第70話「点検」
スラタロウと遊び始めて、しばらく時間が過ぎた。
トランプで遊ぶのも飽きたので、今の俺達はボードゲームを楽しんでいる。
「なあ、スラタロウ。お前、頭が良いな。まさかこんなに早く将棋のルールを熟知するなんて思わなかった」
「へへー! ボク、褒められた!」
スラタロウは、嬉しそうにしている。
対して、俺は盤面に向かって睨めっこ。こちとら小学生の頃からやっているのに、このままだとスラタロウに負けてしまう。……男の意地を見せなければ。
なんて考えていると、空中ディスプレイの映像に変化が起きた。
「お、これは終了の合図。どうやら、荷物運びが完了したようだな」
店にある物資を倉庫に運ぶだけの簡単なお仕事。とはいえ、この作業は昨晩からずっと続いていた。
何せ、魔物は車を運転出来ないので自力での運搬だ。相当な重労働だっただろう。
「へへっ。じゃあ、点検でもしに行くか。出掛けるぞスラタロウ」
「はいはーい」
スラタロウは、スキル『収縮』を使って小さくなると、俺の懐へと潜り込んだ。
部屋を出て、エレベーターを使って地下へと移動する。
このホテルの地下は、駐車場になっていたり、整備室、そして倉庫が設けられている。俺達が向かうのは、倉庫だ。
倉庫前で警備していた魔物達が俺の姿を確認すると、彼らは倉庫の扉に手を掛けてゆっくりと開けた。
「はっはー! 凄いじゃないか!」
倉庫内には、段ボールの山が見渡す限りに積まれてあった。
これら全て、街中にある店や工場で集めたもの。改めて見ても凄い量である。
「今日運ばれてきたのはこれか。ふんふん、なるほどねー」
物資の点検は、俺が直接出向いて確認するようにしている。魔物の眼を通じての空中ディスプレイでは、詳しく見ることが出来ないからな。
今回は、でかいホームセンターを襲撃したので、結構な物資が手に入った。元々そこにあった物だけでなく、他の場所から持ってきたであろう物資もあってそこだけでもかなりの数だ。
「そう言えば、昨日は強い『異能者』と遭遇したんだよなー。まさか、アーサーとラムレイが挑んで苦戦を強いられるとは予想外だった」
ロボットを操る『異能者』。ランク☆☆☆の魔物二人を相手に拮抗してみせた。
なんとか勝利する事が出来たものの、彼との戦いによって、俺の知らない強い奴がまだ潜んでいるのだと教えられた。ある意味、良い教訓になったと言えるだろう。
これからも奢る事なく侵略を進めていこう。と、俺は心を整えて気を引き締める。
「そうだ。アーサーから、大斧を返してもらわないと。アーサーは居るかー?」
「ギャギャ」
すると、倉庫の奥からアーサーが現れた。彼の手には、背丈程もある大斧が握られている。
『アトラスの大斧』。
この武器は、何を隠そうあのグレートオークを武器化して生み出されたものだ。これを装備した奴は、その効果によって誰でも超人的なパワーを得る事が出来る。更に、『人狩り』、『肥大化』、『第六感』、『巨大化』、『吸引』のスキルも使えるようになれる滅茶苦茶強力な武器なのだ。一薙で建物だって崩せるぞ。
因みに、『アトラス』というのはグレートオークの名前だ。俺が名付けた。
彼奴とは色々あったけど、やっぱり名前くらいは持つに値する魔物だと思うからさ。
「んじゃ、これはいつも通りスラタロウが持ってくれ」
俺が大斧を差し出すと、スラタロウは体を大きく広げてそれを丸呑みにした。
スラタロウには、スキル『収納』というのを新しく習得していて、物体を体内に収納出来るという能力だ。持ち運びする時に、凄く便利。
そして、収納した武器の効果はステータスに反映される。
【スラタロウ】LV50
種族名『フェアリースライム』
ランク☆☆☆☆
HP3071/3071
ATK491+348
DEF295
経験値118070
スキル
衝撃吸収、収縮、粘着、マシンガン、収納、バネバネ、冷たいオーラ、念動力、人狩り、肥大化、第六感、巨大化、吸引
「アーサー、よく頑張ってくれたな。次の仕事までしっかり休んでくれ」
「ギャギャッ!」
「さて、次は食糧庫の方を確認しにいこう」
俺は、隣の食糧庫へ場所を移す。
この世界では、食料は貴重だ。レストランなんかに放置していたら誰かに盗まれるかもしれない。なので、地下の倉庫にまとめて保管しておくようにしている。
それに、この食糧庫にはちょっとした仕掛けを施していた。
イイツカパン子が新しく覚えた職業スキル『保存』。食べ物を腐らなくさせる能力だ。
食糧庫全体に『保存』の効果を発動させ続ける事で、この中にある食べ物は何十日放置していようと採れたて新鮮なままの状態でいられる。
この食糧難の世界で、巨大冷蔵庫以上に鮮度が保てる場所を用意してくれるなんて、パン子シェフには感謝してもし切れないぜ。
「おっ! これは、キャビアの瓶詰めか。今日の昼食に使ってもらおうかな」
これだけ食料が潤沢だと高級食材だって惜しげもなく使えちゃうな。
まあ、生産ラインが止まっているから、対処しないといつかは尽きて食えなくなるけど。
キャビア、トリュフ、フォアグラ、うなぎの蒲焼き。……珍味や好物とおさらばするのは御免被りたい。
「今後も美味いものを食べられるようにするには、人間と魔物の対立関係……これを解決する必要がある、か」
人間が魔物に脅かされている以上、生産やインフラはいつまで経っても復旧は進まない。
俺が全ての魔物を統べる強さを手に入れたら、問題はすぐにでも解決するんだけど……それよりも人間を統べる方が早いというのが現状だからな。
とても偶然な事ではあるが、俺にはそれを為せる力がある。
俺が人間を統べて、一致団結させれば、人類はより早く魔物と対抗出来るようになるだろう。
「外の奴らは不甲斐ない。未だ、魔物という存在に怯え暮らしている。このまま何年でも隠れているつもりなのか? 誰かがなんとかしてくれるまで」
「んー?」
「スラタロウ。俺達で、そんな怯えることしか出来ない奴らを救ってやろうぜ。彼ら彼女らに生きる意味を与えてやるんだ」
「おーおー! 御主人様、もしかして素敵なことを言っている?」
「ああ、とっても素敵なことさ」
何せ、埃を被っている人的資源を有効活用しようと言っているんだからな。
「俺の素敵な人生をより充実させるために、俺が皆の『王』になる。やるぞスラタロウ!」
「やろうよやろう!」
俺とスラタロウは、掛け声を上げた。
計画は着々と進んでいる。この町の人間を統一する日は近い。
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