第86話「スラタロウの虐殺」
「ぶ、武器が効かない!! 打撃も刃物も、なんて硬さなんだ!!」
「燃えろ! 燃えろ!! クソッ、なんで燃えないんだッ!!?」
「や、やめろ! 来るなぁ!! うわぁああああああああっ!!」
『異能者』達の絶叫がこだまする。スキルの力を使い、襲いくる魔物に応戦するがまるで歯が立たなかったのだ。
スラタロウは、二階堂翼の命令で多くの人々を殺し、強者と呼べる者を探していた。
しかし、その中にスラタロウが脅威と感じる人間は確認出来なかった。皆、吹けば飛ぶような存在。ひと撫でで肉体は破損し、敵の攻撃は豆鉄砲同然の威力だ。
その様子は二階堂も上空で眺めていた。彼の目から見ても、衝撃作戦の障害になりそうな要素は何処にも無い。……そう判断出来た。
『もう充分だろう。スラタロウ、適当なタイミングで戻ってこい』
「オーケー御主人様ー!」
スラタロウは、テレパシー越しに返事をして、改めて正面を見据える。
適当なタイミング、とは言われたものの実際これ以上居残って得られるものは何も無いだろう。これだけ長い間戦っても強者が現れない事から、このショッピングモールには大した人間は存在しないはず。早々に撤退しても問題は無い。
……ただ、それでは物足りない。
折角の初戦闘だというのに、これではあまりにも消化不良だ。せめて、もっと人間を殺さないと気が済まない。スラタロウは、そう思った。
「でも、御主人様は深追いするなって言ってたし。……あっ、そうだ!」
ふと名案が浮かぶ。
スラタロウが最近習得したスキル。その力を今こそ発揮するべきだと考えついたのだ。
「スキル『念動力』、発動っ!!」
瞬間、不可視のパワーが湧き起こる。
『念動力』。それは、離れた物体を動かす能力。
現代物理学では説明がつかない力の流れが一体の魔物によって生み出された。
「キャァアアアアッ!!」
「う、うわぁ!! 助けてくれええええっ!!」
外周を見回っていた警備員、そして建物の中に居た人間を引っ張り出して空中に浮かせた。地に足を付けることも不可能な彼ら彼女らは、僅かな抵抗すら出来ない。
「うーん、こんなもんかなー。……それじゃあ、プチッと殺していくねー!」
「へっ? な、何を……」
直後、男性の頭が弾け飛んだ。
スラタロウが念動力のパワーを少し上げた。それだけで、人間の肉体など軽々と粉砕出来てしまう。
男性の悲惨な最期を目撃した、他の人々から痛ましげな悲鳴が上がる。
だが、それでスラタロウが殺しを止める事はなかった。
「プチッ。プチッ。プチッ。プチッ。プチッ」
人間の命が、いとも容易く奪われていく。
いくら『異能者』としての力を得ようとも、人間と魔物では元々のステータスに大きな差があった。
そして残念ながら、ここにその差を覆る者は存在しない。ならば、後に待っているのは虐殺だ。
スラタロウは、淡々と人間達の頭を潰していった。わざわざ一人ずつ潰しているのは、この虐殺を少しでも長く楽しみたいからか。
しかし、そんな『遊び』にも飽きが訪れる。
「……思ったより数が多かったなー。まあいいや、いっぺんに殺しちゃおーっと!」
スラタロウは念動力を込める。今度は一人ずつではなく、浮かした全員を一斉に潰すために。
その時だった。
遠くの方からバイクの排気音が鳴り響いてきたのだ。
「んんっ?」
バイクは、こちらへ近づいてくるようだった。その音はどんどん大きくなっていき、夜の静寂を壊される。
そして、ヘッドライトの光を放ちながらやってきた大型のマシンが一直線にスラタロウ目掛けて突進した。
「ぶにゃっ!」
油断していたスラタロウは、バイクの衝突により体制を崩す。
ダメージこそ入らなかったが、その拍子に念動力を解除してしまった。空中に浮かしていた人間達がドサドサと地面に落下していく。
バイクは横滑りで急停車し、それに乗っていた人物はヘルメットを脱いで顔を露わにした。
青年、というにはやや幼さが残る顔立ち。目付きが悪く、髪を染めているところから如何にも街の不良といった感じの少年だった。
男は、口を開く。
「……騒がしいと思って来てみりゃあなんだこれは?」
「や、矢倉さんっ!!」
念動力の被害に遭っていた一人の男が少年の名前を叫んだ。
少年の名は、矢倉健次郎。
矢倉は、男を一瞥すると、すぐに魔物がいる方へ視線を戻す。
スラタロウは、不機嫌そうな表情で少年を見る。
「ムムゥ……誰?」
「口が聞けるスライムか」
バイクの前方部が開かれる。そこから二つの筒のようなものが出てきたかと思うと、それが激しい音を立て始めた。
マシンガンだ。
筒の先から無数の弾丸が放たれ、スラタロウに着弾。
しかし、その弾が何発当たろうともスラタロウには傷一つ付かなかった。
「ダメです矢倉さん、其奴に銃は効きません! 武器も魔法も、奴には全くダメージを与えられないんですっ!」
「なるほど」
再びバイクの排気音が鳴り出す。
まるで猛獣が唸り声を上げるかのような……臨戦態勢。鋭い殺意を向けられている事にスラタロウは気付く。
それはスラタロウにとって、大いに喜ばしい事だった。
「強そうな人、発見! 腕が鳴るなー!」
「喚くな雑魚が。格の違いってやつを教えてやるよ」
子供のような笑顔を浮かべるスラタロウと終始怒り顔の矢倉。
相反する一人と一体の死闘が今、始まる。
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