乱&戦
鏑木戒
16歳・高校一年生。
六年前の事件で両親と死別。以来、【Enigma】とドラゴンを強く恨んでいる。最近はドラゴンに対しての嫌悪感は薄れてきている......?
スティ
ドラゴン・属性:機械?
【龍皇】が一体。路地裏で戒に拾われる。謎多きドラゴン。ホログラムによって人化可能。
樫宮秀斗
16歳・高校一年生。
戒の良き友人。
ゼウス
ドラゴン・属性:雷
【龍皇】が一体。一人称は「俺っち」。
水野晶子
15歳・高校一年生。
国民的アイドルユニット『PRISM』のメンバー。
クリス
ドラゴン・属性:鉱石
【龍皇】が一体。口癖は「~なのね」。
式ロロア
16歳・高校一年生。
米国上院議員と「SIKI HOLDINGS」の社長を両親に持つサラブレッドハーフ令嬢。
ダイヤ
ドラゴン・属性:氷
【龍皇】が一体。
File3:『乱&戦』
スタートの号砲が会場のスタジアム中に鳴り響き、ゲートが解放される。俺達四人は人波に押し出されるようにスタジアムの中へと入る。そこは倒壊したビルが幾重にも折り重なる災害の現場を模した試験会場だ。この瓦礫を安全に撤去しつつ、【Enigma】の残党を駆逐するって感じか。被害規模も【Enigma】の残り体数も不明.........実践さながらだな。
「鏑木さん、一緒に瓦礫を撤去しましょう。【Enigma】が現れたら私が対応します。」
流石要人ハーフ令嬢、頼もしいね。
「わかった。スティ!」
「りょーかい。」
スティは人化を解いてドラゴニス形態になる。全長50cmが3mに、相変わらず可憐な容姿だ。スティの鱗は鋼鉄のように硬く、めちゃくちゃになった瓦礫をものともしない。「適当に凪ぎ払うなよ?慎重にどかせ。もしかしたら要救助者を模した人形があったりするかもだからな。」
スティは指示通り慎重に両手.........いや両前足か?まぁそれで瓦礫をどかす。すると、中から安っぽいマネキンが出てきた。
「半分冗談のつもりで言ったのに、マジかよ......。」
「これ、恐らく傷つけたりしたら大幅減点ですよね?」
「多分な。」
これ、秀斗達はもちろん他の受験者気づいてるかなぁ?まぁ問答無用で瓦礫蹴散らす阿保はいないか。
「ん............?」
スティがどかした瓦礫の山の中で何かが蠢いた。大方、【Enigma】を模したロボットだろうな。
「式、どかした瓦礫の中!」
「わかりました、ダイヤ!」
「かしこまりました。」
ダイヤと呼ばれた【銀嶺龍皇】はスティと同じように巨大化する。大きさはスティと同じくらいだが、きもちダイヤのほうが細いか?
「ご主人様、スティは太ってない。」
「なんでわかるんだお前。」
「状態視認。」
げに恐ろしき【skill】よ............
『銀嶺ノ主』
ダイヤが呪文のように【Skill】名を呟いて大きく息を吸い込み、青白く輝く絶対零度の吹雪を瓦礫の山に浴びせる。まばたき一つの間に瓦礫の山が丸ごと凍りつき、小さな銀嶺の出来上がりだ。
「あ、この試験では凍らせてもいいけど、実践では要救助者かもしんないから問答無用で凍らせんなよ?」
「わかっています。」
流石銀嶺の主、態度も冷たい。その割りに手先が小刻みに震えてるがな。その時、俺達の右の方からカタカタとキャタピラを鳴らして1m四方くらいの機械が瓦礫の中を進んできた。さっきは姿を確認できなかったがあれが【Enigma】ロボットか。式がダイヤに指示を出そうとした瞬間、何かが上からロボットに叩きつけられる。轟音と爆風を撒き散らし、ロボットは粉々に砕けた。
「キャアッ!?」
「んだあれ!?」
あれは.........フック?いや、フック状の尻尾だ。黄緑の鱗に覆われた尻尾の先にフックがついていて、その持ち主のドラゴンが体勢を立て直している。
「っぶねぇな!気ぃつけろ!?」
「あ、すまん!ロボットが逃げるもんだから!引っかけようとしたんだが、叩き潰しちまった!」
陽気な受験者だ。そいつも二人組で行動している。え、もしかして二人組って常套手段?なんて考えていると、式が俺の腕にしがみついてくる。何すんだと振り払おうとして式をみると、涙目で「怖い.........怖い............」としきりに怯えていた。残念だがデレを発動してほしいタイミングは今じゃない。
「式、どうした?大丈夫か?」
「怖い............」
「落ち着け!式!」
俺が声を少し大きくして怒鳴ると式は正気を取り戻したようにはっとする。そして俺の顔をみるなりみるみると目が潤み、泣き出した。
「鏑木さぁぁぁぁぁん.........っ」
「一体どうしたってんだよお前!?おい、ダイヤだっけ?こいつなだめろ!」
「残念ながら私に今の主を止めることは不可能です。」
「何があったんだこいつに。」
式は依然泣き止まない。グズグズと俺の胸で泣いている。俺は式の肩をしっかりと掴み、俺の方を向かせる。
「式!お前こんなところで訳もわからず泣いてていいのか!?お前だって何か目的があって受験してるんだろ!?なら俺に話せ!お前に何があったのかを!二人で.........いや皆でこの試験合格するぞ!!」
俺の言葉に式はピタリと泣き止む。そしていくらか先程までのキリッとした雰囲気を取り戻した。
「そう、ですね......。すみません、鏑木さん。」
「で?何があったんだ?何が怖い?」
「............あの日、お姉様が、さらわれたんです............」
「あぁ。知ってる。ニュースにもなってた。」
三年前、俺が中1の頃だった。朧気にしか覚えていないが、ニュースで「米国上院議員とブランドバック会社社長の令嬢、【Enigma】にさらわれる!」というのが世間を騒がせていた。新聞にも載っていたな。式の姉だったのか。
「三年前、うちの屋敷に【Enigma】が出て............お姉様が、【Enigma】に飲まれて.........使用人達も、何人も............警察がきたのですが.........【Enigma】は逃げてしまって............」
確かにそれはトラウマだ。俺のトラウマに近しいものがあるな。なんか急に親近感湧いてきたな。
「それ以来、近くに人が居てくれないとちょっとしたことでパニックになってしまうようなんです。」
あぁ、朝ガチガチにSPつけてたのはそれか。
「大丈夫だ、式。お前にはダイヤがいる。水野も秀斗も............俺もいる。」
言ってて恥ずかしくなってきた。まぁ俺はこのくらい言ってもらった方が安心できそうだからな。俺って実は甘え性?
「鏑木さん..................っ!」
よし、式が持ち直した。これで試験は安泰だ。俺は式の手を取って立ち上がらせる。
「手を煩わせてすみませんでした。」
「気にするな。それよりも気を取り直して試験を続けるぞ。」
何かいい感じになったな。士気が。
「ご主人様、10時の方向に反応あり。」
「あぁ。」
このタイミングで.........まぁいい、今は式のモチベが上がっているからフルボッコにできるだろう。
「式、頼んだ。」
「わかりました。」
俺と式は臨戦態勢を取る。まだ【Enigma】ロボットの性能が全くわからない。攻撃してくるかもしれない。すると、瓦礫を押し退けて【Enigma】ロボットが現れる。もはや見慣れたドロドロの体、タールのような黒い色、依然公園で見たのとは違い縦長の個体だ。
「さっきのロボットとは違うな。」
「えぇ、こちらはやけにリアルですね。」
その時、スティが血相を変えて《Over blast》を放った。蒼白い光の奔流が【Enigma】ロボットを貫いた。
「は?スティ、どうしたいきなり?」
「なんだ、スティさん物理攻撃できるじゃないですか。」
「違う!ご主人様、あれ............」
あぁ、俺も気づいた。《Over blast》は俺.........生物には作用せず【Enigma】のみを焼き尽くす。なのにこいつはスティの攻撃を喰らってダメージを負った。つまり............
「「本物の【Enigma】............ッ!」」
俺とスティが同時に声をあげる。スティの光を浴びた【Enigma】は焼き尽くされて消えた。
「スティお前飛べないのか!?」
「残念だけど............」
「会場に本物の【Enigma】が紛れ込んだことを知らせないと!まだいるかもしれない。式!ダイヤは飛べるか!?うちのスティは飛べないんだ!」
「はい。ですが飛翔している際中はブレスを使うことは集中が散漫になって危険なので.........」
「それでもいい、本部にこの事を伝えに行ってくれ!」
「え、でも............」
式はおろおろとしている。やはり一人は怖いのか。
「頼む式!お前しかいないんだ!」
俺の言葉で、式の瞳に決意が灯る。
「わかりました。鏑木さんは私が本部からの救援を連れてくるまで何とか被害を最小限にとどめて下さい!」
俺は式に親指を立てて返事をし、スティを連れて駆け出した。
「.........カイ、ちらほら【Enigma】に気付きだした者がいるみたいだね。」
「そうか............」
とある四人組の受験者がひそひそと話している。全員、なんの変哲もない普通の高校生.........“のように周りからは見えている”。少女が彼女の相棒である紫色のドラゴニスに指示を出す。
「ホログラム解くよ。引っ掻き回そう。」
「わかったよ、幻サン。」
ゆらぁっと姿がぶれて、四人の本当の姿が明らかになる。一際不穏な雰囲気を醸し出す男が、金色の龍に語りかける。
「ラグナロク、行くぞ。」
スティの背に乗って会場を移動する。存外乗り心地は良いが、スティの鱗は硬いから今度鞍でも付けるか?
「スティ、生体反応はどうだ?」
「≪Over Custom≫......」
スティの銀色の瞳に蒼い光が灯る。熱、空気の揺らぎなどのデータから生体反応を算出しているらしい。
「2~4のまとまった反応が多い。多分これは受験者の人。近くに【Enigma】はいない。」
「よし、もう少し移動するぞ。無理はするなよ。」
「ん。」
俺とスティは方向を変え、会場を駆ける。
「生体反応あり、飛翔体?」
「は?」
飛んでるドラゴニス?この試験ではドラゴンを飛ばす必要は全く無い。【Enigma】の生態として、【Enigma】に感染した生物は飛ぶことができず、それを模したロボットもまた飛ばないためだ。俺達と同じように異変に気付いた奴か?刹那、金色に光る何かが俺とスティの真上を通過し、正面にあったまだ倒壊していないビルに突き刺さった。ズガァァァァンと凄まじい轟音を立て、辺りに振動が走る。
「何だ!?」
訳がわからん。いきなり後ろから飛んできて。目測どうなってんだ?スティを止まらせて見ていると、ガラッと瓦礫を押し退けてビルに空いた大穴から金色のドラゴニスが顔を出す。
「で、デケェ!?」
うちのスティや式のダイヤなんかが全長3mくらいなのに対し、目の前の金色のドラゴニスの全長は目測で5mほどだ。規格外も良いところだろ。
「おいあんた!大丈夫か!?所持者生きてるか!?」
金色のドラゴニスの背に乗る男は、埃と砂利にまみれているが、どうやら生きているようだ。赤と黒のコートをまとった大学生くらいの男だ。
「お前、さっき【Enigma】溶かしただろ............」
本当に何だこいつ!?俺らのことずっと見てたのか!?
「だったらなんだ?」
「余計なことすんな。邪魔なんだよ.........俺らァここを引っ掻き回してぇんだ.........余計なことすンなら.........」
男の言葉に呼応するように金色のドラゴニスが穴の縁に手をかける。
「死んでくれ。」
金色のドラゴニスが咆哮をあげる。思わず耳を塞ぎたくなるほど大きな咆哮だ。音が止み、一瞬の静寂の後、ドンッと衝撃が走った。最初は金色のドラゴニスがやったものだと思ってそっちに身構えていたが、その衝撃は下からやって来た。俺を乗せたスティがよろめくくらい、相当な衝撃だ。地面が隆起し、割れ、それが同心円状に伝播していく。
「スティ!大丈夫か!?」
スティはよたよたと左右に少しよろめいたが、グッと足に力を込めて体勢を立て直す。
「平気。」
「何だ今の............!?」
体感的にM5くらいの地震だった。あのドラゴニスが引き起こしたのか?何かを発生させるドラゴンの能力は、原則として自身の近くにしか発生させられない。元素は自分から出してるからな。なのにアイツはそれをガン無視。相当上位のドラゴニスなのか?
「テメ俺らに向かって攻撃するとか何のつもりだ!受かる気あんのか!?」
どうやら和を乱したいだけの荒らしみたいだな。式が本部から救援連れてきたらこいつも粛正してもらおう。
「チッ......ラグナロク!“第八神犯”じゃ弱い、出力上げろ!」
再び金色のドラゴニスが咆哮をあげる。耳を塞いでいても鼓膜が破れそうだ。さっきの咆哮より大きい。目をつぶって耐える。空気が震え、ビリビリとビルの窓を震わせる。咆哮が止み、閉じていた目を開けると、何故か雲行きが怪しくなっていた。
「スティ!何かわからんが来るぞ!」
「≪Over Custom≫......ッ!」
スティが≪Over Custom≫を発動するが早いか、紫電の奔流が天から俺達に降り注いだ。
────時は少し遡り、Side秀斗&晶子────
「のわぁぁぁ!?ゼウス後ろ!」
「晶子っちが延長に居て撃てない!」
「わわわ!く、クリス!?」
『幸セノ輝キなの!』
俺、樫宮秀斗と相棒のゼウス、そして国民的アイドルユニット『PRISM』の水野晶子ちゃんとその相棒のクリスは今、龍皇取扱免許取得試験を受けている際中だ。本当なら天にも昇る気持ちだけど、今はそれどころじゃない。何故なら............
「っかぁ~!まーた見失ったァ!」
「う~、こっちもです~!」
掃討対象の【Enigma】を模したロボットらしきやつがまぁ小さい小さい。10×10cmくらいのロボットで、さっきからおちょくられてるとしか思えない。
「あ”ー無差別放電してぇ!!」
「ダメですよ!要救助者人形のこと忘れたんですか!?」
そうだった。さっき晶子と瓦礫どかしてる時に見つけたちゃっちい人形、説明されなかったけど絶対あれ傷付けたら減点だよ。戒気付いてるかなぁ?
「あ!秀斗くん、居ました!」
「え!?どこ!?」
こう、あの小ささでちょこまかと動き回られると捕まえるにせよ壊すにせよ骨が折れるな。
「でも、【Enigma】を見逃すなんて出来ない!」
「はい!」
ロボットが瓦礫の下に逃げ込んだ。暗くてよく見えないな。
「ックソ!また見失った!」
早くしないと、【Enigma】ロボットが逃げちまうかも............
ボガァァァァァァァァァァァァァン!!!
「アハハハハハハハハ!!!」
俺達の後ろで爆発が起こった。振り返って見ると、まだ倒壊していないビルの一階部分を突き破って、高笑いする真っ黒いドラゴンとその背中に乗った男が居た。黒いドラゴンは身体中に回路のように紅い線が駆け巡っている、禍々しい姿だ。
「っとォ~!?受験者発見!」
男は俺達を見るなり、ドラゴンを俺らの方に向かせて突撃してくる。
「わぁぁ!?何だこいつ!?」
「頭おかしいですぅ~!?」
俺と晶子ちゃんは慌てて判断力が鈍る。その時、ドラゴニス化していたゼウスが尻尾で俺達を凪ぎ払い、黒いドラゴンの延長から退かす。それをクリスが受け止めてくれた。黒いドラゴンはさっきまで俺達が居た所を爆発する拳で思い切り殴り付けた。
「おいユーシード!外してんぞ!タゲはあっちだ!」
「アハハハハハハハハ............!」
ユーシードとはあの黒いドラゴンの名前だろうか?男が黒いドラゴンを叱りつけ、黒いドラゴンは壊れたように高笑いをしながらぐるりと首をこちらに向ける。
「ヒィィィィ!?ゼウスーッ!」
「怖いですぅー!?クリス助けて!」
黒いドラゴンが俺達に向かって拳を振りかぶったその時、ビキビキビキと嫌な音が辺りに響いた。黒いドラゴンが一階部分を突き破ったビルがバランスを崩して今にも倒れそうになっている。ゼウスとクリスが俺達を抱えて逃げようとして手を伸ばす。が、それよりも先にビルが倒壊し、俺達に瓦礫が倒れかかってくる。
「ギャァァァァ!死ぬーーーッ!」
「嫌ですーッ!死にたくないですぅーッ!」
「ハッハァー!!ユーシードォ!!」
「「『爆心地』!!」」
俺達が絶叫する中、何故か男はこの状況を楽しんでいるかのようだった。そして男と黒いドラゴンが同時に【Skill】名を叫ぶ。黒いドラゴンの全身にある紅い線が輝き、次の瞬間、ドラゴンを中心に巨大な爆発が起きた。凄まじい轟音と共に、爆風と熱が俺達に押し寄せる。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「くぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
ゼウスとクリスが覆い被さるようにしてくれてなきゃ俺達とっくに飛ばされてたな。黒いドラゴンの爆発は倒れてくるビルを粉々に粉砕し、煙で視界の悪い一帯に瓦礫の雨が降り注ぐ。
「なんつー威力だよ............」
これ背中の男も死んだんじゃね?
「ッカァ~!!やっぱサイコーだなぁユーシードォ!!」
流石にそれは無いか。どういう原理かはわからないけど、背中の男は無傷で騒いでいる。
「よしユーシード、次はアイツらだ!」
またもや男が黒いドラゴンを俺達にけしかけようとする。
「あーもうしつけぇな!何回やんだよこのくだり!?お前の目的は何だ!!」
「そうですよ!なんで私達を襲うんですか!?」
「あー、そういえばそうだな。まぁ強いて言うなら、幻サンに言われたから、か。」
「マホロ............?」
誰だそれ?聞いたこと無い名前だ。まぁこんな奴の知り合いだ、どうせロクな奴じゃない。
「ったく.........ゼウス!このしつこい男、俺らで粛正してやろうぜ!」
「りょーかい!!」
「わ、私もやります!この危ない人を野放しにはしておけません!」
「クリスもなの!」
「ッハ!ガキどもが!俺達の邪魔すんなら.........」
「あー............お前ら、やる気になってるのは結構何だが............」
突如、声が響いた。気だるそうな、しかしすごみのある声。
「この声は......ルール説明してた人!?」
俺と晶子ちゃん、男が声の出所を探して上を見上げると、そこには紺色の華奢な肢体をしたドラゴニスとその上に腰かける黒いスーツの男性。間違いない、ルール説明の時にモニターに映ってた人だ。
「げ、警察!?」
「ちょっと違うかな。」
黒いドラゴニスと男が少し後退りするのを見て男性......確か蔵中っていったかな?蔵中さんが訂正する。
「私達、龍皇管理委員会・DCCの役目は国内全ての龍皇の管理。それには当然「処分」も含まれる。」
蔵中さんが喋ってる間に、蔵中さんのバディのドラゴニスが体を震わせ、ガシャガシャと鱗の形をスパイク状に変形させていく。
「あれは.........【変鱗龍皇】!?本物!?」
DCCの所有するドラゴニスはその界隈では名が知れ渡っている。例えば今俺達の目の前にいる【変鱗龍皇】。能力は体表の鱗一枚一枚の形状を自由に操作できる。ユートゥーブに載ってた演習で見た時は変形させた鱗を飛ばしたりしてたな。さすが国家単位の試験なだけあって警備態勢バッチリってか。
「指名手配リストに無い、受験者リストにも無い.........しかも“ドラゴニスの出生届も確認できない”。何者だお前?どうやって入った?」
「「『爆心地』!!」」
男と黒いドラゴニスは蔵中さんの質問に答える気が無いのか、先程披露した自分達を中心に巨大な爆発を起こすスキルを何回も放つ。絨毯爆撃のせいで辺りが煙に包まれる。距離的に当てる為じゃなくて目眩ましだな。
「チッ......逃げる気か......ッ」
蔵中さんの舌打ちが小さく聞こえてくる。確かに蔵中さんのドラゴニスの能力は追跡・拘束向きじゃない。だったら......
「ゼウス!『逆探知』!」
「え?あ、そうか!」
俺の声に対して一瞬戸惑いを見せたゼウスだが、構えて全方向に向けて弱放電を放つ。ゼウスの【Skill】、『逆探知』は普通に電波の出所を探る以外にもう一つ、自身から出す弱放電の引き寄せられ方で生物の位置をある程度探る効果もある。
「距離はそんなに離れてないはずだ!電気が引き寄せられた方向に帯電しながら尻尾全力凪ぎ払い!」
ゼウスが一瞬にしてバチバチと帯電する。俺達の服や髪の毛がパチパチと音をたてる程に。そしてゼウスは放電が引き寄せられた方向に体を回転させて尻尾を思い切り凪ぎ払う。
「がッ!!」
「アハハハハッ.........!!」
バチンッと、帯電した尻尾が当たり放電が起きた音と閃光、そして男とドラゴニスの呻き声がした。
「当たった!ゼウス追撃だ!爆撃させんな!」
「りょーかい!」
この調子で行けば、こいつを捕まえられるかもしれない......!
─────同時刻、side戒&スティ─────
降り注ぐ雷になす術もなく目をつむって伏せる。条件反射が無意識に少しでもダメージを減らそうとそうさせる。次の瞬間には電流が全身を貫いて......
「『銀嶺ノ主』!!」
しかし、俺とスティを包み込んだのは全身を突き刺す痛みではなく、柔らかな氷粒だった。バキバキと音を立てて俺達の頭上に氷の傘が形成され、雷を遮った。
「氷............!?」
金色のドラゴニスの背に乗る男は首を傾げる。
「鏑木さん!」
「式!?」
俺達を守ってくれたのは式とダイヤだった。バサバサと純白の翼をはためかせ、俺達の頭上で優雅に滞空している。
「探したんですよ!まったく......今のは危なかったです。氷が絶縁体じゃなかったらどうなっていたか......」
「すまん、式。サンキュ。」
俺の謝意に式は頬を赤らめてぷいっとそっぽを向いた。だが本来の目的を思い出したのか真剣な眼差しで俺に向き直る。
「本部に事態を報告してきました。受験者にはもうじき試験の中止と避難が通達されます。そしてここにも時期にDCCの方が来ます。それまでは......」
「あぁ............」
ふぅっとため息一つ、俺と式は金色のドラゴニスに視線をやる。
「あのドラゴニス、受験者じゃないんですか?
「あぁ、多分な。さっきから俺達を攻撃してくる。【Enigma】を殺すなとも言っていた。大方、コイツの仕業で間違いないだろう。」
「能力は?」
「定かじゃないがどうやら咆哮の度に俺達の周りに何かが起こる。」
「それが何かはわからないんですか?」
「残念ながらな。規模は咆哮の大きさに比例するっぽい。」
「それだけわかれば十分です。とりあえず彼を氷漬けにしましょう。対象の周りに現象を起こすのであれば自分を巻き込む攻撃はしないはずなので............」
「咆哮に気を付けながら接近、俺達が隙作ってダイヤのブレス............か?」
「はい。」
「お前、ダイヤの背中に乗るのか?」
「いえ、ブレスの巻き添えになるので......」
「じゃあこっち乗れ。」
式は一瞬顔を赤くしたが、ふるふると顔を横に振り、スティの背中に乗って俺に後ろから手を回す。
「っし、じゃあスティ、ダイヤ、行くぞ!無理はすんなよ!あくまで足止めだ!」
「了解。」
「かしこまりました。」
ダイヤがスティの翼を掴んで持ち上げる。スティは飛べないからだ。金色のドラゴニスと男は俺達が話し終わるのを待っていたのか、のそのそと動き出す。舐めやがって。男がドラゴニスの耳元で何かを囁き、ドラゴニスは息を吸う。
「スティ!『状態視認』でブレスの程度を視ろ!」
「≪Over Custom≫.........先の攻撃よりも肺の膨張は60%低下。」
「雷よりも弱い!ダイヤ!俺達をアイツと同じ階にブン投げてくれ!そこから別行動だ!」
「かしこまりました。ロロア様、お気を付けて。」
刹那、金色龍の咆哮。今度は何が起こるのかと注意してると、金色龍のブレスが増幅し、竜巻と化す。
「ったく、物理法則ガン無視かよ!」
ダイヤは俺達を抱えているので素早さが落ちているから、当たると踏んだのだろう。
「ダイヤ!ブレス!」
式の指示でダイヤが竜巻に氷点下のブレスをぶつける。ダイヤのブレスに竜巻を相殺するほどの風圧は無いが......なんて思っていると、竜巻が下に逸れる。
(そうか、空気は冷やされると落ちるから......)
とっさにそれを思い付く式が恐ろしくなった。ダイヤはその隙に俺達をスティごと金色龍のいる階へと投擲する。ガシャァァァンと嫌な音を立てて硝子を突き破り、俺達はビルの中へと転がり込む。俺だけなら受け身くらいとれたかもしれないが、式が受け身をとれそうになかったので式を抱えて転がる。スティ?全身鱗だから大丈夫だろ。
「痛っ............」
「すみません鏑木さん!」
「今度SPに受け身教われ.........」
冗談抜きで痛い。頭から血が出ちゃったよ。戦闘はこれからなのに。
「あ、入ってきた。」
金色龍の背に乗る男は呆けた顔でこちらを見つめている。さっきからなんなんだコイツのこの余裕は?
「おいお前!ここにはもうじき管理委員会のドラゴニスが来る!観念して投降しろ!」
正直悪手だ。どうせ包囲されるならとコイツらが本気で暴れだすかもしれない。そうなったら俺達にはどうしようもない。でも一か八か............
「あーまじかー......コイツら殺しても逃げられないのかぁ......幻さんまだかな......」
男はなにやらブツブツと呟いている。
「ダイヤに外から凍らせてもらえないのか?」
「今は私達が彼に近すぎるので巻き込まれてしまいます。ダイヤは耳がいいので私が呟けばすぐにブレスを放ってくれますが、この階は狭いのでタイミングが重要ですね。」
今俺達がいる階は外見はビルだが内側は何もない、テナントの入っていない階のようになっている。動きやすいのは確かだが、逆に凍らせる時も冷気が拡散して俺達に当たりかねない。アイツが動かない内に俺達が離れて............
「まぁいいや。少しでも殺しておこう。ラグナロク、やっていいぞ。」
『◇☆#★ニ◎○*¢グ◇¢◎ラ△□@......』
全身を寒気が突き抜けた。ダンマリを決め込んでいた金色龍が初めて喋ったからというのもあるが、それ以上の“何か”に気圧された。咆哮がビルを駆け巡り、ズンッと衝撃が走る。
「っまた地震か!」
だが今度のは規模が違う。体が浮く程の凄まじい衝撃が俺達を襲い、フロアにヒビが走った。刹那、衝撃が強すぎたのだろう、ビキビキと床が崩れ落ちた。床だけじゃない。俺達のいたフロアが、上が、下が、このビル自体が、轟音と土煙を立てて倒壊した。
「ご主人様ッ............!」
油断した。相手を≪Over Custom≫で解析している途中に攻撃が来てしまった。隣にいたご主人様と女の子がスティと一緒に落ちていく。衝撃で浮いた体が重力に従って地面に吸い寄せられていく。この感覚は好きじゃない。でもスティは飛べない。だって翼、痛いんだもん。だから飛べない。
でも、“ご主人様達だけ”なら?
≪Over Custom≫........................≪UNLOCK≫
───それは第三の【Skill】───
───それは有象無象には許されない領域───
───それは神話の神鳥の名を冠した【Skill】───
───それは───
「『神鳥ノ羽』ッ!!」
隣で落ち行くスティの両翼がいきなり蒼く輝きだした。
「おい!?スティどうした!?自爆でもすんのか!?」
焦って自分でも何言ってるかわからない。ただこのまま自由落下してたらまぁ7秒後には母なる大地がこんにちはでGo to Heavenだからそりゃ焦るだろ。式なんか意識トんでるし。なんて考えているとスティの両翼が青い光の玉となり、俺と式の元へと飛んでくる。そして俺達の背中に宿り、金属でできた小さな翼になった。翼は勝手に旋回して落下を防いでくれた。式も同じだ。
「おぉ......!なんだスティ、まだこんな隠し球を......」
と喋りかけたが、当のスティは普通に自由落下し、ガシャァァァァァァァン!と轟音を立てて地面に落ちた。
「スティィィィィィィィィ!?」
なんで俺達を浮かしてお前が落ちてんだ!?いや、両翼を俺達に渡してるんだから当然か?背中の翼は俺の意思で動くらしく、降下して地面に降り立つ。式はダイヤが抱きとめる。
「スティ!大丈夫か!?」
俺はスティが落下した所へと駆け寄る。がらがらと瓦礫を退けてスティが立ち上がる。
「大丈夫。スティは頑丈。」
「ならいいが......今のは何だ?」
「スティにもよくわかんない............?」
「なんだよ。」
どこまでも緊張感無いな。良くも悪くもスティの癖だな。
「痛っ............おいラグナロク、やり過ぎだよ、俺らを巻き込むならせめて飛べ。」
コートの男は崩れた瓦礫が当たったのか所々流血してる、自分の相棒であろう金色龍をグチグチと責めている。
「おいお前!こんなんは効いてねぇんだよ!観念しろや!」
「やだね。それに投降はしない。“幻さん”が迎えに来てくれるからな。」
「マホロサン......?誰だそれ?」
その時、コートの男の足元から紫色の霧が吹き出し、男を飲み込む。
「遅いっスよ、幻さん。」
「ダンマとユーシードを迎えに行っていたんだ、勘弁してくれ。」
「おい待て!誰と話してんだ!待てやぁ!」
「じゃあな高校生。どこかでまた会ったらそんときは今度こそ............」
俺とスティは手を伸ばして男を捕まえようとしたが、男はバックステップで距離を取り、そのまま霧に飲まれて消えてしまった。
「畜生が!取り逃がした!捕まえたら加点されると思ったのに!」
「ご主人様、貪欲。」
─────再びside秀斗&晶子─────
「よくやった626番!」
俺とゼウスの連携を蔵中さんが誉める。我ながらナイスプレーだったしな!そして蔵中さんのドラゴンがスパイク状の鱗を黒いドラゴンに向けて無数に飛ばす。いける───!
しかしその瞬間、黒いドラゴンとその所持者を突如足元から沸いた紫色の霧が包み込んで、消した。鱗は虚しく空を切り、地面に突き刺さる。
「え!?そんなんありかよ!?」
「姿を、消した............?」
俺も驚いたが、蔵中さんはそれ以上に驚いているようだ。
「ゼウス、だいぶ無茶な戦い方したけど大丈夫か?」
「まぁ尻尾がちょっと痛いけど、それ以外は問題ないかな。」
「昌子ちゃんは?大丈夫?」
「はい!大丈夫れす......!」
噛んだ。可愛い。
「クリスも全然へっちゃらなのね!」
「うん、お前は......見ればわかる。」
「あー、625番、626番、取り込み中悪いがまだ敵が複数居るかもしれない。取り敢えず私が警護するから、本部まで戻ろうか。」
「あ、はい。」
戒達、無事かなぁ............。
─────本部─────
「あ、秀斗。」
「戒ィィィ!大丈夫だったか!」
「お前............そうか、頭が............相手のドラゴニスの能力は精神破壊だったか。」
「酷くね!?」
「皆さんご無事なようで何よりです。」
「そうですよ~!」
俺達四人を始め、受験者達はDCCの人達に連れられて本部のあるスタジアム外の仮設テントに集められた。安否確認の最中に秀斗と水野昌子にまた会った。
「そっちもやってたんだなぁバトル!」
「あぁ。てか何でお前嬉しそうなんだよ。」
「鏑木さんのお陰で何とか勝つことができました。」
「............なぁ、お嬢様なんか丸くなってね?何があったん?」
「それ私も思いました。」
「お前らはお前らで仲良いな。」
ドラゴン達は龍皇専用病院に送られた。スティが打撲、ゼウスが尻尾の骨にヒビ、クリスとダイヤが擦過傷程度のものらしく、明日には退院できるらしい。俺と式も救護所で軽く手当てされた。
「なんやかんやあったが、やれることはやった。結果発表が待ち遠しいな。」
この試験の結果発表は後日紙で郵送されてくる。当日わからないなのはもどかしいな。
「皆受かれるといいな。」
「おう!」
「はい。」
「そうですね!」
急造のチームだったが、中々良い立ち回りができた。皆笑顔だな。試験始まる前じゃ考えられなかったことだ。ドラゴンを飼うってのも、案外悪くないな。