第52話「戦うか、逃げるか」
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「……グレートオーク、だと?」
「そうだ、二階堂翼! オレ様は、あの御方の施しを得て『進化』したのだ! 分かるか!? これで、オレ様とキサマは巨像と蟻! 最早、埋めようのない力の差が出来たのだ!!」
「進化だと〜? あの御方って、誰の事だ!!」
「それをキサマが知る必要はない! 死ね! 二階堂翼!!」
そう言うと、グレートオークは右腕を肥大化させて俺に振り下ろした。あまりの巨大さ故、トラックだって粉砕してしまいそうな肉塊の衝撃が俺を襲おうとする。
堪らず、空に浮遊して回避。奴の右腕は、そのまま屋上の床に叩きつけられた。
たちまち、激しい音と共にあまりにも容易く床が破られる。
「うわっ、怪獣映画じゃん」
上空から見下ろして気付いたが、サイズ感がかなりエグい。グレートオークの身長が、四階建ての半分くらいの高さだ。奴が本気を出して暴れたら、この旧校舎はあっという間に破壊尽くされてしまうだろう。
「二人共〜! 無事か〜い!?」
「な、なんとか……」
「みー」
コトノハさんとリリーは、屋上の隅でグレートオークから逃れようとしている姿が確認出来た。
よく見るとリリーが、気絶しているインセクトキッズを小脇に抱えているのが見える。
「うーむ。これは、緊急事態だ。どうするべきか……」
まさか、あのオークが更なるパワーアップを得て俺に挑みかかってくるとは。
色々気になるところはあるが、まずは奴をどう対処するかを考える必要があるだろう。
『魔物鑑定』でステータスを調べた限り、奴は進化した事でランク☆☆☆☆相当まで強くなったと思われる。そしてLV31、スキルの数も増えていた。他にも、変化した部分があるかも知れないが、現時点では不明だ。
結論で言うと、ヤバい。だって、普通のオークの時でもあんなに強かったのに、グレートオークって。
奴は俺に敵意を向けているが、はっきり言って戦いたくない相手である。
(俺は空飛べるし、いざとなれば逃げられるな。しかし問題は、『アッチ』の事だ)
俺は、屋上にいるコトノハさん、リリー、インセクトキッズに視線を向ける。
(まあ、二人に関しては死んだら死んだで構わないけど、インセクトキッズは死なれると困る。奴は、重要な情報を持っている可能性があるんだ)
そうなると、二人には何とかしてインセクトキッズを守ってもらう必要がある。そのために、一番良い作戦を考えなければ。
…………『俺が囮になる』? 駄目だ、論外。俺を危険に晒してどうする。
…………『魔物に足止めしてもらう』? あれだけの巨体を相手に、雑魚達じゃあ話にならないだろう。
…………『俺がインセクトキッズを担ぐ』? 嫌だよ、重いもん。それに重量オーバーだと逃げるにも支障が出るだろうし。
駄目だ。思い付かね。
くっ! やっぱり、俺に作戦なんて練れるはずがなかったんだ!
よし、こうなったら行き当たりばったりだ! ノリと感を駆使してガサツに挑むぜ!
「こんな事もあろうかと、厨房から包丁を持ってきていたのさ! 喰らえ、ギフト!」
スキル発動と同時に、手にしていた包丁が消えて、グレートオークに送られる。
そして包丁は、物質の壁を超えてグレートオークの『眼球』に転送された。
「ブゥアアアアッ!?」
奴は眼を覆って、絶叫を上げる。
予想外の攻撃に、流石のグレートオークも怯んだはずだ。
「いっけー! スラタロウ!」
奴が怯んでいる隙に、俺はスラタロウを地面に投げた。
スラタロウは、下に着地すると、全身をカーペットみたいに平たく伸ばす。
「今だ二人共! 飛び降りるんだ!」
「う、うん!」
コトノハさんとリリーは、屋上から一斉に飛び降りた。
高さ二十メートルはあろう場所からの落下、いやこの場合降下か? まあ、何方にせよ安心だ。スラタロウがトランポリンみたいに二人を受け止めてくれたからな。
それにしても横から眺めてて思ったけど、あんな高い場所からよく躊躇なく飛び降りれるよな。怖いと思わないのかな?
「さあ、二人共! 選択の時は来たぞ! 俺達に示された選択肢は二つ。『戦うか』、『逃げるか』だ! どっちが良いか決めてくれ!」
「わ、私達が決めるの!?」
「俺は、正直どっちでも良い! というか最良がどっちか分からないんだ! だから決めて欲しい!」
「え、えぇ〜……。ど、どうしよう。リリーは、どう思う?」
「みー!」
シュッシュッ! シュッシュッ!
……リリーは、拳を小刻みに放つ『ジャブ』をし出した。どうやら「戦いの準備は万端!」と言いたいらしい。
「やる気十分みたいだね! クールな顔しているのに戦闘意欲高いな!」
「でも、勝算はあるの?」
「まあ、死なない程度に頑張ろうじゃないか。俺も出来るだけサポートするよ」
俺は逃げられる手段があるので、そこまで気負う必要はない。駄目なら駄目でオサラバするだけさ。
さて、取り敢えず手札の確認からしていこうか。
現状戦えるメンバーは俺、リリー、ヒッポン。…………んっ、ヒッポン?
「このふざけた野郎め!! オレ様の眼球に何を刺したぁー!!」
「ピギャァーーー!!」
怒鳴り声がしてきた。
上を見上げて見ると、眉間にしわを寄せて怒り心頭なグレートオークが、ヒッポンをまるで人形みたいに握り締めていたのだ。馬のサイズくらいはあるヒッポンを、軽々と。
グレートオークは、怒りに身を任せるようにして、握っていたヒッポンをあらぬ方向へと思い切り投げ飛ばした。
「ああっ! ヒッポン!?」
折角仲間にしたのに! ランク☆☆☆の魔物が、奴にはオモチャ同然だぁ!!
「これは掴まれた時点で死を覚悟した方が良さそうだな。取り敢えず、奴には近づかないように注意しよう」
「みー」
「そうだ。裏庭へ向かおう。彼処には沢山の魔物が集まっていたから戦力を作れる」
俺にとっては、魔物の数だけ手駒が増えると同義だ。
ただでさえ強敵と戦うのにヒッポンまで居なくなってしまった以上、まずは戦力を増やす事を優先しなくては。
俺とコトノハさん、そしてリリーは旧校舎裏庭へと移動する。
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