第6話「新たなスキル」
「うへ〜。結構な数がいるじゃないの」
三階を制圧し、二階へ降りた俺達を待ち受けていたのは、これまで遭遇した魔物達の倍以上の規模を持つ集団だった。
主な戦力はゴブリン。まあそれだけなら最弱の魔物の群なのだが、奴ら以外にも新種がいた。
それは、『狼』だった。
リトルウルフLV1
HP70/70
ATK15
DEF6
経験値100
スキル
無し
リトルウルフ。直訳すれば『小柄の狼』だ。
だが、小柄と言う割には結構大きく感じる。ふつうの大型犬くらいはあるんじゃないのか? …………あれが魔物でいう『小型』なら、普通狼はどれくらい大きいのか。
しかし何にせよ、考えるのは目の前のことだ。新種の魔物に加えて、敵の数は多い。これを対処しなくてはならないんだ。
まあ幸いなことに、奴らは俺たちの存在に気づいていない奴ら様子。ならば、今のうちに『魔物使役』で仲間にし、敵同士を戦わせるよう仕向けるのが妥当な手段だろう。
「グルルゥゥ⁉︎」
「キャンキャンッ!」
俺の作戦は上手くいった。敵ゴブリン達は、いきなり味方の狼達が暴れ出して右往左往している。二階フロアは、あっという間に大波乱だ。
はっはっは〜! 行け、漆黒の鎖よ! 奴らを同士討ちさせてしまえ!
≪職業経験値を獲得しました。職業『モンスターマスター』のLVが5に上がりました。職業スキル『魔物武器化』を獲得しました≫
あれ? なんか獲得したぞ?
俺は、目の前のゴブリン達を尻目に、ステータス画面をタップする。
すると、俺のステータスの『職業スキル』欄に『魔物武器化』というものが追加されていた。更にタップし詳細を探る。
【魔物武器化】
魔物を武器化するスキル。武器化する魔物によって性能が異なる。スキルは継承されない。
…………武器?
なるほど。RPGで御馴染みのアイテムだ。装備すれば攻撃力や守備力が上がるんだろう?
しかし店で買うのではなく魔物そのものを武器に変えるって、中々クレイジーな手段だなぁ。
「まあまあ、この戦況が落ち着いてから試してみるとするか。あ、スナッチ」
仲間にした狼のうち一体が倒されたので、新たに別の敵を味方につける。仲間可能な最大数に空きが出来れば、また味方を増やせるのだから滅茶苦茶使い勝手が良いぜ。
そうやって敵の数を減らしていくと、遂に敵陣営は逃亡を図った。まあ、謎の現象で仲間が裏切り、どんどん味方がやられていく様を見たらそりゃあ逃げたくもなるよね。
そして仲間を増やしていった俺のパーティーは、現在こんな感じ。
仲間7/7
・アーサーLV11
・タニグチ ヒカルLV1
・ホワイトスパイダーLV7
・リトルウルフLV7
・リトルウルフLV4
・リトルウルフLV2
・リトルウルフLV2
職業LVも上がったので最大仲間可能数も増えた。
さあ、ではさっき獲得したスキルをお試ししていこうかな。
一番LVが高いリトルウルフを武器化。選択だ!
「とっ」
俺の視界が眩く白む。
対象に選んだリトルウルフに異変が起こり出したのだ。体が白く光り出し、姿形が徐々に変化していく。
たちまち、リトルウルフは武器となった。
「おお…………、なんか凄いのが出来た」
それは、ゲームなどで見たことがある形の、というよりゲームでしか見たことがない。俗に言う『ツインクロー』と呼ばれるものだった。ガントレットの先に猫の手みたいな五本の爪が付いており、黒いふさふさの毛皮が腕周りを覆えるように設計されているようだ。
これはカッコイイ。早速自分の腕に装着してみよう。
「あ。でもこれサイズとか大丈夫なのか…………って、サイズが変わった⁉︎」
驚くことに、俺が武器をつけようとした瞬間、自動的に大きさが変化し、俺の腕に丁度良いサイズになったのだ。滅茶苦茶フィットしている。
まさか、これまで俺がプレイしてきたRPGの武器や防具も、こんな不思議な現象で装備していたというのか?
「…………でも、貧弱な俺が装備して使うより、魔物に渡した方が上手に扱えるか。よし、アーサー。お前にこの武器を下賜しよう」
自分に腕に付けているのを解除し、次にアーサーに装着してやろうとすると、やはり先程のように大きさが変わった。ツインクローは、成人サイズから子供サイズに縮み、ゴブリン専用の装備品に早変わりだ。
アーサーLV11
HP82/100
ATK18+21
DEF9
経験値1328
スキル
無し
「思ったより上がったな⁉︎」
一気に倍以上ATKが増えている。武器化したリトルウルフのATKがそのまま追加された感じだ。
これは良いな、と思い更にもう一体の狼を武器化する。そうすると、やはり先程と同じツインクローが現れた。
アーサーに重ね掛けで装備できないかと試してみるが、格好が歪になる上にステータスにも影響されないようだ。残念。
「ほーら、タニグチ ヒカル。お前の分だ」
「ぶぁああ…………」
タニグチ ヒカルは、ヤル気のない返事を返した。
いや、常に死んだような顔をしているからこいつの気の持ちようが如何程かはわからないんだけどさ。
タニグチ ヒカルLV1
HP55/100
ATK10+18
DEF6
経験値100
スキル
毒の牙
…………結構HPが減っている。
そうか、さっきの蜘蛛達との戦闘で負ったダメージがまだ回復していなかったんだな。
「仕方ない。残り二体の狼を素材にして、レベルアップさせよう」
魔物達のステータスを確認してみると、この二体に対してホワイトスパイダーのHPは満タンになっている。こいつも蜘蛛との戦闘でダメージを受けたはずなのにだ。
それはおそらく、レベルアップした際にHPが全回復するという『RPGあるある』な仕様によるものだろう。今この状況がゲームの中だと仮定するならば、そんな現象が起こっても何ら不思議ではない。
そんな訳で、タニグチ ヒカルをベースに選択。リトルウルフ二体を素材に合成を開始する。
タニグチ ヒカルLV6
HP125/125
ATK15+18
DEF9
経験値342
スキル
毒の牙、HP自動回復
おっ? タニグチ ヒカルが、何かスキルを獲得したぞ。優秀な奴だ。
『HP自動回復』。多分、その名の通りの能力に違いない。
まあ、わざわざ確認するまでもないか。探索を続けよう。
「うーん、職員室にもひと気は無しか。となると生存者はみんな外に居るのかなぁ?」
昼休憩時に流れた校内放送。教師達に誘導されて、全校生徒は校庭に移動していた。しかし、俺みたいに放送を無視して校舎に留まっていた奴がいるのではないかと思い、探しては居るんだけど、このタニグチ ヒカル以外にそれらしき姿が見当たらない。出来ればゾンビ化して正気を失う前に救出してやりたいんだけど。
ああ、みんな真面目だな。ちゃんと素直に集合場所に向かったんだな。
しかし、それ故にこんな被害にあってしまったんだから本当に哀れだ。
今も、魔物達の鳴き声が外から聞こえてくる。でも、人の声はもう聞こえなくなっている。どこかに逃げ延びたのか、それとも死んだか。
「悲観してもいられないな。今はやれるだけのことをやろう」
俺達の探索は続く。
力を付けて、仲間を集め、この崩壊した世界を生き抜くんだ。
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