第118話 ベルフォード王国 国王誕生祭その① 入場
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日付が変わって今日、授与式が執り行われる日となった。それと同時にこの国の王、昨日会ったゴルギアス=メルエム=ベルフォードの誕生祭の日でもある。
俺は先日、ありがたくも、ルグラの冒険者ギルドマスター、エルサリウムエレイン=ルフ・オリジンとレイアに推薦を受けて試験を経てSランク冒険者に昇格した。そして今日正式に昇格が認められる。つまり、授与式で本当にSランクとして認められるようになるわけだ。
ベルフォード王国で授与されるからといっても国に仕えるわけではないし、他国で授与されても同じ扱いだ。中には、早くSランクとして正式に認可されたいがために別の国で授与式に出席する冒険者もいるくらいだという。
こういう式に出るのは冒険者としての唯一の公務のようなものらしいのだが、これは冒険者の顔を売るのと同時に冒険者の顔となる自覚を持たせる機会なのだ。
さて、そんな語りをしている俺は現在、エミィさんの店、フェアリーズで購入したあの薄青色のジャケットと青白いシャツ、白に薄灰色の縦ストライプが入ったパンツの正装を身にまとい、腰には特注の儀礼剣を帯びて、迎えの馬車に揺られている。
もちろんレイアも一緒だが、彼女はこういったことに慣れているのか、余裕の表情だ。俺はこんなにそわそわしているというのに、ずりぃなぁ。
「何よ?」
少し見過ぎたようだ。ここは誤魔化しておくべきだろうか。
「いや、レイアさんは今日もおきれいだなぁって。ドレスも似合っていらっしゃいますし。」
「あら、ありがとう。今日のためにドレスを作ったわけだから誉めてもらってうれしいわ。アルも似合ってるわよ。」
ごまかしているのはばれているようだが、嘘は一切言っていないので気にしないでいいだろう。俺も褒められたので怒ってはいないのだろうし。
実際レイアは、青のドレスを着ているのでその髪の色や薄桃色の瞳の色がアクセントになっていて美しい。こりゃ、会場でも注目されるだろう。
俺は今日のところは戦闘の予定もないのだが獅子王面を装備している。一応冒険者として参加するわけだから戦えるようにしておきたいというのが主な理由だ。五感を鋭くするというのもあるが、これは貴族除けの保険だから使わないのなら、別にいい。
さて、今日の予定の確認をしておこう。まず午前中は国王陛下の誕生祭に参加することが決定している。俺は授与式の参加者としてと、SSランク冒険者のパートナーという二つの参加資格があるので、誕生祭はパートナーとしてエスコート役を務め、授与式では二人とも参加者となる。
「はぁ。」
「どうしたの?もうすぐ王城に到着するけど、馬車に酔った?」
レイアが俺のため息を聞いて体調を心配してくれる。体調は悪くないので、それは否定しつつ、心配事を伝える。
「いや、すこぶる元気さ。ただ、これからのことで緊張してな。俺はまさか自分が王城のパーティーに参加することになるとは思っていなかったからさ。レイアに付け焼刃で教わった作法だけで乗り切れるか心配なのよ。」
「なーんだそんなこと。昨日だって結構様になってたわよ?そもそも王城に冒険者を呼ぶからにはそれくらいは許容範囲内でしょう。冒険者なんて元は組織に属しているだけの荒くれ者なんだから。」
そう言われてみると、世間一般のイメージとして冒険者ってのは荒くれ者ってイメージが強い職業だったわ。うーん、俺の心配は杞憂なのだろうか。
レイアのおかげで緊張していたのが嘘のように楽になった。昨日は依頼の延長という心積もりだったが、今日も似たようなものだと思えば平和に乗り切れるかね。
「ありがとう。楽になったよ。俺以外にも冒険者がいるわけだし気にしすぎても良くないよな。」
「そうね。なんだっけ、王都の門のところにのぼりがあったわよね。えっと...キャンシ―とガンツだったかしら。」
「そうそう。会うのが楽しみだ。」
他のSランクかぁ。ガンツはいつだか見かけたことがあるが、いかつい顔に似合わず孤児院の子供が作ったらしい不格好なのぼりを見て涙を流していた。それくらいには心の優しい人間の可能性がある。
気配からしても強いのは間違いないから、いつか手合わせ願いたいとも思っている。Sランク以上と戦ったのはゴードンくらいだしな。(ゲオルギア、ナンバーズは冒険者ではないので除外)
俺とレイアの雑談は特に意味もなく続いたが、話題は今日の誕生祭のことに移る。
「そうだ!アルは今日私のパートナーとして動くわけだから、誕生祭の間も国王への挨拶や、王妃からの声掛けなんかもあると思うけど、王妃は良い子だから気負いしなくていいわよ。
誕生祭と言ってもその実、年に一回の貴族の顔を合わせるためのパーティーなわけだし、私たち冒険者は来た相手と話すくらいでいいの。国王と王妃はもちろん、貴族はみんな冒険者とのつなぎを作っておきたいと思っているのは確かだろうけどね。魔物を相手にするのは騎士より冒険者だもの。
私は毎年、出席するだけなんだけど、今年は新たなSランクを連れてきたって言うのを口実に顔つなぎに来る貴族もいるでしょうから気をつけてね。あいつら狡猾なたぬきだから。」
「了解。まあ、ニピッドの貴族の印象があるから気をつけるよ。」
アレは本当に嫌な目にあった。結果としていろいろと解決したわけだけど、俺としては二度と牢屋に繫がれたくは無い。思い出すつもりはなかったのに想い出しちまったぜ。
「ああ、安心して。トゥーピッドの当主は領地回復に忙しいから来れないみたいよ。おそらく国のアルへの配慮でしょうね。顔を合わせるのはよくないと思ったんじゃない?せっかくのパーティーに辛気臭い話題は持ちこみたくないというのもあったでしょうけどね。」
「そっか。別に俺はその当主には思うところは無いんだけどな。悪いのは息子共でみんな捕まったみたいだし。」
トゥーピッド家に関しては子供らが悪かっただけで、親父は監督不行届きって感じだから、そこまでの責任は無いと俺は思う。まあ、そこは国の判断だから口出しもしないけどね。
レイアは俺の考えを知っているのだから、こちらからそれを要求したわけではないだろうが、国としてはその方が都合がいいのだから、宰相辺りが手配したんだろう。
「誕生祭の後は授与式になるんだけど、私もアルも参加者だから、気を抜かないでね。そちらの作法は昨晩教えたけど、飽くまで形式的にはそうだってだけだからその場その場での対応はしなければだめよ。」
「ああ、分かっているさ。儀礼剣を抜かずに国王に、だろ。騎士の叙勲式のようなものだって聞いたし、そう間違えることでもないさ。変更されても大きな差もないはずだし。」
「はぁ~心配だわ。」
レイアは頭を抱えるように額に手を当てるが、俺には予測できない未来のことなので心配しても意味がないだろうと思う。ユーゴーの〔過去視の魔眼〕みたいに未来を見るスキルがあれば別だけどな。
「授与式は冒険者ギルドの王都グランドマスターが国王と並んでSランク冒険者という証を授けるものだから、グランドマスターも式会場に入るけど、気安く話しかけちゃダメ。極端に言ってしまえば、会場の誰に対しても話さないほうが良いわ。
...無理そうね。」
俺の様子を見て即座に諦めているレイアに抗議したい気分ではあるが、俺としても無理だろうなと思っているので甘んじて受け入れるしかない。
だって、初めて会う人には話しかけたいじゃん!冒険者も来るらしいけど、それ以上に騎士や軍部の人間みたいな強いのもいるらしいし、楽しそうだし。
「まあ、問題は起こさないから安心してよ。どうせ、俺みたいなやつに声がかかることないだろ。Sランクなんてそんなに少ないわけじゃないだろう?」
「そうね。そうだけどね。」
「まあ、レイアに近しいものとしては声がかかるかもしれないけどさ。俺にはそこまで興味はないでしょ。」
そうなのだ。誕生祭のこともあるが、レイアの付き添いをする俺には貴族が群がる可能性が高い。それだけレイアは名の知れているということでもあるからすごいと思うけどね。
「そんなことないわ。Sランクでも魔物の対処に当てるには十分だもの。あなたにも貴族が群がるわよ。」
「そんなもんかなぁ。」
「でも、私たちが近くにいればそう言うことも少ないと思うけどね。」
まあ、経験していないことを予想するのは難しいか。ここであれこれと気にしてもしょうがない。
そこからの馬車内は他愛もない会話が続いた。合宿中に提供した屋台飯でかなり量を減らしたから城下祭で補充したい、とか、レイアの知人のドワーフの鍛冶屋が王都に帰ってきたらしい、とか、エルフの料理人が今も見つかっていない、とか、魚が食いたいからいつか港に行きたい、とか。基本的に各自が集めた情報や希望を話し合っていたわけだが、こう言ったことは大事だと思う。
そんな話をしていると時間はすぐ過ぎ去るもので、だんだんと馬車の揺れが収まってきたかと思ったら、ついには止まった。到着したようだ。
場所は昨日と同様王城から少し過ぎたあたりの冒険者ギルド前。他にも誕生祭に出席するだろう貴族と思われる人物が多数みられる。
この国は多種族国家だけあって貴族にもいろいろな種族がいるので、いま見える範囲にいる貴族たちも、エルフやドワーフ、獣人に魔族といろいろな種族がいるとわかる。
よくよく考えれば、昨日会った宰相も獣人だったので、本当に良い国なのだな。
俺は先に馬車から降りたので、レイアに手を差し出す。エスコートってこういうことでいいのだろうか。
「さあ、お嬢さん、どうぞ、お手を。」
「ありがとう。様になっているわよ?」
こうして外に出てから王城に向かう。俺とレイアのメインの目的は授与式なのでこんなに早く会場入りする必要はないのだが、早く行ってはいけない理由もないのでそのまま入る。
冒険者ギルドで時間を潰しても良いが今の格好はあまりにも浮くのでやめといた格好だ。
さて、いざ入城というところで、入城門で昨日のように騎士に止められる。まあ、これが彼らの仕事なので文句はない。
今日は男女の二人組で門番を行うようだ。貴族のペアで来るわけだから対処に男性も女性も必要なのだろう。
「ようこそいらっしゃいました。失礼ですが身分証をお願いします。ギルドカードや貴族証など公的に発行されるものであればどちらでも大丈夫です。それを元にこちらで照会しますので。」
「わかったわ。はい、これでいいかしら。アルも出してちょうだい。」
「あいよ。ほい。」
俺とレイアは冒険者ギルドカードを門番に手渡す。受け取った門番は手に持つリストと見比べていく。どうやら参加予定の者がすべて記されているようだが、だいぶ分厚いリストだ。照会にも時間がかかることだろう。
ぺらぺらと紙をめくる音が周囲の雑踏の音に紛れて聞こえてくる中、俺とレイアを見る周囲の視線も増えてきた。こんな格好をしているので目立つのはしょうがないが、王城の前は余計に目立つ。
早く終わらないかと、門番の方をみると、どうやらレイアを見つけたようで、やっとか、と言った顔をしている。レイアは王都では有名だから、顔パスでもいいのだろうが、リストで見つけるのがこの人らの仕事なのでしょうがない。
それに続くようにして俺の名前も見つけたようなので、これで通してくれるはずだ。
「はい、完了しました。レイア=ブラッドレイ様、アルカナ様、ようこそ。本日はおめでとうございます。どうぞお楽しみください。」
「おつかれ様。それじゃ、アル、行きましょう。」
「あいよ。ありがとな、門番さん。」
門番に礼を言って王城に入っていく。もちろん今日は俺がレイアを先導するように。
***
王城の中を進むと、そこにさっきとは別の騎士がやってくる。おそらく俺たちの案内をするためなのだろうが、急いできた様で息が上がっている。
勝手知ったるレイアが居るので問題なく進むがここは好意に甘えるとしよう。
「レイア様、アルカナ様、遅くなり申し訳ございません。案内を担当させていただきます。会場はすでに開かれておりますので、すぐにでもご入場できますが、いかがいたしますか?国王陛下が入城されるまでまだ時間もありますし、どちらかに寄られるご予定などありましたらおっしゃってください。」
「いや、何もない、よな?」
「ええ。このまま会場に案内してちょうだい。知り合いに挨拶しておきたいから、早くても困らないし。」
「そうですか、失礼しました。」
騎士の提案は今回の俺たちには不要だし、もっと言えば、俺たちが用事があるような人物はみんな会場にいるだろうことからもどこかに寄るのは必要ないのだ。
俺たちは騎士の案内について王城内を進む。昨日とは違う場所を歩いているので俺はすでに自分の居場所を理解していないが、レイアのパートナーとして気丈な態度を崩さない。
騎士も俺たちに話しかけることはしないので、俺たちも声を小さくして相談する。
「なあ、今から行く会場ってどれくらいの人が入るんだ?あの門番のリストからして相当な人数が集まるはずだけど。」
「ええ、もちろん相当な数の人間が集まるわ。王国中の貴族や授与式に関わりある人、他にはギルドの上層部とかもいるから、関係者含めて1000人弱ってところかしら。参加者の関係者も含めるとどうしても多くなってしまうのよ。それだけ会場も広いってわけ。」
「ふーん。王城は広いけど、結構な人の出入りがあるんだな。警備とか平気なのかね。」
王城は国王をはじめとした王族が生活する空間を除いてもかなり広く開放されている。仕事をする貴族や警備の騎士、食材などを搬入する商会の人間など多くの人が出入りするわけだが、今日の様にリストで管理をしているのだろうか。
「もちろん、そういうのは気をつけているわよ。騎士はかなりの数が常駐しているし、そもそも貴族は自衛はできる程度に強いから。問題が起きたとは聞いたことがないわね。」
「ふーん。そういうことかぁ。っと到着したか。それじゃあ、お姫さん、よろしく頼むよ。」
「それでは、入場となりますがよろしいですか。」
会場と思われる扉の前で騎士が止まって聞いてきた。
俺は改めて腕を出してレイアを待つ。レイアが腕に手を添えたのを確認してから俺は騎士の方を見て頷く。
騎士はそれを見て扉を開き声を上げる。
「SSランク冒険者レイア=ブラッドレイ様、Aランク冒険者アルカナ様、ご入場されます。」
騎士の声がして俺たちは前へと進みだす。レイアに聞いていたが、こんなに目立つことになるとは。会場中の視線は俺たちに集まってしまったので、とりあえず礼をしてから中に入っていく。
俺はギルドのランクがAランクだったが、これは授与式前だから以前のランクとして扱われるという王国の授与式基準である。他のところならSランクとして処理されるから今だけだ。
さて、緊張はするが、無難に終わることを願おう。
「アル?しっかりエスコートしてね?」
だから、プレッシャー掛けないでよ。
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