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第90話「馬に蹴られて死んでしまえ」

 また、時間を少し遡る。

 二階堂翼が警察署の異変に気付き、仲間を集合させる少し前。


 *****


「ん……もう朝、か」


 カーテンの隙間から溢れ出た朝日の光が部屋に差し込み、その明かりに触れて私は目を覚ました。


(……なんか、やけに暑いな)


 自分の体温が妙に高い事に気づきふと視線を横に向けると、そこには白髪の少女リリーが私に抱きついて眠っていた。

 暑さの原因はコレか。


「みー……みー……」

「もう、リリーったら。また自分のベッドで寝ないで」


 この部屋は、ツインルームなのでベッドが二つある。

 私とリリーは、それぞれ別のベッドで眠るようにしているはずなんだけど、何故か毎回私が起きた時には、リリーがこちらの布団の中に入ってきている。

 穏やかな寝息を立てて眠るリリーは、その幼い容姿も相まってとても可愛らしい。ただ眺めているだけで不思議と癒されるようで、まさに『天使の寝顔』といわんばかりだ。

 こんな安らかな顔を見ていると、この子を起こすのが少し躊躇われてくる。

 でも、時間も時間だしそろそろ起こさないとダメだよね。


「ほら。起きてリリー」


 私は、リリーの体を揺さぶった。

 するとリリーは、目蓋を薄らと開き始める。宝石のような赤色の瞳が私の姿を映し出した。


「みー」

「おはようリリー」


 さて、リリーを目覚めた事だしそろそろ起き上がろう。まだ慣れないふかふか布団を剥いで外へ。

 ……出ようとしたけれど、リリーが私の腕に絡みついたままそこから動かない。


「ね、ねえ。そんなに引っ付かれると起き上がれないよ」

「みー」

「『もう少し寝たい』って?」


 まるで子供のような事を言う。

 いや、見た目は完全に子供なんだけどさ。


「なら、リリーはまだ寝てて良いよ。私は先に下へ降りて朝ごはんを食べに行くね」

「みー」

「『二人で一緒に寝たい』? いや、そういう訳には……って!?」


 突然、リリーが私の服の裾を掴んで引っ張り出した。

 私はベッドの上で仰向けになり、体勢を変えたリリーが私の上に覆い被さる。自然と、私はリリーと顔を合わせる形となった。


「……リリー?」

「みー」


 リリーの顔が近い。……何処となく、頬が赤く染まっているような気がする。まあ、これだけ二人で接触していたら体温も上がるよね。

 しかしどうしたものだろう。このままだと、レストランに行けない。

 パン子先輩、いつも時間通りにご飯を作ってくれるから遅れるとせっかくの料理を冷ましちゃうな。

 かといってリリーに力尽くで敵うはずがないので、この状態で私に出来る事と言ったら説得くらいだろう。


「あっ、ちょ、リリー。な、なんかどんどん顔近づけてきてない?」

「みー」


 鼻先が引っ付くくらいというか、後少しでキスしてしまいそうな距離だ。

 うん。近い。明らかに近過ぎる。

 あ、いや、待って待って。本当にキスしちゃうからリリーこらストップ私まだ初めてだからこれ以上はダメ……。




「オラァッ!!」




 ガッシャアアアアアアアアアアアアン!!!!

 ……部屋の窓ガラスが砕け散り、心臓を揺さぶるような大きな音が鳴り響いた。


「な、何事っ!?」


 慌てて音の発生源の方を見てみると、そこにはゴスロリ姿の少女コスモスが立っていた。

 その後ろには破られた窓ガラスが……どうやら彼処から侵入してきたらしい。

 コスモスは、声を上げる。


「言ノ葉杏里! 急ぎの用だ、すぐに出掛けるぞーッ!!」

「え、え、」


 コスモスの言っている意味が理解できない。緊急事態? というか何故窓から?

 あまりの急な事態に、私の脳は情報を処理し切れずにいた。


「…………」


 一方、リリーはというと突如現れたコスモスをじーっと見つめて……いや、睨みつけている。

 そしてリリーは私の上から離れて、コスモスの元へスタスタと近づいていった。


「アッ、先輩! ちょうど良かった。先輩から説得して欲しゴヴォハァッ!!」

「みー」


 鉄の拳がコスモスの頬を貫いた。接近したリリーが徐に攻撃をしたのだ。

 リリーの追撃は終わらない。殴られた衝撃で横転したコスモスの上に馬乗りになると、そのまま一方的にパンチを連打し始めた。


「ブホッ! ブホッ!? な……なんでなんでッ!!?」

「や、やめなさいリリー!!」


 あまりの豹変っぷりに狼狽えてしまいながらも、私はリリーの元へ駆け寄りコスモスへの攻撃を止める。

 リリーは、すぐ拳を収めてくれた。

 ……やや手遅れという感じはあるけど。理不尽に殴られたコスモスは既にボロボロだった。


「ブ……ブハァッ」

「だ、大丈夫?」

「大丈夫に見えるか!?」


 コスモスは、跳ね起きた。

 結構なダメージを負っているように見えるけど、本人は意外にも元気そうだ。


「くッ! 言いたい事は多々あるが、今はそれどころじゃねーッ!」

「そんなに慌てて、一体何があったの?」

「説明の時間すら惜しい! いいから早く支度をしろ!」


 コスモスは、そう急かすように私に言った。何が何だか分からないけれど、ただ事ではないらしい。とにかく、今すぐ出掛ける準備をしないといけなさそうだ。

 私は、ようやくベッドから起き上がると早々に出掛ける準備をする。

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[一言] コスモスゥ...尊い百合を邪魔しやがってぇ...( ๑º言º)
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