第78話「家政婦」
「はい、これがお布団。寝る時はこれを使って。私は、まだ用が残っているのでこれで失礼するね。それじゃあ、ごゆっくり!」
十橋先輩は、早口でそう言うと向こうの方へと去っていった。
余程、忙しいのだろうか。まあ、これだけの人数をお世話しているのだとすれば、私達だけに構っている余裕はないのかも。
「では、私もこれで……」
「ああ、待って!」
ここへ来た目的の少女が行ってしまいそうになり、私は慌てて彼女を引き止めた。
「ど、どうしました?」
「う……その……」
しまった。引き止めたは良いけど、なんて言えば良いのか考えてなかった。
そもそも、なんて勧誘すれば良いんだろう? 出会ったばかりの間柄で、いきなり「仲間になってください!」って言うのも変だし……。
「あ、良い天気ですね」
「はぁ」
「えっと……お名前を聞いても良いですか? 私は、言ノ葉杏里」
「私のですか? 花江水千佳って言います」
「花江水千佳さん……」
「あっ。呼び捨てで結構です。言ノ葉さん、高校生ですよね? 私、中学二年生なので」
「ああ、そうなん……ですか」
「……其方の二人は?」
花江さんは、私の後ろにいる二人に視線を向ける。
「あ〜……遠い親戚の子です。こっちの子がリリー。そしてこっちがコスモス」
「みー」
「うっす!」
「……変わったお名前、ですね。外国人……それともハーフかな?」
「ま、まあそんな感じです!」
焦りが顔に出ないように必死に堪えながら、私は肯定した。
すると、今度はコスモスが花江さんに向かって話し掛ける。
「なあ、花江水千佳。オメエ、『異能者』だよな? どういう職業なのかオレに教えろよ」
「えっ? えっ?」
うわっ! 凄い直球に訊いてきた!
花江さんは、コスモスの粗暴な物言いに戸惑っている。
(ちょ、幾らなんでも強引過ぎないかな!?)
(オメエがチンタラしているから悪いんだろうが! 何だ、『良い天気ですね』って!)
その通り過ぎてぐうの音も出ない。
でも、そんな強引な訊き方じゃあ花江さんが怖がっちゃうと思う。
「わ、私は『家政婦』という職業でした。お掃除やお洗濯が上手に出来る能力です」
私とコスモスが内緒話をしていると、花江さんがそう言って自分の職業を教えてくれた。
「『家政婦』?」
「う、うん。戦闘向けのスキルは使えないけど、これで皆さんの身の回りのお世話をしているの」
「……何というか、思っていたのと違うな。二階堂の旦那は、コイツを連れて来いって言ったのか?」
確かに妙だ。
てっきり、魔物と戦える強い『異能者』だから仲間候補に選んだと思った。
「……花江さん。突然、こんな事を言うのも何だけど、貴女に会ってもらいたい人がいるの。良ければ、私たちと一緒に来てもらえないかな?」
「は、はい。その人は、何処にいるんですか?」
「……警察署の外」
「そ、それはちょっと。私、戦えないので魔物に襲われたらすぐ殺されちゃいます」
勧誘に失敗した。
まあ、至極当然なんだけど。大体、出会ったばかりの人から「ついてきて」と言われて素直に従う方がおかしい。
(どうする、今からでも旦那を呼んでくるか? オレがひとっ飛びすればすぐに連れてこれる)
(いや、性急過ぎるよ。今はやめておこう)
花江さんだって忙しいだろうし、「急いで仲間に誘う必要はない」って二階堂くんも言ってた。
それに、まだもう一人の候補者を見つけられていない。
「つ、都合が悪いなら仕方ないね。この話は、また今度という事で」
「はい」
「そ、それはそうと聞きたい事が……。人を探しているんだけど、この写真の子に見覚えはないかな?」
私は、二階堂くんに渡された写真を花江さんに見せる。
「……あっ。見た事あります」
「本当?」
「確か、彼処のスペースに居たはず」
そう言って花江さんは、写真の子が居るという場所へと案内してくれた。
しかし、その場所には件の子は居なかった。
「うーん。何処かへ行っているかも知れません」
「おい。心当たりはねーのかよ?」
「すいません。私、この人とはあまり話した事なくて。時々、ご飯を持っていったり服を洗ってあげたりしていますけど、そのくらいで」
「でも名前くらいは知っているんだろう?」
「……わ、分かんないです」
仕方がない。ここにいる全員の顔と名前を覚える方が無理な話だ。
「チッ。何だよ、使えねーな……痛い痛い痛いッ!!」
「みー」
愚痴を零すコスモスを嗜めるように、リリーがコスモスのほっぺを強く引っ張った。
この二人のこういうやり取りにも見慣れてきたな。
「けど、ここにいるのは確かみたい。探してみよう」
「みー」
「いててて。……この写真の奴は『異能者』だ。なら、外で戦っている連中に混じっているんじゃねーのか?」
「なるほど」
それなら、ここで待っていればそのうち戻ってくるはず。リリーが大量の魔物を倒したから、そう時間は経たないだろう。
「じゃあ。せっかく場所も用意して貰ったし、彼処で座って帰りを待とうか」
「良いぞ。こんな事もあろうかと、暇つぶしの道具を用意してきたんだ」
コスモスは、ポケットからある物を取り出した。
……『トランプセット』だ。
「ババ抜きでもする?」
「やるか」
「みー」
こうして、私達はトランプで遊びながら外の人達が帰るのを待ち続けた。
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