第55話「アンデッド・パワー」
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それはまさに、『闇』そのもののように見えた。
豆粒程でしかない蝿が数万数十万と群れ為す事で作られた漆黒の塊。
それらが、たった一体のゾンビに纏わり付く。ゾンビの肌は、徐々に見えなくなり、やがて完全に蝿の群れによって表面を覆われた。
そして、驚く事が起きる。
纏わり付いていた蝿が全て、ゾンビの体を貫通して体内に飲み込まれたのだ。
「へへへっ。オレのスキル『パンデミック』は、眷属の蝿を死体に潜ませる事で其奴をアンデッド化させる能力だ。そうして作ったアンデッドは、オレの指示に従い、コントロールが出来る」
インセクトキッズは、ニヤリと笑った。
すると、ゾンビは先程まで呆然としていた状態から一転して、苦しむように身悶えし出す。
直後、ゾンビの体に異変が起こり始めた。
「なに……あれ?」
烈音。
ゾンビの背中側。その箇所が不意に大きく盛り上がったかと思うと、その肌を突き破って『二枚の羽』が生えてきたのだ。
途端に、ゾンビの瞳が妖しく光る。彼の瞳は、血のように赤くなっていた。
「『アンデッド・フライ』。ゾンビに眷属を集中させる事でより強いゾンビに進化させた。ランクは、星二つと言ったところだな」
「でも、それならリリーがいれば……」
リリーは、スパイダーガールという種族。ランクは星三つ。
敵の数も一体だけであり、リリーの力なら簡単に倒せる相手のはずだ。
だがインセクトキッズは、余裕の笑みを崩さない。
すると、今度は別の蝿の群れがゾンビに近づいてきた。先程よりも規模は小さいけれど。
その蝿達は、何やら小瓶のような物を運んでいるようだ。中には、青く小さな石が数個……。
「ブーストアイテム!?」
「気付かれないよう密かに運ばせていたんだよ! 迂闊な奴めっ!!」
そう。それはまさに、インセクトキッズやリリーが飲み込んでいたブーストアイテムだった。飲めば一時的にステータスを上昇させる効果を持つ。
そのアイテムが、今まさにアンデッド・フライの口の中へと運ばれようとしていた。
「少し惜しいが、残りの石全部を奴に飲ませる! 一個飲むのとは桁違いのパワーアップだッ!!」
小瓶の蓋が開かれて、中身が溢れる。
青い石が全て、アンデッド・フライの口に入り、飲み込まれた。
「これでオメエとも互角に戦えるぞ白髪女ッ!! 今度こそ終えだぁああああッ!!」
ブーストアイテムによって通常とは比較にならないくらい強化されたアンデッド・フライ。彼は、リリーの姿を見据えて、背中の羽を高速で羽ばたかせる。その光の失った瞳からは、何処か殺意の波動が感じられた。
そして、彼の体が一気に動く。
余所見もせずに一直線に。目標は、私達だ。
その電光石火な勢いによって、互いの距離が瞬く間に迫って行った。
「みー!!」
リリーが、勇ましく声を上げた。
接触まであと僅か。
アンデッド・フライとリリーが、敵を屠る必殺の技を放とうと構え……。
刹那。
アンデッド・フライの肉体がバラバラに斬り刻まれた。
「……………………………………………………へ?」
インセクトキッズが、間の抜けた声を漏らした。
私も、危うくそんな声が出そうになり、それを寸前で止める事に成功。
心を落ち着かせて、改めて眼前に広がる光景を見つめていく。
そこにあったのは、グロテスクな状態となった死体の肉片。ブーストアイテムの効果で強化されたはずのアンデッド・フライだったものだ。肉片は、少し経って光の粒子となって消滅した。
「みー」
今のバラバラ……やったのはリリーではない。この子は、まだ技を放つ直前だった。
では、一体誰が?
そう考えた時、私の視界に何かが掠めた。
「えっ?」
そこに居たのは、二人の女性ゾンビだった。
一人は、黒い長髪を下ろした眼鏡の女性。くの字形の口元と乱れ一つ無い制服は、いかにも堅物そうで且つ勉強が出来そうな雰囲気を醸し出されていた。
もう一人は、髪をやや紅く染めたツインテールの少女。先輩のはずなのに『少女』と呼びたくなるこの童顔さ。そして、やや着崩した制服、主張し過ぎない程度のアクセサリーが、彼女の垢抜けた印象を如実に表していた。
私が突如現れた彼女達に驚いていると、側にいたインセクトキッズが声を上げる。
「ワ、ワイトだと!?」
「……ワイト?」
「ヒューマン・ゾンビの進化形態『ヒューマン・ワイト』だ! ランク☆☆☆のアンデッドが何故ここに居る!?」
彼女達の登場は、魔物の長であるインセクトキッズにもイレギュラーな事態のようだ。
ヒューマン・ワイト。
一見して、普通のゾンビにしか見えないけど、どうやら上位個体……という事らしい。
そして、おそらくアンデッド・フライを倒したのは彼女達。攻撃が一瞬過ぎてよく見えなかったけれど、ほぼ間違いないだろう。
(……もしかして、助けてくれたの?)
「みー!」
私がそう期待した時、途端にリリーが彼女達に炎を放った。
しかし、炎は見えない壁によって阻まれる。よくよく観察すると、彼女達の周囲に透明なバリアが出来ていた。
それを見て、私は思い出す。
彼女達とは、一度会っていた。旧校舎で千体の魔物から逃げた際に、リリーと戦ったあのゾンビ達だ。
「ごぅぅっ」
「ぐるるっ」
彼女達は、唸り出す。
それはまるで、獣が威嚇するような敵意の向け方。
そして私は、この二人が『敵』である事を今更ながら理解した。
*****
「ふふふっ。これでしばらく足止め出来るでしょう」
グレートオークによりボロボロとなった無人の旧校舎屋上。
そこに、絶世の美女クイーンが居た。
彼女は、そこから見下ろす形で裏庭に居る言ノ葉杏里達を眺めている。
「まだ、二階堂翼の一騎打ちを見ていたいですからね。貴女達は、その二人と戯れていなさいな」
そう言って、クイーンはクスクスとほくそ笑むのだった。
名前:サダミネ アリサLV27
種族:ヒューマン・ワイト
HP1160/1160
ATK164
DEF88
経験値20152
スキル
治癒の光
職業
囲碁棋士LV4
職業スキル
陣地形成(白)、陣地形成(黒)
名前:イイツカ パン子LV27
種族:ヒューマン・ワイト
HP1160/1160
ATK164+82
DEF88
経験値21131
スキル
諸刃の剣、飛空斬
職業
シェフLV6
職業スキル
強化料理、武器召喚<調理器具>
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