼まれているらしい。
俺の依頼も冒険者ギルドを通じて料理人ギルドにも張り出されたことで、こうして手を挙げてくれたんだ。
俺としては、もっと駆け出しの人でもよかったんだけど、聞いたらすでに200歳を超えているようで、それなりに年をとっているらしい。俺はエルフの寿命については良く理解していないからだから何って感じだけどな。
とにかく、コーキングさんが来てくれたおかげで俺も好きな時にエルフ飯が食えるようになったので、嬉しい限りだ。コーキングさんは普通に人族の料理もできるため、屋敷でもすでに副料理長的な立場になりつつある、とはマイさんの言。
こうして、面倒な貴族の面談に忙しくしている以外は平和な日々を送っていた俺は、結構充実していると感じている。まあ、元々、興味が湧くことだけをやっているつもりだったのだから、そんなもんだ。
面倒なことの合間には、最近できた酒飲み仲間のスレインやクレインと一緒に呑んだりしているので、辛くはないからな。
名前でわかったかもしれないが、宰相と軍務大臣とは結構頻繁に酒を飲む間柄になった。あちらは兄弟だけど、酒を飲む機会は少なかったらしく、意外にも兄が大好きなスレインには有難がられた。
立場に上下こそあれど、兄弟としては仲が良かっただろうことが酒の席では窺えるので、その関係の再構築に一役買えたというのなら、友としては嬉しいよ。
そう言えば、いつだか聞いたあの余興を目の前で見たんだけど、すごかったぜ。あれだよ、“肌で剣を折る”っていう話だよ。あの話って、軍務大臣のクレインの話だったみたいで、徐にいらない剣をくれっていうから、一本の盗賊から奪った剣を渡したら、そのまま自分で頭に振り下ろしてしまったんだ。
俺としちゃ、驚いて慌ててレイアを呼んで治癒してもらおうと思ったんだけど、スレインの顔がまたかと言うような顔に変わったのを見て、もしやと見たらポッキリ根元から折れてたんだよ。
いや、人族でそこまでとは驚いたね。薄皮一枚切れちゃいねぇ。元々大した剣ではなかったが、それでもしっかり研いだ剣であることには変わりない。それを折るとはさすがに軍部で頭張っている男だな、と思ったよ。
スレインも慣れているんだろうが、すこしは心配したらどうかね。粗末な品であろうと命の危険があるんだからさ。まあ、スキルだステータスだってあるからこその一発芸なわけだな。
そんな感じで、昼間は貴族との面談とギルドとの依頼の厳選、宰相や軍務大臣との飲み会など、意外にも結構充実した生活を送っている訳だ。
そして、こんな日々が2週間もあって、やっと時間が取れたんだ。貴族は誕生祭終了後、城下祭に参加したり、公務だったり、その合間に俺のところに来たりと色々とやることをしていたが、2週間もすれば、王都に滞在する期限も自然と経過し、続々と領地に帰っていった。
誕生祭で話した貴族の中には、依頼など関係なく改めて挨拶に来た者もいた。グレイビー辺境伯もその一人で、奥方と共にずいぶん嬉しかったようで、しきりに警備兵が増えると言っていた。
そして驚いたことに奥方は妊娠していたことが発覚した。と言っても気づいたのは俺ではなく、ちょうどその時一緒にいたレイアだったのだがな。
まだ腹の中にいる赤子と言っても魔力が強い子供もいるようで、奥方の中に別の魔力を感じたんだそうだ。俺には分からなかったが、その後、マイさんが確認してマジだとわかった。そういうことも出来るんだってさ。
んで、話を戻すけど、やっと出来た時間を使って行きたい場所がある。一応レイアも誘ったんだけど、レイア個人に指名依頼があって受けちゃったんだってよ。それで俺は一人で行くことになったんだけど、まあ、それでもいいか。
その行きたい場所っていうのは、ニピッドでレイアに教えてもらった料理屋だ。カレーを専門的に扱うその店は、王都に来たら行こうと決めていたのに、なんだかんだで行けなかったところだ。
場所はすでにギルドで確認してあるので、後は行くだけ。特に予約は必要ないという話だったけど、人気店らしいから混んでいないか心配だ。回転率が良いとは聞いたので大丈夫かね。
俺はいつものように貴族街の門から出て目的のカレー専門店へと向かう。その店は王都のど真ん中を通る大通りから細い道に入っていったところにあったそうだが、何かの拍子に有名になったらしく、今では大通りに近い場所に移転したようだ。
影龍の外套を被り、〔認識阻害〕を発動する。今まではそんなことなかったのだが、俺の顔も授与式で王都中に知れ渡ったようで、レイア程じゃなくてもフラフラと歩いていたら声を掛けられて人だかりができるくらいにはなった。
だから今は外出時にはこの外套が必須になってしまった。
***
俺が目的のカレー専門店「かれぇや」に到着すると、そこには見事な行列が存在していた。どうやら、俺が聞いていたように人気店なだけあって回転率は良いようだが、それでも長蛇の列だ。
最後尾は見えているので、とりあえず〔認識阻害〕を解除してそこに並ぶ。ただ、俺の格好はラフないつもの黒の上下に外套だから、それなりに目立つんだ。
並んでいる人たちの視線を受けながらも静かに列が進むのを待っていると、店の出入り口がガラガラと開いて、客と店員が出てくる。
「それじゃ、お次のお客様...2名ですね。こちらへどうぞ。」
店員が客を呼び込んで出入口が閉まり、少しだけ列が前へと進む。このサイクルを何度か続けてやっと俺の番が来るのだろうという感じだ。
ふぅ、まだまだ暇だし、何か暇を潰すか。
***
並び始めてからすでに1時間。これを長いととるか短いととるかは個人の自由だが、俺は短いと感じているんだらから、何も言うな。
この時間を使って俺は本を読んでいたので、あっという間だったってだけだが、良い時間の使い方はできたと思う。マイさんに貰ったマイさんのレシピ本(出版済み)は、結構面白いよ。初めて食べた料理もそうだけど、結構捨てる部分を活用するから、骨を使うことも結構あって、俺もやってみようと思うんだよね。
そんな感じでレシピ本を見て暇を潰すのと腹を減らすのを同時に行っていた俺の番は、やっとこさ次に来た。
そして、すでに会計をしようとしている客が一組いるのも確認済みだ。さあ、俺の番よ来い!
ガラガラガラ
「ありがとうございましたぁー!次のお客さん、どうぞ!」
「はいよっと。」
出てきた男の店員に俺が呼ばれたので、軽く返事をして入店する。どうやら店内は前世にも一般的な感じで、トッピングができるカレー屋の雰囲気だった。
「こちらへどうぞ。ご注文がお決まりになりましたらお声がけください。メニューです。」
「ありがとう。」
俺はメニューを受け取って確認する。聞いていた通り、カレーしかないが、ライスだけではなく、ナンもあるみたいなのでどちらも頼んで、たくさん食べようか。
店員さんを呼ぼう。
「すいませーん。注文お願いします。」
「はーい、少々お待ちをー」
そう言ってから少しして、コップを持った女性の店員が来ておいたコップに水生成の魔道具で水を灌ぐ。中に氷が入っているわけではないが、冷たそうな魔道具だ。冒険者が使う水生成の魔道具とは違うのかもな。
さて、たのむか。
「それではご注文どうぞ。」
「えっと、今カレーライスの大盛に、ナンを二枚。あと、辛さはとりあえず普通で、あとはサラダをこの卵のやつ。」
「はい。ライスは大盛より多い特盛もできますが、大盛で大丈夫ですか?」
「あー、なら特盛で。」
「かしこまりました。それでは少々お待ちください。」
「よろしく。」
これで俺の注文は終わってあとはまた待つだけ。それにしても内装もそうだが、メニューまで似ているとは。
自分の記憶は曖昧なのに、こういう店の内装は覚えているってどういうことなんだか。
俺は自分の手を見る。
俺の今の姿は人族の男だが、実際はこの皮の下に無数の骨が配置されている。その中には前世の俺の骨が含まれているとオーリィンには聞いたが、俺の記憶は骨に由来しているから、含まれる骨が半端だから、記憶まで半端なのだろうか。
それなら足りない分を補われた骨に記憶はあるのだろうか。過剰に加えられた骨には?いや、普通に考えてないだろう。
でも、リオウは俺にハオの気配を感じると言っていたぞ?
答えが出ない自問自答は注文したカレーが運ばれて来るまでずっと続いた。
あ、悩んでいたけど、食べたカレーは文句なく旨かったし、また行こうと思いました。
次は何しましょう
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