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Clones  作者: bishop
4/4

ドラゴンのいる生活

鏑木戒(かぶらぎ かい)

16歳・高校一年生。

六年前の事件で両親と死別。以来、【Enigma】とドラゴンを強く恨んでいる。最近はドラゴンに対しての嫌悪感は薄れてきている......?


スティ

ドラゴン・属性:機械?

龍皇(ドラゴニス)】が一体。路地裏で戒に拾われる。謎多きドラゴン。ホログラムによって人化可能。


樫宮秀斗(かしみやしゅうと)

16歳・高校一年生。

戒の良き友人。


(しき)ロロア

16歳・高校一年生。

米国上院議員と「SIKI HOLDINGS」の社長を両親に持つサラブレッドハーフ令嬢。


ダイヤ

ドラゴン・属性:氷

龍皇(ドラゴニス)】が一体。


File4:『ドラゴンのいる生活』


11月下旬 神奈川県横浜市・横浜ビオトープ


「え~、じゃあ支部長会議始めま~す。」

横浜ビオトープ統括責任者兼龍皇管理委員会DCC関東支部代表・大野望(おおののぞみ)。日本屈指の人口が集まる関東一都六県のDCC支部をまとめ上げ、世界に5つある龍皇ドラゴニスの研究施設、『ビオトープ』の一つである横浜ビオトープの責任者でもあり、日々事務仕事や会議に追われる多忙な日々を送っている。23歳。

「じゃあ蔵中、報告よろ。」

「会議進行そんな適当でいいんですか?」

関東支部代表補佐・蔵中灯(くらなかともる)はハァ......とため息を吐いた。

「では定例報告の前に二つほど、簡潔に報告します。先の龍皇取扱免許取得試験に現れた侵入者は4名。その全員が龍皇を所持しており、2体が受験生数名に対し暴行を行いました。わかっている範囲での能力の詳細はお手元の資料を。そしてこれが最も注視されるのですが............」

蔵中はそこで少し間を置いて続ける。

「目撃者の証言からその中の1名の特徴が国際指名手配中の凶悪犯、“(くろ) (まほろ)”と極めて近いことが分かりました。」

会場がざわめく。無理もない。玄 幻といえばユーラシア大陸各地で凶悪犯の脱獄幇助、細菌兵器の設計図の奪取、各界著名人の誘拐など極刑モノの犯罪を重ねに重ねている凶悪犯である。蔵中はコホンと咳払い一つ、報告を続ける。

「奴の【龍皇(ドラゴニス)】は能力の詳細がほぼ不明なので、DCC各支部と警察に警備体制の強化を申請する形での対処なります。」

正直そんな形式上の警備体制の強化など焼け石に水だ。それはここにいる全員が分かっている。しかし玄相手にはこれが限界なのだ。

「そしてもう一つ。長らく行方不明だった“5番個体”が確認されました。」

会場のざわめきがいっそう強くなる。だが今度は恐怖からくるものではなく期待からくるものだ。

「それはどこで?」

支部長の一人が蔵中に質問する。

「こちらも先の試験で。更に件の侵入者と交戦しました。」

「【Skill】を使ったのか!?」

「はい。」

「No.個体の【Skill】など天変地異レベルの被害が出るはずだ!それが何故............」

「はい。何故“5番個体の【Skill】が変質している”のかは現状ではまだ不明です。No.個体には【Skill】の所持数制限が無いので新たに発現した【Skill】と考えることもできますが、数から考えて何らかの理由で変質したと考える方が自然だ、というのがビオトープ研究者の見解です。」

「今5番個体はどこに!?」

「飼育者と共に神奈川県横浜市保土ヶ谷区の自宅に居ます。」

「今すぐ捕らえるべきだ!No.個体だぞ!?」

「それがそうもいかなくなってしまいまして............」

「どういうことですか?」

次々に質問してくる支部長共に「一旦黙れよ?」という視線を向けてから蔵中は憂鬱そうに口を開く。

「............5番個体は保健所の手違いで今は「機械龍皇(メカニカルドラゴニス)」としてMIM:SYSTEM(ミムシステム)に登録されているんです。ですのでこちらは5番個体として回収することができなくなってしまった。無理矢理取り上げれば龍皇関連法に抵触してしまうので。ですので今は予定通り免許を交付し、DCCに勧誘する、という形で監視しています。現状、これしかできることがありません。」

先程の勢いはどこへやら、支部長達は押し黙って俯いている。蔵中はしてやったりといった感じで内心ガッツポーズをとった。

「尚、5番個体の監視には育成班の赤坂を配属します。では長くなりましたが、これから各支部の定例報告を............」



ピーッ......ピーッ......

ピピピピッ......ピピピピッ......ピピ............


枕元でけたたましく鳴るスマホのアラームを止め、起きたくないと悲鳴を上げる身体を無理矢理動かす。アパートの一室、三人分の家具に囲まれ、“一人と一匹”。

「ご主人様、おはよう。」

「............おはよう。」

今日も1日が始まる。


スティは飯に金がかからない。普通の飯は俺の懐を寂しくしたくないと最低限でいいらしい。充電もするが燃費はいいようで大した負担にはならない。うちはそこそこ金があるとはいえ、ドラゴンを飼うのには金がかかると思っていたが、スティは特に金がかからない個体のようで非常に助かる。俺の朝飯は大概コンビニの菓子パンだ。スティは基本的に晩飯しか食わない。だから朝は俺が飯を食ってるところを正面からまじまじと凝視してくる。ぶっちゃけ気まずい。

「なぁスティ、俺が飯食ってるとこ見んのはそんなに楽しいか?」

「楽しいというよりは興味深い。」

微妙に傷つくな。

「ハァ............飯も食い終わったし、学校行くか。」

「行ってらっしゃい。」

「いや、今日からはお前も行くんだよ。」

「?」

このスティを拾ってから一週間近くの間に学校のドラゴン舎に申請を出しておいた。これで学校にいる間、スティをドラゴン舎に預けておける。

「お前をいつまでも家に置いておくのもいささか心配だしな。さぁ、行くぞ。」


スティをドラゴン舎に預けてから教室に向かうと、心なしか教室がいつもより賑やかだった。

「秀斗、なんかあったのか?」

「お!戒、おはよう!ちょうどお前の話してたんよ!」

「は?」

「ねーねー鏑木クンドラゴン飼い始めたんでしょー!?」

「名前はなんて言うんです?属性は?」

「どんな見た目ー?」

「待て待て、質問は一つずつ。俺は聖徳太子じゃねぇんだ。」

今までクラスの女子はおろか半数以上の男子ともまともに話してこなかったせいで俺の脳回路は限界以上の作業を強いられてショート寸前だ。

「スティ、っていう、ドラゴン、で............」

「あ~、玉置(たまき)さん、(かんなぎ)さん、新津(にいつ)さん、ちょっと戒の脳がショート寸前だから。ごめんね!」

「お前、人の、脳を、代弁、すんな。」

「片言に拍車かかってんじゃねぇか。ほれ、購買で買ったミルクティーやるから。カフェインとブドウ糖。」

俺は秀斗からミルクティーをひったくって飲む。タピオカ入ってて飲みづらい。

「なぁ、タピオカっていつ滅びんの?」

「人類が滅びる時だろ?」

なんて会話をしてると担任が教室に入ってきて、程なくしてHRが始まった。

「え~、11月も下旬になってきましたが、転校生が来ることになりました。」

転校生?この季節に?どういう事情だ?

「じゃあ入ってきなさい。」

ガラリと教室の前のドアを開け、転校生が入ってきた。それを見て俺と秀斗は心底驚いた。その転校生が目を見張る程の美少女だったから............ではなく。その少女に見覚えがあったからだ。

「初めまして。東京から越してきました、式・ロロアです。どうぞよろしくお願いいたします。」

式は深々とお辞儀をした。

「というわけで今日からこのクラスで一緒に勉強する(しき)ロロアさんだ。皆仲良くしてやってくれ。」

え?コイツと?嘘だろ。

「席は............名簿順で鏑木の隣だな。」

神はいないのか。


HRが終わった後、クラスの皆は式を囲むようにして集まっていた。正直気まずいなぁ。こないだ普通に「今日限りの付き合い」とか言ったし、冷たい奴だと思われてそうだ。アメリカ上院議員の娘を敵に回したくはないな。

「式、さん?ってハーフ?」

「えぇ。」

「東京のどこに住んでたの?」

「世田谷です。」

「式さんドラゴン飼ってる?」

「えぇ。【龍皇(ドラゴニス)】を。」

クラスの連中にはもう既に式がサラブレッドハーフ令嬢だということが刷り込まれた。次の授業は移動教室なので、皆いそいそと教室を出ていく。

「なぁ、式、なんでこんな高校に転校してきたんだ?そんな頭良くねぇだろうちは。」

「もともと東京の高校では上手くいっていなかったのです。それに、鏑木さんとスティさんの思考と行動は非常に示唆に富んでいます。後学、延いては将来の為に必要な経験だと判断しました。」

「つまり俺とスティが大好き~で追っかけてきたってこと?」

「そ、そんな理由じゃありません!」

式は顔を赤らめてすたすたと歩いて教室を出ていった。

「え、何あのからかい甲斐のある生き物。」

「言うてる場合か。俺らも行くぞ。」

余談・威勢だけで教室を出た式は理科室の場所がわからなくて迷子になったらしい。


───昼休み───


俺は屋上へと続く階段を上る。普段は屋上のドアは封鎖されているが、俺はその鍵を管理している生徒会の人に知り合いがいるからこうして昼飯を食う為に使っている。たまに秀斗が「皆と一緒に食おうぜ!な!」と言ってくる時には教室で食ったりするが、そうじゃなきゃここで食ってる。気のいいボンボン共は俺と一緒に飯を食おうとしてくるが俺はどうもそれが苦手だ。最近になって自分は視野が狭いといい加減自覚してきたが、それでもあいつらの善意を受けいれることはできない。ガチャリと鍵を開け、屋上に出る。天気のいい日は本当に気持ちが良くて、始業ギリギリまで昼寝をする。だが今日は生憎の雨でとても外で飯なんて食えたもんじゃない。仕方なく俺は教室へと引き返す。今から戻って飯食う席あるかな?なんて考えて戻ってみたが、やはり秀斗はバスケ部中心に男子に囲まれ、席は誰もいないのがちらほらある程度。完全にミスったなこれ。端で寂しくぼっち飯のパターンだわ。そして入り口に近い席に腰かけると............

「えっと、か、鏑木さん、よろしければご一緒しても?」

式が話しかけてきた。

「え、どういうつもり?こんなぼっち野郎に話しかけてあげる私心までVIP~ってこと?」

「いえ、その逆です............」

ん?あ~、そういうことか。転校初日で飯食う友達が居なくてぼっちだったわけね。

「俺は別に構わねぇよ。」

「では失礼します。」

そういって式は俺の真向かいの席に腰かけた。

「おいお前、こんなぼっちでネクラな貧民と“カンチガイ”されたいのか?」

「?」

こんの箱入り娘が............

「あのな、男女が真向かいの席に座ってたら“そういうこと”だと思われるだろ。」

「?」

こんの完全無菌娘が............

「あの、さっきから仰っている意味がよく............」

「やめだやめだ、言ってるこっちがアホらしくなってきたわ。さっさと飯食うぞ。」

俺は弁当箱を開ける。たまに弁当を作る時があるが、普段は朝同様菓子パンで済ませている。昨日はモチベと体力がそこそこあったのと、スティが俺の目の前にホログラムでク〇クパッドをこれでもかと見せびらかしてきたので仕方なく作った。出来はまぁまぁ。松竹梅でいったらタケノコ。

「ん?式、お前の弁当それか?」

俺の眼前に式が広げたのは予想に反して至って普通の弁当。どこにでも売ってるプラスチックの弁当箱にハンバーグや卵焼き、ひじきの煮物などが彩りを考えて詰められている。まぁ素材の良さと作った人間の腕の良さは見てわかるけど、それを加味しても普通の弁当といった感じだ。

「そうですが、何か?」

「いや、式のことだからてっきり重箱みたいな弁当なのかと思った。」

「以前はそうでしたが今は皆さんに合わせてこのお弁当箱にしました。」

以前はそうだったのかよブルジョワが。

「そういえば、皆さんは昼食の際に世間話や学校であった出来事の話で盛り上がると聞きました!」

いきなり式がテンション高めに話題を振ってきた。まぁ因みにリサーチするようなことじゃねぇんだけどな。

「まぁそうかもな。」

「えっと、ここ最近の出来事といったら............あ、この前引っ越す時にうちの使用人が庭園の竹林をどうするかと............」

「待て待て皆まで言うな。どうせ庶民の脳の処理能力では処理できねぇ。」

「鏑木さんは何か無いのですか?」

「ん?俺か............そうだな............最近の変化といえば、ニュースをまめに見るようになったことかな。」

スティが来たばかりの頃、ニュースを見なかったせいで偉い目にあったからな。

「そうなんですか。最近あったニュースといえば............この辺りでひったくりが頻発していることくらいですかね。可愛いものです。」

「まぁな。」

俺達はこの前生死を分けるバトルを繰り広げたわけだしな。

「帰る時は気を付けてくださいね。」

「誰の心配してんだよ。てかお前越してきたつったけどどこに越してきたんだ?」

「桜ヶ丘です。」

近ぇな、好立地か。

「鏑木さんは?」

「星川。」

「あ、方向一緒なんですね。」

「じゃあ一緒に帰るか?」

「え!?い、いいんですか............?」

「別にいいけど.........。お前車で来てたりしねぇの?」

「今朝は道を覚える為に送ってもらいましたが帰りは近いので徒歩です。」

「ならいっか。お嬢様一人で帰らせるわけにもいかねぇしな。」

「か、からかわないで下さい!」


食事を終えた後、ロロアが席に戻るとクラスメートの何人かが私に話しかけてきた。

「ねぇねぇ式ちゃんさぁ~」

「なんでしょう玉置さん?」

「え、私の名前もう覚えてくれたの!?はやっ!」

「クラスの皆さんの名前くらいは初日で覚えないと失礼ですし、不便ですからね。」

「わぁ~、優等生さんなんですね~。」

「そんなことありませんよ巫さん。して、なんのご用で?」

「いやそんな改まらなくてもいいよ。ちょっとした雑談程度に聞いて。」

「はい。」

「式ちゃんさぁ~、もしかして鏑木クンに一目惚れ?」

ロロアは思わずむせ返して咳き込んだ。

「お、図星?」

「コホン、いえ、私は鏑木さんとは少し前からの知り合いでして............」

「あ~それで追っかけてきちゃったんですね~。」

「ち、違います!そんなんじゃないですって!」

「わかる、わかるよ~。あれでも鏑木モテるからね~。」

「新津さんまで............」

「うちのクラス、人気者筆頭株は樫宮クンか外舘(そとだて)クンだけど、モテでいったら鴉紋(あもん)クン、鏑木クン、矢ヶ崎(やがさき)クンの三強だかんね~。」

「鴉紋と矢ヶ崎は他クラスにもファンいるもんね。」

「鏑木さんはもともと人気は高かったのですが最近硬派なイメージだったのが少し丸くなったようでいらしたので人気が再燃してますね。」

「ですから............そんなんじゃないんですってばぁ~............」

「まぁまだまだ時間はあるし、じっくり考えなよ。ほんとのこと話す気になったら言ってね~。」

「言い当てないで............」

しかし心の中で戒に助けを乞う辺り、言い訳ができない自分にロロアは頭を抱えて呻いた。


───放課後───


「あ、ご主人様。」

「スティ、おとなしくしてたか?」

「ん。」

ドラゴン舎からスティを連れてくる。そして式と待ち合わせている下駄箱の所へ行くともう既に式はいた。肩には相棒のダイヤが留まっている。

「お嬢様は仕事が早くて参るな。」

「鏑木さんの中では最近私をからかうのがブームなんです?」

「そうだけど?」

「では行きましょうか。」

「おー。」

俺達は歩いて校門を出て左に曲がり、自分達の家方面へ歩く。なぜか式がぎこちないのが気になるな。

「てか式、そんな改まるなよ。花魁道中じゃねぇんだから。」

「あ、いえ、私こうして誰かと一緒に歩いて帰宅するというのは初めてでして............」

「別に取って食うわけじゃないんだからさ、もう少し肩の力抜けよ。つかまっすぐ帰んのか?」

「といいますと?」

「どっか寄り道しねぇのかってこと。お前門限いつ?」

「えと、六時半です。家の者に伝えれば寄り道くらいはできますが............」

「よし、じゃあちょっと通りに出てみるか。なんか甘いもんでも食ってこうぜ。」

「は、はい。」

(か、鏑木さんって普段はこんなに積極的な人なんですか............っ!?)

なぜかロロアの鼓動は速くなっていた。


「あー、うま。もっかい来たかったんよね。」

「チョロくない............私はチョロくない............」

式がブツブツ呟いているのを尻目に俺はパンケーキを頬張る。ここは前に秀斗につれられて来たことのある駅前のカフェ。因みにチェーンじゃないやつ。ここのパンケーキがまーた旨いんだな。野郎一人で入るとカワイソウな奴になってしまうので式を連れてきてみたが正解だったな。怪しまれてない代わりにリア充死ねのオーラが突き刺さってくるけど。まぁ俺ら付き合ってないし、無視無視。

「なんだ?パンケーキ食わねぇのか?」

「あ、いえ、頂きます。」

式は器用且つ綺麗にナイフとフォークを動かしてパンケーキを一口食べる。

「~~~っ!とっても美味しいですね!」

「だろ?あの甘党の舌は確かだな。」

「はい!樫宮さんは食通なんですね。」

「まぁ甘いもんだけだがな。」

式はエスプレッソ、俺はミルクティーをちびりちびりと飲みながら話す。あ?女々しい?いつから男はコーヒーって法律で定められたんだ?因みにスティとダイヤにはフルーツサンドを頼んだ。式が。うちのスティがゴチになります。

「鏑木さん、樫宮さんを甘党呼ばわりしていますが、鏑木さんも端から見たら中々の甘党に見えますよ。」

「アイツは先天的なブドウ糖中毒だが俺は後天的なブドウ糖中毒、喫煙者の配偶者が受動喫煙で肺がやられるのと同じメカニズムだ。」

「そ、そうなんですか?ブドウ糖中毒とは先天的になるものなんですか?」

「ジョークも通じねぇのかよ。」

「す、すみません............」

男尊女卑?男女共同参画基本法の間違いだろ。俺は女だからって舌剣の手を抜いたりしない。

「っし、糖分は補充したから俺はもう満足だわ。式はどっか寄りてぇとこないのか?」

「え?」

「俺の都合にばっかり付き合ってもらうわけにはいかねぇし、お前が行きてぇとことかないのか?荷物持ちでもなんでもしてやるよ。」

「いいん、ですか?」

「あぁ。で、どこ行きてぇんだ?」

「で、では............!」


式がやや興奮した様子でどこに向かうのかと思えば、そこはヴ〇レッジヴァンガードだった。

「式、一応聞くがどうしてここに?」

「え、えっと、私お母様が提携している会社の品しか身の回りにないもので、このような百貨店は入ったことがないんです............でも他に言える人が居なくて............」

「お、おぉ。」

リアルセレブ見せつけられて変な汗をかいた。

「では!お買い物しましょう!」

「お、おぉ。」

式はこれから秘境に踏み入る冒険家のような好奇心と不安の混じる足取りでヴ〇レヴァンに入店していった。ハァ......とため息一つ、俺も後を追う。

「鏑木さん、これは............?」

「知らねぇのか?缶バッジだよ。アクセサリーに興味ねぇのか?」

「いえ、ですがこういう俗っぽいものは買ったことがなくて............」

「あ、そうですか。」

「なんですかその返事は!?何かお気に召さなかったんですか!?」

「いや、やっぱ式はブルジョワなんだなって。」

「その割りには目が怖いです!」

なんだかんだで式は雪の結晶を模した缶バッジを買った。しかもその際一人でレジに並ぶのが怖いとぬかして俺にも缶バッジを買わせやがった。


「はわぁ............鏑木さん、本当にありがとうございます!お陰さまで貴重な経験ができました!」

式が買った缶バッジが入った紙袋を通学カバンに詰めながら話してくる。ほれみろ、肩に留まってるダイヤが呆れ顔してるじゃないか。

「いや百貨店なんてまたいつでも来れるだろ。今度は一人で買い物できるようになってくれよ。」

「え、えと、それは............」


「きゃあぁぁぁ!ひったくり!誰か、誰かぁー!」

俺達の後方で甲高い悲鳴が上がる。俺と式が振り向くと倒れた女性から水色の龍皇にまたがった男が女性からハンドバッグをひったくっているまさにその瞬間だった。

............んなベタな。

「そこの男!待ちなさいっ!」

お、式がいった。パニック症なのに。

「スティ!進路塞げ!」

俺達はまだ免許を持ってない。よって戦闘行為はできない。だからスティが巨大化して男とドラゴンの進路を塞ぐように飛び出す。

「邪魔だ退けガキィ!」

しかし男とドラゴンはスティを飛び越えてそのまま飛翔する。

「ダイヤ!ブレスを............」

「駄目だ!戦闘行為は............」

「はっ!じゃあなガキ共!」

俺達が少し揉めている間に男とドラゴンはどんどん距離を離していく。

クソッ............!


「『鮮血操作ブラッディコントロール』。」

男とドラゴンがビルの角を曲がったその時、赤い何かが男とドラゴンに向かって射出され、それにからめとられて飛べなくなったドラゴンが車道に転がる。突然上からドラゴンが降ってきて車が急ブレーキを踏んで止まった。

「な、何事だ!?」

駆け寄ってよく見ると、ドラゴンの体にまとわりついているのは赤黒い液体だ。それがガチガチに固まってドラゴンと男を拘束している。でも一体誰が?警察の対【Enigma】実動部隊でもいたのか?

「あ、なんであなたがここにいるんですか。鏑木さん、あなたはトラブルに巻き込まれやすい体質なようですね。」

突然、人混みを掻き分けてきた“そいつ”に声をかけられた。“そいつ”の喋り方はやけに威圧的で、凄みのある声だった。ただ.........

「なんだよショタ。てか誰だお前。」

どう見ても年齢一桁の男児という点を除けば。

「初対面の人に対してその態度はどうなんですか?」

「そうですよ鏑木さん。この男の子本当に知り合いじゃないんですか?」

「式ちょっと黙ってろこの前までのお前思い出すから。」

「はぁ............ボクはDCCの赤坂、赤坂昇太(あかさか しょうた)です。」

やっぱショタじゃねぇか。

「あなたの家に向かう途中だったのですが、まさかドラゴン絡みの事件が起こって、まさかそれにあなたが巻き込まれてるなんて思いませんでした。」

でしょうね。

「そもそも本部の講義が長引いて伺うのが遅くなってしまったのに、これの後始末諸々で今日は無理ですね。また日を改めて伺います。ではボクはこれで失礼します。」

そういってショタは駆けつけてきた警察官の元へ歩いていった。何の用だったんだ?


「なんか、ごめんな。俺が誘った手前............」

「い、いえ、鏑木さんのせいではありませんよ。」

家路を辿る俺達の間はとてつもない空気になってしまった。まぁ無理もないだろ、パンケーキ食いに行ったのにひったくりに絡まれるなんて。いや絡みにいったの俺達だけど。

「まぁ私もお買い物に付き合ってもらいましたし、お互い様ってことで。それに............自分の不甲斐なさを痛感しました。」

「............そうだな。」

あのドラゴンをショタが捕まえた時、車道に落ちたドラゴンのせいで危うく事故が起こるところだった。ショタはかなり被害を少なくしようとドラゴンを拘束したみたいだが、それでも事故は起こりかねなかった。もしスティかダイヤの能力であのひったくりを止められていれば、ショタの出番はなく、大きな騒ぎにはならなかったかもしれない。

「試験、合格してるといいな。」

「そう、ですね。」

「あー!鏑木クンと式チャンだー!」

「わ本当だ!ちょっとお二人さーん!」

「な、玉置と新津!?」


俺の生活にドラゴンが入り込んでからというもの、やれ試験で死にかけるわ、やれ事件に巻き込まれるわでてんてこ舞いだ。けど、こうしてみると、俺の視野がどれほど狭かったのか痛感する。クラスメートのことも、ドラゴンに関することも、何にも見えてなかった。知らなかった。まだドラゴンを好きになれた訳じゃない。ドラゴンがいるから犯罪が起こる。しかし、ドラゴンがいなければ、俺は今、この生活を送れていなかったかもしれない。もっと、ドラゴンのことを知りたい。もっと、周りの奴らのことを知りたい。俺は自然と、微笑みを浮かべていた。


まぁ、俺は知りすぎたんだけだどな............

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