第105話 特別合宿二日目その①
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朝になり、最後に見張りを担当したミーチェ以外の学生が起きて外にやってくる。みんな思ったよりも眠れなかったのだろう。全員が全員、目をこすりながら起きてくるので間違いない。
「おはようさん、どうだ眠れたか?」
「みんなおはよー!」
レイアは俺と交代してから猟師の休憩小屋に戻って仮眠を取っているはずなので今は俺とミーチェ、ニーとサンだけだった。あ、卵への魔力の補充はすでに完了しているぞ?
少ない人数で見張りをやるのでいくら暇でも、この合宿が実戦形式であることから俺と見張りのメンバーとで話しながら、というわけにはいかないので、ずっと見守りながら周囲を見ていたのだが、意外にも一番、見張りとして役割を熟していたのはアルフレッドだった。
意外だろ?レイアとの交代は学生が見張りを交代する時間を避けて行ったから、ちゃんと全員の見張りの様子を確認している。
夜の番といっても今回はスキルを禁止しての一晩だ。どれほど気が抜けないか身を持って分かってもらった。本当は途中でスキルを解禁する予定だったのだが、予定外の大物の可能性があり、学生には黙っておくためにはスキルで気づかれるわけにはいかなかったのだ。
「おはようございます。ミーチェさん。先生。」
「おはよう、ミーチェ、アルカナ...先生。」
「おはようございます。良い天気ですわね。」
「ミーチェちゃん、おはよう。先生、おはようございます。」
各々が朝の挨拶をして洞窟から出てくると、動きだす。顔を洗い、歯を磨く。自宅でやっているのとほとんど変わらない朝の支度には、こいつら長期の依頼とか大丈夫か?と思ってしまうけれど、その時はその時と自分の責任を棚上げして、将来の彼らにファイトと思う。
さて、話が途中になってしまったので無理矢理にでも戻す。スキルを使用しない状態での野営時の見張りが一番うまかったのはアルフレッドだった理由だが、おそらく、〔気配探知〕スキルを今まで持っていなかったことに由来しているのだろうと思う。
アルフレッドは俺の訓練で初めて探知系のスキルを得た。それまでは『力こそすべて』とでも言いそうな訓練をし続けていたのかもしれない。それか訓練方法が良くなかったか。
ただ、冒険者を目指すのであれば必須級のスキルを持っていないのであればどうするのかくらいは思っていただろう。その時にスキルが無い冒険者の野営術でも調べたのかもしれない。
見張りを続ける中で、必死に五感で警戒しようと、耳を澄ませ、目を凝らし、鼻を利かせる。どれだけ情報が無かろうとも少しでも得るつもりでフル活用していた。これまでの努力が見える姿だったな。
まあ、これからはスキルを使っても良いことにするので、その努力も無駄とまではいかなくても対して役には立たないけどな。
よし、俺がアルフレッドの見張りを褒めたんだか意味ないものと貶したんだか自分でも分からなくなっているうちに、学生たちの朝の準備が完了したらしい。
食事は昨日の内に作ったものをもう一度火を通して(今度は魔道具で)平らげて、昨夜のうちに整備したであろう自身の装備を見に着けた。
これで準備が完了したようなので、今日も俺の話を聞いてもらう。今日の予定というか何をするのかを伝えるためだ。
「準備できたようだな。お前らには最初に伝えたと思うが、この合宿の目的は実戦を積み重ねてもらって少しでも強くなってもらうことと夜の厄介さ?あれ?怖さだったかね。まぁ、とにかくそれらを学んでもらう、ということだ。夜の方は昨晩から今朝にかけて十分学んだと思う。」
「え?でも、特に何も起こりませんでしたよ?」
「そうですわ。朝まで魔物の襲撃もなかったですもの。」
俺の話を聞いてイシュワルトとメイリーンが疑問を投げかける。もっともな疑問だけど、そうじゃないんだよな。
「うん、そうだな。確かに『魔物』というのは冒険者に限らず野営をする者に対しての大きな脅威だ。それがたとえ昼間戦えば余裕がある相手でも夜であるだけで危険度は増す。でもな、夜の脅威ってのはそれだけじゃないし、形ある物だけでもないんだよ。
昨日お前たちは日が高い間に上手いこと獲物を仕留めて食糧にしたよな?アレからわかるようにこの森には野生動物もいる。そんで野生動物の中には草食だけじゃなくて肉食で人すら襲う動物だっている。オオカミやクマなどが代表的だが、魔物ではなくても十分危険だ。実際、毎年森の中で野営中にクマに襲われて死ぬ若い冒険者が後を絶たないというデータもある。
野生動物は形ある脅威だが、形のない脅威ってのはなんだと思う?」
俺が説明したのは自衛手段に乏しいGランクの冒険者の話だが、ぼかして話したので本人たちもすこしは気をつけてくれるだろう。
稀にであるが戦える冒険者が普通の野生動物に殺されたというのも聞かないわけじゃないからな。
そして最後の俺の質問に答える学生は残念ながらいなかった。ただ、イチがボソッとウォンと言ったのにミーチェが反応したが、手を上げようとして俺がイチたちの言葉が分かることを思い出して止めたようだ。
「どうした?ミーチェ、分かったなら言ってもいいぞ。イチが分かったのなら、それもお前の手柄だ。」
「いいのかなぁ。じゃあ...えっとね、イチが『闇』だって。」
躊躇しながらも答えてくれた。
「そう!答えは『闇』だ。お前たちは夜の間、ずっと闇の中という状況に晒されるわけだ。火を焚いても照明の魔道具を用意しても、闇から完全に離れることは難しい。
まあ、何が言いたいかっていうと、まずは自分の精神的疲労状態を考えてみてくれ。普段通りに休めたか?無理だっただろう?それが俺が言いたい、見えない・形が無い脅威ってことだ。」
「確かに疲労が取れていない気がしますね。」
「そ、そうですね、殿下。」
「ああ、俺は途中で一度起きたからだと思っていたが、ケルクがそう言うならそれだけじゃないってことなんだろうな。」
俺の想定通りに経験させることができたようで何よりである。
「そう、要はその疲れが体に残ってしまうのは、闇の中という普段とは違う環境で無意識に気を抜けない状態が続くからなんだ。人間、ストレスが無い方が良いが、冒険者ってのはそういうもんだからしょうがない。慣れてきたやつは夜の見張りの間に少しでもストレスを取れるように努力するんだぜ?
これを知ってもらうには自分で体験してもらうのが手っ取り早いし、スキルを使わせないほうがより実感するんだ。だから、今日の夜はスキルを使ってくれて構わない。それで、ストレスの感じ方やスキルの有難さを知ってくれ。」
俺のスキル解禁の言葉には学生たちの顔も晴れやかなものになる。それだけ待ち望んでたのなら悪いことをしたかもな、と思いはするが、これも合宿の一つのプログラムだと思ってもらおう。
あと、学生たちの中でも一番いい笑顔だったのはケルクだった。まあ、常にスキルを使っているお前さんには本当に酷だったかもな。
それと、地味に喜びが強かったのはミーチェの従魔たちだな。こいつらもスキルを使うなって言ってあったから、それなりにストレスが溜まっていたんだろうね。
さて、これで夜の件で言うことは終わったので、あとはこの合宿における一番大きな目的の話をしておこうかな。
なんだか、俺ばかりが喋って、レイアはほとんど見るだけになっている気がするが、文句を言ってもしょうがない。
うん、もう諦めて、話してしまおう。
「喜ぶのは後にして話を聞いてくれ。
これからはスキルを禁止するなどはしないから存分に活用して危険を回避してくれ。今回の合宿は実戦形式とは言えど、本当の冒険者としての活動というわけじゃない。安全に実戦経験を積んでくれ。」
「なんだよそれ!安全に実戦経験って、そんなの魔物には関係ないだろ?」
「ああ、アルフレッドの言う通りだけどな、心構えの話だよ。怪我せず帰りましょうってな。
まあ、とにかくだ。今日は全力で実戦経験を積んでくれ。ただ、俺もついて行くから平気だとは思うが、それでも危険だと思ったなら迷わずに退いてくれ。分かったな?」
「「えー。」」「「「わかりました」」わ。」
若干2名素直に従わないやつがいたので名指しで圧をかける。昨日の夜に面倒なのがいたのを知っている俺からしたら、万が一をどうしても考えてしまうのでここは絶対に約束してほしいのだ。
「分かったな?ミーチェ、アルフレッド。」
「はーい!」
「...わかったよ。」
納得はいかないようだが、それでも彼らに何かあったら申し訳ないし、何より俺の依頼が失敗になっちまう。Sランクの授与式を目の前にして依頼を失敗なんて目も当てられんわ。
さあ、これで全員に注意が完了したので、学生たちを送りだそう。拠点は今日もまた使うことになるので、このままにしておく。ミーチェがドアを開けられないように細工したようだ。こうして考えると器用だよな。
「よし、それじゃ、今日も合宿をやっていこうか。とりあえずは俺が森に入って2~3体ずつ魔物を追い立てるから森から出てきた魔物を相手に戦ってみるか。今日は昨日のコボルトと違って数的有利がこちらにあるから、魔物も必死になって抵抗する。昨日みたいに分断とかは難しいぞ?」
「そうですね。それに昨日のような作戦を立てるのも難しくなりそうですので、臨機応変な対応が求められます。」
「イシュワルトはさすがにわかっているな。そうだ、何もかも勝手が違う。気をつけなくちゃな。特にアルフレッド!昨日のことレイアから聞いたぞ。無理をしてあんな状態になったんだってな!今日はそういう油断とか慢心が自分を危険にさらすことに直結するんだからな!」
「な!?わかってるよ!!今日はあんなミスはしねぇ!」
勢いよく返すアルフレッドだが、本当にわかっているんだろうか。まあ、実際にやってみりゃわかるから今はいいか。良し、これで言うことは終わったな。
俺がそろそろ始めようかと思ったところで、猟師小屋の方からレイアがやってくるのが〔気配探知〕に引っかかる。
ノロノロと来るので歩みが遅いが、まっすぐこちらに向かっているので目は覚めているんだろう。
「あ!レイア先生、こちらにきますね。」
「ん?ああ。」
俺が気づいてから数秒後、今度はケルクがレイアの来訪に気づく。俺とケルクには〔探知〕と〔万能探知〕というスキルの差があるが、どうやら俺の方が範囲は少しだけ広い。
というのも、これはおそらく俺の今の装備が関係していると思う。そう、今の俺は見た目こそ人族だが、本来は違うのだ。獅子王面のスキル〔獣王〕に含まれるスキルに探知系のスキルが含まれているのだろうというのが俺の予想だ。俺もよくはわかっていないので飽くまで予想なのだが間違っていないだろう。今朝、卵に魔力を吸収させに小屋に言った後、装備しておいたのだ。
そんなわけで、ケルクに探知距離だけなら勝っているというわけだな。
まあ、俺のちっちゃな自慢は横に置いて、レイアがやってきたので学生にした説明をかいつまんで伝える。俺が魔物を追い立てることはすでに話し合ってあるので、あとは一つ伝えるだけだ。
俺は近づいてレイアにだけ聞こえるようにして伝える。伝える件はもちろんあの件だ。
「レイアにはここに残ってもらって、こいつらの護衛を頼む。飽くまで気づかれないようにだけどな。どうも昨日のが気になる。あんな動きをする魔物というのも考えにくいし、万が一ってこともあるからさ。」
「分かってるわよ。だからこうしてここまで来たんでしょ?それにしても私たちが講師として一緒にいるって調べればわかるのだし、刺客だとしたら相当マヌケだわ。」
それには俺も同意するしかないのだが、どの世界にもバカはいる。どれだけ有利でも万が一を引いたら馬鹿を見るのはこちらの方だ。用心するに越したことはない。
「まあ、何もなければそれが良いさ。俺はこれから魔物を探しに森に入るから、よろしくな。」
「ええ、分かったわ。こちらに来るようなら氷漬けにして依頼主を吐かしてやるわ。」
「ははは、頼もしいな...。それじゃ行ってくる!お前らも戦闘の準備をしておけよ!」
「わかりました!」
「はい」ですわ。」
「早くしてくれよ?」
「できるだけ少なくお願いします!」
俺は学生たちの声を聞いてから森の中へと入っていく。
先ほど話している間に森の中の魔物の位置は把握していたので迷うことなく、一番近くて途中で別のグループに当たらない場所にいる魔物の群れに近づいて行く。
魔物に気づかれないように近づいて行く。近づくとその魔物はゴブリンだった。ゴブリンと言えば村を形成することもある魔物なのでこいつらがそうであれば村を潰した方が良いと考えて周囲を〔魔力探知〕で探り、村を探す。
まあ、村は無かったので安心してこいつらを連れていけそうだ。
さあ、狩りを始めようか。
学生に狩りをさせましょう
明日も投稿します。
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