第100話 一方その頃2
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Side???
畜生どもと共存する国、ベルフォード王国、その王都ベルフォリアのある酒場。俺は自分の上司ともいえる存在と待ち合わせていた。
ここはほとんどの酒場が他種族も受け入れるという国の方針に従う中で、一切靡かずに人族以外の客を認めない唯一の酒場だった。俺がこの酒場を選んで待ち合わせにしたのは、俺自身が畜生どもと酒を飲むどころか酌をされるのも嫌だというのと、上司はそれに輪をかけて畜生どもを嫌っているというためだ。
どれだけ人の形に近かろうが、どれだけ人の心を持っていようが、心根の中に少しでも人以外があればそれは人ではないし、形が人でなければそれも人ではない。
我ら人族こそが至高。神より与えられた形を持っているのに、どうしてそれがわからない人族がいるのか理解に苦しむ。
おっと、いかんいかん。つい思考がそれたが、それもこれも忌々しい王族主導の摘発によって我が祖国が苦労して地位を盤石なものにした伯爵家を潰されてしまったことが原因だ。
それとあとは、直接の原因を作ったという黒髪の人族。結局正体を掴むことはできなかったが、いつか報復してやろうと考えているのはひそかな決意である。
冒険者であることまでは確認できたが、事件当日にいた冒険者でニピッドの外からきていたのは2人。「根源に至る者」というパーティーで人族の女と獣の2人組だという話だ。黒髪の人族は男らしいのでこの二人ではない。引き続き、捜索は続けよう。
俺がそんな決意に燃えていると、立て付けの悪いドアが開いて酒場の中に入ってくる大柄の人間。それは大きめのターバンを巻いてゆっくりと俺のもとへと近づいてくる。
間違いなく俺の上司のはずだが、その雰囲気はどこか違和感を覚える。違和感の正体にはすぐに気が付けたが、その事実には困惑を隠せない。なぜなら本来であれば別の方が来る予定だったはずだからだ。もしや何か本国であったのだろうか。
「へいへいへい、元気してたかよ?!こっちはてんやわんやだったんだよ!アーの野郎が実験に失敗したみたいでよ。ベーと二人で尻拭いさせられてよ。ベーが寝たからこっちに来るのもおれっちになっちまってよ!」
「そうですか。しかし、私としましてはどなたがいらしても問題ありません。作戦に関しては共有できていますでしょうか?」
正直この上司は実行部隊にこそ居場所があるので、裏方など務まりようもないと思っていた。実際、何かやらかしたようだし。
本国もそろそろ実行部隊に戻そうと考えたから、俺と連絡を取ってきたのだろうからな。
「もちろんだよ。おれっちはアーやベーとは違うからよ?あいつらじゃできない仕事もできるのよ!お前らの苦労は無駄にはしないよ!」
「そうですか。ご理解いただきありがとうございます。それではこちらをご覧ください。飛行系の従魔を使い調べた対象のスケジュールです。どうやら明日から王都の外に出るようなのでそこを狙うのが得策かと。」
正直、アー様やベー様の方が話が通じる分、面倒が少ない。この方は聞いているようで聞いていないのでナンバー様の中でも苦手なものが多い方だ。
どれだけ言っても今目の前の方は変わらないので、どうか面倒なことにならないことを願う。
「今後は私どもはあなた様の指揮下に入りますが、何か必要なもの等ございましたらお伝えください、すぐにでも用意いたします。差し当たりましてはこちらの地図と敵対戦力の確認をお願いします。」
「あー?おれっちがいれば誰がいても問題にならねーだろうよ?地図はすでに覚えてあるからいらねーしよ。計画通りなら疲れて王都に戻る直前を狙うようだが、めんどくせぇよ。できるだけ早く待ち伏せて襲うのがいいよ!」
「できるだけ早くと言いますと?」
「だから王都から出たらすぐだよ!さすがに王都の中は変態エルフがいるからよ。そこは外して森の中すぐだよ。」
上司の口から出てきた「変態エルフ」というのはおそらく〔万夫不当〕のことだろうが、根拠のない自信を持つこの人でも避けようと思うこともあるのだな。
ただの猪武者ではないという新しい事実に俺は驚きを隠せない。いかんな、こんな姿を見られたら何をされるかわからない。
ただ、今回の講師にはSSランクとSランクが一人ずつつくという話だからすこしは敵戦力を確認してもらいたい。この方が強いとわかっていてもこちらも任務なのだ。
「それでは準備いたしますので、少々時間をいただきたい。あなた様も本国から来られて準備をしていないでしょう?」
「ん?いらんよ。すぐに出るよ。おれっちはすでに場所も探してあるからよ。アーやベーみたいなちまちましたのは苦手なんだよ、おれっちは。すぐにでも移動して待ち伏せるぞ。」
とんでもないことを言いだしたぞ、こいつ。俺は自分の分を用意してあるが上司はおそらく手ぶらだ。このままでは俺の用意したものを奪われるに違いない。
しかし、急げば何とかなるかもしれないので近場の商店での買い出しの許可をもらう。どうしてもと頼めばもしかしたら許可が出るかもしれない。
「どうか、少しだけ猶予をいただけませんか。もし長丁場になった場合、戦闘時に空腹になったらあなた様も大変でしょう。」
「しょうがない、少しだけだよ。おれっちは気が長い方ではないからよ。急いでくれなきゃいらないよ?」
「はい!」
俺は言うが早いか全速力で酒場の隣にある商会へ走り込み冒険者が買うような携帯セットを購入して戻る。相当な速さで戻った俺に気を良くしたのか上司は上機嫌で、俺の買ってきた者の中身を確認する。
「おうおう、早いじゃんよ。やる気十分でよろしいよ。おれっちの分はそれかよ?持っていけよ?それじゃ出発するよ。この王都は夜間門が閉じるから、壁を超えるよ。」
「はっ」
機嫌がイイに越したことはないので余計なことは言わずに追従する。確かに上司が言ったように王都の門は夜間閉められるため、壁を超えるしか外に出る方法は無い。例外として伝令や急用の貴族くらいしか出入りはできないのだ。
壁を超えると普通に言うがそれをするには目の前の上司程の能力が必要だ。俺は無難に上るとしよう。
俺の部下はすでに王都の外に待機させているため、合流して森に向かわねばならない。
壁に到着すると上司は軽く飛んだかと思えば次の瞬間には壁の上で、ロープをかけてのろのろと上る俺を見下ろしている。急いで登る俺から興味が下にいる部下に移ったのか、見えなくなると壁の上から「うっ」とか「ぐっ」と言ったうめき声が聞こえてきた。
どうやら王都の警備兵がいたらしい。上り切った俺の目の前には辛うじて息がある警備兵が飛ばされてきた。
「早く来いよ。姿を見られる前に倒したから殺しちゃいねぇが、急いだほうが良いよ。次も殺さないとは限らないしよ。」
「!はいっ!」
上司の剣は鞘に納められたまま振るったようで、警備兵を殺すことはしなかったようだ。聞いた話だとゲン担ぎで暗殺対象以外を殺すと運気が下がると信じているらしい。まあ、関係なく殺すこともあるらしいが。
それでも任務のたびに死体の山を築くこの方は、本当に信じているか怪しいと思うが。
「それじゃあ。行くよ?森の中で仕留めるよ。」
「分かりました。――――ツェー様」
俺のベルフォード王国での最後の任務はこうして始まった。
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Sideベルフォード王国国王 ゴルギアス=メルエム=ベルフォード
我が王国の王城の執務室はできる限り執務に最適化されていて、今も私と宰相が多くの書類を処理している。
そこにガチャリという音がして侍従であるライオネルが入室する。
余と宰相の視線がライオネルに集中するその彼が持つ新たな資料には余が待ち望んでいた資料が含まれていたのだから。
宰相も少しは気になっていたのだろう。いつもはすぐに手元の書類に視線を戻すのに今日はそうしないのでな。
その資料が何かと言うと、要は今日からのイシュワルトの合宿に関する資料だ。余が王であろうとも孫はかわいいものだ。アレは父親に似て無駄をしないので少し寂しいがそれでも目に入れても痛くないほどにはかわいい。
自分が爺になって孫をかわいがるとは思っても見なかったが、それくらいには初孫というのは良い物だ。
ライオネルが持ってきた資料を最優先で目を通す。孫がどういう成長を遂げたか確認するとともにもう一つ確認せねばならないことを読んでいく。
もちろんそれは講師の一人であるアルカナという冒険者のことである。彼があの骨の王であることは本人談なので疑いようもないが、その人物像や実力は未知数なのだ。気になったので我が国の優秀な影を使って調べさせたのだ。まあ、飽くまで孫のついでだが。
これに関しては宰相にも伝えてあるので余が読み終わったら回してやろう。
そう言えば結局のところ、侍従であるライオネルには骨の王のことは伝えた。ユーゴーより報告を受けた際には席を外させたが、どうせ影を統括しているのがライオネルで在るのだからいつかバレるので話してしまったほうが楽だと考えたためだ。骨の王にはユーゴーが連絡を取り確認して許可を得たので問題ない。
この報告によれば、骨の王は相当な好人物のようだ。影の報告書類には「学生のためを思った指導を徹底している」と書かれていて、どれほどのことをしているか事細かに報告されていた。それ以外にも影の視線に気が付いたような行動も見せていたようだが、これに関してはスクルボス侯爵が誤魔化してくれたと報告が入っている。
骨の王の担当時間は、訓練をメインとした講義を行っていたようだが、その初日に行われた模擬戦では、学生ごとの欠点や良い点を的確に指摘して、それを2日目以降に利用しているようだ。
模擬戦ではイシュワルトに手も足も出させずに勝利したようだが、我が孫に対しても容赦がないところを見るに、やはり権力というのが意味をなさない存在だとわかる。
ただ、情報が重要であることを理解しているようで、講義終了後に図書館に行ったり、街中での世間話程度の情報収集などはしているようだ。
災害とも成り得る骨の王が図書館に通ったり平民と世間話したり、学生を指導したり冒険者として活動したりと、そうとも思えない振る舞いには正直警戒して偽っているのではないかと疑ってしまうほどだ。
とりあえずすべての資料を読み終わったところで宰相に渡してやる。この男はこれでこのアルカナという骨の王に興味津々だからな。いや、興味があるのはスケルトンである骨の王がどうやって人に化けているか、ということかもしれんな。
そして、孫のことについてしっかり読んだ余よりも早く読み終わった宰相は、余の方を見て口を開いた。
「この、アルカナという男は国に害成すと思うか?」
それは宰相として当たり前の疑問だと思うが、余にとっては意外と言うべき他なかった。宰相がこういうことを言うのであれば、守り切る自信がないということだ。
宰相は直接戦う力こそないがその知能を活かして戦術を組み立てることに長けている。我が国がこれまで長年、隣国である帝国の侵略を阻んできたのもこの男の一族の戦略によるものが大きい。その知略をもってすれば誰であろうと対処できると思っていた。
そんな男が相手の性質を気にするということは、戦いたくはないということなのだろう。
はて?どうしてそう思うのだろうか。
「何故そう思う。余はこの報告書から受け取れるのは彼の骨の王が冒険者として良識ある好人物であることくらいぞ。」
宰相は余の質問には直接答えることなく、その代わりに一つの資料を差し出してきた。
どうやらこれはいつものように帝国絡みかと思われる魔物の討伐記録とその討伐者の資料だった。
それは昨日、我が息子である法務局長が持ってきた組合連合国との国境近くに現れた魔物の討伐でレイア嬢が達成した依頼だったはずだ。
......ああ、そういうことか。レイア嬢が行ったということはその場に仲間である骨の王もいたということだ。依頼としては「根源に至る者」にした形だからな。
後回しにして読んでなかったことがばれてしまったな、と思いながらも冷静を装って読み進める。
どうやら、討伐自体の決め手はレイア嬢の魔術のようだが、そこまでの過程は正直信じられないものだった。しかし、報告者はユーゴーだけではなく、警備隊長や斥候隊など多数であることから疑いようのない事実であるようだ。
ふむ、突如として現れた巨大な土竜というのも恐ろしいが、それと同等の大きさまで巨大化したアルカナと言う冒険者もとんでもないな。これじゃまるで"巨骨の王"だが、恐らくそういうことだろう。
余も職業柄、スキルや加護についてはいろいろ知っているが、巨大化するようなスキルは人間が持つことは聞いたことがない。やはり骨の王とは魔物に近い存在なのだろうな。
つまり宰相が何を考えているかと言えば、強大な魔物であるアルカナが国を攻撃することはないのかということか。
これに関しては余は問題ないと考えている。宰相にはしてやられたのでお返しとばかりにこれまで秘匿していた資料を渡す。
この内容は今はほとんどの者が知らないので宰相も初めて見る資料なはずだ。資料を読み始めて驚愕する顔をした。
ふふん、さぞ驚いたことだろう。余もこの報告を聞いた時は腰が抜けたからな。ユーゴーめ、とんでもない縁を得たものである。
「これは...本当ですか?本当であるならば、一考の余地はありますな。」
「で、あろう?余もまさかと思ったので再度鑑定士に依頼したところ、まず間違いなく、六重・春芽生だったのだよ。まさか、我が祖、我らが英雄の鎗をもたらしてくれるとはな。」
「そうか。このアルカナと言う冒険者、Sランクとは名ばかりだな。すでに偉業ではないか。もういっそSSSに任命してもいいのではないか?」
「余もそう考えたが、いきなり2段階は難しいだろう。今回の授与式ではSランクの授与で呼び出しているわけだからな。いきなりの2段階に変更は難しいだろうな。まあ、奴隷に関わっていた貴族を一掃した功績もあるから、考えてはいるさ。」
以前ユーゴーよりもたらされた骨の王の情報に関して思い出しながらも、世に出せる情報ではないので今回は使えないな、と見切りをつけて公にできる功績について考えた。
奴隷売買に関わる貴族一掃の件、英雄の鎗の寄贈、国境付近での魔物の討伐、学園での指導、王国に現れてからわかっているだけでもこれだけの功績がある冒険者が国に対して害成すとは思えないのも事実だ。
害成すつもりであれば、槍の寄贈や魔物の討伐などやる意味もないのだからな。
つまり、我が国ではアルカナと言う骨の王が暴走でもしない限りは手を出さず、一冒険者として扱うことを決定した。
そうしてどうにか宰相も納得したところで、部屋のドアをノックする音が聞こえたのでライオネルに頷き、入室の許可を与える。
「入りなさい。」
「失礼します!!王都外壁の警備隊より伝令にございます!昨夜何者かに襲われ当直の警備兵4名が負傷、気絶させられた状態で発見されました。
気が付いた警備兵によりますと、王都の外を見ているときに背後から一撃だったようで、犯人は王都から外に向かったと思われます!
現在、犯人と思われる男が酒場で目撃されていたことから、王都外でも捜索を行っております。しかし、すでに移動した後のようで手がかりもなく難航しております。」
「ふむ、犯人は一人か?」
「はっ、襲撃犯は一人か二人、王都の外で待機していたのが焚き火の後から考えてさらに数人とのことです。」
この報告から余が思いつくのは、あまり多くないが、一番嫌な予想は我が孫イシュワルトの誘拐である。
それは宰相とライオネルも同様だったようで、空気が一気にピりついた。
「万が一を考えてイシュワルト殿下に護衛をつけましょうか?」
「いや、イシューには影もいるし、あの場にはSランク以上の冒険者が二人もいる。今は犯人の捜索に人員を割きたい。」
「承知しました。ライオネル、影は優秀なのをつけてくれ。」
「かしこまりました。では失礼します。」
「私も失礼いたします!宰相殿はこの場で同時に報告いたしましたので、私は騎士団長殿のもとへ報告に向かいます。」
「よろしく頼みますよ。」
そうして、ピりついた空気を残したままライオネルと伝令は部屋を退出し、残された余と宰相はため息をつく。
「どうして余の誕生祭の前にこんな問題ばかり起きるのだ。」
「ははは、諦めろ。私も付き合ってやるから。」
余の執務室に二人の乾いた笑い声が響く。
せめてイシュワルトの合宿だけは平穏無事に終わってくれたらなぁ。
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明日も投稿します。
拙作を読んでいただきありがとうございます.
「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」「こいつのステータスを教えて!」
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ステータスに関しては応えられる範囲で一人ずつ回答したいと思います。
ここより下にある星を塗りつぶして評価してくれるとありがたいです。
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