第97話「笑顔の説得」
轟音。
一瞬とも呼べる速度で、キャンピングルームの壁が崩壊。その内部に居た俺目掛けて謎の衝撃波が襲ってきた。
俺が何かアクションを起こす前に、スラタロウは盾となって俺の体を守る。スキル『衝撃吸収』が、柔軟なゴムのように衝撃波を完全に受け止めた。
「おおおおおっ」
「御主人様、大丈夫?」
「あ、ああ。俺は大丈夫だ」
俺は、少し興奮気味に返事をした。
いきなり壁が壊れたのも驚いたけど、いきなり時間がゆっくりになった現象にビックリだった。
あれはスキル『走馬灯』。
自身が危機的状況になった直後に発動する能力で、脳の処理速度が上がって周りが凄くゆっくりに見えるようになる。自動発動らしいけど、今回初めて力を発揮したな。……なるほど、あんな感じになるのか。
って、感傷に浸っている場合じゃないな。
俺は先程、何者かに攻撃されたのだから。それも、危機的状況と判定される程のヤバい攻撃を。
半壊したキャンピングルームを出てみると、近くに待機させていた魔物達が倒れていた。ランク☆☆☆の精鋭達がだ。
攻撃された方向に視線を送る。そこには、先程映像で確認した少女が此方へと近づいてくるところだった。
少女の手には……漆黒の大剣が握られていた。
そして奇妙な事に、大剣の刃の部分には黒いモヤのようなものが纏ってある。『闇のオーラ』と形容されそうなおどおどしい雰囲気の武器を見て、俺は警戒心を強めた。
「なんだあれは……。今の攻撃は、あの子がやったのか?」
何にしてもヤバそうなので、俺は自身の安全を第一に考える事にした。
「スラタロウ、巨大化だ」
「はーい」
直後、スラタロウの体はスキル『巨大化』の効果でみるみる大きくなっていった。
スラタロウがキャンピングルームの小屋よりも巨大になると、俺はその柔らかな体を貫通して『すぽんっ!』と中に入る。
「これぞ、『完璧防御スタイル』! スキル『衝撃吸収』を習得するスラタロウの内側に潜んでいれば、三六〇度どんな攻撃からも身を守れるって訳さ!」
そうしていると、倒れていた魔物達が体を起き上がらせる。どうやら、死んだ訳ではなかったようだ。
ならばちょうど良い。こいつらを使って、向こうに居る少女の力量を測ってみようか。
「よーしみんな! あの武器を持った女の子に突撃だ!」
相手が何者かは分からないけど、こっちは既に攻撃されている。敵だというのなら、迎撃するのが筋ってものだろう。
仲間達は、少女に向かって一斉に駆け出した。
すると少女は、その漆黒の大剣を振りかぶると思い切り振り回す。
その瞬間、体験に纏っていた『闇のオーラ』が半月の形となり放たれて、仲間達を一気に蹴散らしたのだ。
「おー! 格好良い!」
スラタロウがはしゃぎ出す。しかし、喜んでいる場合ではない。
ランク☆☆☆の魔物のDEFを突破するATK……強敵だ。そんな相手が、ふと俺の方を見て視線を合わせる。
存在を知られてしまった。少女が俺を敵と見做しているなら、攻撃してくるのは時間の問題。
戦うか? 対話か? それとも逃げるか?
「御主人様御主人様! ボク、あの人間と戦ってみたい!」
「あれ、スラタロウってそんな好戦的だったっけ?」
「昨日初めて勝負して、『戦い』って結構楽しいんだって分かったんだ! だから沢山勝負してみたい!」
「うーんバトルジャンキーの素質有り……。まあ、いいか。この状態のまま、あの少女と戦ってこい」
スラタロウからの意見もあり、俺は『戦う』という選択肢を決定した。頼れる相棒が、体内に居る俺を運びながら正面に居る少女の元へ移動していく。
俺と少女は、互いにしっかりと視認出来るくらいの距離まで近づいた。
……さて、手始めに挨拶でもしてみるかな。
「どうも初めまして。突然攻撃してくるなんて酷いじゃないですか」
俺が挨拶した事で、少女の目が一瞬こちらを見た。しかし、すぐに視線を逸らして今度は俺の周囲に居る魔物達を見渡し始める。
「…………っ!?」
すると少女は、やけに驚いた様子で目を見開き出した。
何事かと思い少女を探ろうとするが、少女はすぐに冷静な表情に戻し、それから俺に対して口を開く。
「……貴方が、このゾンビ達や魔物を従えているの?」
「そんなところです。……ここに居る奴らは、俺の大事な仲間」
俺は、わざとらしく一呼吸を置く。
「それと少し勘違いさせてしまったようですが、俺達は貴女に決して危害を加えるつもりはありません」
「……そうなの?」
「はい。さっきだって、傷付いた貴女を介抱しようと思って仲間を向かわせただけなんです。なのでどうか、その武器を収めてくれませんか?」
出来るだけ優しげな声色で、和やかな笑顔を浮かべて。
相手の心に寄り添い、警戒を解かせる。
……しかし少女は、その漆黒の大剣を収める事はせず、寧ろ敵意を見せるかのように大剣を構え出したのだ。
「……何故?」
「貴方が何者なのかは知らない。今の言葉だって真偽は定かではない。どういう訳か貴方の『情報』は全く得られなかったから。だから貴方は本当に善い人で、ただ純粋に私を助けてくれようとしていただけなのかも。……でもね、感じるんだぁ」
「何が、ですか?」
「嘘の香り。貴方の声が、貴方の仕草が、どうしようもなく私を欺こうとしている。……薄っぺらい善人の仮面を被っただけの『悪』の顔が、ここからでもぷんぷん匂ってくるんだよ!」
そう言い放った少女は、直後漆黒の大剣を大きく振り下ろす。
振り下ろされた大剣から極太の衝撃波が発生。大地を削り取る威力の一撃が、俺とスラタロウに向かって真っ直ぐ飛んでくる。
「にぃーっ!」
それを、スラタロウが柔軟に受け止める。
莫大なエネルギーは体の中で見事に吸収されて、内部に居た俺の元まで全くダメージは入らない。
厄介な技は無効化した。しかし、これで終わりではないのだろう。
そして少女は俺達に剣先を向けると、その好戦的な態度とは対照的な……晴れやかな笑顔を見せた。
「アハっ。まあ、本当にただの『勘』なんだけどね! でも私は、貴方を危険人物だと判断したから。……だから、どうか死んでください見知らぬ方!」
「なるほど。歪んだ意志を御持ちのようだ。……嫌いじゃないですよ、そういうの」
騙し討ち失敗。
油断させて一発お見舞いしようと思ったけど、どうやら一筋縄では行かないらしい。何処の誰だか知らないけど、十分注意して殺り合った方方が良さそうだな。
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