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第101話 特別合宿一日目その①

お読みいただきありがとうございます。

毎日投稿11日目。



特別講義の最終日として学生たちの成長とその成果をしっかりと確認した翌日の正午過ぎ。俺たちは王都を出発して、街道上を爆走していた。


ここまでの経緯を話すとしようか。

今日も朝の用事を完璧に済ませた後はレイアと一緒になって学生のもとへと急いだわけだ。ただ午前中は特にやることは変わらないし、俺もレイアも武器防具の整備や買い出しなどは必要がないので、絶対にやることと言えば従魔の卵に魔力を注ぐくらいのものだ。

合宿中であっても魔力は必要なので、俺もレイアも卵を抱えた状態での爆走となる。これから向かう森が俺たちからしたら余裕も余裕な初心者冒険者御用達の『小人の森』であったとしても正直遠慮したい状態だ。


まあ、合宿中は持ち続けなくていい手段をレイアが用意するつもりらしいから安心だけどな。



これから行く『小人の森』というのは、王都に住む冒険者としてはひよっこがよく依頼で訪れる森だ。王都はいろいろな要因が重なって、周囲に強い魔物が現れにくい。つまり、王都周辺の森であれば、ここも弱い魔物しか現れないということで合宿をするには好都合だったというわけだ。

距離としては10㎞離れているかどうかというところだろうか。

とにかくそれくらいの距離なので、走っていくのにちょうどよいということだな。


こうしている今も走っている最中なのだが、俺とレイアは特に問題なく余裕がある。しかし、学生たちはそうでもないようで、ケルクにいたってはすでに汗が止めど無く溢れ、ミーチェの従魔に運ばれている状態だ。

そんな従魔の主であるミーチェはイチに乗っているため、余裕の表情なわけだが。まあ、これに関しては俺たちが許可しているので何の問題もない。

なぜ問題ないかと言うと、今日、王都を出て合宿をする前に学生らには説明をしてあるからだ。


何を説明したかと言うと、王都を出たら学生としてではなく、一冒険者として扱うつもりであるということをだ。

王都の中、もっと言うと王立学園の中では、学生としての身分が一番役立つのは間違いない。しかし、一歩その外に出ればその肩書はなんの意味もないものとなる。以前、アルフレッドがギルドに入った際に低位の冒険者がビビっていたが、そんなことになるのは王都の冒険者ギルドでだけだ。


今回の合宿では王都の外で活動するために冒険者の肩書が優先される。王都を出る前に冒険者として登録したが、結果は全員Fランクだった。俺は彼らの実力はCランク程度と考えてはいるが、実績や経験が足りないので総合的に考えて全員Fスタートだったみたいだ。


まあ、特にランクによって制限された森というわけではないので、今回はどーでも良い。ランクを上げたいなら自分で勝手にどうぞといった感じだ。


だいぶ話は反れてしまったが、要は王都の外では冒険者なのだから自己責任で、テイマーが自分の相棒に乗って移動するのも当たり前という話であった。


他の面々はぜーぜー言いながら走っているがレイアが適宜、《持続回復リジェネ》をかけているためどうにか脱落せずにいる。……ケルクはしょうがない。一人だけレベルが低くてステータス的に厳しいからな。そういう奴もこの合宿で帰りは走れるようになってくれることを願う。


爆走し続けることどれほどたっただろうか。1時間から2時間で目的の『小人の森』に到着した。時折休憩を挟んだおかげか、最後のほうにはケルクも復活して強めに《持続回復リジェネ》をかけながら走り続けるようになった。

そんなことをしているとミーチェも自分だけ楽をするのが嫌になったのか走りだして、レイアの負担を増やした。俺としては努力をしてくれるなら嬉しいだけなので、レイアには申し訳ないが《持続回復リジェネ》をかけ続けてもらった。休めるようになったらマッサージでもしてみようか。


そんな感じで道中を走り続けたことで、想定している通りの到着時間で『小人の森』に着く。到着した時点ではまだまだ日は落ちそうにないので、とりあえずは合宿の目的と目標を伝えておく。


「到着して疲れたところすまんが聞いてくれ。今日から丸2日の間、明後日の正午までの目標と目的を伝えるぞ。

まずこの合宿の目的は、実戦を経験することと夜の恐ろしさを感じてもらうことだ。実戦に関しては特にいうことはないと思うが、夜の恐ろしさに関しては一つだけ言うことがある。『夜になったら探知系統のスキルの使用を一時的に禁止する。』分かったな?」

「え!??」


俺の指示に声を出して驚いたのはケルクだけだったが、まあ、常に〔万能探知〕を発動するようになったケルクにとっては困りごとであろう。しかし、これも成長のためとあきらめてもらうしかない。

他の4人は特に文句はないようなので次に行かせてもらおう。ま、疲れて声が出ないだけかもしれないが。


「ケルク、そう慌てるな。何も一晩中というわけじゃない。俺たちも近くにいるから安心しろ。

それじゃ次は目標な。これは目的にも関係するが、レベルを一つでも挙げることを目指してくれ。もちろんレベル差もあるので絶対じゃないが、まあ、努力目標ってやつだな。

ミーチェのレベルじゃ難しいかもしれんが、ケルクはじゃんじゃん上げてくれよ?」


すでに自身のレベルは各自が確認しているはずなので、自分のレベルを上げるのがどれだけの難易度かは理解しているだろう。その上で頑張ってくれという話だ。

上げにくいミーチェには気にするなと言い、上げやすいケルクには一つで満足するなと釘を刺すのも忘れない。


「さあ、まずは今日の夜を越すための場所探しと拠点の作成だ。俺とレイアはまずいところまでは口を出さないから自由にやってみな。」

「怪我しても直すつもりはないから、気をつけてね~。私とアルは近くにいても背景だと思ってね~。」


俺たちの言葉でどうにか動きだした学生たち。

さあ、どう動くつもりだろうか。見せてもらおうじゃないの。



***


俺とレイアが宣言通りそこから一言も発しなくなったので、これ以上は本当に背景となるつもりであることを理解したのか、学生たちは自分たちから動きだす。

その音頭を取るのは実力的にも身分的にも上位のイシュワルトだ。学園の中では身分で上下を決めることはないとはいえそれを気にするというのが人間だ。普段の生活の中でも王子であるイシュワルトを気にするそぶりは見えたが、どうやらそれはイシュワルト本人の資質にもよるものだったようだ。


「それじゃあ、わたしたちで拠点となる場所を見つけて陣取ります。ここは『小人の森』といっても魔物が出る森だから慎重に行きましょう。それでは。ケルク、君の索敵能力に頼ることになってしまいますけど、お願いします。みんなも各々できることをしながら警戒していきましょう。ミーチェさんは従魔を展開させてもらいたいです。良いですか?」

「え?でも...。」

「うん、いいよ!みんな広がって周囲の警戒をしてね!何かあったら教えて!」


イシュワルトの指示は的確だったが、指示を受けた二人は違う反応を見せた。おそらくだが、ケルクは俺の言葉が引っかかったのだろう。それに比べてミーチェは悩むことなく従魔に指示を出した。考えてないとも言えるが、この場合は正解だ。


ケルクの反応はイシュワルトも理解しただろうから、俺がわざわざ訂正することもなく解決に向かうだろう。ちょっとだけ訂正しようと足を踏み出したところでレイアに止められたので慌てて踏みとどまった俺も安心して引き下がる。


「ケルク、アルカナ先生が言った言葉を思い出してみてください。先生は『夜になったら探知系統のスキルの使用を一時的に禁止する。』と言いました。しかし、今の時間を考えてください。王都から走って1時間から2時間ほどなので現在時刻はおそらく多く見積もっても午後3時くらいでしょう。まだ夜ではありませんし拡大解釈したとしてもまだ暗くなってもいないのです。スキルを使っても怒られることはありませんよ。」


そうなのだ。俺が言ったのは夜使うのは一時的にやめてくれというだけで、まだ日もある内に使おうがなにも文句はない。むしろどんどん使ってくれないと万が一の場合の俺たちの負担が大きくなるのでやめてほしい。


ケルクも納得したようで、スキルを発動させたようだ。さっきの俺の話の後、いやいやながらもスキルを停止させたのを感じていたので、今度は逆にホッとしている。それと同時に少し拗ねたようだが、勝手に勘違いしたのはケルクなので俺は謝らないぞ。


「それでは行きます。ここからはみんなで力を合わせてのサバイバルとなるわけだから意見をすり合わせながらうまくやっていきましょう。まず、このパーティーとしての陣形ですが、まずアルフレッドとイチが前衛、わたしとボルナンが中衛、ミーチェとケルクが後衛ということでいいですか。イチ以外の軍隊狼アーミーウルフは周囲に散って警戒をお願いします。」

「了解したぜ、イシュー。」

「承知しましたわ、王子殿下。」

「ウォン!(承知!)」

「イチもわかったって!」

「わかりました。でも僕は何をすれば?」


イシュワルトの取った陣形は、完全に戦士として戦い補助程度に魔法を使うつもりのアルフレッドとミーチェの従魔の中でも前衛としても活躍できるイチを前に置いて壁とし、魔法も近接もできる自分とメイリーンを真ん中に、直接戦闘が苦手なケルクとミーチェを後衛におく、という基本に忠実なパーティーの形を再現している。

これを見るだけで学園での学びというのが活かされていることが分かるのだから大したもんだ。

あとは各自の役割をどう伝えるのかが大事だが、イシュワルトの考えはどうなのかね。


あとは、どうでもいいことかもしれないが、イシュワルトはメイリーンのこと家名で呼ぶんだな。貴族だからか?


「ああ、ケルクにはデバフをお願いします。アルカナ先生が言っていたので確認をせず頼んでしまっているけど、君は〔並列思考〕と〔闇魔法〕を持っているでしょう?それがあれば索敵と並行してデバフをかけることもできるんじゃないですか?」

「えっと、できますけど、今僕が並列で起動できるのは最大で3つまでです。なので〔闇魔法〕を使うと、気配、魔力、生命力のどれか一つは探知できなくなってしまいます。」

「そうなんですね。教えてくれてありがとうございます。それなら生命力はやめてもらって構わないです。この森はアンデットは出現しないはずですから。」

「それなら...分かりました。」

「ああ、ありがとうございます。」


ケルクの役割は決まったようだが、ここまでの話を聞いていて思ったのは、ケルクがイシュワルトと話すとき堂々と話しているな、ということだった。

あれだけビビッていたケルクがここまで人と話すのを堂々としているというのは俺との訓練の成果が出たのかと嬉しく思う。指示されたことに関してできないことはできないと言えるようになっているのもその一つだろう。

このまま改善していけば魔物との戦闘も可能かもしれない。


俺が勝手に感動している間に、ケルクの適性をわかった上で指示を出したイシュワルトは今度は同じポジションでもあるミーチェに指示を出す様だ。

ミーチェも後衛であるが、その役割はケルクとは大きく違う。その点を理解していればそう間違った指示にはならないはずだけど、イシュワルトはどうするのだろうか。


「ミーチェ、君には主に周囲の警戒をする軍隊狼の統率と指揮、余裕があれば〔水魔法〕による援護をお願いしたいです。わたしとボルナンで前衛の援護をするつもりではありますが、援護と同時に多方面への抑えをしなくてはならない時があるはずです。そんなときはアルフレッドたちの援護を引き受けてください。

基本的にはケルク同様索敵に回ってもらい、イザというときに加勢してもらうのもいいでしょう。そこは臨機応変に頼みます。」

「任せて―!わたしもみんなも頑張っちゃうよー。」


イシュワルトの指示を聞いたミーチェはそれを素直に聞いたが、俺が点数をつけるとすれば50点というところだな。

この布陣ではミーチェの負担が重すぎることになりかねない。

先ほど基本に忠実だと言ったが、実を言うと少し変更の余地はあった。どこかと言えば、イシュワルト自身が担当する中衛だ。


冒険者のパーティーの基本形は前中後衛に分かれて布陣するわけだが、もっと一般的なのは前後衛に分かれるパターンだ。

つまり、今回で言えばイシュワルトとメイリーンを前衛または後衛に振り分けるということだな。


もし俺がイシュワルトの立場であれば、今の前衛にイシュワルトを追加して後衛にメイリーンを追加する。そうすることで、ミーチェは統率と指揮に集中することができるし、メイリーンが魔法を使って援護して必要がなければミーチェ達の護衛に回ることができる。

イシュワルトだって前衛に積極的に加わることで、加護を有意義に使えるしいいことづくめだ。


まあ、今回は口を出さないと決めたしな。


俺の内心とは裏腹にイシュワルトの指示は続く。


「それじゃあ、次は前衛の二人ですね。アルフレッドとイチだけど、特にいうことはないです。基本的には戦闘では敵を引きつける役目を負ってもらうことになります。アルフレッドとイチにはわたしやボルナンが援護に駆け付けるまで敵の注意を保持してもらって駆け付けた援護と共に攻勢に出るといった形を取ってもらいたいです。

通常であれば、アルフレッドやイチも中衛で遊撃に回るのがセオリーだと思うけど、わたしたちのパーティーには大楯を使うものはいないし、この形がベストだと思うんだけどいいですか?」

「ああ。俺はこの大剣でガードもできるし、前衛でもやっていけるさ。大船に乗ったつもりで任せてくれよ!」

「ウォン(やってみよう)」


俺としても前衛はこいつらがやる以上にいい案は無いから言うこともない。この5人と従魔の中で完全に前衛というような人間はいないし、それだったらフィジカル的にも強いアルフレッドと回避盾になれるイチが適任になる。

本人たちもやる気があるようなので大丈夫だ。

戦闘方法に関しても奇抜なことでもないので及第点だ。この森の魔物は主にゴブリンやコボルトなどの小さい集団で襲い掛かる魔物ばかりだ。一人で何体か受け持って援護と共に倒すというのが基本に忠実と言える。


「うん、頼みますよ二人とも。では最後は、わたしとボルナンですね。」

「はいですわ、殿下。」

「わたしとボルナンは先ほどから言っているように中衛として主に前衛のアルフレッドとイチの援護を担当することになります。なぜわたしたちかというと、わたしたちは近接戦闘もそれなり、魔法もそれなりだからです。それから、ミーチェにも頼んだけど、後衛の護衛も兼ねているから移動量が多くなってしまいます。

特別講義の中で行ったランニングの順位も参考にしていますので、頑張りましょう。」

「承知しました。殿下とわたくしでは戦闘スタイルが違うので不思議でしたけど納得しましたわ。」


なるほどね。イシュワルトも結構考えていたみたいだ。ミーチェだけに任せるんじゃなくて、自分とメイリーンにも負担を分散させようとしていることはわかった。

それなら、点数も及第点に達したと考えてもいいだろう。これなら余裕があるな。欲を言えば、従魔を一人一体着けて連携を取るなどすればさらに戦闘に幅が出るだろう。


まあ、こいつらが卒業後も組むかわからないというのがあるからな。ミーチェに頼みにくいんだろう。


さて、戦い方がわかったところで、次はこの森での行動が開始するわけだが、どう動くつもりだろうかね。






拠点を探しましょう。

明日も投稿します。


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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